終
終
朝もまだ早い中、裏森を歩く少年と、彼に手を引かれる赤い着物の少女がいた。
小鳥の囀りが降って来る。
常緑樹が立ち並ぶ、濃く、暗い色合いの中を歩く少女の赤は、眩しくともった炎のようだった。
実った果実のようだった。
密と渓の胸を占めるのは、同じ幸福だ。
しかし密がそれを言えば、必ず渓は、自分のほうが幸福だと言い張るだろう。
自分のほうが強く愛していると言って譲らない。
そう言われたら密は降参する。
その通りね、と笑いながら甘い喜びを感じる。
木苺の繁みの横を通り過ぎ、二人は泉の上にせり出した小岩に辿り着いた。
密と渓は並んで座り、両脚を小岩の下に垂らした。
泉の水は今日も透明に澄んでいる。
密は、美しい薔薇色の朝焼けに触れるように手を高くかざした。
まろやかな光の洪水に、野鳥たちが飛んで来る。蝶が集う。
渓も水を使役し、実寸大くらいの駆ける馬の像を形作り、密から拍手を送られた。
水の馬はそのまま天高く駆け、昇って行った。
どこかで小さな雨を降らせるのかも知れない。
それから渓は昔のように、大きな虹色の泡で密と自分を包んだ。
密の手の光に惹かれて来た鳥や蝶は突然現れた泡の檻に、戸惑うように羽ばたいた。
ねえ、渓、と少女が言う。
何、密、と少年が答える。
密は渓にそっと耳打ちした。
少女の言葉を聴いた少年は微笑んで頷き、少女の耳に囁き返す。
密の手から溢れる洪水が輝きを増す。
空が透き通った青に移り変わろうとしている。
光の姫は、幸いに笑う。