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IRREGULAR  作者: 陸一じゅん
僧侶探偵シリーズ~異邦人の一団と遺恨の結婚式殺人事件~
9/77

僧侶探偵~謎とき編~

 2.


 嵐吹きすさぶ樹海の奥、孤独に影を落とす山荘でのことである。

 ぐるりと暖炉を囲み、座をただす八名の人間がいた。

 この八人の人間は、それぞれコミュニュティに属している。

 暖炉を背にして、正面右手のソファに寄り添うカップルが一組。この山荘の主人の一人息子とメイド。

 身分違いのカップルは、先日婚約を果たしたばかりだ。

 そのソファの隣、絨毯の上に直に座り込む男女の高校生。特記してやんちゃの様にも、そして真面目というようでもない、平均的かつ理想的な学生と言った感じである。彼らは新郎の勤める塾の教え子にして、この場に招かれた数少ない友人にあたる。

 そして左手、異色を放つ三人組があった。

 黒髪の少女、若い大男、二人が守るように控える中心には、ソファから足をぶら下げた華奢な子供が一人。

 三人それぞれが布のたっぷりした肌を晒さない黒衣に、クジャクの羽を思わせる派手な飾りと仮面で、向けられる視線を拡散させている。中心の子供にいたっては、仮面の下さえもつむじ・・・から顔、首元の肌まで覆うマスクの二重装備であった。

 マネキンのような顔だけが、じっと何らの感慨も無く暖炉の前の影を眺める。誰もかれもが不安げな表情で、炎を背にするその小柄な青年を見つめていた。

 坊主頭と袈裟姿。丸いビー玉の様な瞳によく日に焼けた顔立ちは、あどけなくさえ見えるが、口元はきりりと引き締まって、若い僧侶に精悍な印象も付け加える。視線を浴びる立ち姿は、いやにどっしりと貫録があり、童顔ともあって、やけに年齢不詳な青年だった。

 八人目の若い僧は、朗々と宣告をした。


「――――犯人は、あなたです」


『名探偵』の言霊の行く先を、五人の人間が見つめ行く。

「うぇ、まじっすか」

 指先にいた大男が大きく首を振るので、顔の仮面がすこしずれ落ちた。奇怪な装いにしては、コミカルなずいぶん人懐っこい仕草である。

「ち、違いますよ? そりゃあ俺なら、ご主人を殺せないこともないでしょうけど、でもでも、俺はなんにも恨みの無い通りすがりに人殺しなんてできる肝も理由も……だいたい今は本業の任務ちゅ――――ヴッ」

 男は突如うめき、ぴたりと口を閉じてその場で棒立ちになって黙り込んだ。男の隣の少女が後ろ手に小さな銀色の杖を振ったことなど、彼ら以外には知らない。

 仮面の少女は、静かに手の平を上げて無言で先をうながした。探偵は小さく息をつく。

 そして探偵の視線は、じっとソファの小さな白い顔に。


「……なぜそういう結論に? 」

 仮面の子供の声を、その場の誰もが初めて耳にした。声変わり前の子供の声。しかし語調が落ち着いているので、やけに小柄な女の声にも聞こえる。

 二重の仮面の表情と、お行儀よく膝で揃えられた手の平と同じく、声色も限りなく無機質だった。


 山荘の主人に招かれた劇団の食客一行。

 それがこの異様で奇妙な三人の肩書である。


 そもそもこの山荘で行われていたのは、主人の誕生日と一人息子の婚約とを祝うパーティーだった。

 メイドとの身分違いの婚約は、ほとんど披露宴も兼ねている。宴会は静かな緑の森の奥で、彼らを心から祝う者だけで盛大に行われた。

 商人ゆえか、金銭にめっぽう厳しい倹約家たる父は、メイドとの縁組を「しがらみが無くていい」と言い放ち、若い二人を後押しした。

 芯の強い素朴な娘は、そうやって厳しく優しい父親と口数の少ない美しい母、そして愛する人と家族になるのである。

 招いた客は彼の友人が三人ばかり。一家の金も地位も関係なく、ただ二人を祝福をし、パーティーを思うままに楽しんでくれる三人を選び抜いた。

 彼が講師をしている帝都の塾の生徒だった、無邪気な年下の友人が二人、彼の親友で、帝都で大学生をしているこの若い僧。祝ってくれる数には関係なく、一家は幸福の時を過ごしている、はずだった。


 がたがたとエントランスへ続く窓枠が揺れる。

 移動に半日を要する樹海の奥、三日間行われる、年若い男女の門出に、自然という神秘が吹き荒れた。

 この嵐で立ち往生していた旅の劇団員達が、宿代替わりに祝いの席の余興に芸を披露するということで、一行に加わることになる。

 事件が起こったのは劇団員らが来てからたった半日後。二日目の夕方のことだった。

 主人、奥方、劇団長。それぞれが、それぞれの部屋で、嵐の風を受けながら命を落としていた。


 この友人の若い僧、他称して『名探偵』と云われる。彼が行く先々では奇怪な事柄が発生し、奇妙な人の成り立ちに巻き込まれ、奇跡の様に彼は答えを導き出すのである。

 そのため、この新郎の親友はこの年になっても(といっても外見からは分からないのだが、新郎とは同い年である)留年留年で未だ大学に在籍中なのだった。


 さて、そして二日目の夜――――『名探偵』が暖炉の前に立ち、『犯人』を指名する。

 劇団員、三人の曲芸師のリーダー、仮面の子供。


「御夫婦の部屋には、グラスが一つありましたね 」

「ああ、そうだ。ワインでも飲もうとしたのか、グラスが一つ。父さんは葡萄酒が苦手だから、あれを飲んだのはやっぱり母だ」

「窓ガラスが割れていた。あれは、『もう一つのグラス』を隠そうとした結果だとしたら? 」

「なんだって……」

「これは偏見かもしれません。けれど、彼女が一人で葡萄酒を飲むでしょうか? 彼女は富豪の婦人なのです。男性の御主人ならまだしも、あんなにお淑やかな女性が一人で、ボトルを空けて晩酌をするでしょうか? あの部屋はご主人との二人部屋――――いくらご主人が葡萄酒を苦手としていたとしても、部屋の棚には御主人が手ずから集めた御酒が勢ぞろいしていました。葡萄酒以外にも、シェリーもジンもウォッカもあったのです」

「……無いってことは無いんじゃないか」

「息子の君が言うのなら、そうなのかもしれない。でも、こう考える方がしっくりくるのですよ。彼女は『誰かと』お酒を飲んでいたのだと。その人物こそが夫人を殺し、自分の痕跡を消すためにグラスを割って、さらに上から窓のガラスを割ったのです――――そう、まるで、外からの侵入者が彼女を手に掛けたとも見える。一石二鳥の証拠の隠滅です」

 ざわつく群衆。この中に犯人がいるのである。


「……おい、こんながきんちょに犯行は可能なのか? 」

 だれともなく言う。

「主人は刺殺、夫人は毒殺、団長はベランダから海に向かって転落死――――毒殺転落はまだしも、ナイフであんなに深々と刺殺するってのは、この子供の腕では難しいんじゃないですか、探偵さん」

「共犯者がいたとしたら? そこの三人、全員が、なら―――――? 」

「………」

 言葉尻を向けられたクジャク羽の仮面の少女は、静かに床に視線を落とした。となりの大男の方も、先ほどから同じ体制でうつむいたままである。

 スペイン建築風の大きく取られた窓の、上から下までを雨粒が叩いている。

 静寂。

 雨音。

 風。

 暖炉で火花が弾く音。

 崩れる薪。

 そこに、鈴の鳴るような声が。

「……ええ、確かに、私はナイフ使いですから」

 確かに彼女は、ナイフ投げと剣舞を披露していた。

 大男は怪力で材木にする大木を持ち上げて見せ、子供は手品とジャグリングを。

「なんでっ、どうしてっ……奥様とご主人を殺す必要があったのですっ」

 メイド……いや、若夫人となる女が糾弾する。

「……それは」

 少女は言いよどむ。

「それは名探偵さんからお話になられると良いでしょう」

 手品師の子供は彼女に向けられた回答を受け取り、言った。名探偵に向けられた明らかな挑発。

「いいえ……私が動機を予測して言ったところで、それは推理でしかありません。真実ではない……」

「……残念です。それが貴方のやり方ですか。あくまでも、我々を辱めるのですね」

 彼はそういって、自らの仮面に手をかける。

 息をのんだ観衆に、隣の少女が苦い顔で目を逸らした。

 彼は少年だった。

 しかし声の印象より半分か、それ以上にも幼い顔をしている。暗がりに発光するような艶々とした白髪と淡い瞳をしていた。

 それだけに、暖炉の上に飾られている人形と変わりなく青白い肌や、目の下にある隈がただでさえ大きいのだろう目ばかりを強調するのが、奇怪で悪趣味なものに見えた。

「ぼくが犯人です」

 場は沈黙した。少年の姿を暴いたことを、その後ろの少女がヴェールと仮面の下から恨めしげに睨み付けている。

 あるものは正体を見透かそうと凝視し、あるものは気まずげに視線を逸らし、あるものはうかがう様に周囲を見渡して場を読んでいる。

 しかし誰もが、探偵の「暴き」と待っていた。

「……どうしました、貴方に結論は出ていらっしゃるのでしょう」犯人が言う。

「あ……え、ええ……」

 無垢に見える子供の丸い目から、探偵は視線をそらす。

「ここにいる方々は、みな優しい方ばかりですね。自分の様なものに対して、何も言わずにしてくれる」

 それは皮肉に聞こえた。

「あなたには私が何歳に見えますか」

 びくりと、指名された若主人が体を固くした。

「……十か、十一か……それ以上には、見えないな」

「……小さく見えても、私のこの体は十三になります。実年齢は、十九。六年このままです」

「――――やめてくださいっ 私は貴方のそんな話もそんな顔も見たくありませんっ」

 ナイフ投げの少女が少年の前に躍り出て叫んだ。

「いいえ、これは必要なこと―――――」

 少年はソファに深く座りなおした。そんな小さな身動ぎに、若夫人はハッと大きく腰を浮かせて夫の肩に顔を寄せる。

「怖いわ、あの子が……」

 若者は、黙って妻の手を握る。


「私は父と母とは全く違う肌と髪をして生まれてきました。十二で父母を失くし、それからはこの職に就くまで一人で生きてまいりました。年は先ほど言った通り、ずっとこのままです。この劇団の良いところは、この体を晒さずとも良いと言われたことでしょうね。さぁ見てください。私の目は、右と左で色が違うのです」

「もういいでしょう」

 探偵は右手を上げてそれを制した。「これ以上は、ご婦人には……」

「ご婦人ですって、そんなの関係ないわ。体についてるものがあるかないかの違いよ。同じヒトじゃない」

 強く言った少女が、ひときわ強く新妻を睨み付ける。

「そこの高校生たちが、貴方がたと団長とがしていた会話を耳にしました」

 探偵は足を踏み出し、少女の前に立った。ちょうど、若夫婦からは彼女が陰になって見えなくなる位置だ。


「お前らなんて今夜限りだ、パーティーの後のことです。動機はこれが一つ目。次に、私自身がご主人と夫人の会話を耳にしました」

 ――――あんな人たち、入れて良かったのかしら。どこで何をやったいるやら……。

 ――――いいじゃないか。どうせ一夜限りだ。我慢なさい。あんな不気味なのに、あの程度でカネを払えと言われたなら、さすがの私も追い返していたがね。せいぜい、客間のベッドにノミを移されてはかなわんが。


「……芸を磨く方々に、貴方たちの様な生い立ちが多いのは私も理解しています。逆を言えば、芸を磨かなければ生きていけない方々―――――私は心から敬意を払いましょう」

 少年はソファに身をゆだね、目を閉じて無言で先を促した。

「先ほどの貴方の言葉で、それを確信しました。貴方方の芸は素晴らしい。だけに、それを否定された時の悲しみは私などには計り知れません。胸に秘めてきた思いが爆発したとしても、私はをそれを弱さとは思えない。それだけになぜ、貴方は事を起こしたのか。起こしてしまったのか―――――」

「ふふ……そうね」

 少女がふと、大人びた口調で言った。

「出来るはずのことが出来なかった。だから、それが必要のない世界に逃げ込んだの。なのにそこからも追い出される。なんて非情な世の中かしら……えぇ、えぇ、悪者は私たちよ。でもなぜ私たちが耐え忍ばねばいけないの」

 探偵に少女は詰め寄った。

「私たちは少ない選択肢の中でも、ちゃんと納得して選んだのよ。選んだはずだった。こうした、ああしたい、ちゃんと選ぶこともできる。情けはいらない。普通と同じように、ちゃんと選択をした。何が違うの。でも、でもね、私たちには結局、それだけしか出来なかったのよ。いまさら捨てられて、どうして生きていける。それしかやってこなかった。それしかできないのに――――」

 仮面の中の彼女の瞳に、暖炉の炎が燃えている。彼女は濃い青紫の瞳をしていた。

「高潔であろうとしたわ。誇り高くあれと言い聞かせてきたわ。けれど、でも……」

「……もういいでしょう」

 少年が右手を上げて制した。首輪を引かれた犬の様に、彼女はぴたりと口を閉じて動きを止める。


「最初に計画を立てたのは自分。彼女らの感情の火を煽ったのも自分です……どこへなりともお連れください」

 少年は絨毯に手をついた。

「自分共に、嵐が過ぎ去るまでの一夜限りの温情を……」




 3.


「馬が居ないのが幸いですね」

 エリカはぼやいて、羽飾りのついた仮面と、水を吸ったヴェールを脱いだ。

 べっしょり濡れて、ボリュームを失くした白い癖毛頭を振って、ビス・ケイリスクは溜息と視線で肯定する。

 エリカはヴェールのおかげで髪においては無事であるが、その代わり黒衣の衣装がなんとも物悲しい装いになってしまっている。

 赤い髪の大柄な青年、晴光せいこうは、セットしてあった髪が陥落を起こして、いつもより幼さが際立っている。体は大きいが、彼はまだ十代半ばなのである。

 晴光の衣装は、この二人よりも露出があるため、これではほとんど半裸と同然か、それ以下の悲惨さだった。

 ついでに半分意識のないままで雨の中歩かされ、まさしく寝耳に水で飛び起きたので、彼においては比較にできない被害状況である。

 隔離されたうまやは、住うまが居なくなってしばらくたっているらしく、用具や飼い葉の残りが隅に片づけられていて、殺風景となっている。匂いは青臭くも香ばしく、そう悲劇的でもないが、天井で揺れる裸電球は付いたり消えたりしているし、嵐で壁が右から左へ、絶え間なくムーディーにダンスしていらっしゃるしで、どうにもこうにも、趣がある。

 しかしいた仕方ない。

「我々は犯人ですからね……」

 鉄仮面のままビスがつぶやいた。

「これもまた、仕事で―――ひっぐしゅっ」

 上司の格好はつかなかった。


 厩には若主人の手に持つ鍵で外側から鍵がかけられている。ガタガタ揺れる厩は、そこの壁の板でもすぐに剥せそうだが、まぁこの嵐の中、女子供を連れて真暗な樹海をピクニックしようなんて気は、誰もおきないだろう。

「あっ、タイチョー、ストーブありましたよ」

 晴光が積まれた農具の陰から、前時代的に無駄に大きい電気ストーブを引きずってくる。

「ほらっ、タイチョーあたってくださいよくださいよ。尋常じゃない顔色してますよ。――――え、エリカも、ほらっ――――」

 好きな女の子の濡れた艶姿を期待して振り返った顔が、「なんだぁ」と首を垂れた。

「なによ」

 エリカはしっかり、上から魔女の肩書にふさわしい黒いローブをかぶっている。ゆったりしているので、体の線なんて見えやしない。

「あっ……いや、それ、俺の分もあるかな」

「あんたの大きさのはないわね」

 エリカは裾からずるりと濡れた布を抜き取った。それはまさしく、先ほどまで着ていた衣装ではありませんか。晴光はカッと覚醒した。

 しかしながら、彼女がやっていることは、夏のプールで横着をする子供と同じ行動である。それがむしろ興奮するという趣向の方もいるやもしれないが。


 エリカはローブのポケットから、ずるずるもう一枚ローブを出すと、ビスに手渡した。ついでに自分の着ていた濡れた衣装を、ずるずるそのポケットに収納する。

 相変わらずの魔女印のお手軽便利ド●ちゃん仕様ぽっけである。

 顔色は演技ではなく、実際に体調が常に低空飛行のビスは、おとなしく上着に袖を通した。エリカを真似して、厩の隅で布の下で濡れたものを着替え始める。こちらは外見が外見なので、妹のいる晴光は、思わず「手伝いましょうか」と、手を出したくなってしまう。

 けれども紳士の彼は、嫁入り前の少女の前で肌を晒すなど、お行儀の悪いことはしないのだ。

 エリカは上司の、こういうところを、もっと見習ったほうが良いと思う。小さい上司の真っ平らで青白い胸よりも、エリカの薄桃のふくよかな脂肪の方が、はるかに需要があるのだから。

 そんな上司に準じて、晴光も服を脱いで絞る。紅一点のエリカは背を向けているが、今更同世代がパンツ一枚になっても、ピクリともしない。しかし、たまに下世話な感想は言ったりする。「また大きくなったんじゃないの、場所を取って仕方ないわね……ものには限度っていうものがあるのよ」


 彼女はどこからともなく(恐らくポケットだろうが)、ポットとマグカップを取り出して、ティータイムをおっぱじめようとしていた。

「なぁ、それってありなのか。今は絶賛軟禁中なんだぞ」

「オールオッケーよ。むしろどこに問題があるの。人間であるあからには、最悪の状況を好転させるのは、むしろ推薦されるべきでしょう。……それよりこのままだと、まず隊長がインフルエンザで殉職よ」

「ああ……」

 まだ着替えに手間取っているビスが、壁のほうで小さくくしゃみをした。


 お茶かと思えば、カップに注がれた中身は、野菜の溶け込んだシチューであった。

 主食パンまで出てきたところで、晴光は万歳をする。(お手上げともいう)

 彼女は抜かりがない。そんなところも嫌いじゃあないのだから、まさしく重症だった。

 けれども悲しいかな。彼女の視線は、この小さい上司が独占しているのである。

 つい最近、ほんの二月ばかり前のこと。

 おエライ上方から才能を発掘されたビス・ケイリスクは、最年少で新隊長デビューを飾った。

 晴光らが所属する組織では、もう六十年も、五つの部隊に分かれて任務を廻している。新設された六つ目の部隊は、晴光とエリカ、そしてビスの、若輩三人ばかりの部隊だった。

 ビスは恵まれない体格故に、準備を重ね、綿密に計算した作戦を好む。儚げな容姿で、時には騙しも、動揺を引くための演技も腹芸も要求する。

 それがめっぽう苦手な晴光は、今回もまた、エリカの手によって意識を途中退場されたのだが、晴光はそれは仕方ないと納得はしているのだ。向いていないのだから。

 上司は頭はいいが小さく虚弱で、一人ではその頭脳を生かせない。こういうギャップに、少女は痺れて憧れて興味が尽きないらしい。

 だからつい、晴光はカップを下品に音を立てて啜ってみたりして、「行儀が悪い」とのお叱りをいただきに参るのだった。






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