プロローグ
(これくらいの時間ならもうすぐ来るかもしれない)
今は夜の19時過ぎ。いつもなら会社のパソコンの前で残業しながら、小腹に何か入れてるところだ。
でも、今日は違う。
仕事をきっちり終わらせ、引継ぎもばっちり。
午後から半休を取って、最近夫が購入したばかりのマンションの一室に帰ってきた。
ほとんど仕事でいない私には、むしろこの部屋での思い出が少なくていい。
……なんて、私は絶対思わない。
私は|井口美玖、32歳。会社員として働いてる。
夫の圭太と結婚して2年目。
2歳年上の夫は見た目が若く、いつも私の方が年上に見られてしまう。
このマンションは2人のこれからの結婚生活のため、夫名義で買ったマンションだ。
駅から近くて広くてキレイ。
歩いて10分のところには、大きな公園なんかもあったりして、ファミリーや
新婚さんには大人気らしい。
ただもちろんその分、ローンは高くなる。
まだ賃貸に住んでいるとき、毎月のローンに尻込みする私に、圭太は自信満々にこう言った。
「大丈夫だって。2人ならこれくらいは全然払えるって」
「そう…?でも、子どもができた時のことを考えるとさ。私の収入が減る可能性もあるし…」
「育休手当だってもらえるし平気だよ!俺、昔からこういう部屋に住んでみたかったんだよね!」
少し楽観的すぎるのでは……?
家賃としてローンと払っていくのなら、もう少し低い方がいいし
現実的じゃないか?となんども話してみたが、圭太の答えは変わらなかった。
「じゃあ名義は俺でローン組むう!それなら安心だろ?」
『やっぱり家は大黒柱の夫名義じゃないと』といって結局、圭太は借入額
ギリギリのローンを組んでこのマンションを購入した。
正直心配もあったが私の収入もある。
いざとなれば、マンションを売ればいい。
ずっと変わらずおばあちゃんおじいちゃんになるまで、支え合っていけるだろうと、馬鹿みたいに思っていた。
(今となっては…もう違う)
テーブルの上には久しぶりに温かい食事を用意した。
先にワインを開けても、きっと怒らないだろう。
ガチャガチャ、キー…パタン……。
廊下の奥から、男女の声が聞こえてくる。
この長い廊下も、圭太のお気に入りポイントの1つ。
女の声は若く甘い。
さあ準備はできた。
飛び切りの笑顔で出迎えてあげよう。
妻の留守に、この家で浮気を楽しむ、悪ーい夫を。
「おかえりなさい。あら、お客さんかしら?」




