第二十三話 戦いという名の意思疎通
ノスタルジア・システム本部附属病院−病室−
「……」
病室にいたるなは少し不安そうな表情をしながら窓の外を眺めていた。その横に椅子に座っている一人の少女は気難しそうな表情をしながら本を読んでいた
「はぁ、零時大丈夫かなぁ……」
「何惚気? そんなに彼のことを心配してるの?」
そう茶化してくるのは、るなの友達であり、情報部隊隊員である高原みのりという人物だ。
「違う違う! ただ幼馴染として心配しているだけで、別に零時に特別な思いとか…!」
「はいはい、そういうことにしておくよ」
「〜! ちょっと〜!」
そう受け流され、持っていた本を閉じると、席から立ち上がり本を椅子に置く。そしてるなのベットに座り、窓の方を見つめる。
「さて、るなもとても暇しているだろうし、ウチの憶忘を使って訓練場の現場でも映そうかしらね」
「え、そんな悪いよ。もしかしたら記憶が無くなるのかもしれないのに」
「安心しなって、ちゃんと程度を考えてやるから」
そう言いながら、みのりは手をかざすと、そこにもう一つの窓が宙に浮きながら誕生した。彼女、高原みのりの憶忘は『窓』であり、指定した場所を遠くから監視することができる後方支援型の能力。最大で三つまで召喚することが可能であり、練度を高めることで窓から攻撃や声を届けることができる。だが練度が足りない状態でその場を干渉することはできないが、迅速な情報伝達が重要となるこの世界では、とても有用な憶忘の一つでもある。
「さて、窓開通できたよ。これで訓練場の様子も観れると思うよ。」
そう言いながら窓を見つめるみのり。
るなもみのりに「ありがとう」と感謝しながら窓の方へ体を近くに寄せる。
「本当、みんな毎日訓練してて凄いなぁ。私ならすぐに体力が尽きて死んじゃうよ、ハハッ」
「元々体力そんなになかったでしょ、みのりは」
「あ、失礼ねぇ、アタシだって最近は鍛えて人並みの体力はあるんだぞ?」
「じゃあそういうことにしておいてあげる」
「あんたねぇ……。」
そう呆れるみのりと、少し元気を取り戻したのか、笑みをこぼするなを見て、みのりは肩の荷を下ろしながら、窓で訓練場の様子を見ていた。
「お、あそこに森川と青柳がいるね。あの二人期待の新人らしいし楽しみだねぇ」
「そうだねぇ」
るなは愛想よく返事を返す。
「まぁあの二人はいいとして、るなが愛しいと思っている諏訪部零時は一体どこに……」
「ちょっ、一言余計!! あとそれ零時には絶対言わないでね!? 恥ずかしすぎて死んじゃうから!!」
みのりの背中をポカポカと優しく叩きながら、言いふらさないよう釘を刺す。
「流石にそこは限度を持ってるから安心してよ。」
みのりは微笑みながらも淡々と答える。流石にそこまではするほど落ちぶれてはいなかった。るなは少し耳を真っ赤にしながら、零時のことを探している。
──零時、あの柊先輩と関わっていないといいけど……。もし大怪我なんて負っちゃったら、本当に……
「あ、るなるな、あれ見て。」
「ん?」
みのりが指差す方へ視線を向けると、そこに映った景色に彼女は驚愕する。
「零時……!?」
そこに映っていたのは零時と柊、そして古手と影原の四人が乱戦しようとしていた。それを見たるなは頭を抱え、ただただため息をつくことしかできなかった。
「るな?」
「古手くん……止めようとか善処するとか言ってたのに、どうしてこんなことになっちゃってるのよ……。零時はここに来次第説教しないと……。あと古手くんも」
「あっちゃ〜。るな完全に怒ってるな……。ま、彼らの行く末でも見届けよ? きっと予想外な展開に持っていってくれるかもだし」
「……みのりがそう言うなら、一回見届けることにするよ。」
微熱程度の怒りを抑えつつも、彼女は零時たちの戦いを見守ることにした。
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ノスタルジア・システム東京本部-訓練場-模擬戦エリア-
この場にいるのは、東に諏訪部零時、西に柊花凛、南に古手望、北に影原日向の4名。周りには人が少しだけ集まっており、先ほどまで戦っていた玄葉、その隣には六花がいた。
多くの隊員は柊の一人勝ちだと思っており、対して新人隊員は零時のことが少し不安のようだった。
「それじゃ、模擬乱戦を初めていこうか!!」
4人は木製の武器を取り出し、構える。
空気全体がピリつきだし、誰も襲い掛かろうとしない。柊と古手も様子を伺い、零時も同様三人の動きがあるのを待つ。誰か一人が先陣して動かなければ、この硬直から脱することはない。
零時が固唾を飲み、集中力を絶やさなかった時に、思いっきり地面を踏み込む音が聞こえ、全員そっちに視線が釘付けになる。たった一人を除いて
「おいおい、こんな硬直はつまんねぇわ!!! さっさと戦えよ腰抜けたちよぉ!!」
影原が地面から影の武器を取り出すのと同時に、最も近くにいた柊へと襲いかかる。
「おや、私の方から襲いかかってくるなんて。いいねその威勢!!」
柊と影原が戦いを起こす間もなく、零時はもう一人の存在を感知し、視線を後ろに向けると、既に下から襲いかかる古手の姿。
古手は木製ナイフで零時のお腹に当てようとする。
「っ!!」
だが零時は咄嗟に防ぐが、衝撃だけは免れず、そのまま後ろの方へ後退されるが、すぐに体勢を整える。
──速いっ…!! 今のは油断してた、体勢を…!!
零時が顔を上げた時には古手が近くまで来ており、休む時間さえ与えてくれない。
古手の左手が前に突き出し、胸に当てるのと同時、高威力な攻撃を叩き込む。
「っが…!?」
あまりの衝撃に零時は白目を剥いてしまい、そのまま地面に横たわってしまう。痛みに耐えきれず悶絶していたところに古手は構わずどんどん近づいていく。
──やばいやばいやばい…!! なんだ今の衝撃…!? 奇襲をかけられたせいであの攻撃、避けれなかった…!! とにかく落ち着け、今は深呼吸して現状把握を最優先にしろ!!
自身の動悸を落ち着かせながら、思考を回す。
──古手さんの威力は見かけにもよらずのものだ。全部の動きはまだ読めないが、さっきの攻撃は絶対に躱せる…!! とにかくさっきの拳法みたいな技に注意しながら、武器にも目を光らせる…!!
膝を地面につけながらも、零時は深呼吸をし、やがて立ち上がる。その姿を見た古手は足の動きを止め、少しだけ驚いた表情をする。
「まだ、立てるんだ」
「生憎……負けるつもりはないんで…!」
──さて、どう対応していく…!
零時と古手が武器を構え直し、そのまま木刀の打ち合いが始まる。
古手の動きは、なんというか無駄がなく、ただ相手を捻り潰すだけに鍛えられたようなナイフ捌き。そのナイフ捌きには適応力が高い零時ださえ、息を呑むほど。そして零時は初めて訓練場で見に行った時に、古手望について語られたことを思い出す。
──そういえば、明月さんが言ってた……!! 前線の切込隊長だって……!! 確かに俺はあの時古手さんが無傷で山姥と戦っていたのは見ていた、けどここまでの強さだと思わなかった……!! 俺はあまりにも浅はかだった……!!
零時の顔に曇りが現れる。そこを介さず古手は素早く蹴りを入れ、零時を吹き飛ばすのと同時に、そのまま木刀を投げつける。が、それはなんとか間一髪で躱す、だがすぐに追撃してくる古手の踏みつけを零時は横に移動して躱す。今のは完全に顔を狙ってきていて、もはや命を刈り取るほどの凶暴性を誇っており、流石の零時でさえ悪寒が走る。
投げた木刀を拾い上げ、構え直す。
「……強い」
「……いいね、君。ここまで渡り合えるのは、隊員の中じゃあんまいないよ。明月さんが勧誘するのも分かる。」
「僕は新人いびりは好きじゃない。けど君が乗ってきた以上、ここでノスタルジア・システムというのを知ってもらう価値はあると思うよ」
刃先を零時に向け、そう強く言い放つ。零時はそれを見て、不覚にも口角をあげる。
「…?」
この現状で口角を上げる理由が分からない。それは古手だけじゃなく、零時もそう思っていた。けど不思議と高揚感があった。
「そうですね……俺はまだまだ未熟者だ、この戦いで、あんたらに勝てるなんて思ってはいないし、ビジョンもない。だけど、弱いながら俺はあんたらと渡り合うつもりです。どのように転がったとしても」
零時は威勢を張りながら、古手に対して射るような視線を向ける。それを見た古手もまた鋭く、少し柔らかい眼差しを向ける。
「……そう。じゃあその威勢、認めてあげるよ。けど、後悔だけはしないように」
冷たく発する言葉を皮切りにお互いが前へと出ようとした時、遠くの方から何かが光り、その瞬間には発砲音が鳴り響く。
二人はそれに一瞬で気づき、古手は咄嗟に武器でガードし、零時はすぐに回避する。
二人が銃声したところに視線を向けた時、そこにはマスケット銃を下ろした柊が余裕の佇まいでいた。
「へぇ、今の躱せるなんて。古手くんはともかく、諏訪部くん、君はとても才能があるね」
独り言をこぼしていた時に、後ろから影原が刀を振り下ろす。が、柊はマスケット銃を空間から作り出しそれで防御する。
「チッ!!」
柊は優しく微笑み、彼を一瞥した後、マスケット銃で押し返す。影原は距離を取る。
「私は近距離が苦手でね。古手くんや影バン、眼帯くんみたいな動きもできないし、逆に天使ちゃんみたいな遠距離型でもない。いわば中途半端な中距離型。」
「羨ましいからこそ、この戦闘には大きな意味がある。あぁ、君たちの戦闘で私に学ばさせてくれ!!」
後ろから近づいてくる影原に武器をノールックで投げつけて動きを阻止する。そして彼女の真価を発揮させる武器が現れる。
それこそが、彼女が扱う武器のうちの一つ、マスケット銃。球一発に対して装填に時間をかける欠陥武器なのだが、それこそ彼女が目につけた武器でもある。
「アハッ!!」
次の瞬間、柊がなんの躊躇いもなく零時の元へと瞬間移動する。
零時は反応することすら許されず、マスケット銃の先端で腹を殴られる。
「ガッ……!?」
──えっ…? 速っ…!?
零時の眼差しは柊を捉えていたが、柊は微笑みながら、銃口を向ける。
──…ッ!? 嘘、だろ…!?
零時がストップを入れる間もなく、そのまま発砲音が聞こえる。その場を見ていた新人隊員は驚愕し、玄葉は冷や汗をかき、六花は目を見開く。
そして遠くで見ていたるなは今にも泣きそうな表情で零時を見る。
誰しも彼が血を流したと思った。だが、それは間違いだった。
「ッ…!? った〜…!! 柊さん! 何を撃ったのですか!?」
零時の額には怪我を負いそこの肌の部分だけ他よりも赤くなっていた。
「あら、ただのゴム弾よ?」
「言ったでしょ、これは模擬乱戦だって。実際に殺し合うのはダメに決まってるでしょ、常識的に考えて」
「それから、なんで周りのみんなはそんなに驚いてるか分からないわ。私が容易く人を殺してしまうような人だと勘違いされてるのかしら?」
古手の視線から「うん、そうだよ」と食い気味に言いそうな雰囲気だったが、なんとか抑える。影原もそれは同様だった。
見ていた人たちは少し安堵し、るなは肩の力が抜けていった。
「まぁいいわ。それじゃさっさと戦おうか」
だが戦闘には休憩時間というものは存在していなく、柊がまたしても消えたと思ったら零時の懐へと潜り込んでいた。そしてマスケット銃を振り上げるが、零時はそれを容易く避ける。
「二度目は貰いませんよ…!」
その勘の良さには柊は少し興味を持っていたが、すぐさま銃口を向け、思考する。
──諏訪部くん、回避能力が高いわね……。さっきの一撃を一瞬で見破ったのかしら? それにしては速すぎる、慣れてきた新人でも銃先での攻撃は十数発は食らう。もしかしたら彼もまた、私と同じ“異端者“というわけね。
トリガーを指に添え、刹那、発砲音が聞こえ、ゴム弾が発射される。零時はそれを躱そうとするが、弾は頬を掠める。だがそれを見た柊は笑みをこぼす。
瞬間、零時の左手に微かながら渦が巻いており、そのまま拳を突き出す。
「!!」
「ッ!!」
マスケット銃を間に入れ攻撃を相殺するが、マスケット銃からピシッという嫌な音が響き、嫌な予感した柊はマスケット銃を手放したその時、マスケット銃が崩壊した。
「あっ…」
「……へぇ、なかなか良い技じゃない?」
無惨に散っていったマスケット銃は地面へと溢れ落ちる。零時が「すみません!」と謝りながら駆け寄ろうとしたが、柊はそれを静止する。
「大丈夫よ諏訪部くん、この銃は私が作った創造物だから。また作り直せる」
彼女は何もない場所からマスケット銃を作り出し、手に取る。
「それにしても、あなたの技、とても魂が乗った拳で一瞬ハラハラされたわ。新人の中でもあなたは格別に強いわね」
「そんなお世辞はいりませんよ、柊さん。俺はまだ半人前です。」
「そこまで自分を卑下する必要性あるかしら。まぁそこはなんでもいっか、とにかく私が見込んだ存在なのは確定したわ。」
「ふふっ、だからもっと、私を楽しませてくれ」
そうガン開きで微笑みながら、彼女は興に乗ったのか、もう一つのマスケット銃を作り出す。そして離れていた距離を一瞬にして0にし、零時の懐へと向かう。
木刀とマスケット銃二丁が鈍い音を鳴らしながらも、その手数の多さから柊が少し有利に見える。しかし零時の瞳は閉じることなく、ただ柊の銃の捌きを見る。
──わざわざ自分の強みを潰してまで、俺と刃を交えるのは得策じゃないはずだ…。わざと俺と同レベルまで付き合ってくれてるのか……いや、あん時柊さんは自分のことを中途半端な中距離型って言ってた。なら接近戦に持たせながら……!
──倒す……!!
瞬間、木刀がマスケット銃の一丁を吹き飛ばす。それには柊も微かに驚く様子を見せるが、すぐにもう一丁のマスケット銃を作り出し、笑いながら牽制する。
──柊さん、一体どんな能力を持っているんだ? 何かしらの複製させる能力? 武器を投影させる能力なのか? どっちにしろ、厄介極まりないのは事実だ。
そんなことを考えていた零時だったが、ある一つ思い出したことがある。乱戦前やこの戦いでも見せたあの瞬間移動を、どう片付ければいいのか、ということを。
──待て、もし柊さんの憶忘が複製だったり、武器関連の能力だとしたら、あの動きはどう説明すればいいんだ? だとしたら、何かを生み出すのと身体作用が同時に存在しているということか? そんなことができる憶忘なんて、あるのか?
木刀で武器を交わりながらも、零時の頭には無数の記憶を掘り起こしながら柊花凛という存在を知ろうとする。彼女ができること、できないこと、得意なこと、不得意なこと、彼女を倒すには、まず彼女のことを知らなければならない。戦いというのは、ある種の意思疎通だ。互いを知ることによって、戦いの流れ、戦略、その場の行動を全て予測することができる。
無駄な一手を出さないため、全ての記憶を使って相手を攻略する。
「ッ!!」
それが、諏訪部零時という男そのものだ。
一寸の狂いなく、二度、柊のマスケット銃を木刀で薙ぎ払う。
「…!!」
その瞬間、マスケット銃二丁が吹き飛んでいき、隙を作る。そこを逃すまいと零時は地面を強く蹴り上げるのと同時に、柊に襲いかかる。
だが柊もまた歴戦の猛者。それすらも想定済みのような笑みを浮かべるのと同時に、目の前にマスケット銃を現れ、その木刀の攻撃を防ぐ。零時はそのまま意に操るマスケット銃に吹き飛ばされ、地面を擦る。だがあまりの馬鹿力に零時は驚きを隠せないままにいる。そこに柊が一瞬にして現れたと思ったら、零時の腹を蹴り上げ、そのまま回し蹴りで彼を吹き飛ばす。
──今、何が……!?
意識を保ちつつ、なんとか思考を回しながら、先ほどの行動を考えようとしたが、考えている間でもこちらへとやってくる足音が聞こえてくる。もはや時間がなかった。
「やっぱり君は耐久力と素早さ、それから適応力が凄まじいね。恐らくノスタルジア内でも随一な方だと思うよ。でもそれだけ。パワー、憶忘関連になると君は途端に弱くなる。さっきの銃然り私の蹴り然り、まぁ一回食らえば即座に適応するタイプなんだろうけど。」
「そんなんじゃ、いつまで経っても私たちのとこまで辿り着けないわ。君は無敵なんかじゃないから」
作り出したマスケット銃を手に取り、そのまま銃口を零時の方へと照準を合わせる。だが彼女はとても満足してそうな表情をしていた。
「んじゃ、ゲームセッ……」
そう言い切る前に、零時が膝をつきながらも渦を巻き、拳を放つ姿勢を取る。
それを見た柊は思わず目を見開く。
その刹那、零時の左手が襲いかかっており、柊は咄嗟に避ける。
「柊さん、俺はまだ戦えますよ……。それに、俺はあんたに勝つ気でいますからね。」
立ち上がりながら、眼差しを向ける。その眼差しはとても誇れるようなものじゃなかったが、それを見た柊は口角を上げ、目を瞑る。
「……」
「どうやら私は、君のことを推し量り間違えていたようだね。君はとても強い、なら超えてみな」
刃を向け柊に向けて突進した時、いきなり零時の体勢が崩れる。
「っ!?」
「おや?」
柊の視線には、零時の足に影の中へと入っており、柊が口角を少し上げ、地面を見る。すると零時の後ろ影から何かが浮き出てくるのと同時に、零時の背中を蹴り上げ、地面を擦れながら吹き飛ばされる。
「いやぁ、ここまでするつもりはなかったんやけど、少々お熱いところ申し訳ないね。」
「俺もそろそろ古手と戯れあうのもいい加減飽きてきた頃合いなわけで…!」
「へぇ、古手くんを捌き切ってまで私のとこまで来るなんて……」
「んじゃあ、そうなると……」
柊の後ろから猛スピードで襲いかかる何かの攻撃をマスケット銃で受け流しながら、そのまま後ろを振り向く。
「やはり来たね!! 古手くん!!」
高らかにそう言いながら、柊はもっと力を込め、古手の攻撃を押し除けていく。
「チッ……」
流石に堪えるのが嫌になったのか、古手は刃で柊を吹き飛ばし距離を離した、その隙に古手の方に影がこちらへと忍び寄ってきて、そのまま木刀が突き出してくるが、古手はその攻撃を食らうのと一緒に木刀を右手で握りしめ、一気に引き上げると影原が現れる。
影原は「マジか!!」と興奮しながら言いつつも、木刀を手放し、古手と向き合うように地面へと降り立つ。と、そこを逃さない柊がこちらへとやってきてマスケット銃で薙ぎ払おうとするが、自分の影から影の刀を取り出し、防ぐ。さらに発砲もするが影で壁を作り、球の衝撃を吸収する。そしてそのまま飛び出して、柊と交戦する。
柊は素早くもう一丁のマスケット銃を出現させ、手に取るのと同時に影の刀で受け流す。
近距離メインと中距離メインの接近戦では、近距離メインの方が有する。それはどの漫画や創作でも同じことを言える。だが影を操る少年にとって、近距離で攻めてくる少女の姿は本当に怪物のようで、一瞬、刀の動きが止まってしまうほどに。
そこを逃すまいとマスケット銃が突然跳ね上がるような挙動を見せ、そのまま影原の手首に命中する。彼が痛むのと同時にマスケット銃による追撃が迫ってくるが、影原はさっきとは違いそれを難なく躱す。そして自身は影の中へと入っていく。
生身となった柊の方に古手は一気に駆け出し、木刀を振り下ろすが、目の前にマスケット銃を出現させ、それを防ぐ。柊は少し分が悪いと思い、古手の目の前から姿を消す。すぐに目を追ったが、どこにもいなく、後ろを振り向いた矢先、何か握っているような仕草をし、それを古手の腹にぶち込む。その威力は体を貫通させてくるような痛み。古手は抵抗する間も無く、吹き飛ばされ、土煙を起こす。
柊はマスケット銃を一度しまい、手を打ち鳴らす。
そして少し離れた場所で倒れている零時の方の影から影原が現れ、首に手を添えながら、一歩前進する。
「ふう、やっぱ影の中に入るのは少し窮屈やわぁ。やっぱ自分の憶忘を呪いたいわぁ」
服を整えながら愚痴をこぼしつつ、手首を優しく撫でながら、他二人の方に視線を向ける。やはり彼自身も自ずとわかっていた。彼らを超えるのはそれ相応の力がなければ、まずその土台にすら上がれないこと。それほど強大な敵だということに。
戦えば戦うほど、自分はまだ未熟者であり、凡人なことについイラついてしまう。いや、そんなことを感じてしまうこそ、自分はいまだに未熟者として生きるしかないのだろう。
「君の憶忘、やはり厄介だね。早急に潰す相手が決まったわ」
そうマスケット銃を携えながら、影原の方に一瞥する。
「おいおい待てや待てや。なんで急に俺をぶっ倒すことになってるんや。」
突然の宣告に彼は慌てている様子だったが、柊の少しの微笑みを見て、影原もひどく口角を上げる。その微笑みは、気に入ってくれたというサイン。柊を超える彼にとっては、この上ない祝福でもあり、一種の呪いでもあった。
「仕方ないでしょ? 状況的に影バンの憶忘はいわば戦場をかき乱す厄介者なの。私の憶忘は少し発動条件がめんどくさいけど、君の場合はそうじゃないでしょ? なら君を倒して、後はデザートを堪能させてもらわないと。」
零時と古手のことを見つめるその表情は、まるで『魔女』そのものだ。
「なら、ディナーに相応しい戦いを見せてやるわ。それなら文句ないやろ?」
そして柊に見せるその表情は、期待と高揚感の二つを合わせたものだった。




