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【完結】俺の彼女はセイジョウです  作者: アカアオ
最終章 罰

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【始SIDE】カオストレイン

 「自慢の幽霊達も、パターンが分かったら怖くも何とも無いね」


 斬琉(キル)ちゃんが魔法を使いだしてからと言うもの、形成は一気に逆転した。

 大量の幽霊を操りながら襲ってくる一ノ瀬さんを斬琉(キル)ちゃんはたった一人で圧倒しているのだ。


 「君、ずっとそんな力を隠しとったんか?」

 「勘違いしないでよ。本来おいそれと他人に見せれる様な力じゃないんだよっと」


 彼女は一ノ瀬さんの攻撃を軽くいなしてバックステップ。

 俺を守る様に隣へ立って、電車内を漂う幽霊達を睨んでいる。


 「にしても数が多い。始っちを守りながら戦うのはしんどいかも」

 「ちょ、不穏な事言わないで斬琉(キル)ちゃん。俺この異常な空間の中でただ一人一般人なんだから」

 「んじゃぁ、そんな始っちにこれ上げるよ」


 そう言って斬琉(キル)ちゃんが取り出したのは緑色の長い鎖だった。

 彼女が軽く振ったその鎖にあたった幽霊たちは、まるで除霊でもされたみたいに消えていく。


 「これ持ってたらまず死ぬ事は無いと思うから」

 「え、何その凄そうな武器。こんなのいつ見つけたの?!」

 「ん?おにぃを探してる時に拾ったんだよ」


 斬琉(キル)ちゃんからポンと渡された鎖を握る。

 何の霊感の無い俺でも少し触っただけでこれが神秘的な物であるって事だけはビンビンに伝わってくる。


 「よ、よ~し。それじゃ俺も少しは動いてー」

 「裏拍手 置換」


 俺が近くの幽霊に向かってその鎖を当てようとしたその瞬間、斬琉(キル)ちゃんとやり合っていたはずの一ノ瀬さんと幽霊の位置が入れ替わる。

 

 「げぇ!!そんなのありかよ」

 「悪いなぁ。ただ強い武器持っただけの素人に負ける気はないんや」


 まずい、攻撃が来る。

 とりあえずこの鎖を使って防御の体勢を!!


 「一般人相手にムキになって恥ずかしくねぇのかお前」

 「え?」

 「は?」


 一ノ瀬さんの攻撃が俺に当たる寸前の事だった。

 妙な音が一瞬聞えて、次の瞬間には見知らぬサングラスをかけた男の人が俺の目の前に登場した。


 「なんや君?」

 「シンガンって言えば分かるか?」

 「シンガン……まさかあの時の」

 「冥界じゃ、氷雨が随分と世話になったらしいじゃねーか。これはそのお返しだ」


 サングラスの男は綺麗な回し蹴りを一ノ瀬さんの顔にクリーンヒットさせる。

 その衝撃をもろに食らった一ノ瀬さんはかなり遠くの場所まで吹き飛んでいく。


 「今度は一体何なんだよ、カオスすぎるだろこの空間!!」

 「怯えなくて良い。私達は超能力組織『シンガン』、今宵は数多の命を奪った大罪人である一ノ瀬心に裁きを与えに来た」

 「はい?」


 こんどは反対方向からまた聞き覚えの無い声が。

 振り向いてみるとそこに居たのは眼帯を付けた明らかに中二病っぽい女の子。


 なんだ?

 さっきのサングラス男の仲間なのか。

 それに超能力ってそんな非現実的な……いや、そういやさっきから非現実的な事ばかりだったわ。


 「俺は一ノ瀬を叩く。るるはこいつを守ってやれ」

 「了解。私の魔眼が必ず彼を守る」


 サングラスの男はそれだけ言うと一ノ瀬さんの周囲を何度も瞬間移動し、死角からの攻撃を繰り返して一ノ瀬さんをボコり続ける。

 あの人めっちゃ強いんだけど。


 「始っち、そっちに大量の幽霊来てるよ」

 「え、うわマジじゃん」


 斬琉(キル)ちゃんの声がした方向に振り向くと、そこには一面を埋め尽くすほどの幽霊達が居た。

 雪崩の様に列をなしてこちらに襲い掛かって来る。


 いったん後ろに下がろうと足に力を入れたのと同時、先ほど現れた女の子が眼帯を外しながら一歩前に出た。

 眼帯で隠されていた彼女の左目はまるで赤い宝石みたいだった。


 「レイジネス・シン」


 まさしく魔眼と言っても過言ではないそれは、彼女の叫んだ言葉にリンクして真紅の光を照射する。

 光りに当てられた幽霊たちは段々と動きの切れが鈍くなり、最終的には生気を無くして成仏し始めた。


 「すげぇ」

 「私の魔眼にかかれば造作も無い」


 さっきまであんなに絶望的な状況だったのに、なんかよく分からない内に事態が好転してる。


 「何とかおにぃに会えそうだね、始っち」

 「ああ。無事にここを乗り越えて、勝手に居なくなったあいつの顔見に行ってやろうぜ」


 バックステップで俺の傍へ近寄った斬琉(キル)ちゃんとアイコンタクトを取りながらそんな宣言をする。

 すると、先ほど魔眼だかの力で幽霊を消し去った少女が斬琉(キル)ちゃんに視線を向けてほほ笑む。


 「思い切ったイメチェンだね。似合ってる」

 「……やっぱりバレるよねぇ」

 「ん?知り合いなのか?」


 頭を抱えて魔眼の子と見つめ合う斬琉(キル)ちゃんを見て、俺はふとそんな疑問を口に出した。


 「ちょっと前に僕の学校に転校してた子なの。できればこの姿知り合いに見られたくないんだけどなぁ」

 「私はそう言うファッションに理解があるから大丈夫」

 「そう言う問題じゃないの」


 そんな言い合いをしながらも、彼女達は息ピッタリの動きで幽霊を払い続ける。

 一ノ瀬さんもあのサングラスの男に手も足も出てないみたいだ。

 これならー


 「……私が何かしようとするといつもこれ」


 ふと、そんな声が耳に入った。

 視線を動かす。


 そこに居たのは、さっきからずっと静かにしていたヘルちゃんの姿だった。

 ヘルちゃんは頭を抱え、具合が悪そうな顔でこの状況を見つめている。


 「お父様も、アルゴスも、天界の皆も、悪いことはやっちゃ駄目って言って私を押さえつける。私が自主的に行動をする度に誰かから攻撃された。だからずっと自分の為の行動なんて出来なかった、自分勝手になんかなれっこなかた」


 いきなりどうしたって言うんだ?

 錯乱してるのか? 

 それともハイになってんのか?


 とりあえずどう考えてもまともな状態じゃない。


 「でも……ココロだけは違った。私の為に色んな事をしてくれた。『牛草』に関する情報を集めて、計画を立てて、二人で電車に乗って、私の食べたいものもおごってくれた」


 彼女が声を上げる度、周囲の温度がグンと下がる。

 それに気づいた斬琉(キル)ちゃん達が、ヘルちゃんに対して即座に攻撃を繰り出した。


 「駄目だね。あの子に魔法が通じない」

 「通じない?!なんで」

 「……多分、今のあの子と今の僕達じゃ生物としての格が釣り合わないんでしょ」

 「それってどういう」


 そこまで言いかけて、俺は斬琉(キル)ちゃんの言おうとしていた事を理解した。

 ヘルちゃんの背中に4つの羽が生え、頭上に光輪が浮かんでいる。


 その立ち姿はまるで……神様でも見ているかの様だった。


 「でも今は違う。私を制限していたアルゴスもお父様も居ない。ココロのお陰で力も取り戻した……だから、今怖がって何もしないのは違う。私はこれから私の為の一生を過ごす為に、私の為に今もボロボロになってるココロの為に、今日ここで一歩踏み出す」


 普段のおどおどしている彼女とはまるで別人のような力強い宣言が終わったその時、俺達の立っている新幹線の車体が大きく揺らいだ。

 俺達の身体は一瞬で新幹線の窓に張り付いた。


 背中にじ~んと痛みが広がる。


 「一体何が……ってえぇ!!」


 窓の外を見る。

 そこに映っていたのは上空から見た知らない町の風景だった。


 さっきの衝撃で空に吹っ飛ばされたとでも言う気か!?

 

 「私の名前はヘル。冥界の管理者にして、悪神ロキの末の娘」


 背中から生えた彼女の羽が苔の蒸した泥に変化しがら周囲の物を取り込んでいく。

 このままだと俺達全員あれに巻き込まれるんじゃ。


 「お前等、いったんここから逃げるぞ!!」


 突如そんな声が聞えたと思ったのもつかの間、あのサングラスをかけた男が瞬間移動で俺達の前に現れる。

 彼は両手を俺達の方に向けて、早くつかめと叫んでいた。


 いち早く状況を理解した魔眼の子が彼の手を掴む。

 それに続いて俺と斬琉(キル)ちゃんもその手を掴もうと動き始めた。


 だけど、俺達がその手を掴む前に、大量の青白い手が彼と魔眼の子を絡め取った。


 「ヘルちゃんにとってせっかくの晴れ舞台。邪魔はさせん」

 「一ノ瀬、お前ー」

 「こいつは特別でな、一度掴めばもう抜け出せん。君らは僕と一緒にヘルちゃんの糧になってもらうで!!」


 ボロボロになった一ノ瀬さんが叫んだ次の瞬間、ヘルちゃんから流れ出る泥が目の前の全てを飲み込んだ。

 

 俺達が乗っていた新幹線も、さっきまで叫んでいた一ノ瀬さんも、突然現れた警察やシンガンを名乗る超能力者の二人も、皆泥に飲まれて消えていく。


 「……いい、始っち。あの泥に飲み込まれた後で碌に意識を保てるのはその鎖を持った君だけ。だから良く回りを見て助けを呼び掛けて」

 「呼びかけてって、斬琉(キル)ちゃんはどうするんだよ」

 「まぁ確実にあれの餌食になるだろうね。死にはしないだろうけど、意識を保つのはしんどいかも」


 斬琉(キル)ちゃんはゆっくりとヘルちゃんの居る方へ視線を向ける。

 ヘルちゃんの体は苔むした泥と徐々に一体化を始め、別の何かに生まれ変わろうとしている最中だった。


 「それに、『私』としては彼女が何を考えていたのか知らないといけないからさ」

 「いやいや、そんなの納得できねぇって」


 きっと何かまだ策があるはずだから。

 そう言おうとして彼女に手を伸ばす。


 そんな俺の手が彼女に届きそうだったその瞬間、俺達の体はべしゃりと音を立てた泥に飲み込まれた。


 「そして、私は世界を揺るがす災厄だ」


 泥に飲み込まれるその最中、俺が聞いたのは気持ちよさげなヘルちゃんの声と、世界が悲鳴を上げている様な音だった。

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