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【完結】俺の彼女はセイジョウです  作者: アカアオ
最終章 罰

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愛情劣情

 「暑苦しくない?」

 「ううん、全然平気」


 ディナーが終わった後、ファナエルが今日の宿として提案したのは徒歩で15分ほどかかる距離にあった公園の東屋(あずまや)だった。

 中央に設置されているテーブルにキャリーケースと2つのバックを乗せ、4人ぐらい座れそうな長いベンチに横並びで俺達は座ってる。

 

 「動きやすいぐらい広い所が良いとは言ったけど……まさか公園を提案されるとは思わなかった」

 「たまにはこう言うのも良いかなって」


 駆け落ちしてるカップルみたいでしょと彼女は笑って微笑んだ。

 空には優しい光を届ける月が浮かび、夜の静寂が俺達二人を包んでいる。

 ふと目に入ったスマホのホーム画面は、さっさと寝ろと言わんばかりに『01:49』の数字をデカデカと表示している。


 「今日も移動ばかりで疲れただろうし、ファナエルはもう寝ないと」

 「アキラは寝ないの?」

 「ここ公園だし、二人で寝てる間に荷物が盗まれたら困るだろ?」

 「……ホテルに泊まってもアキラは寝ないでしょ」


 ニッと微笑みながら彼女は靴を脱いだ。

 足をベンチの端に乗せ、頭を俺の膝の上に乗せる。

 

 幻想的な月明かり、夜の公園が(かも)し出す非日常感、夏夜の生ぬるい風、肌の上からジンワリと感じる汗。

 五感を通して感じている全ての情報とそれを嚙み砕いた心情が、ベンチに横たわる彼女の姿を一つの名画に仕立て上げていく。


 無防備だ……

 そんな安心しきった眼で……


 気を抜けば俺が彼女に対して抱いている愛情が全部劣情に変わってしまいそうな恐ろしい魅力がその名画から伝わってくる。

 自分が何を思っていたかすら正確に把握できないほどの恐ろしい何かが心から体へジンワリと広がっている。

 

 最近夜になるとこれだ。

 これは愛の無いただの逃避で心の底に引っかかってる罪の意識と恐怖心を他の何かで埋めたいだけって事ぐらいちゃんと理解できてるのに。

 さっきまでファナエルを見て感じていた温かい思いが無くなって、俺の罪を表すあいつの死体が脳裏に浮ぶのがその証拠だって言うのに。

 

 衝動に身を任せたくなってしまう。

 俺があいつを殺したのはファナエルを守るためなのに、自分の目的の為だけに彼女に襲い掛かってしまうそうな最低最悪な感情が湧いてくるのは何でだろうか。

 こんなグシャグシャして自分の都合しか考えてない様なかっこ悪い感情、ファナエルに見せたくないのにな。


 「さっき嘘ついたのもそれと同じ理由?」

 「……恋人の前で格好つけたかっただけだよ」

 「そんな事しなくてもアキラは大丈夫だよ」


 クルンとファナエルが体を回す。

 俺の身体を両手で優しく抱きしめて、安心したように目を閉じる。


 「だってアキラは今もこんなに私の事を愛してくれてるでしょ?」

 「こんなザマなのに?」

 「愛してくれてるから苦しんでるんだよ。その苦しみを溶かして納得のできる深い愛になるまで、私はアキラの傍に居てあげるからね」


 静かな寝息が響く。

 こんな所で寝にくいだろうに、充電が切れたロボットみたいにパタンと彼女は寝ていた。

 きっと長旅の疲れが想像以上に溜まっていたんだろう。


 「ありがとうファナエル。ちょっと楽になった」


 ああ、自分はまだ大丈夫だ。

 まだ壊れちゃいない。


 ずっと育ててきたファナエルへの愛情が心の芯にちゃんとある。

 彼女を本気で守りたいと、彼女を否定する世界を許さないと、あの時誓った思いはちゃんと残ってる。


 「……この後また心が酷く荒れそうなんだ。朝になって俺が酷い顔してたら、またいつもみたいに優しく抱きしめて」


 前と後ろに感じる気配に神経を集中させる。

 ディナーの時に感じた気配と数は同じ……仲間を呼んだりはしてなさそうだ。

 割と苦労して作った結界もどきが今回も上手く起動してくれた事に内心安堵しながら俺は声を張り上げた。


 「夕方からずっと跡を付けてたのは分かってる。隠れてないで出て来いよ」

 「へぇ……中々優秀だなぁ、お前」


 砂を強く踏む足音が響き、柄の悪そうな男が一人俺の前に飛び出してくる。

 背後から感じるもう一つの気配はじっと息を潜めたままこっちの様子を伺っているようだ。


 「一応人間のガワを用意してみたが、お前には要らねぇみたいだなぁ」

 「……お前、仲間は?」

 「居ねぇよそんなもん。天界で噂の堕天使をぶっ殺して得するのはこの俺、グリド・シャイターン様一人で十分だからな」


 男の背中からコウモリの様な羽が生える。

 赤い角が額から伸び、四肢はサイズを変えないまま黒い鎧の様な物に変化していく。


 「お前みたいな人間が何でここに居るのか知らないがここで死んでもらうぞ。俺がファナエル・ユピテルの命を奪うためにな」

 「俺が人間か……ああ、良かった」


 グリドと名乗った悪魔はファナエルの頭を乗せて座っている俺に向かって走って来る。

 訪れるはずの無い未来に胸を弾ませながら悪魔は笑顔で爪を振りかぶった。

 

 「そんな笑顔でお前が俺を襲ってくるなら、俺とファナエルの旅はまだ安全だな」

 

 目の前のこいつは何も分かっていないんだ。

 俺がとっくに人間を辞めていることも、俺がアルゴスを殺したこともー



 俺がこの旅でお前みたいに偶然出会った悪魔や天使をもう何十体も殺していることも。

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