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【完結】俺の彼女はセイジョウです  作者: アカアオ
3.5章 3.5章 二人の罪人を覆う暗い影

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【斬琉SIDE】割り切ってあげるよ

 ピンポ~ン。


 来客を表すチャイムの音がする。

 特段嫌いな音でもないけど、日曜日の朝8時なんて早朝に鳴らされたら『こんな朝早くに何?』って疑問に駆られてしまう。

 

 おまけにちょっと眠い、ソファーから動きたくない。


 「斬琉(キル)~、玄関出てもらえる?」

 「え~、お母さんが出てよ」

 「今ご飯作ってて忙しいの」

 「それじゃぁ寝てるお父さんたたき起こしてー」

 「仕事で疲れてるお父さんにそんな事しないの」

 

 ピシャリとお母さんは僕の提案を却下する。

 動きたくないんだけどな~。

 あ~あ、僕のいう事嫌々聞いてくれるお兄ちゃんでも居てくれたら良かったのに。


 「それじゃぁさ、お母さん僕とゲームしよ。僕のポケットに入ってるサイコロ振って、偶数が出たらこの僕が何でも言うことを聞いてあげるよ」

 「そんな事言う暇あったら早く玄関行きなさい。どうせあんたがなんか買い物したんでしょう?」


 ぐぬぬ、相手にもされない。

 このまま話を続けても何も変わらなそう。

 お母さんと交渉する方が面倒くさくなってきた。


 そんなこんなで私は重い腰を上げ、リビングから玄関へとゆっくり歩いた。


 「はいは~い。どちら様ですか?」

 

 あくびをしながらドアを開く。

 開いた扉の先に待っていた者、それはさっきまで感じていた退屈な日常を過去に置き去りにする化け物だった。


 「うわぁぁぁぁ!!!」


 鼻を突く腐臭。

 体のいたる所にある傷とそこから垂れる血液。

 胴体はまともな人間の形である癖に、その顔だけは緑色の鳥そのものだった。

 

 『ガ……ガガ……』


 その鳥頭はくちばしをガッと開けたままこちらを見ている。


 『見つけ……ましたよ。貴方の兄……について話があるのです』

 「へ?え?兄……居ないよ?人違いじゃ」


 恐怖のあまりその場で尻もちをついてしまう。

 

 『驚いたふりしないでください。話がこじれます』


 「な、なんの話!?いやだ、僕に触らないで!!」


 『私に残された時間は少ないんです。お遊びは辞めにしてください、ロキ』








 その言葉を聞いて、『僕』の中にあった恐怖心が急激に冷めていく。

 その代わりと言わんばかりの『この体』を支配したのは『私』のちょっとした好奇心だった。









 「な~んだ。とっくに僕の……いや、私の正体に気づいてたんだ」


 『私の結界内であれだけ好き勝手されればさすがに気づきますよ』


 せっかく迫真の演技で驚いてやったって言うのにこの冷めた態度。

 相変わらずアルゴスと話している時は何をやっても面白くない。


 秋にぃやフェンリルちゃんならきっと良い反応を返してくれるだろうに。

 心の中でそんな愚痴をこぼし、尻もちをついた箇所をさすって私は立ち上がる。


 「そっちがゾンビみたいな式神使うから驚いてあげたのに。と言うかなんでそんなにホラーテイストな訳?」

 『肉体の構成要素にゾンビの類が含まれているからですよ。この式神は私が死んだ後のバックアップとして使う事を想定していた物ですので』

 「ふ~ん、クソ真面目な君らしいね。んで、死因は何?」

 『世界を書き換える災厄となった牛草秋良に殺されてしまいましてね』


 彼女の放った言葉、『世界を書き換える災厄』と言う言葉がスンと私の脳細胞を満たす。


 確かに私はあの時秋にぃを強化する作戦を考えてた。

 でも、あくまであの時私が考えた作戦の最終地点は秋にぃをファナエルさんよりちょっと強いレベルに強くすることだった。


 それが最も現実的な事だと考えていたからこその結論だった。


 「そっか……秋にぃは災厄になったんだね。それも君を殺せるほど強い災厄に」


 自然と笑い声が零れ落ちる。

 秋にぃ、最近の君は私の想像をはるかに超えてくる。

 堕天使の彼女を引っさげて、便利な超能力を持ってる奴らと戦って、しまいに神を殺せる災厄になるんだもん。


 こんなに楽しい状況に身を置けたのは果たして何100年ぶりだろうか?


 「アッハハハハ!!え~、秋にぃが君を殺すところ見たかったな~。どんな顔してたの?達成感で一杯になった笑顔?それとも罪悪感に駆られた辛そうな顔?」


 ただただ幸せになりたいだけならファナエルさんを捨ててしまえばいいのに、どうして秋にぃは彼女に固執するんだろう?

 ファナエルさんが死んだら、秋にぃはどんなに可愛い声で泣いてくれるだろう?

 もし、秋にぃがファナエルさんを見捨てる瞬間があったのだとしたら……それは一体どんな状況なんだろう?


 分からない、だからこそおもしろい。

 恋愛感情の歪さ、人間の不条理。


 完璧な神の世界にはなかった人間特有極上の娯楽を、異形の神として生まれて悪神と呼ばれた私を真に満たす娯楽を、牛草秋良と言うたった一人の人間が提供してくれている。


 そんな彼と偶然にも兄妹と言う関係性を築いていた事は、もはや運命だよ。


 『……今更貴方の腐った価値観を正すつもりは無いですが、やはり見ていて気持ちの良いものとはは思えませんね』


 アルゴスの意識が入った式神は呆れたようにそう言いながら右手を私に向け始めた。

 

 『本当は天界に帰って牛草秋良の事を報告するべきなんですが……思いのほかダメージが大きく、今貴方と話をしているだけで精一杯なんです』


 「いきなり何の話?」


 『このままでは天界の神々が牛草秋良の事や私が死んだことを理解するのが何十年先になるか分かりません。私の後継者となる存在なんていつ現れるか分かりません。そうなれば天界に居る悪魔どもやこれから現れる新しい罪人達を咎める存在が居なくなってしまいます』


 「それで、哀れにも自分の使命を完遂出来ない可哀そうな君はこれからどうする訳」


 『簡単な事です。天界から私の後継者が現れるまで……貴方に私の仕事を引き継いでもらうんですよ』


 そんな彼女の言葉に共鳴するかのように、私のポケットに突っ込んでいた立方体の物質が光り始め、一人でに動いて宙に浮く。


 私がサイコロに改造したその立方体は、空を向いている面の上に『下等生物である人間に従事する存在となる生活を未来永劫続ける事による尊厳の破壊と身柄の束縛により貴様の罪を清算する』と言う文字を顕現させた。


 『あなたの神罰を変更して強制的に従ってもらいますよ』


 神罰変更、と彼女は詠唱を始める。

 彼女の詠唱に合わせて神罰とやらが示された文字が蠢き始める。


 「面白そうな提案だけどさ……このまま黙って君の言う事聞くってのは性に合わないんだよね」


 体にグンと力を入れる。

 私が拝借しているキルケーの体は本来の力を取り戻し、髪の色が虹色に染まっていく。

 背中からは小さな6枚の羽と大きな1枚の羽が生える感覚が伝わってくる。

 きっと今頃私の頭上では光り輝く光輪が現れている頃だろう。


 アルゴスが操ろうとしていたサイコロは赤い光を放ち、うるさい警告音を鳴らしている。


 『……何か細工しましたね』

 「ここまで改造するの大変だったんだよ~、そんな顔してないでもっと褒めてよね」


 宙に浮いていた緑色のサイコロを左手で掴み、ゾンビ式神の羽の上にそっと置く。


 「私とゲームをしよう。このサイコロ振って、偶数が出たらこの私が何でも言うことを聞いてあげる」

 『……私が貴方に望むのは罪人へ罰を与える事、特に牛草秋良とファナエル・ユピテルの件は最優先で処理してもらいます』


 アルゴスはそう言うと、ボロボロと砕け始めた式神の腕を動かしてサイコロを振った。

 カン、と音を立てて地面に落ちたサイコロが示した目は『4』だった。


 「偶数か……良いよ、割り切ってあげよう!!この天界のトリックスターと呼ばれたこの悪神ロキがクソ真面目な君の願いを聞いてあげるよ」

 

 『……少し不安は残りますが、この式神が壊れてしまう前に最低限の保険はかけられましたね』


 アルゴスが満足そうにそう言うと彼女が使っていた式神が一瞬にして溶け、4つほどの目が浮かぶ泥の塊へと変貌してしまった。


 「思ったより限界近かったんだね~。でも良かったよ、体の一部は残してくれて」


 私は右手を使って泥の中に浮ぶアルゴスの目を拾う。

 そして私はその目を口にぽ~んと放り込んで嚙み砕いた。


 「超能力のコピーぐらいなら見ただけで出来るけど、さすがに神の力を再現するにはこれぐらいしないとなんだよね」


 さて、アルゴスの力は上手く取り込めたかな?


 左手をぱっと開き、アルゴスの姿をイメージする。

 すると、左手に紫色の生暖かい液体が絡みつく。


 「アルゴスアイズ・レプリカ」


 私が小さく声を上げると紫色の液体は反応して蠢き、先ほど私が噛み砕いたアルゴスの目を再現する。

 少し私が念じると、その目はひとりでに遠くの空へと飛んでいった。

 私の脳には今、その目が写した光景が映し出されている。


 「さて、秋にぃとファナエルさんの処罰を私が行う事になったんだけど……殺すにしても心を折るにしてもあの二人が揃ってると厄介なんだよね」


 何か良い切り札はないかな~と思いながら脳内に映し出される光景を吟味する。

 するとそこに一つ、無性に気になる光景が映し出された。

 

 「なんで君に秋にぃの記憶の片鱗が残って……いや、これを上手く使えば秋にぃとファナエルさんを一時的に別行動させる切り札に出来る」


 そこに映っていたのは、牛草秋良という存在が消された事によって牛草斬琉(キル)との縁が切れてしまった人間ー


 「それになんだか一緒に居ると面白そうだし。利用させてもらうよ、始っち」


 秋にぃの親友とも呼べる存在であった海川始(うみかわはじめ)の姿だった。

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