【ヘルSIDE】結局私も悪辣な災いだったというだけの話
私はずっと不思議だった。
『ねぇ……お父さん』
『今の私は女性の体なんだからお母さんって呼んで欲しいな』
『そっ……そんなのどうでも良くて……どうしてお父さんはお母さんを殺したの?二人とも仲良しだったでしょ?』
『何でって……今ここで殺したら楽しそうだと思ってさ』
どうしてここまで残忍に力を振りかざすことが出来るのか。
『フェンリルお姉ちゃんはどう思うの?』
『そりゃぁ、お母様の方が強かったってだけだ。だからお母様は好き勝手出来る』
どうしてそんな簡単に受け入れられるのか。
『あなたもこれで十分懲りたでしょう。今度は興味本位で死者を蘇らせないでくださいね』
『はい……ね、ねぇアルゴス』
『何ですか?』
『どうして皆、あんなに自分勝手に動けるの。私は、今日みたいに誰かに怒られたらって思うと動けないよ』
『リスクなんて考えていられない程、叶えたい野望が有るんですよ。そんな奴らのせいで私の仕事も増えますがね』
どうしてそんなに自分の人生を自分の為だけに生きていられるのか分からなかった。
ずっと誰かの言いなりになる人生だった。
ココロと出会ってからは自分のやりたいように生きてきたつもりだけど……私は怖がりで、ココロが隣に居てくれないと何も出来なかった。
初めて自分で決めたやりたい事でさえ、『アルゴスを殺した人間に復讐する』なんて何処か他人行儀なもので、自分は一生誰かに縋る生き方しかできないんじゃないかって不安になるときもあった。
だけど、そんな私にココロは寄り添ってくれた。
例え最初の目標が他人行儀な物だとしても、それを目指す内に自分の足で歩く生き方を見つけられるかも知れないって言って励ましてくれた。
そんなココロの助言を胸にして、私はようやく災厄としての力を取り戻した。
「さぁ皆……手あたり次第に殺して、手あたり次第に壊して!!」
私が操る亡者の群れが沢山の人を殺してる。
人が作った街並みを壊してる。
きっとこれはいけない事だけど、もうそれを止める人は居ない。
それどころかちっとも良心が痛まない。
あぁ……殺戮するのって、こんなに楽しいんだ。
今まで心の中にあった恐怖心が嘘の様になくなった。
今なら普通にシャキシャキ喋れる気さえする。
なんだかんが嫌っていたけれど、私はどうしてもあのロキの娘だったんだ。
そうじゃないと人の悲鳴がこんなに楽しく聞えないんだもん。
あ、私の真下で人が倒れてる。
逃げ遅れたのかな?
もしかしたらあれが『牛草』?
いや、アルゴスを殺した人間がこんなに弱い訳がない。
それじゃぁわざわざ殺す意味は無い……だけどちょっと気になる。
巨人になってる私の子の足で人間を踏み潰したら、一体その時私は何を思うんだろう。
「えい!!」
私はその人間を思いっきり踏み潰した。
どんな音がするんだろう?
どんな悲鳴を上げるんだろう?
そんな想像をしながら力一杯に。
だけどー
「あれ……手ごたえが無い?」
あれは間違いなく、何の力も持ってない普通の人間だった。
逃げられたのかな?
そう思って、足を上げてさっき踏んだ場所を確認する。
そこに居たのは、さっき踏み殺したはずの人間。
何故か光り輝くバリアに守られている。
「これは何?」
「良かったのですよ、重傷者は多いですが幸いな事に死者はまだ居ません」
声がした方向を向く。
そこには空中で漂う小さなシスターの姿があった。
彼女の左目は、新幹線で出会った少女の魔眼と見分けがつかない程に赤く染まっている。
「久しぶり。また夢の世界と冥界を繋げたの?」
「ええ。貴方が起こす災いから人々を守るために」
彼女が十字架のハンマーを振り上げる。
すると、この町に住んでいるすべての人間達が輝くバリアに覆われて空に浮んでいく。
「るるちゃんの魔眼の力と私の能力の効果でこのバリアに守られている人達はこの状況を認識することが不可能になっているのです。この災害によって心的外傷を負う人はこれで居ないのですよ」
「誰と話してるの?」
拳を彼女に向って振るう。
色々やってるみたいだけど、結局の所それってあの子が死ねば全部無くなるって事だよね。
この空間内で彼女は瞬間移動も使える事は前回の戦いで確認済み。
だからきっとこの攻撃は避けられる。
だったらこの拳はブラフにしよう。
幸いな事に、空を飛べる生物の魂なんて冥界に腐るほど転がってる。
恐竜とか……人間にとっては神話上の生き物でしかない獰猛な鳥類とか。
その子達に彼女を殺させればいい。
私の拳が空振る。
彼女は予想通り、私の背中側へ瞬間移動した。
「今度は夢の世界じゃくてちゃんと冥界に送ってあげるね」
私の背中から、無数の魂を開放する。
魂の記憶を再現し、それらに泥の身体を与えて亡骸として復活させる。
30匹ぐらいは解放したと思う。
この包囲網を、瞬間移動したばかりの彼女は躱せない。
「なのでどれだけ暴れても大丈夫なのです。ここからは任せるのですよ」
まただ……なんかあの子と会話が噛み合わない。
まぁいいや、一体あの子はどんな死に顔を晒してくれるのかな。
グルンと顔を回す。
視界の先には、空中で沢山の亡骸に襲われている彼女の姿があった。
あと1秒もすれば、あの子は死ぬ。
「ああ、後は任せろ」
「へ?」
予想だにしなかった第三者の声。
慌てて周囲を確認しようとしたその瞬間にはもう、私の放った亡骸達が全て地面に打ち付けられていた。
あの子は無事……って事は新幹線の時と同じで超能力者の仲間?
いや、でもただの人間があの量の亡骸を立った一撃で倒せるはずはないよ。
そっと、私の放った亡骸達が眠る地面を見る。
そこにあったのは、真っ黒なノイズとしか表現できない何かだった。
「このノイズ……アルゴスの死因にあったやつだ。それが何でここに?」
「ちょっと考えたら分かるだろ。そのアルゴスを殺した奴がここに居るからだよ」
その声の主はノイズの中からヌラリと現れた。
ノイズに蝕まれた光を纏う斧を持った人間が私を睨んで声を上げている。
「へぇ……君が牛草、アルゴスを殺した人間」
「もうただの人間じゃないけどな」
牛草は自傷めいたため息をつきながらそう言った。
「にしても、随分と派手な暴れっぷりだな」
「何?私の行動を非難でもするつもりなの?」
「いや……そんな事言うつもりは毛頭ない。第一、俺にその資格がない」
牛草の頭上に光輪が現れる。
本来白く輝くはずのその光輪は異質にも赤くドロドロとした光を灯している。
「俺はただ、自分のエゴを通す為だけにここに居る」
パリンと音がなって、彼の光輪の一部が割れる。
割れた部分から血液がドバドバと流れ始め、彼の背中から銀色の触手が6本生える。
その触手は遠くから見ても分かるほど異質なものだった。
誰かの髪の毛を束ねて一本、それが彼を守る様、覆う様に背中から6本。
見ているだけで気味が悪い物だった。
「俺とファナエルの世界に、お前みたいな奴が居ると困るんだ。だから戦う、それだけだ」
彼がそう言い切った時、鈍感な私はやっと気づいたんだ。
世界が悲鳴を上げている事に、彼も私と同じ災いである事に。




