デート昼 支え合い
「水族館にゲームセンター、そして今いるカフェ……本当にこんなので出現率上げられるのか?」
時刻は昼を過ぎた頃。
俺とファナエルは町で見つけた少しオシャレな喫茶店の机の上でスマホの画面を睨んでいた。
画面に映っているのは、始から聞いた鳥頭の怪異についてまとめられているサイトだ。
今回のデートの目的は鳥の怪異を捜すことだ、一様そう言う口述で彼女を誘ってるし。
なので公園で朝ごはんを食べた後はこのサイトに載っている『鳥の怪異と出会う確率を上げる方法』という記事に従って行動していた。
まぁ、そこに書いてあった物が全て学生のデートコースだったのは言うまでもない。
鳥の怪異が出現する時間帯が決まって夕方である事をいいことにある事ない事書かれているといった印象だ。
何なら斬琉達が今日の俺達のデートの為だけにこのサイトを作ったという方が現実味がある。
「この怪異は学生達にとって都合の良い都市伝説を追加されてるみたいだね、他のサイトにも似たようなことが書いてあったよ」
ファナエルは白いショートケーキを口に運びながらスマホの画面を見せてくれた。
どうやら鳥の怪異についてまとめてあるサイトは一つ二つなんて量ではないらしい。
正直、これらのサイトに書いてある方法に信憑性は無い。
俺はファナエルと恋人がするようなデートが出来ているから満足しているのだが……当の彼女は今の現状にがっかりしては居ないだろうか?
始が怪異の動画を見せたあの時、鳥の怪異に会ってみたいなと言っていたあの時、彼女の目は今までにないぐらい真剣だったからー
「中々鳥の怪異に会えそうにないから私が不満に思ってるんじゃないかって考えてる?」
スマホを操作する俺の右手を、彼女の両手が優しく包み込む。
朝の弁当を交えた会話を終えた後、彼女は度々こうやって俺の手を握ってくれるようになった。
最初に寄った水族館、6千円は確実に消費したゲームセンター、こんな所を俺と一緒に行って楽しいのかなと不安がよぎった時に彼女は俺の手をこうやって握ってくれるのだ。
俺が顔に出やすいのか彼女の察しが良いのかはたまた心が読めるのか、そんなことは分からないが彼女は俺の手を握りながら「大丈夫、私も楽しいよ」と笑顔で声をかけてくれていたのだ。
「アキラには内緒にしてたんだけど……実はもう鳥頭の怪異が出るところに目星はつけてるんだ」
「え?!そうなの」
「でも、それで私だけの用事に突き合せたらアキラが私とやりたかったことは出来ないんじゃないかなって思って……せっかく出かけるんだから二人で楽しまないとね」
彼女はニコリと笑ってそう言うと、残していたショートケーキのイチゴをじっくりゆっくりと噛んで飲み込む。
「さてアキラ、ここから私の我儘に付き合ってくれる?」
イチゴを食べきった彼女は、ゆっくり椅子から立ち上がる。
そして授業中にこっそり噛んでいるあの黒いガムを口に放り込んだ。
「もちろん、今度は俺がファナエルに付き合う番だ」
俺は彼女のその問いに対し、間髪いれずに首を縦に振るのだった。
◇
「ここは神社か?」
「うん……ベタだけど怪異はこういう所に出やすいから」
青かった空がすっかりオレンジ色に染まった夕暮。
ファナエルに連れてこられたのは近所でもそこそこ有名な神社だった。
二人横に並びながら石段を上る。
カツ、カツ、カツと言う音に交わるようにファナエルは俺に声をかけた。
「ねぇアキラ……この後何が起こっても私の事を見捨てない?」
少し震えたような彼女の声。
ファナエルと鳥の怪異にどんな関係性があるのか、どうして探そうとしているのかは分からない。
きっとその理由を今彼女が言えないのは、それを言ってしまうと俺に拒絶されるかも知れないという不安があるからなんだろう。
俺はそんな彼女を安心させるため、午前中のお礼をする意味も込めてその手を優しく握った。
「大丈夫、ファナエルを一人になんてさせない」
「フフ……アキラは頼もしいね」
ホッと息をつくファナエル。
俺は彼女のその顔を見てひとり静かに微笑んだ。
それから数分後。
石段を登り切った俺達は赤い神社の鳥居をくぐる。
せっかく神社に来たしお参りでもしないかとファナエルに提案しようとした、その瞬間ー
『ハネナシ、チカイ。ハネナシ、ユルサレナイ』
「は?」
俺の頭の中にノイズのかかった声が響く。
耳から聞こえたものではない、頭の中に音だけが割り込んできたようなそんな感覚。
『ハネナシ、チカイ。ハネナシ、チカイ。ハネナシ、ココニイル、ケドドコダ』
最初は幻聴かとも思ったが、そんな考えを真っ向から否定するかのようにその声は俺の頭で広がり続けている。
「な、なぁ……なんか変な声聞こえないか?」
「変な声?」
俺の問いかけを聞いたファナエルは、緊張と期待の眼差しが混ざっているような目でこちらをジィっと見つめる。
「ねぇアキラ、ゆっくりで良いからどんな声だったのか聞かせてくれない?」
「……ノイズの入った、男とも女ともいえない声が頭の中に直接響いてくる感じだった」
俺は頭を抱えながらゆっくり息を吸い、彼女に現状を伝える。
今まで感じたこともない不気味な何かを感じ取りながら俺は一人肩を震わしている。
ファナエルはそんな俺をじっくりと観察して……
「うん……それは良かった」
意味深な笑みを浮かべてそう言うと、口に含んでいたそのガムを誰もいない地面に向かって吐き捨てたのだった。




