バンド名はどうする?
悠太はトイレから出てきた愛子に促され、ダルマ店の店内でギターをひきはじめた。
コードは全然知らないので適当におさえて右手を動かすそれに合わせて彼女が、ただパンパンパンパンと客を呼び込む様にクラップしている。
自然とビートルズっぽい曲調となり調子が上がってきた。
「たいしたもんだ」
主人は筆を置いて拍手してくれた。
楽器をひいたことなくても作曲って意外にできるかもしれない。
なんだか手応えがある。
愛子が脱糞したのかどうか気になって今すぐトイレに行って確かめたかったが、少し間を置いた方が良い。
帰り間際に行けば不自然でないだろう。
「親父さん、頼みあるんですけど」
「兄ちゃんを弟子にしろってか?」
「そういうのじゃなくて、僕と愛子さんがいくつか作曲したら、アルバムにまとめたいと考えてまして。ジャケットは、あなたの顔写真にしたいんです」
「俺の顔でいいのかい?ようく考えてみろよ」
「ユニコーンのジャケットも一般人のじいさんをつかってます。ダルマつくりながら僕らと、活動しませんか?」
「なんも弾けねーぞ俺。昔祖母が三味線教えてくれたことあるけど、すぐやめちまった」
「やめるってのは、おかしな言い方ですね。あんたは、やめてません。まだ進行形です。自称三味線ひきでいいじゃないですか。テクニックなんて、あとからで良いんですよ」
「いいよ。始めてやるよ。今日からギターをね」
愛子が「写ルンです」を天井に向けて何枚か梁の写真を撮った。
「何かが足りない」
そう言って愛子は何かを考えていた。
「世界のシダ植物に囲まれているダルマを想像してみて。素敵じゃないかな」
悠太がそう答えてあげると
「とりあえずこの市内に生えているシダ植物を根っこごと抜いて鉢に植えてさ、この室内に並べてみる」
愛子も彼に賛同している。
「勝手にしろ馬鹿野郎」
しわをつくって笑いそう言うと店主は立ち上がり頭に巻いていた手ぬぐいを首にかけ、トイレに向かった。
マジか。
悠太は一気に気落ちした。
愛子がさっきまで入っていたトイレの残り香をかぐのを楽しみにしていたのに残念である。
せめておやっさんは小便だけだったらいいが、まだ帰って来ないから期待できない。
「シダ類もいいけど苔がここにあっても良いと思うな」
彼がそう言うと彼女は別の飾られているダルマをひっくり返し、その底に何かのシールを貼るのが見えた。