【始SIDE】何かが足りないセイジョウな日常
「俺の友達がどこ行ったか知らないか?そいつとは幼馴染でさ、ずっと昔から一緒に居たやつで性別は男。小学校の頃は可愛い性格してたけど中学校に入ってからちょっとやさぐれた感じになっちゃった奴で、絶対この高校に入学してるはずでー」
「え、ええっと~」
夏の日差しがまだ強く照り付けている8月20日の夏休み最後の日。
部活の帰りに数人の後輩を捕まえ、部室の片づけを請け負うという条件のもとで質問を投げかけていた。
「先輩、悪いんですけどその友達の名前って聞かせてもらえないんですか?」
「これが奇妙なもんなんだけどよ、俺もそいつの名前を思いだせないんだ。だからこうやって色んな人に話を聞いてる」
「えぇ……」
名前を思いだせないの一言を聞いて後輩達は絶句。
そんなの俺達でどうにか出来る訳ないでしょうと言いたげな目線が送られてくる。
「そいつと間違いなく友達だったって記憶はうっすらとあるんだ。でも、顔も見た目も名前も何もかもが思いだせなくてな……しかも親に聞いてみたら知らないって言うんだよ」
「都市伝説かなんかの類じゃないですかそれ」
「単純に先輩の脳がこの暑さでおかしくなっただけでしょ」
「お前知らないのか?始先輩は夏休み中ず~とこの正体不明の幼馴染探してるんだぞ」
「もしかして先輩ホモなの?」
相変わらずと言うか予想通りと言うか、ある事ない事滅茶苦茶言われるな。
まぁそんなものはもう慣れてるからどうでもいい、元々いじられやすいタイプだしな。
そんな事より一番慣れないのはー
「まぁ何にせよ先輩。そんなよく分からない人の事、忘れた方が良いですよ」
この話題を投げかけた時に必ずと言っていいほど向けられるこの視線だ。
人間のものとは思えない、まるで鳥が獲物を睨みつけている様な視線を向けてくる後輩達を適当にあしらって家に帰らせる。
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『分かったら始の身体から出ていけ!!』
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「皆何かに取りつかれてるみたいにあんな視線送ってくるなんておかしな話だよな。もしかして本当にやべぇ事に巻き込まれてるのかもな」
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『ハジメ君、私をここまで連れてきてくれてありがとう。###は私が必ず助けるわ』
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「もしかしたら、お前の記憶を無くした関係で他の誰かの事も忘れてるのかもしれないな。これで美女との記憶が無くなってたら恨むぞ~」
名前も思いだせない友達に向けて愚痴を呟きながら部室の片づけを始める。
明日から2学期が始まるけど、俺以外のクラスメイトも先生たちも何の違和感もなく日常をスタートするんだろう。
あいつが居ない教室を当たり前の様に受け入れて。
そして、俺にもその当たり前を受け入れさせるんだろう。
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『今の俺が有るのはお前らのおかげだ』
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「あ~~やっぱ釈然としねぇ!!」
この夏休み中に何の成果も得られなかったけど、こんなもん忘れて日常生活に戻った方が良いってのは何となく分かるけど!!
俺を含めた皆から忘れられた友達が居る状況で心がすっきりする訳がねぇ!!
もし俺があいつに関する記憶を全部忘れて日常に戻ったとして、それがハッピーエンドな訳がねぇ!!
俺は比較的バカな方だからどうやってこの状況を改善すればいいかなんて全然分からねぇけど、こんな気持ちをため込むより一発ドカンとガムシャラに動いたほうがぜってぇ良いに決まってる。
「よし、片付け終了。最終手段だった交番駆け込みかましてみるか!」
そうと決まれば部室をドアを閉め、全速力で校門へ向かう。
体力だけは自信があるんだ、とりあえず色々やってお前にたどり着いて見せる。
「待ってろよ~って、あぶねぇ!!」
「え?キャッ!!」
気持ちが先行しすぎた俺は校門の先に人が居る可能性を失念していた。
勢いを殺すのが何とか間に合ったらしく、ちょっと肩がぶつかっただけでお互い大事には至らなかった事にホッとする。
「ごめんな。怪我とかないか?」
「ううん、大丈夫。僕の方こそごめんね」
俺とぶつかった女の子は全然大丈夫だからと言いながら、不安そうな顔をしてチラチラと手に持っていたスマホの画面見つめている。
俺の通う高校とは違う、頭いい奴が通う進学校の制服を着ていた彼女は「僕、ちょっと用事があって」と言いながら素早く立ち上がる。
そんな彼女の顔の全体図が俺の目に入り込んだその瞬間。
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記憶をこじ開けるようなノイズの音が俺の脳を支配した。
「えっと大丈夫?凄い体調悪そうな顔してるけど」
「ねぇ君……俺の友達を知らないか?」
「え?」
さっき出会ったばっかりの少女が何かを知っている可能性なんて常識的に考えて限りなく低いだろう。
だけど頭に響いているノイズの音が『彼女は重要だ』と訴えてやまない。
「名前も顔も思いだせないんだけど、親も友達も知らないって言うんだけど、俺にとって大事な友達なんだ!!」
「……もしかしてあなた、おにぃの記憶が残ってるの?」
ボソリ、小さく彼女が言葉をこぼす。
「僕も人を捜してるの。誰も覚えてない、僕も名前を思いだせない……兄の事を」
「それってー」
「ねぇ、牛草って名前に覚えは無い?」
俺の言葉を遮って目の前の女の子が声を上げる。
彼女が放った『牛草』って言葉の響きはなんだかひどく懐かしくてー
「そうだ……あいつの名字は牛草、確かに牛草だった!!」
ノイズにまみれていた点と点の記憶が繋がっていく。
たしかあいつには可愛い妹が居て、俺はその妹と一緒にあいつのサポートをしてたはずだ。
「もしかして……君、斬琉ちゃん?」
「そう言うあなたは……もしかして始っち?」
互いに驚いたような顔をして目を合わせる。
「そっか……おにぃと言う存在が居なければ僕と始っちが出会う事は無くなるから、お互いの事忘れてたんだ」
「なんだよそれ……でも、こうして俺達がお互いの姿を見ただけで思い出せたって事はー」
あいつ本人に出会えば、消えていた記憶が復活する可能性がある。
俺と斬琉ちゃんのそんな言葉が重なった。
「ねぇ始っち、僕と一緒におにぃの事探さない?」
「もちろん。どっかに消えちまったあいつの事、絶対見つけような」
こうして俺の何かが足りない日常は終わりを告げ、俺と彼女が挑むあいつを捜す旅が幕を上げるのだった。




