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勘違い令嬢の契約結婚 後編

外堀を埋めていたクリスの努力の成果もありアメリアとクリスは結婚した。

初恋が実り浮かれているはずの従兄弟の消沈姿にラスティはどう言葉をかけるべきかわからなかった。

結婚式から一週間は新婚夫婦の邪魔をしないのが慣例である。

結婚二日目にラスティの部屋を一人で訪ねたクリスに苦笑するしかなかった。


「クリス、ここにいていいのか?」

「アメリアは出かけたよ。朝起きたら一週間は休みなので旅に出るって書き置きが…。アメリアは部屋に籠もっていることになっているよ」

「追いかけないのか?」

「アメリアが部屋にこもってるのに俺が出歩いたらおかしいだろ!?ここに来るのも変装してきたんだよ」


ラスティは別にクリスが出歩いても何も問題ないと思ったが気を遣って口には出さなかった。ただ一言文句は言いたかった。


「誰もいないはずの俺の部屋で忍び込んで待ってるのもどうかと」

「まさか、起きたらアメリアがいないとかありえないだろ?あいつ、絶対に俺に眠り薬を仕込みやがった」



不機嫌な従兄弟にラスティはどうすればいいかわからなかった。

まさかアメリアが男が好きなクリスが自分の隣では眠れないだろうと気遣い眠り薬を仕込んでいたことに誰も気づいていなかった。


「俺は、聡いお前が気づかずに眠り薬を飲んだことに驚いたよ」


「結婚の儀式で緊張したから、疲れをとるためにってわざわざアメリアが用意したら飲むしかないだろ」


従弟はアメリアに弱かった。


「相変わらずだな。お前ら初夜は?」

「アメリアは俺にお茶を飲ませて、私達には必要ないわねって、赤い実でシーツを汚してすやすや眠っていたよ」

「手を出さなかったの?」

「あんなに無防備なアメリアに手を出せるかよ」

「婚姻したんだから出せばいいだろうに。お前は…。」

「アメリアは俺達の部屋も別々にしようとしてたんだよ。それはなんとか説得したけど」

「アメリアはなんて?」

「確かに、周りに仲良く見せるためには必要よねって。俺にも一室与えるから愛人はそこで飼えってさ…」

「クリスの初恋ってアメリアだよな?」

「アメリアは俺もラスティが好きと思い込んでる」

「思い込みを利用したんだから自業自得だろ?アメリアは俺のどこが良かったんだろうな…」


それはクリスこそ教えてほしかった。年齢以外ではラスティに負けてるところなどないと思っていた。ラスティはクリスから見たら平凡な男だった。ラスティよりもクリスの方が令嬢達にも人気はあった。

社交界で人気のアメリアがラスティに惚れ込んでいるなど知れたら、大騒ぎになっただろう。

アメリアは外面は完璧なので人気があった。跡取り娘でなければ、王子の婚約者になっても受け入れられただろう。


「俺が教えてほしい。ラスティより優秀な俺が傍にいるのに全くなびかない。」

「お前の自意識過剰なところが嫌なんじゃないの?」

「それは…。」

「結婚したんだからせめて告白すれば?外堀は完璧に埋めたのに、肝心な所は駄目とは。」

「嫌われたら」

「アメリアはスター伯爵家第一だよ。婚姻したお前を遠ざけたりしないだろう。アメリアもお前の優秀さを知ってるから婚姻したんだし。クリス、誤解を解かないと始まらないだろう。それにアメリアは家のためならなんでもやるだろう?お前に似た男を連れて帰ってきたらどうするんだよ。」

「帰る」

「頑張れよ」


クリスはラスティの部屋を後にした。ラスティはアメリアにだけはヘタレな従弟の幸せを祈ることにした。アメリアは俺よりもクリスのほうが好きだと思うんだけど・・。一度口にしてクリスに半殺しにされたラスティは余計なことは言わないことに決めていた。



部屋に戻るとアメリアが帰っていた。


「クリス、お帰りなさい」

「アメリア!?どこに行ってたの!?」

「気晴らしに。お父様の顔を見たらまた出かけるわ」

「俺も一緒にいく」

「そうね。お父様には一緒にご挨拶したほうがいいわね」


アメリアは周りに仲の良さをアピールするつもりだった。二人が仮面夫婦と知っているのは侍女のラーニャだけだった。

二人の会話さえ聞かなければ、婚約前から仲睦まじい恋人同士に見えていた。


「そっちもだけど、出かけるなら俺も行く」

「いらない。ちゃんとスター伯爵令嬢とはわからないようにしているわ。自衛もできるし、醜聞になることはないわ」


アメリアは抜かりはないと自信満々に笑った。クリスの心配は全く伝わっていなかった。


「夜遅くは危ないよ」

「大丈夫よ。むしろ夜こそ本番よ。でも、そうよね。部屋に籠ってるとクリスはつまらないわよね」

「は?」

「家を出てから別行動すればいいか。」


クリスとアメリアはスター伯爵と三人で晩餐した。

夕方になってようやく部屋から出てきた二人に伯爵は複雑な心境だったが何も言わないことにした。


クリスは、ラスティを見習って部屋までエスコートするために手を差し出すと、アメリアは首をかしげながらも手を重ねた。スター伯爵は仲の良い新婚夫婦を暖かく見守ることにした。可愛い一人娘の親離れは寂しいが孫を楽しみにすることにした。


部屋に戻ったアメリアは外出の支度を始めた。

クリスはアメリアをそっと背中から抱きしめた。


「クリス、なに?」


照れもしないアメリアに勇気を振り絞って抱きしめたクリスは心が折れそうだった。


「今日は、ここで一緒に寝よう。明日は一緒に出かけよう」

「別に部屋の中まで仲の良い夫婦の振りはいらないわ」

「跡取りは俺と作ろう」

「え?」

「俺とアメリアで。」

「クリス、無理しなくていいのよ」

「してない。」


様子のおかしいクリスにアメリアは大事なことを確認することにした。


「私、男じゃないわ」

「知ってる。」

「クリス、確認するけど本気なの?」

「ああ。ちゃんと、夫婦の」

「まぁ、いいけど」

「いいの!?」

「ええ。」


アメリアはラスティじゃないなら誰でも構わなかった。アメリアには跡取りは絶対に必要だった。スター伯爵家の血を絶やすわけにはいかなかった。クリスに覚悟があるなら構わなかった。男が好きなクリスが自分を抱くとは思わなかったが、未来のスター伯爵としての責任感がめばえたなら大歓迎だった。

アメリアは未来のスター伯爵に微笑みかけて軽く口づけた。

真っ赤になったクリスに不安になったが、男を誘う手ほどきは受けていたので実践した。クリスに拒まれなかったので体を重ねて眠りについた。


「うーん」

「起きた?体は」

「クリスこそ吐き気は?無理したんでしょ?」

「まさか。アメリアが望むなら毎日でもいいよ」


穏やかに笑うクリスにアメリアが固まった。

この人はだれ?

アメリアの中のクリスは弟のような少年だった。自分の戸惑いは隠して微笑んだ。


「今日はどうする?」

「跡取り問題が解決するならゆっくりしてもいいかな。クリスに似た人を探す手間がはぶけたもの。私は部屋にいるから出かけて来ていいわよ。行ってらっしゃい」


アメリアは布団を被った。体が重いのでゆっくりしたかった。


「一緒にいるよ」

「バカね。誰も疑ってないわ。私達が契約結婚だなんて。侍女も呼ばなければ来ないわ。部屋の中くらい好きにしていいのよ」

「アメリア、俺は、ずっと」

「知ってるわ。昔から」

「え?」

「ラスティ様が好きなんでしょ?」

「違う。ずっとアメリアが好きだった。」

「そういう冗談好きじゃないわ。」

「本気だよ。傍にいたいとも抱きたいと思ったのもアメリアだけだ」


アメリアはクリスの言葉に布団から顔を出し睨みつけた。

顔を赤く染めているクリスに首を傾げたくなるのを我慢した。


「医務官呼ぼうか?」

「熱はない。」


男好きなのに自分を好きとおかしいことを言うクリスの相手をすることはやめて再び眠りについた。


目を醒ますとクリスが部屋にいることにアメリアは驚いた。クリスはあまりじっとしているタイプではない。

私がいるからクリスが外出できないのかしら?

義務さえ果たしてくれれば好きにすればいいのに。

アメリアは夫婦の部屋から自室に帰ることにした。


「どこ行くの?」

「内緒」

「アメリアが行くなら俺も行く」

「うーん。それはちょっと」

「怒ってる?」

「まさか。クリス、私のことはいいから一人で好きにして。せっかくの休暇よ。」


体を重ねても態度の変わらないアメリアを見てクリスは考えた。俺、全く男として意識されてない。ラーニャと相談したことを試そうとしたけどできなかった。強引に押し倒すなんてクリスにはできなかった。ラスティの言葉を思い出した。


「アメリアは俺のことどう思ってる?」

「恋敵?友達?」

「この結婚は契約結婚じゃない」

「え?」

「嘘ついてごめん。俺はラスティのこと好きじゃなかった。いつもアメリアに想われてるのが羨ましかった。俺はずっとアメリアに振り向いてほしくて、嘘をついて側にいた。アメリアは自分に好意のある男は側に置かないから」


土下座をして、告白をはじめたクリスをアメリアは静かに見ていた。クリスはアメリアの反応が怖くて顔をあげられなかった。


アメリアは成人したのに泣きそうな顔をするクリスに悩んだ。こんな幼馴染は知らなかった。恋の敵わない辛さは知っている。自分はクリスほど必死にラスティを追いかけただろうか。クリスはよくアメリアの側にいた。ラスティの話をしてくれた。自分にとって辛いことをしてまで、アメリアの側にいたかったのかな。アメリアはラスティのために、ラスティの婚約者の話をして喜ばせるなんてできない。

アメリアはクリスと一緒にいた時間を思い出した。忙しい社交の合間にクリスと過ごすのは気楽だった。クリスと一緒にいるのは居心地がいい。クリスと踊るダンスも他の男と踊るよりも楽しかった。ラスティに抱えた想いとは違う。アメリアは嘘をつく人間は好きではない。でもクリスを嫌いになることはできなかった。


アメリアは跪いてクリスを抱きしめた。


「クリス、私はラスティ様が好きだったわ。でもクリスのことも大事よ。貴方との時間が一番楽しいもの。他の方といるよりクリスといる時間が気楽で好きよ。私はお父様とラスティ様の次にクリスが好きよ。」

「アメリア」

「嘘をつかれても、怒りがわかなかったわ。でももう嘘はやめてね。」

「ごめん」

「顔をあげて。いつものクリスはどこにいったのよ。私はクリスを愛せるかわからない。でも情けない顔を見て、抱きしめて慰めたくなるのはクリスだけよ。他の男ならさっさと追い出すわ。」

「俺はこのまま側にいてもいいの?」

「夫婦だもの。いてもらわないと困るわ」

「普通の夫婦になりたい。契約とか仮面じゃなくて」

「男色家だと思ってたわ。私の全ては未来のスター伯爵のものだもの。でも恋させたいなら頑張って」


アメリアはようやく顔を上げたクリスに軽く唇を重ねた。

赤面するクリスを見て綺麗に笑った。クリスはかわらず自分に向けられる笑みに安心して力が抜けてしまった。様子のおかしいクリスを心配してアメリアは傍にいることにした。

休暇はあっという間に終わってしまった。



クリスはスター伯爵を継ぐために忙しい日々を送っていた。出かけるクリスをアメリアは窓から手を振って見送っていた。


「お嬢様、クリス様で遊んで楽しいですか?」

「ラーニャ?」

「お嬢様はクリス様の事を好きですよね。ラスティ様よりもずっと」


アメリアは腹心の言葉にクスクスと笑った。


「私はラスティ様に恋してたわよ。クリスとラスティ様に揺れてる時にクリスが男色家ってわかったんだもの。それならクリスのことは諦めてラスティ様を選ぶわよ。私は選ばれなかったけど」

「どうして、クリス様に好きって言ってあげないんですか?」

「私を長年騙した罰よ。それに最近のクリスは情けないんだもの。可愛いけど、昔の余裕がある感じのほうが好きなの」

「ほどぼどにしてあげてください。ラーニャはクリス様がお可哀そうです」

「私の侍女なのに、クリスの味方なのね」

「女はイケメンに弱いのです」


アメリアはクリスの外見が好きだった。だからクリスに似ているラスティも好きだった。幼いアメリアをレディとしてエスコートしてくれたラスティに心を奪われたと本人は思っていた。

おなじ会場でクリスは令嬢に囲まれていた。アメリアはクリスの様子に妬いていたことに気づかなかった。クリスはアメリアをレディとして扱ってくれない。クリスに似たラスティのレディとしてエスコートに心奪われた本当の理由もラーニャしか気づいていない。

ラーニャは自分の気持ちさえ勘違いして、ラスティに恋い焦がれていると思いこんでいる主を見てきた。ラスティよりもクリスといることを無意識に優先している主のことも。クリスとアメリアが恋人同士と思われたのは、アメリアがクリスにだけ態度が違ったからである。クリスといるときだけ綺麗に笑うアメリアに本人以外は気づいていた。


ラーニャは外面だけは完璧な夫婦の本当の姿が周りに知られたら、まずいと思っていた。そろそろ物思いにふけっている主には働いてもらわないといけない時間だった。ラーニャはいくつになっても手がかかる主に声をかけることにした。婚姻してから機嫌がよいのに天邪鬼な主を見て、クリスに同情した。クリスが主を翻弄するのはヘタレを返上するしかない。

読んでいただきありがとうございました。

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