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「いやそれでさ、間違って寿命まだ残ってたはずの君を管理ミスって亡くならせちゃってさ、うっかり!ボクは子供の姿でしか現世に降りれなくなるペナルティを負う代わりに君をこの世界で転生させたってわけ!元いた世界にはどうやっても神様的な都合上生き返らせたりは出来なくてねー、ほんとごめんね?これでも反省してるんだ」
と、思っていた時期もありました!!
「本当の神様なんだなーとかしみじみと納得した瞬間になんて暴露してくださってるんですか?!いやいやいやうっかりミスで殺しちゃったよって本気でどこぞのネット小説じゃないんだから嘘だよね?私、別にヒロイン志望じゃないですよ?!」
「ごめんね?でもさ、君の寿命1週間くらいしか残ってなかったからさ、誤差ってことで許してくれると嬉しいなーなんて」
手を合わせて下から覗き込むように困り顔で謝る姿は非常にずるいと思う。
私は額に手を当てて小さくため息をついてから、仕方がないかと呟く。なんて、これじゃ本当に自称ヒロインの痛い女だな。
本当は、新しい人生あげるからがんばれよ!って言われたところで、それをはいそうですかって諸手を挙げて喜べるほど、私は楽観的な性格ではない。
「ミスでってのは納得いなかいけど、とりあえず許す。ただ、これから私がどうなるのかの説明だけして欲しい。私はこれからどうなるの?」
生きていたかった気持ちはもちろんある。悔いがないわけじゃないし、父だけを残して先に行くことを申し訳なく思わないわけでもない。けれどどうしてだろう、仕方ないと、なんだかするっと納得できた。
正直一週間あれば色々できた、何だって出来たし何だってやれたって思ってしまう気持ちもある。だけど、その1週間があったとしても、私はきっと何も変わらない日常をただぼんやりと過ごしていただけだとも思うんだ。
だからと言っちゃなんだけど、もしこの世界で生きることが出来るのならば、今度はいつ死んでも後悔しないように生きてみたい。どこかの聖人さまが地球で山ほど出していたありがたきお言葉が書き連ねられたエッセイやら自伝やらを昔は馬鹿にしていたけれども、今となってはそれが私の本心だ。
まぁ、ここは中継地点でこれから天国に参ります~とか言われたらもう何も言えないんだけどね。
「わーいありがとう!よーししょうがないから気合入れて説明してあげるよー!まずは自己紹介、ボクはリト。地球とここの神様で、人間で遊ぶのが趣味のかわいーい男の子!」
さっきまでの表情は何だったんだと言いたいほどにころっと笑みを浮かべた神様に頭が痛い。こんの野郎……
まぁとんでもない事実伝えてきやがった時の口調も到底心からのごめんなさいって感じじゃなかったし、神様なんてやつはこんな感じがデフォルトなんだろう。
仕方がないと簡単に許してしまったことに早くも心が挫けて撤回を示したくなるが、いかんいかん女に二言はないのだ。めちゃくちゃにムカつくけどな……!
「さて、そろそろ真面目にちゃんとこれからの君の身の振り方について説明するね」
カチッと音を鳴らしてキャップを外した神様は、私に背を向けてその黒いインクのペンですらすらっと文字を並べていく。
「これでも流石に申し訳ないって思っててさ、君は大学初日すら迎えていないわけだし。だから大学と住居は用意したんだ。これは学費も移住費も在学中は払ってあげるから安心して。それから生活必需品諸々とちょっとばかりの生活費は君の部屋になるところに置いてきたから自由に使ってね!」
それからそれからーっと背伸びしながら懸命に文字を連ねていく姿にどうして背の高いホワイトボードを選んだんだ……と疑問が湧くが、このくらいの年齢の男の子は何でも大人みたいにやりたくなるのかな……?と片付ける。
それにしても、衣食住に加えて大学にも通わせて貰えるなんて思ってもいない吉報に頬が緩む。これでも人並みにキャンパスライフってものに対しての憧れも持っていたから、ちょっと嬉しい。
というかよかった、私ちゃんと第二の人生歩ませてもらえるんだ。むしろ、1週間しか生きられなかったはずが一生をプレゼントなんて、些かサービスがすぎやしないだろうか。
「それに君には特別サービス!あんまり混乱をきたすのは困ってしまうから不特定多数ってのはやめて欲しいところなんだけど、君が暮らす学生寮の人たちとか信頼した人とか、そういう人になら異世界から来ましたって伝えていいよ!その方が過ごしやすいこともあるからね」
「えっ言っていいの?絶対喋っちゃダメとか喋った瞬間首が飛ぶとかくらいは言われると思ってた」
「あっはは、マンガの読みすぎだよ~そんな事しないって!というか、すでに学生寮で暮らす一人にはその事伝えてあるから、何人かはすでに知ってるんじゃないかな?」
寮の子たちは君と気が合うと思う。と付け加えてからくるりと振り向いた神様は、にっこりと笑ってから「変人ばかりだけど」といらない情報までもを付け加えてきたけれど、頭の中で楽しい人たちなんだな。なんて風に柔らかくオブラートに包んだ表現に訂正しておく。
「さて、この世界の細々とした事情とか人のあり方とか、そういうことの説明は彼らに任せるとして、ボクはそろそろ仕事に戻るよ。サボってると怒られちゃうからね」
「神様のくせに仕事って表現、なんだか夢がないなぁ」
「しょうがないでしょ、ボクは社畜も社畜なんだよ?普段はなかなかミスなんてしない優秀な人材なんだから!それじゃあまた後日、会えたら会おうね!」
そう言って光に包まれながら消えていった神様を見送り、じわじわと光となって消えていくホワイトボードの姿に焦って立ち上がると、瞬間弾けたようにさっきまで座っていた椅子が消えてしまった。
まるで魔法みたいだなんて思ったけど、異世界とはいえここには魔法なんてないんだろうな。神様パワーって言ってたし。
せっかくなら魔法とか使ってみたかったなー、一瞬で移動できる魔法とか、あったら便利そうなのに。
1人で私を置いて先に瞬間移動だなんて神様ずるい。
……って、ちょっとまて。
おい、ちょっと待とう。魔法うんぬんの話じゃないわ。学生寮って大学って言われてもここからどうやって行けばいいんだよ。魔法なんてものは当然ない。使える交通手段も……こんな森の中あるわけない。そもそも、大学の名前も寮の住所も知らされてない!
あんの神様大事なとこ!忘れやがって!!くそう、私の確認ミスだとわかっていても人のせいにもしたくもなるわ!最悪な状況じゃないか!
そわそわと足踏みをしながら腕を組み、どうしようと呟いているだけじゃどうにもならないのは重々承知だが、何とかこの状況を脱しないといけない。
ひとまずこの人一人見当たらない自然溢れる空間より、少しでも人のいる場所へ動いた方が建設的だと考え、足元の小石を小さく蹴飛ばして歩き出す。
新生活の初っ端から死を迎えたと思ったら異世界に飛ばされて迷子って、軽く悲劇のヒロインぶりたくなるくらいに踏んだり蹴ったりだな。




