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終焉の箱庭  作者: Mumei652
プロローグ
1/3

一時の夢

 

 俺はどれほど、この場所で寝ていたのか


 小麦畑が辺り一面を覆い隠し、子供一人隠せるほどの高さも誇っていた。彼はその小麦畑で、ずっと目を瞑っていた。ただ気持ちよさそうに眠っており、ずっとここにいられるほど心地良かった。

 だけど、そんな小麦畑の前に、ある少女がこちらへと駆け寄ってくる。それも怒りながら。俺はイヤイヤ起き上がり、そのまま顔を上げる。

 そこにいたのは、身長が160ぐらいで、俺とほぼ近い身長、くっきりとした綺麗な青い瞳、人の視線ごと食べてしまうような綺麗で、長く白い髪、そしてむっちりとしたその表情。まるでそれは、"天使"そのものだった。


「零時!まーたこんなところで寝てたの?」

 __はそう言いながら、こちらへと入ってきて、手を伸ばしてくる。俺は少し苦笑いをしながらも、その手を握る。


「ごめんごめん。ついお日様と麦の気持ち良さで寝ちゃってた。」


 二人は小麦畑から出るや否や、彼女は少し呆れていた様子だ。


「寝ちゃってたって…全く…零時はいつもそうだね。私のことを毎回驚かすの」


 __はため息をつきながら、小麦畑の方へと視線をやる。その視線は、やや寂しさを物語っていたが、俺にはそのような雰囲気、気づくことができなかった。むしろ気にしていなかった。

 零時は後頭部に手を組みながら、景色の一帯を見ていた。ここは本当に戦争のせもない平和な場所。それでも__は、その寂しげな表情から、元の表情になることがなかった。


「なぁ…少し散歩でもするか?」


「…珍しいね、零時から誘うなんて。いつも一人でどっか散歩するのに。」


「気分転換だよ。」


 零時はそう赤くなりながらも、そのまま__の方に手を伸ばす。__も最初はキョトンとしていたが、すぐにその意図を理解すると、__はその手を握る。零時は鼓動を鳴らしながらも、いつもの冷ややかな表情になるが、少し口角は上がっていた。

 すると、__がこちらをじっと見つめていると、少し飄々とした感じで、言葉を連ねる。


「ねぇ、零時。」


「なんだ?」


 そう聞くと、__の顔が少し、曇った。


「私ね、最近悪い夢を見るんだ。その夢はね、人がいっぱい死んじゃって、まるで私の周りから人がどんどんいなくなっているみたいで…凄く怖かった。」

「もしそれが、本当になってもさ、零時は私の隣にずっといてくれる?」


「_な………」


 ――あれ…なんでだ、なんでこいつの名前が思い出せれないんだ?


 小麦畑一面に大きな風が飛ぶ。零時は思わぬ風に思わず腕を盾にして風を凌ぎる。そして風が止み、先ほどまでいた__の方へ視線をやるが、誰もいなかった。


「…あれ、おい!どこ行ったんだ!」


 零時は少し寂しくなった場所で、ただ誰かを探すため、孤独に歩き続ける。

 ただただ土が欠けていく音、足音、そして風がなびく音が何重と重なり、零時の耳に叩きつけてくる。その音たちに零時は焦りが出つつも、声を出しながら、探していた。


 どれくらい経ったのだろうか。先ほどまで太陽が昇っていたのに、もう時期沈む時刻へと迫っていた。


「たく…あいつ、本当勝手に消えるんだから。出会ったらまた叱ってやらないとな」


 零時はため息をつきながら、少しだけ小麦畑の方を見ると、太陽が小麦畑を突き刺さり、そよ風が小麦畑の周りで駆け巡っていく。


「…そういえば、あいつの…名前…なんだったけ」


 その言葉を発したと同時、だんだん風が強くなっていく。でも零時は気にすることなく、ただ小麦畑を見て、彼女の名前を思い出す。


「あぁ…そうだ、思い出した。」


「あいつは____」


 その時だった。


「…ッあ…?」


 いきなり心臓ら辺から、痛みが走ってくる。零時が振り返ると、そこにいたのは、腕に白い炎らしきものを纏わせており、特徴的な白髪と長い耳、そして海さえも凍るような水色の瞳。零時はそれが誰なのかを知ることができなかった。


「お前…は…?」


「………」


 その白髪の人は、零時の体から腕を引き離す。零時は生気がなくなったかのように、そのまま倒れた。零時は一瞬の出来事にフリーズしてしまい、ただ息を上がらせることばかりだった。すると、白髪の人がこちらへと歩み、零時を見下ろす。

 零時は死に間際に顔を上げ、その白髪の顔を見ようとした時、突然白髪の口が動く。



 《刻の潮に飲まれ、忘却の者を顕現した時、其方は俗世と別れるだろう。》



「…………は…」



 零時は思いっきり飛び上がる。


「…今の、夢…?」

 先ほどまでの出来事は、夢のようだった。零時はそれに安心したのか、少し安堵した息を出す。

 零時はベッドから起き上がり、スマホを持つ。ロック画面の壁紙には、夢の中に出てきた白髪の少女と零時、零時の後ろには親らしき大人たちが3名いた。零時は少し微笑むが、すぐにまた冷たい瞳と表情に戻る。


 零時は洗面台に行き、そのまま顔を洗う。その鏡に写っているのは、前や後ろ、横まで伸び切った手入れされていない黒髪、ハイライトがない青い目、右頬には軽い傷の痕があった。


「…今日も、金を稼がないとな。」


 零時は左右の手を見る。左右の手には多くの豆があり、さらに腕には多くの傷跡がある。

 零時はこれほどの傷を負っているのに、何も覚えていない。ただそれが"最初"からあったように、何事もないように見る。


 零時は空のキッチンに行き、冷蔵庫を開ける。そこには飲み物、食料が僅かしかなかった。

 零時はため息を出す。


「また、食料も追加しておかないと…それ、から…」


 零時は一瞬立ちくらみを起こすが、冷蔵庫に手をつき、なんとか倒れずには済んだ。


「立ちくらみがひどくなってきたな…次から気をつけていかないと…」


 零時は冷蔵庫からゼリー飲料を数本ほど取り、スマホを取り出し、ある人に電話をかける。


「もしもし」


『…お、零時くんじゃぁん。3日ぶりだねぇ』


 その声の人は、陽気そうな女性 奥川由梨だった。


「奥川さん、また歳忘の討伐をしたいのですが…」


『お、それならちょうどいいじゃない』


「え?」


 零時は思わぬ発言に目が点になるが、奥川は構わず話していく。


『最近兵庫県の神戸市付近で《歳忘》が現れてね、人手が足りないみたいだからさ〜。』


「ではその依頼でお願いできませんか!?」


 零時は餌を求める魚のように、その話に食いついた。奥川は少しだけ笑った声が聞こえてくる。


『了解したわ、ならすぐに向かってくれるかしら。あなた、神戸市から近いからね。また討伐できたら、連絡よこしてねー。』


 そのまま電話は切られ、零時はすぐさま準備をする。


「相棒、今回もよろしくな。」


 零時は机の上に置いてあった銃剣を持ち、それからいつものパーカーとシャツ、ズボンに着替え、豆だらけの手を隠すためのストリート風なグローブとウエストバッグを装着し、腰の横には銃剣を背負う。


「行くか。」


 零時はいつもの事のように、今日も歳忘狩りへと向かう。今日は2189年9月28日。紫のシオンの花が咲く。

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