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【完結】俺の彼女はセイジョウです  作者: アカアオ
最終章 罰

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【ファナエルSIDE】私は未だ幸せな夢の中

 最初に聞こえたのは鳥のさえずりだった。

 温かい陽の光を全身で感じる頃、自分が眠りから覚めたのだと自覚する。


 悪夢も見ないで寝るなんてもう何年ぶりだろう。

 私はアキラの膝の上に乗せている頭をグリグリと動かしながら愛しい彼の顔を探した。


 「おはよう、ファナエル」


 優しく声をかけてくれるアキラの目はほんのりと赤く腫れていた。

 きっと泣いてたんだろう。

 私を守るために何かを殺して。


 「眠いならもうちょっとこのままでも大丈夫だけど」

 「ううん。大丈夫」


 この世界で唯一、私を受け入れてくれた優しい君。

 この世界で唯一、私の為に人生を捧げてくれた君。


 そんな君に辛そうな顔は似合わない。


 「よいしょ」


 アキラの肩に両手を乗せて、体をグイッと起こす。

 そのまま彼の膝の上に足を乗せて、体を向き合わせ、ぐだっと彼の体に抱きついた。


 「こうやって眠気が覚めるまでダラダラしてるから」


 こうして体を密着させるとアキラの心はスゥッと落ち着くんだ。

 私の為に毎晩何かと戦って、それで傷ついた心を私を見て癒やしてくれる。


 他の誰かとは明確に違う、世界で始めての私だけの味方。

 

 そんな君の体温を全身で感じるのが好き。

 そんな君の匂いをこうやって嗅ぐのが好き。

 誰よりもたくましいのに、恋人としては初々しいところも好き。


 強さではもう私の力じゃ君に敵わないけど、その他の全てで君を助けてあげる。

 私の全てで君の退屈も憂鬱も全部全部幸せに変えてあげる。


 そんな事を考えながら、私はアキラの胸に顔を埋めた。


 『やっぱこっちの方が良いよなぁ‥‥‥』


 ふと、アキラの心から妙な声が聞こえてくる。

 私に対してドギマギしている(かたわ)らで何か別の事を考えている。


 「ねぇアキラ」

 「ん、どうした?」

 「可愛い彼女がこうやって甘えてる際中に視線をスマホにチラチラ向けるのは失礼だと思うな〜」

 「へ?‥‥‥あっいや、それはそのぉ‥‥‥」


 アキラはものすごく焦った顔を作り上げて弁明の言葉を捲し上げた。

 私の心を読めば本気で怒ってない事なんて簡単に分かるはずなのに、ここまで必死だと少し可愛い。


 気分転換になるかと思ってたんだけど、ちょっとからかい過ぎたかな。


 「分かってくれたならもう良いよ。それで、何調べてたの?」

 「‥‥‥もうそろそろ俺達二人で過ごす家を探してもいいんじゃないかなと思ってさ」

 「家?」


 アキラは少し神妙な面持ちになってうなずいた。

 慣れた手つきでアキラはスマホを操作してメモアプリを開く。


 「ファナエルが寝てる間に色々あってさ。ちょっと考えてたんだ」


 すぃっと画面がスライドする。


 『もう逃げる必要はない』

 『心の底から安全と思える場所を作れば』

 『俺達の寿命は何年なんだ?』

 『ファナエルと一緒に働く方法を』

 『日本円の価値が今後どうなるか分からないし』


 そこにはアキラの色んな考えが箇条書きで書き潰されていた。

 数分間その画面を見続る。

 一番最後の行にあった『今やるしかない』って言葉が画面に映ったタイミングでアキラは口を開く。


 「旅の目的は無事果たせたみたいでさ。天界の連中は俺達の居場所やアルゴスの生死を知らないどころか、俺がまだ人間だと思ってる。アルゴスが死んで桜薬(おうやく)市民全員が俺達に関する記憶を無くした今、俺達の現状を知る存在は誰も居ない……だからチャンスだと思った」


 「家を探す為のチャンス?」

 

 「と言うよりは次のステップに進むためのチャンスかな」


 家を探すと言うのはあくまでそのステップに進むための手段なんだと話しながらアキラはスマホを操作する。

 何十にも開かれているWebページには家を建てる際にかかる費用やビルの一室を借りる為の費用などについて書かれているページの他に、都市伝説や心霊スポットを紹介しているサイトや果ては家族で飲食店を営んでいる人のブログなんかもあった。


 「ファナエルはお金の心配はしなくて良いって言ってくれたけど、今後の事を考えると収入源の一つぐらい作っておかないともしもの時に大変だ。でも、だからと言って働きに出てファナエルを一人にはしたく無い。ずっとこのまま旅を続けても良いけど……見知らぬ土地に行くたびに天使や悪魔に遭遇する危険性があるからな。どこかに住んだ方が安全だと思ったんだ」


 「つまり、私達の安全地帯でありお金もそれなりに稼げる拠点みたいな物をアキラは作りたいんだ」


 「拠点だなんて大げさな物じゃない……俺はただ、俺達だけの居場所を作りたかっただけだよ」


 眠そうに目を擦りながら、アキラは少し小さな声でそう呟いた。


 その『自分達だけの居場所を作りたい』って願いは、私が羽を失ったあの時に心の中で抱いた願いと同じもの。

 その言葉がアキラの口から出てきたのは偶然なのか、それとも運命なのか分からないけれど、私の大好きな人が私と同じ願いを抱いているというのは存外気分の良い事だった。

 

 「私達だけの居場所……良い響き。具体的には何をする予定なの」

 「まずは家を探す。そして、その家で霊能事務所的な事をやろうと思ってる」

 「なるほど、堕天使の力を利用するんだね」

 

 どれだけ考えてもお金を稼ぐ方法はこれしか思い浮かばなかったとアキラが自傷気味に笑う。

 どうも日本人の価値観だと霊能事務所はどうしても胡散臭い物に感じてしまうみたい。

 こうやって私に考えを話してくれた今でも『もっといい方法があるんじゃないかな』なんて考えてる。


 「悪く無い考えだと思うよ。今から二人で飲食店経営の勉強なんか始めるより全然効率的だし、私達の素性をごまかしやすい」

 「ファナエルにそう言ってもらえるなら安心だな。あとはどこにその霊能事務所を立てるかなんだけど、一応候補は考えてあるんだ」


 そう言ってアキラが開いたのは都市伝説などをまとめているマイナーなWebサイトだった。 

 サイトの端に掲載されている『PV数ランキング』と言う欄を下にスクロールして、一番人気の無い都市伝説について書かれたページをタップする。


 「幽霊騒ぎがある土地でかつ、テレビやYoutubeなんかでも取り上げられないほどマイナーな場所が一番俺達に合ってると思ってさ。その条件に合致してるのがここなんだ」

 「なるほど……心霊スポットがある土地って感じじゃなくて、この町全体が『霊が寄り付きそう』って言われてるんだ」


 確かにこれなら霊能事務所を立てるのにうってつけの場所かもしれない。

 アキラが元々住んでいた桜薬(おうやく)市から結構遠い所だし、私達の身を隠すにも丁度良い。


 「異砂(イザ)市ヨモツ町……ここに私達だけの居場所が出来るんだ」


 今後アキラと一緒に暮らす新天地の名前をそっと口にする。

 その場所でどんな生活が待っているのだろうか……私は一人、そんな幸せな妄想に思いを馳せた。

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