表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/37

オーバードライブ女装男子! 旧13話「Into the Last Brave」

 あれ、ここはどこだろう? おかしいな、俺は確かアオイと一緒に風呂に入っていたはずなんだが……。


 視線の先には、見覚えのない天井。俺は風呂から出たあとどこかの部屋に泊まったのだろうか? しかしどうにもそんな記憶はなかった。俺は部屋の様子を確かめるために首を動かそうとした。

 だがそんな俺の意思に反し、身体の自由が一切利いていないことに俺は気がついた。驚くべきことに、首を動かすどころか、瞬きすら俺の意思を全く反映してはいないようなのだ。

 何がどうなっているんだろうか。この自由の利かなささは、まるでこの身体が自分のものではないと思えるほどだ。

 すると、不意にこの身体が一人でにベッドから上半身を起こした。見ると、俺は見覚えのない白色のシャツを着ているようだった。それだけならなんてことはないが、どうやら俺は今女性の身体をしているらしく、シャツは自分の胸の形に小さく膨らみができていた。

 小さい? いや、別に自慢する訳じゃないが、俺が女体化した時は結構胸は大きかった気がする。こりゃ戦いの時に走りまわったら肩がこりそうだな、と思うほどには。これはあの時見た俺の胸と比べると小さいような気がする。


「うーん……」


 ふと、誰かの声がした。俺は、声のする方に自動的に視線を移す。そこにいたのは……


「おはよう、あおい」


 アオイだった。アオイも俺と同じ様に上半身はシャツ一枚程度のカジュアルな服装だった。それにしても、これは一体どういう状況なんだろうか? なぜ俺はアオイと一緒のベッドで寝たりしているんだろうか?

 一緒のベッド……もしかして、俺はアオイといけないことしてしまった、なんてことはないよな……?

 それにしても、アオイに向けられたものであろう今の言葉は、俺の口から発せられているような気がするのは気のせいだろうか? いや、確かに振動は顔面を伝って俺の耳に届いていた。俺は全く口を動かす意思などないにも関わらず、その音は確かに俺に届いていたんだ。

 この状況、考えれば考えるほど頭が混乱する一方だ。アオイとの間で間違いが起こっていたのだとしたそれはそれで大問題だが、この身体に俺の意思が一切反映していないというのもかなり問題なんじゃないだろうか?

 まったくもって状況が理解出来ない。しかし、そんな俺を置き去りにして状況は勝手に変化していく。


「おはよう、遥……。あれ、遥……? あ、あおいなんで、ここに寝てるんだっけ……?」


 遥? 今アオイは俺のことを「遥」と呼んだのか? いや、ちょっと待ってほしい。俺は確かにハルカと同じ顔ではあるが、当然ながら俺はハルカではない。俺はハルトだ。まさかアオイは俺の名前を忘れた訳ではあるまいな?


「まだ寝ぼけてるの? 昨日は結構酔っ払ってたからね」

「ああ、そう言えばお酒飲んだのよね……。ごめん、また、やっちゃったみたいね……」


 アオイが頭を抱えている。なんだ? やっちゃったって、一体何のことだ?


「ふふ。昨日は激しかったね」


 は、激しかった!? ちょっと待ってくれ! 本当に俺はアオイと一体何をやってしまったのか!? いや、そもそも今アオイと話しているのは本当に俺なのか? さっきからアオイは、俺のことを遥と呼んでいるし、もう何が何やら分からない……。


「あーもー、言わないでってば。酔うと駄目ね。つい熱くなりすぎちゃう」


 これってやっぱり、もしかしなくても、俺はアオイと、まさか、え、エッチなことを……


「そうだね。酔うとあおい……物凄く熱唱するよね」


 ……って、違うんかい!? 拍子抜けする俺を他所に、二人の会話は続いていく。


「酔うと羞恥心が限りなくゼロになるのよね。そんな状態であんたがギター引いたらそりゃ歌いたくもなるわよ」


 どうやら俺? がギターを弾き語りして、それにアオイが乗ってきた、ということらしい。個人的にはエッチな展開を少し期待し……いや、間違いが起きてなくて何よりです、はい。

 ……ところで、今思ったんだが、もしやこの身体は俺のではなく、別の人間の身体なんじゃないだろうか?

 どんな仕組みなのかは分からないが、どう考えてもこれは俺に起こっている出来事ではない気がするんだ。そもそも俺とアオイは出会ったばかりで、こんな親しみのある会話をするような間柄じゃない。いやまあ、風呂には一緒に入ったけどさ。

 それにさっきからアオイは俺のことを「遥」と呼んでいるんだ。寝ぼけていると言っても、アオイがいくらなんでも俺のことをハルカと間違えるとは思えないし、それに、どうにも俺と話している時のアオイとは態度が違うような気がするんだ。トゲトゲしさがないというか、すごく柔和と言うか……。


 情報を総合すると、つまり俺は今、前勇者であるハルカになってしまっている、という線が濃厚なのではないだろうか? もちろん、死者であるハルカになるなんてことは現実的にはあり得ない話だ。つまり、俺は今ハルカになる夢を見ているとは考えられないか? 突然勇者代理となり、新しい人々に出会い脳が刺激され、こんな夢を見てしまっているというのが俺の推測だ。突拍子もなさすぎるが、全くあり得ない話ではないだろう。そもそも夢なんて大概は突拍子もないわけだし。


「あおいは、今日はオフなんだっけ?」

「そう。毎日訓練ばっかりなんだもん。たまには休まないと身体がもたないわよ」

「そっか。じゃあ、今日はずっと一緒にいられるんだね」


 そう言ってハルカが笑う。彼女が心から喜んでいるのが俺にもよく分かる。そんなハルカを見て、アオイは照れたようにソッポを向く。


「ふん。ま、たまには一緒にいてあげるわよ。あんたはあおいがついてないとダメみたいだからね」


 それにしてもこのアオイは、どうにも俺の知っているアオイよりも幼いような気がする。反応もそうだし、自分のことを「あおい」と呼んでいるのも幼さが強調されている気がするんだ。


「うん。だから今日は一日中べたべたするのー」

「あ、こら!? 早速くっつかないでよ!」

「んー……」

「な、なによ? 目つぶったりして……?」


 色々思案している内に何やら変な展開になっていた。何が起こっているんだ? ハルカは今アオイに対して何を求めているんだ? するとハルカは俺の予想の斜め上の返答を寄越した。


「チューして」


 ええ!? な、なんて要求をしているんだ!? 仲が良いのはいいが、これは少し路線が違うんじゃないか……? だって、こんなの普通の関係じゃなくて、所謂”百合”というものに該当するような関係じゃないか。俺はアオイはきっとそんな要求断るはずだと思った。しかし、突拍子もない要求をされたはずのアオイは、あり得ないことにそれを拒絶しなかった。それどころか……


「あおい?」


 アオイが俺の、いやハルカの肩を掴む。そしてゆっくりと顔を近づける。

 おいおい、マジか? もしかして二人は、そういう間柄なのか……? いや、でもこれは俺の夢なわけであって、こんな展開にしているのは俺の脳みそなのであって……ああ! もう訳がわからない!

 そうこうしているうちに、抵抗出来ない俺、いやハルカの唇に向かって、アオイの唇がどんどん近づき、そして……


 瞬間、俺の意識が切り替わった。朦朧として、まるでコントロールの利かなかった状態を脱し、俺はすっかり身体の支配権を取り戻していた。

 だが、身動きが取れないのは変わらずだった。俺の上になにやら重みを感じる。そして、口の中に何やら空気が送り込まれているような、そんな気がして……


「……………………ん!?」


 眼前には、アオイの顔。アオイは、俺の唇を完全に奪っていた。この状況が意味不明過ぎて叫び出しそうになる。すると、アオイが俺から離れ、焦りながら言った。


「大丈夫!? 生きてる!?」

「え? え?」

「良かった、意識が戻ったみたいね。まったく、心配したわよ……」


 状況を把握できていない俺は浴場のタイルの上に寝ころんだまま、ただ黙って立ち上がったアオイを見つめることしかできないでいる。俺が混乱しているのを察し、アオイが言った。


「あんた、お風呂でのぼせて風呂の中に沈んじゃったのよ。水を飲んでたみたいだから、急いで浴槽の外に出して人工呼吸をしたのよ。処置が早かったから良かったけど、一歩間違えたら死んでたわよ、あんた」

「そ、そうだったのか……。助かったよ。アオイは命の恩人だね」

「そ、そんな大袈裟なことじゃないけど、まあ、無事なら良かったわ……。あんまりお風呂で無理しない方がいいわ」


 そうか、つまりさっきのアオイの濃厚なキスは、人工呼吸をして俺を助けるためのものだったということか……。どうにもさっきの夢のせいで変な誤解をしてしまった。ということは、さっきのはやはりただの夢だったのだろうか? それにしても、どうして俺がハルカになる夢なんて見てしまったんだろうか……。


「大丈夫? もしかして、どこか痛めた?」

「いや、大丈夫。そ、それよりも、アオイ、このアングルはさすがにマズいって。早く、そこをどいた方がいい……」

「え?」


 視線の先、そこには、アオイの、ひ、秘所が、あまりにもハッキリと、見えてしまっていたんだ……。

 俺がそう指摘した瞬間、アオイの顔がみるみる真っ赤に変化し、そして……


「……………………な、ななな、何見てんのよこのへんたあああい!!」

「うげえ!?」


 アオイの蹴りが思いきり顔面にヒットし、俺の意識は物の見事に吹っ飛んでしまった。しかし闇へと意識が落ちるその直前でも、あまりに刺激の強いその光景は、蹴りくらいでは消えないくらい脳裏に焼き付き、もはや消すことなど不可能になってしまっていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ