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Power Song8

君のために僕は詠う。

Power Song8




 アキは何度も時計を見ながら、ソワソワと居間の窓から外を眺めた。

 そんなアキを見ながら本条は微笑んだ。

「アキちゃん、いいから早くご飯食べなさい」

「え?…あ…でも…もうすぐケイ君帰って来るかもしれないですから…」

「遅くなるってメールきたんだろ?」

 本条の言葉にアキはうつむいたまま「…はい…」と答えた。

「心配しなくても大丈夫だよ、アキちゃん。もうすぐ帰ってくるよ」

 アキは苦笑しながら頷いた。

「しかし、ケイがメールだけで済ませるなんて珍しいな…」

「あ…実は何回か携帯に着信残ってたんです。でも私がそれに気付かなくて…」

「そうだったのか…でもアキちゃんが気付かないのも珍しいな?」

 本条は不思議そうにアキを見た。

「…今日、夕貴さんと買い物してたんです。それで…バタバタしちゃって…」

「あぁ…」本条は納得したように頷いた。「なるほどね…」
















 黒崎は笑いながら、ケイと智日が隠れている体育館の放送室を見上げた。

 智日の心臓がドクンと強く打った。

「久し振りだな〜智日…」

 黒崎の言葉に友田と緑川はギョッとした。「智日!?智日がいるのか!?」

「智日だけじゃないよ」黒崎はククッと笑った。「はじめまして、本条ケイ君!」


「…あ…あの野郎…」

 智日は唇を噛みながら呟いた。

 ケイはせせら笑う黒崎を見つめながら考えた。

―――戦うか、逃げるか…


 先に動いたのは黒崎だった。

「せっかく再会出来たんだ!少し遊ぼうか!?」

 黒崎はそう叫ぶと、背中からバズーカ砲を抜き、放送室に向かって構えた。

 ケイは叫んだ。「智日!」

 その声に智日は慌てて横に飛び込んだ。

 ドォォン!!という爆音とともに、放送室には大きな穴が開いた。友田達はその穴目掛けてライフル銃を乱射した。

 ダダダダダッ!! 放送室の壁が崩れた。ケイは左へ、智日は右へ飛び出した。

「撃て!撃て!撃て!撃て!」

 黒崎は叫びながら、自分の横を駆け抜けるケイを狙って銃を撃った。友田と緑川は智日目掛けて銃を乱射した。その弾が智日の太ももをかすめた。

「うっ!!」

 智日の身体が一瞬揺れた。

 ケイは智日の腕を掴み、飛び交う銃弾を避けながら外へ飛び出した。

「追いかけるか!?」

「待て!」友田の言葉に、黒崎は叫んだ。

 ケイと智日は風のようにその場から消え去った。


「…追いかけなくてよかったのか?黒崎…」

 友田の言葉に黒崎は笑った。

「少し遊んだだけだ。それに、あまり時間も無いしな…」

 そう言いながら、黒崎は4人の死体が転がった崩壊した体育館を見渡した。

「智日、大きくなったな。やっぱりお前の息子だな」

 友田が笑いながら言った。

「あの小さい方が本条ケイ?なんかイメージしてたのと違うな〜」

 緑川が怪訝そうに言った。


「―――――弾…かすめもしなかった…」

「え?…」友田と緑川は、そう呟いた黒崎を見た。

「計画、練り直した方がいいかもしれないな…」

 黒崎はそう言いながら、もう一度体育館を見渡した。




















「イタタタタ!!」

「うるさいわね!智日!」

 太ももの傷の手当に悲鳴を上げた智日に、薫は怒鳴った。

「それにしても…やっぱり生きてたのね、黒崎…」

 薫はそう呟きながら、タバコに火を点けた。

「黒崎のそばにいたあの男達は何者なんだ?」

「友田と緑川…黒崎の子分みたいな奴らだよ」ケイの言葉に、智日は薫にタバコをせがみながら言った。

「この様子だと、他にも仲間を集めてそうね…」

「たぶんね…でも、大丈夫っスか?薫さん。あの爺ちゃん派手に殺されちゃったよ」

「仕方無いわ…どちらにしても明日から日本中大騒ぎよ」

 そう言いながら薫は、難しい顔をしたまま部屋の隅の壁に寄り掛かっているケイに目をやった。

「…どうしたの、ケイ?」

「……いや…」

 言葉を詰まらせたケイに、智日は口を尖らせた。

「聞いてよ、薫さん!ケイさん、悠輔達を助けようとしたんだぜ!」

 智日の言葉に薫は笑い出した。

「お前だって私に筒井柚月の事頼んできたじゃない?」

「…何も頼んでないよ!そういう妹がいるって報告しただけですよ!」

「同じ事よ。…今日私の病院に転院させたから心配しなくていいわ。」薫は笑いながら白い煙を天井に向かって吐いた。「でも…これからが大変ね。たった一人の肉親が死んじゃったんだから。」

 ケイは静かに薫を見た。「…他人事みたいに言うんだな…」

「ケイ、私達は<正義の味方>じゃないのよ?」

 クスクスと苦笑しながら言う薫をケイは睨んだ。

 薫はタバコをもみ消し、微笑みながらケイに近付いた。そしてケイの額に手を当てた。

「!なんだよっ!!」ケイは薫の手を叩いた。

「まったく相変わらず失礼ね……」薫はムッとした表情で叩かれた手をさすった。「熱があるわ。注射うってあげるからそこのソファに横になりなさい」

「…別にいいよ」

「よくないわ。山口さん、薬の準備してちょうだい」

 薫は智日の手当てをしていた女に言った。

「…そんな薬効かないよ…」ケイの言葉に、薫は黙ったままケイを見つめた。「…もう帰るから…」

 ケイはそう言いながら、寄り掛かっていた壁から身体を離した。

「そうね、薬は家にあるわね」

 薫は微笑みながらケイを見た。

「久田、ケイを屋敷まで送ってあげてちょうだい」

 薫の言葉に、ドアの前に立っていた久田は「はい!」と返事をした。



 ケイが部屋から出て行った後、智日はタバコをくわえたまま物思いに耽っていた。

「何を考えてるの?智日」

「え…いや…なんか俺、ケイさんの事分かんなくなっちゃって…」

「どうして?」

 智日は眉間にしわを寄せたまま、口から白い煙を吐いた。

「俺が止めなかったらケイさん、悠輔達を助けに行ってたんですよ…そんな熱あったのに…なんかイメージ崩れちゃって…優しいんだか冷たいんだかよく分かんないっスよ…」

 智日の言葉に、薫は微笑んだ。

「変わったのよ…」

「え?」

「氷のようなケイの心をアキちゃんが溶かしたのよ」

 智日は黙ったまま、薫の顔を見つめた。

 そして「へぇ〜…」と、呟いた。









 久田の運転する車で屋敷に帰ったケイは、居間の窓から漏れる灯りを感じた。門の所まで駆けて行くと、玄関ポーチの所に立つ人影に気付いた。

「ご苦労だったな、ケイ」

 大神は薄らと笑った。

「何も問題はなかった?」

「問題ない。ただ夫人が寝ないでお前の帰りを待っている」

 大神の言葉に、ケイは頬に熱を感じながらうつむいた。

「そっちは大丈夫だったか?」

「…大丈夫じゃないよ。詳しい話はあの女に聞いてよ」

 ケイはそう言いながら玄関ポーチの階段を上った。その時、すれ違う大神の身体が大きく揺れた。ケイは慌てて倒れそうになった大神の身体を支えた。

「すまない―――」

 大神は一言言って、ケイから離れた。

「…大神…お前…」

「ケイ…」大神はケイの言葉を遮るように言った。「智日は自分の父親である黒崎を殺すために組織に入った。だが、今の智日では黒崎を殺す事は出来ない。…今の私でも無理だ」

 シンとした夜の空気に、沈黙が流れた。

「今だけでいい…智日に手を貸してやれ、ケイ」

 しばらくの沈黙の後、ケイは苦笑した。

「僕には関係ない」

 ケイの言葉を聞いて、大神の口元が微かに動いた。「お前らしい答えだ」


 大神の姿が見えなくなったのを確認して、ケイは玄関のドアを開けた。

 居間の方からパタパタと、足音が玄関ホールに近付いてきた。

「ケイ君!遅かったね!」

 アキの声を聞いて、ケイの表情が緩んだ。

「ごめん…広報部長につかまっちゃってさ…」

「そうだったの…ご飯は?」

「まだ…」

「まだ!?お腹空いたでしょ?すぐ準備するね!」

 アキは慌てて台所へ向かった。


 その日の晩御飯のメニューは煮魚とほうれん草のゴマ和えと豚汁だった。ケイはご飯をおかわりしてキレイに平らげた。

 アキはそんなケイを嬉しそうに見つめた。

「…あんまり見ないでよ…」

 ケイは気恥ずかしそうに言った。

「何で?ケイ君だって私の事見るじゃない?」

「僕はいいの!」

 ケイの言葉にアキは笑い出した。

「―――ケイ、帰ってたか…」風呂上りの本条は、首にタオルを巻いたまま居間を覗いた。「随分遅かったな」

「先生、コーヒーでいいですか?」

「あぁ、頼むよ。これから書斎で仕事するから先に寝てていいよ」

「はぁい」アキは頷きながら本条のカップに淹れ立てのコーヒーを注いだ。

「アキ、僕も」ケイの言葉にアキはケイのカップにもコーヒーを注いだ。「兄さん、また講演会?」

「あぁ…その資料作成しないといけないんだ。お前は?そろそろ外尾先生の講演会の手伝いに行かないといけないんじゃないか?」

 本条の言葉に、ケイは眉間にしわを寄せたまま考え込んだ。

「……そうだった。4月に大阪行かないといけないんだった」

「え?泊まりで?」

 アキは慌てて訊いた。

「いや…たぶん日帰り。でもその日は遅くなると思う」

 ケイはそう言いながら小さくため息を吐いた。


 本条が2階の自分の書斎へ上がって行った後、アキは食器の片付けをして、居間のテーブルの椅子に座って新聞を読みながらコーヒーを飲んでいたケイの向かいの椅子に腰を下ろした。

「…ねぇ…ケイ君?」

「うん?」ケイは顔を上げた。

「…智日君さぁ…」

 アキの口から智日の名前が出た事に、ケイは少しだけ不愉快な気分になった。

「智日がどうしたの?」

「うん…どういう知り合いなのかなぁ〜って思ってさ…」

 アキは言いにくそうに言った。

 ケイはどう言えば自然か考えた。

「…研究所の人の甥っ子なんだよ」

「それで智日君、研究所に遊びに来てたの?」

「遊びっていうか…見学かなぁ…」

「見学?智日君って今年高校卒業するんだよね?確かM大に通うって言ってたっけ?大学出たら…」

「どうしたの?」ケイはアキの言葉を遮った。「珍しいね?アキが人の事干渉すんの…」

 ケイの言葉にアキは言葉を詰まらせた。

「……いや…歳も離れてるし、性格も全然違うからどうやって知り合ったのかなぁって思ってさ…」

 ケイはもそもそと喋るアキの顔を見つめた。

「…ねぇ、アキ。一緒にお風呂入ろうか?」

「は?」突然のケイの言葉にアキは面食った。

「久し振りじゃん!一緒に入ろう!」

 アキの顔がみるみる赤くなった。

「いっ嫌よ!」

「何で?」ケイはムッとした表情で言った。

「先生いるじゃない!なっ何言ってるのよケイ君!!」

「大丈夫だよ、そんな気にしなくていいさ」

 アキはあわあわと震えながら、言葉を失った。

 ケイはそんなアキの腕を掴んで風呂場まで連れて行こうとした。

「いっ嫌だって!!」

「絶対一緒に入る」

 そんな2人の様子を見つめながら、本条はどのタイミングで声を掛けようか考えた。

「―――お取り込み中、すまないんだけど…」

 本条の声にケイとアキはぎょっとした。

 アキは顔から湯気を出しながら、その場から逃げ出したいと強く思った。

「アキちゃん、もう1杯コーヒーいいかい?」
























 智日は白い息を吐きながら、静かな住宅街に建つ白い壁の3階建てのアパートを見上げた。そして3階の一番右端の窓のピンク色のカーテンから漏れる部屋の灯りを見ながら大きくため息を吐いた。

 アパートの階段を上り、部屋のドアの前に立った。

 少しだけ躊躇ためらってから、ようやくインターホンを押した。

 すぐにドアが開いた。

「―――――やっと来た」

 ベージュ色の厚手のトレーナーにジーンズを穿いた今日子は智日を見て呟くように言った。「ずっと待ってたんだから…」

≪やれ、やれ…≫智日はうんざりしながらも、笑顔で今日子を見た。

 今日子は込み上げる嬉しさを智日に悟られないように下を向いたまま、智日が部屋に入れるようにドアを自分の身体で押さえた。

「寒いから、早く入ってよ」

 今日子の言葉に、智日は首を振った。

「今日は話をしに来たんだ」

「え?」

 今日子は怪訝な表情で智日を見た。

「この間は、電話でひどい事言ってごめんな。でも、分かるだろ?俺は今日子ちゃんには相応しくない男だよ。だからもう会うのはやめようよ」

 智日の言葉に今日子はうつむいたまま、黙った。

 智日は、イラつきながらもそんな沈黙の空気に耐えた。

「……あの地味な女、智日の何?」

「は?」

「『またご飯食べにきてね』っとか何とか言ってたじゃん?」

 智日は苦笑しながら息を吐いた。

「あの人は会社の先輩の奥さんなんだよ。…今日子ちゃんには関係ない人だよ」

「ふぅん…」今日子はそう言って顔を上げた。

 今日子の瞳からは勝ち誇ったような生気がにじみ出ていた。そんな今日子の表情に、智日は一瞬顔を歪めた。

「―――――私、智日の秘密知ってるんだよ」

 今日子はそう言うと、顎を上げ智日の顔を見つめた。

「…何の事?」

 智日はムカムカする気持ちをなんとか抑えながら訊いた。

 今日子はフフッと笑った。「初めて智日がこの部屋に来た時…何年前だったかな?3年ぐらい前?…その時見たの。智日が洋服のポケットに隠してたモノ」

 智日は苦笑しながら今日子を見つめた。

「デジカメで写真撮ってあるんだからね。あれ、警察に見せたら智日困るんじゃない?…銃刀法違反?だっけ?」

 今日子の言葉に智日は笑い出した。「何の事だよ?」

「誤魔化しても駄目よ。この間ここに来た時だって持ってたの知ってるんだからね!」

 今日子は顔を赤くさせながら興奮気味に言った。

 智日はしばらくの間、今日子の顔を見つめた。

「今日子ちゃんさぁ〜…俺の事、愛してるって言わなかったっけ?」

「…言ったわよ」

「じゃぁ、何で?愛してる男の事、脅すの?」

 今日子は黙ったまま、智日の顔を見つめた。

「……愛してるから…愛してるから脅すのよ…」今日子は呟くように言って、智日に抱きついた。「誰にも言わないから!だから、私のそばにいてよ!智日!お願いよ!!」

 今日子は智日の身体を強く抱きしめたまま、動かなかった。

 智日はそんな今日子の肩に手を置いた。

「やっぱり、寒いね。中に入ってもいい?」

 智日の言葉に、今日子は慌てて顔を上げた。

 智日は優しく微笑みながら今日子を見下ろした。

「…もっ…もちろんいいわよ!」

 今日子は嬉しそうに笑いながら言った。







―――――アキさん……もし地球上にアキさんみたいな人間ばっかりになったら、きっと戦争なんかなくなるよ―――――










「――――ちょっと、聞いた!?」

「聞いた!聞いた!」

 旅行会社の女性社員達が、会社の女子トイレで騒いでいた。

「やっぱり睡眠薬だったそうよ!」

「本当!?手首切ったんじゃないの!?」

 女性社員の1人があぶらとり紙を1枚取り、鼻に当てながら声を上げた。

「違うわよ!かなりの量の睡眠薬飲んだらしいのよ!」

「じゃぁやっぱり自殺!?」

 もう1人の女子社員がファンデーションのスポンジを握り締めたまま、眉をひそめて言った。

「らしいわよ〜…まぁ命に別状は無いらしいんだけど、脳に障害が残るかもって!」

 えぇ―!と、空気がどよめいた。

「…なんか最近様子おかしかったもんね…やっぱり原因は男かなぁ〜」

「えぇ!?何で?野沢さんとラブラブだったじゃない!」

 それを聞いた女子社員は口紅を塗りながら「あんた、何にも知らないのね〜」と言った。「あの子、昔の男が忘れられなかったらしいのよ〜…なんかね、ここに就職する前だから…大学生の時に付き合ってた男らしいんだけど、その男と再会しちゃったらしいのよ。ちょうどその時、なっちゃん達もいたらしいんだけど…すっごいイイ男だったんだって!なっちゃんがその元彼の前で野沢さんの話したら、次の日すごい剣幕で文句言われたって怒ってたもん」

「そんな事あったんだぁ〜…でも野沢さん可哀相ねぇ〜…だって今日子の方から告白したんでしょ?わざわざ古賀さん捨てて今日子と付き合ってたのに…」

 その時、トイレの奥の扉がバタン!と開いた。女子社員達は同時に飛び上がった。

「―――罰が当たったのよ」

 古賀は無表情のままそう言って、口にハンカチをくわえ、手を洗い出した。女子社員達は恐る恐る古賀の横顔を見つめていた。









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