表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/153

17

「クルタス!」

「ナイセ!」

 維持できるだけの防御魔術で、懸命に身を守るヴァルトに。シーヴは容赦なく、抜き身の剣を突き出す。しかし、どうしても突き崩すことができずに、すぐさま防御を固められてしまう。

「プキ! キエリ! リートゥ! シヴェ! ネコウ! ルム!」

 しかも、一瞬とはいえ隙を見せた瞬間。避けるだけで精一杯の、手加減のないヴァルトの連射攻撃が襲ってくる。

 すべてをかろうじて避けきったシーヴは、つうっと流れ落ちる汗をグッと拭う。呆然とした顔で、ヴァルトとリクを交互に見た。

「お前たちは、毎日こんなことをしてるのか?」

「まぁ、ユリアがヴァルトの補助をしたり、僕やユハナにナイセをかけたりするけど、だいたいこんな感じだね」

 ここへきて初めて。よほど呆れたのか、シーヴがフッとため息をついた。

「ヴァルトは防御も攻撃も強いが、リクはどうなんだ?」

 攻撃は得意だが他は──という魔術師のリクだ。明らかに容赦のなさそうなシーヴの訓練には、絶対に巻き込まれたくはないだろう。

 ふいっと視線をそらしたが、シーヴにググッと詰め寄られて。リクは観念して、仕方なくヴァルトに声をかける。

「ユリアはいないけど、いつものとおりで」

「ん、わかった」

 ユリアという保険がない分、やはり怖い。かといって、全力を出さずに、その程度と判断されるのも、悔しい。

 リクの、攻撃魔術の威力自体はかなり高い。だが、連射できる数は、ヴァルトよりいくらか少なくて。普段はそこに勝機があるのだ。

 三発で防御魔術一枚を撃ち砕く、遠慮のないリクの攻撃に。ヴァルトはひたすら、防御魔術を追加することでジッと耐える。

「ナイセ!」

 一枚が砕けたところで、運よくリクの魔術が途切れた。しかし、防御魔術を追加する間に、再び連射を始められてしまう。

 こうなると、ヴァルトは守備に徹するしかない。

「そこまで!」

 突然割って入った声に、リクはスッと口を閉じた。

 ヴァルトは恐る恐る、声のした方向を見る。

「シーヴが二人の実力を見たいのはわかるけど、この二人だけだと危ないの。次は、絶対にしないで」

「そうか? 平気だと思うぞ」

 静かに、ゆっくりと首を横に振って。ユリアは、防御魔術を維持したまま、ボーッと立っているヴァルトに治癒魔術をかけた。

「まったく……シーヴで消耗してるのに、リクまで相手にするなんて」

 ゴメン、と素直に謝るヴァルトに、もう一度。念のために治癒魔術をかけたユリアは、リクの目をジッと見る。

「手加減をしたことで、シーヴに実力を勘違いされるのが嫌、っていうのはわかるわ。でも、二度目の連射に入ったのは間違いよ」

「ごめんなさい」

 厳しい口調のユリアに、リクはきちんと謝罪の言葉を口にして、迷わず頭を下げた。それをみたユリアは、ふわりとやわらかな微笑を向ける。

「リクの強さは、私が一番よく知っているわ。それでいいでしょ?」

「うん!」

 ほんのりと流れ始める、そこはかとない甘い雰囲気から。ヴァルトは露骨に顔を背ける。しかし、シーヴは平然と、まじまじと、ユリアたちを見つめて問いかけた。

「じゃあ、王女付きのユリアはもっと強いのか?」

 いい雰囲気をぶち壊されたことを、別段怒るでもなく。ユリアはリクとヴァルトに、できるだけ離れるよう進言する。

 胸の前で腕を交差させ、いつでも呪文を唱えられるよう準備を整えた。

「かかっていらっしゃい。遠慮も手加減もいらないわ」

 スッと剣を抜き、シーヴは自己強化の呪文を口にした。ほぼ同時に、ユリアは防御魔術を数回、素早く唱える。

「なっ!?」

 先ほどと同じように、剣を突き出したはず。

 ヴァルトの防御魔術は、一度に複数枚砕けたというのに。ユリア相手では、二枚目にヒビを入れるのがやっとだった。

「防御と治癒にとことん特化した私と、治癒の強いバランス型のヴァルトの違いが、これでよくわかったかしら?」

「じゃあ、ユリアの攻撃はどうなんだ?」

 たった今、防御と治癒に特化していると、言ったばかりだ。それなのにシーヴは、ワクワクしている雰囲気をただよわせ、楽しそうに聞いてくる。

「そよ風同然ね」

 短い中に、鋭い怒りのこもった、ユリアの返事。それを細かに読み取れなかったらしいシーヴは、ひどく真剣な表情で、そよ風の攻撃を想像しているようだ。

 想像力の限界か。諦め顔のシーヴが、サッと剣を鞘にしまった。

「見せてもらった方が早いな」

「……使う機会があったら、いくらでも見せてあげるわ」

「そうか、楽しみにしてる」

 そんな機会が訪れる可能性は、限りなくゼロに近い。もちろん、ユリアに見せる気などこれっぽっちもない。それを、リクとヴァルトは知っている。

 もし仮に、シーヴに見る機会があるとしたら。それはアハトの方だろうということも、実はわかっていた。

 あまりに頑丈すぎる防御魔術を知ってから、彼らの攻撃魔術を見ると。誰であっても、必ず目が点になる。

 それほどに、強さの落差が激しいのだ。

(でもさぁ、ユリアの攻撃がそよ風って、いったい誰が言ったんだろ?)

 ふと、ヴァルトは考え込む。

 リュイスやリクの防御魔術を紙切れ扱いし、治癒魔術を気休め以下と言い放つ。的確な表現を有する、アハトしか思い浮かばなかった。


          ‡ 


 ユハナと比べると、力不足は否めない。だが、女王側に閉じこもっているユハナの代わりを務めるには、シーヴでも十分だった。

 中でも、互角に戦えるヴァルトが喜んで、シーヴの相手を務めている。

 普段はあちらこちらへと、忙しく防御魔術をかける。そんなユリアは、リクの相手の合間に、ヴァルトへ治癒魔術をかける程度のことしかしていない。

 食事の支度どころか、掃除洗濯もまともにできない。やや問題のあるシーヴの世話を、渋々全面的に引き受けたユリアの負担を、少しでも減らすために。ヴァルトとリクで、ユハナの食事当番を交互に受け持っている。

 そんな調子で、あっという間に十日が過ぎた。

「……遅いわね」

 朝昼晩と、リュイスが顔見せついでに、こまめに連絡を取ってくれる。しかし、ほぼ固まっているはずの同盟ひとつ結ぶだけで、ここまでかかるのか。そう、首をひねりたくなる。

「遅いって、陛下たちの帰国? それとも、ユハナの復活?」

「帰国の方に決まってるでしょ」

 ヴァルトの問いを、さっくり斬り捨てる。

 日に何度か、ユハナの様子を見に行ってはいる。今はやっと、部屋に鍵がかからなくなったところだ。外に出てくるには、まだまだ時間がかかりそうで。

「早くても明後日にしか帰ってこないなんて、いったい何があったのかしらね」、

 いつ頃帰ってくると、はっきりわかっているならば、まだいい。だが、今朝のリュイスも、帰国の予定さえ言わなかった。

「最後の最後に、すっごい難題でも吹っかけられたんだったりして」

 冗談めかして言うヴァルトに、リクとユリアはげんなりと疲れた笑いを向ける。

 このさらに三日後。ようやく帰国の目処が立ったと、リュイスから報告を受けたのだった。




 中庭で訓練をしていたユリアは、馬車の音を聞きつけて門へと走る。その後をリクとヴァルトが追う。何が起きたのか理解できなかったシーヴは、一人呆然と立ち尽くしていた。

「お帰りなさい!」

 ユリアはまずアハトに、それからソーニャに抱きつく。

「ユハナは?」

「今日もお父さんの部屋よ」

 そうか、と頷いて。ソーニャは荷物を放置したまま、ユハナの様子を見に行く。

「ソーニャさんって、ああ見えてちゃんと心配してるんだよね」

 笑いながら、ソーニャの荷物を引き受けたアハトは、ユリアたちの苦労を真っ先に労う。

「で、問題のシーヴちゃんはどこにいるの?」

「え?」

 見回してみるが、姿がどこにも見えない。

 うっかり声をかけずに来てしまったことを、ふと思い出して。ユリアは、あっ、と小さな声を上げる。

「きっと、まだ中庭だわ」

「ん、じゃあ、俺が見てくるよ」

 了解の意を伝えたアハトが、両手に荷物持参で、ヨロヨロと中庭へと向かう後ろ姿を見送りながら。

 なぜか、漠然とした一抹の不安を感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ