制限
「ジョーさん、尾の動きが鈍くなったわ」
「ありがとう」
穣が駆け出すと、ブレイドも頭部への攻撃を再開した。
スクリーンの中で、ブレイドとかぼすが連携を繰り出している。かぼすは投擲でウロボロスの動きを牽制し、徐々に消耗させている。
穣はぱたぱたと力なく動く尾に、思い切り剣を突き立てた。豆腐を切るような手応えのなさで、刃は柄付近まであっけなく埋まり完全に尾を床に固定した。
「ジョーさん、スペア」
ウグイスが、かわりの剣を放ってくれる。ストックはあと五本あるはずだ。もちろん、使い切る前に片をつけるつもりだ。
走り出そうとしたとき、空気が振動した。ウロボロスの頭部付近から、何かがこすれるような音が聞こえてくる。
威嚇音だ。
ブレイドとかぼすは一瞬ひるんだが、すぐに体勢を立て直し攻撃を再開する。頭だけに動きが縦横無尽で、手こずっているようだ。
二人の攻撃の合間を縫って、穣は頭部へと躍りかかった。
拳に力を集中する。シミュレーションではこの魔法でも致命傷は与えられないという結果になっていたが、ダメージにはなるはずだ。
思い切り吐き出した呼気と共に、魔力を帯びた拳を首に叩き込む。肘まで激痛が走り、思わず呻く。
固い。
『え、まじ、ジョーさんの魔法効いてない?』
『固そう。びくともしてないぞ』
実際、ぱんぱんに空気が詰まったゴムタイヤを殴ったような感触だ。手応えがあったような気もしない。
「十分!」
後ろへ跳んだ穣の脇を、ブレイドが抜ける。
動きを止めていたウロボロスの首を狙い。
「でやあっ!」
真っ直ぐに、剣を投げた。
勢いが削がれることなく、剣はウロボロスの首を貫いてそのまま壁に縫い止めた。
『よっしゃっ! 作戦の第一段階成功!』
ウグイスの声を聞きながら、一同は素早く散開する。
本来の目的はここからだ。ウロボロスの動きを封じてから、腹部をスキャンする。
蛇は、獲物を丸呑みするという。この大きな身体のどこかに、豊浦がいる可能性があるのだ。
首付近と尾の方から、シールドとミラーがゆっくりと超音波を照射する。その結果はウグイスのモニターと、穣たちのスクリーンに映し出される。ウロボロスがもがいているのにも警戒しつつ、穣はスクリーンを凝視する。
『やばいにゃ!』
スキャンを初めて三分も経たないころだった。
ドラの発した警告に、穣はウロボロスの頭を振り返る。
「っ、ミネルヴァ!」
頭が半透明になりつつある。それを見た瞬間、大声で相棒を呼んでいた。
『了解しました』
冷静なミネルヴァの声と、鈍い振動音が重なる。
ウロボロスが身もだえし、半透明だった頭が元の状態に戻った。
『ん? 今何があった?』
『説明しましょう! ウロボロスは自分の身体を違う次元に自在に移動させることができるのです! つまり固定してても逃げられちゃうんで、我がフレイザー社はそれを阻止するためのなんかすごい装置を開発しました!』
量子レベルで干渉し、次元位相をずらせないようにするということだが、詳しい仕組みを聞いても穣にはまったく理解できなかった。開発したのはダンジョン資材研究所で、政府の量子コンピューターと接続しているミネルヴァが照射できるようになっている。
『そんなんあったら無敵じゃん。あとウロボロス解体して終わり?』
『やった! 楽勝じゃん!』
『ただし』
盛り上がるコメントに、ウグイスが重々しい声で割って入る。
『大急ぎで作ったんで、何回も撃てないんですよ。あとミネルヴァさんに負荷がかかっちゃうんで、あと一回が限度』




