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第7話:悪魔(と二人の女悪魔)との契約

2-Aの教室に漂う沈黙は、メスで切り裂けそうなほどに重苦しかった。


その時、善狐ぜんこ 狐乃香このか団蔵だんぞう 狸子まみこは、言葉を交わすことなく、短く視線を交わした。ほんの一瞬。そして、直接的な脅しよりも誠を恐怖させた完璧なシンクロニシティで、二人は行動を開始した。


狸子は演劇的な優雅さで、教室の中央に一脚の椅子を引き寄せた。

狐乃香は無言のまま、指先でその椅子を指し示した。


星野ほしの まことは席に着いた。座りたかったわけではない。ただ、彼の体が生存本能によって勝手に動いたのだ。


二人は彼の正面に立った。左にはタブレットを手にした狐乃香。右には腕を組んだ狸子。誰もいないはずの教室が、突如としてスパイ映画の尋問室のような空気に変わる。


「「……それで?」」


二人は恐ろしいほどの同時性シンクロで言葉を発した。


「質問を始めてもいいかしら、星野くん?」

「質問を始めてもいいかしら、誠くん?」


若き誠は恐怖に震えた。無理もない、新天学園の二大権威が彼を尋問しているのだ。


(これ……これって完全に『SPY×FAMILY』の第7話と同じ状況じゃないか。アーニャが助けに来てくれないこと以外は……)


まず動いたのは狸子だった。だが、それはいつものドラマチックで表情豊かな彼女ではない。全くの別物――冷徹で計算高く、顔には一切の感情がない。まるで「演技」というスイッチをすべて切り、冷酷な機構メカニズムだけが残ったかのようだった。


彼女は誠の方へ身を乗り出し、手を組み、低く単調な声で囁いた。


「教えて、誠くん……」


一文字一文字を引きずるような、危険なほど優雅な響き。


「微細な表情の変化マイクロエクスプレッションさえ分析する女優を、本当に欺けると思ったの? 私がステージという全世界をあなたに差し出そうとしていた時に、そんな安っぽい嘘を売りつけるなんて……」


誠は生唾を飲み込んだ。かつてないほどに体が震えていた。


「嘘を……嘘をつこうとしたわけじゃない、本当だよ。誓ってもいい」

絶望のあまり口をついたのは、そんな言葉だった。だが、狸子の眼光はさらに暗く沈んでいく。


「じゃあ……火曜日の午後4時、あなたはどこにいたの?」

「ディベート……部にいました」

「午後5時は?」

「講堂に……」

「午後4時から5時の間、自分の行動を誰かに報告した?」

「いいえ……」

「どうして?」

「それは……必要だとは思わなかったから……」


狸子はゆっくりと頷く。無表情のまま。まるで、彼の答えの一つ一つを、見えない盤上の駒として並べていくかのように。


(ふふふ……この手法、韓国の尋問映画で学んだのよね。ドラマチックに演じるより、静寂を突きつけた方が相手は反応に困るから効果的なの。終わったら、また何本か観てみようかしら)


誠はといえば、これまでのどんな熱演よりも、今の彼女に怯えていた。


(いつものドラマチックな狸子さんはどこへ行ったんだ? 嘘泣きは? こっちの方が最悪だ……。何倍も最悪だよ)


だが、我らが愛すべき(そして往生際の悪い)主人公の不幸は、それだけでは終わらなかった。


「補足させてもらうわ。星野くん、火曜日、あなたは午後3時59分にディベート部に到着。午後4時51分に退室している。講堂までは徒歩で3分。あなたが狸子さんの元に到着したのは午後4時55分頃。本来の約束であった午後4時から、55分の遅刻ね」


狸子の尋問の拍子を、狐乃香が外科手術のような精密さで断ち切った。

彼女は同時に、神速の手つきでタブレットを取り出した。そこには完璧に構築された「タイムライン」が表示されている。


「この時間の空白を説明できる唯一の変数は、あなたが二つの約束を並行ダブルブッキングさせていたこと。……相違ないかしら?」


誠はタイムラインを見つめる。狐乃香を見、狸子を見る。


(タイムライン……。タイムラインだと!? いつの間にこんなもの作ったんだよ、クソが!)


「それは……その、僕は……っ!」

誠は絶望にかられ、言葉を濁した。

「兄さんに、いろんな選択肢を探れって言われたんだ! それに、母さんも家事の手伝いで早く帰ってきてほしがってたし……! ただの計算ミスなんだよ!」


「家事の手伝い?」

狸子は、微塵の愛想もない乾いた笑い声を上げた。

「講堂に入ってきて、全員の息を呑ませるようなアドリブを披露しておいて、何事もなかったかのように振る舞う。それは『家事の手伝い』なんて言葉じゃ片付かない。……立派な『芸術的背信』よ」


「そして、私の部室に来た」

狐乃香がさらに包囲網を狭める。

「『エキストラ』のふりをしながら、大学レベルの論理問題を解いてみせた。あなたは二つのシステムを手玉に取っているのよ、星野くん。そして、システムは『情報寄生体』を容認しないわ」


「僕は寄生体なんかじゃない!」

誠は純粋なパニックから、反射的に立ち上がって叫んだ。

「ああ、そうだよ! 両方行ったよ! 断り方が分からなくて、両方の入部体験を受けたんだ! 演劇部もディベート部も、どっちも行った! 僕は引き際を知らないバカなんだよ! ……これで満足か!?」


二人は沈黙した。互いに視線を交わし、それから再び、恐ろしいほどの静寂を湛えて誠を見つめた。


「「知っていたわ」」


二人は声を揃えて言い放ち、誠の反抗心を一瞬で凍りつかせた。


「ただ、あなた自身の口から認めさせたかっただけよ」

狸子が捕食者のような笑みを浮かべて付け加えた。

「でもね……ここからが問題なの。『ダイヤモンド』に持ち主は二人もいらないわ、坊や。だから、あなたは演劇部に来るの。……今すぐにね」


「不当ね」

狐乃香も立ち上がり、割って入った。

「彼の分析処理能力は、あなたの安っぽい演劇で浪費されるべきリソースではないわ。彼はディベート部に属すべきよ。全国大会に向けた、極めて重要なピース(駒)なんだから」


「いいえ、彼は天性の役者よ!」

「いいえ、彼は完璧な論理的変数よ!」


議論は数秒で沸点に達した。狸子は今にも比喩的な爪を立てそうな勢いであり、狐乃香は誰かの頭にタブレットを叩きつけんばかりの形相だ。二人の間に火花が散るのを誠は確かに見た。……キャットファイト(泥沼の争い)まで、あと数秒。


だが、どちらかが次の一動を起こす前に、誠は誰も計算しておらず、リハーサルもしていない行動に出た。


彼はすっくと立ち上がり、二人を見つめた。そして、彼特有の、どこか間の抜けた冷静さで口を開いた。


「……なら、単純に両方行くっていうのはどう?」


沈黙。

狸子が彼を見る。

狐乃香が彼を見る。

二人の表情は完全に一致していた――「何を言ってるんだ、このバカは」と。


「聞いてくれ。二つの部活は、僕に聞きもせず同じ時間に呼び出したんだ。断り方が分からなくて両方受けたけど……時間を上手く管理すれば、両立はできる。問題ないはずだ」


「それは統計的に――」

「できる(Puedo hacerlo)。」

「各部活が要求する献身度は――」

「できる。」

「誠くん、演劇は全感情を注ぐ必要があるのよ――!」

「できる。」


そう、今の彼の「鳥頭とりあたま」を占めているのは、「できる」という単一のフレーズのみだった。


二人は一瞬、言葉を失った。提案が素晴らしかったからではない。その盲目的な自信が、彼女たちの調子を狂わせたのだ。


【……このバカ、本気で言ってるの?】

【……このバカ、本気で言ってるの?】

(二人は同時にそう確信した)


狐乃香と狸子は視線を交わした。そして誠には何も告げぬまま、三歩ほど距離を置いてひそひそと相談を始めた。


誠は、判決を下す前に弁護士同士が協議しているのを見守る被告人のような恐怖に駆られていた。


(何かに合意しようとしてる……。嫌な予感しかしない。この二人が意見を一致させる時って、決まってロクなことにならないんだ!)


以前、二人が示し合わせて「しらを切り」、全校生徒から「変態」扱いされて処刑されかけたトラウマが、誠の脳裏をよぎる。……まあ、彼の境遇を察してやってほしい。


……30秒後。


二人が振り返った。その表情は極めて穏やかだった。……穏やかすぎて不気味なほどに。


「「承諾するわ」」


二人は声を揃えて言った。

誠は心の底から喜びを感じ、安堵の溜息をついた。


「……本当!? よかった……」

「ただし、条件付きよ」


安堵感は瞬時に死に絶えた。


狐乃香がタブレットを差し出す。画面には、既に作成済みの文書が表示されていた。

タイトルは――『二重部員資格および関連公約に関する同意書、バージョン1.0』。


誠はそれを見つめた。……全4ページ。


(いつ書いたんだ!? いつの間にこんなもの用意してたんだよ!?)


「私からの第一条件」

狐乃香が口を開いた。


「ディベート部への出席は最低週三回。一分の遅刻も認めないわ。一分でも遅れたら、私が個人的にあなたの内申点に響くペナルティを報告書として提出するから」


「な、内申にペナルティ……!?」


「私からの第一条件」

狸子が眩いばかりの笑顔で割って入った。

「次の演劇の公演で、あなたが主役ヒーローを演じること。もちろん稽古も含めてね。……例外は認めないわよ?」


「し、主役……!? 僕が!?」


「「異議はあるかしら、誠くん/星野くん?」」


二人は同時に問いかけた。

誠は口を開き――二人の視線を受け――そして、静かに口を閉じた。


(ここで『いいえ』なんて言ったら、狐乃香さんのタイムラインは校長先生の手に渡るだろうし……。狸子さんを拒絶したら……あの人がキレた時に何をするかなんて考えたくもない)


彼の手には、いつの間にかボールペンが握らされていた。


「ここにサインを」

(狐乃香が、署名欄を指差す)

「こっちにもお願いね~」

(狸子が、天使のような微笑みで別の欄を指差す)


誠は書類を見た。ペンを見た。そして天井を仰いだ。


(許してくれ、悟空……。僕は負けたよ……)


そして彼は、悪魔との契約書に署名した。


二人はそれぞれの控えを手に取った。その満足げな表情は全く対照的でありながら、同様に恐ろしいものだった。


狐乃香はミリ単位の正確さで書類を折り畳み、ファイルに収めた。

「効率的ね。では、木曜日の午後4時に。……遅れないでね、星野くん」


狸子はドラマチックに書類を丸め、まるで本物の巻物のように掲げた。


「キャストへようこそ、誠くん~。きっと……思い出深い舞台になるわ」


二人は一度も視線を合わせることなく、それでいて完璧に同期した足取りで教室を後にした。


ガラリ、と音を立ててドアが閉まる。


誠は一人、誰もいない教室に取り残された。手にはまだボールペンを握ったまま、ただ天井を見上げている。


「……今、何が起きたんだ?」


誰も答えない。


だが……哀れな誠よ、お前はまだ知らない。自分が人生で最も悲惨な契約書にサインしてしまったことを。周囲のすべてを数週間前から操ってきた二人の天才によって、その運命は既に書き換えられていたのだ。


狐乃香との週三回の活動。狸子との演劇。これらすべては、お前が「ノー」と言えない性分だからこそ招いた結果。


哀れな、本当におめでたい奴だ。


まあ、でも……少なくとも、稽古中にお菓子スナックくらいは食べさせてもらえるだろうよ。


第7話:完

...


【作者より】


皆さん、こんにちは!一週間ぶりですね。

ここまで読み進めてくださって、本当に、本当にありがとうございます。週一回の更新ペースですが、こうして安定して投稿できているのは皆さんのおかげです。


さて、今回の第7話……誠はついに自らの死刑執行書にサインしてしまいましたね。哀れな男です……。そして、誠には「兄」がいることも判明しました。彼が今後どんな役割を果たすのか……今はまだ秘密ですが、楽しみにしていてください!


もしこの物語を気に入っていただけたら、ぜひ「お気に入り」に登録して応援をお願いします!皆さんの応援が、僕の何よりのモチベーションになります。


今週も(気合と信仰心で!)公開にこぎつけましたが、もし遅れても最低「週一更新」は死守するつもりです(はい、僕はしぶとい男ですから笑)。


それでは、第8話でお会いしましょう!

作者:零時卿

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