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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第九十七話 エルフの説明とユウヒのお願い

 どうもHekutoです。


 ちょいと遅くなりましたが修正作業終わりましたので投稿させていただきます。どうぞお楽しみください。



『エルフの説明とユウヒのお願い』


 どうもユウヒです。


 呪文も魔法も名前すらも呼ぶことなく現れるモミジに、何となく家の娘との共通点を感じた今日この頃、何故か目の前のエルフさん二人はモミジに平伏したまま一切の動きを見せません。


「あのー? お二人は急に顔を伏せたりしてどうしたのでしょうか?」


「寝床のモミジ様に於かれましては、この様な無作法な御呼出し誠に申し訳なく」


「樹の大精霊であるモミジ様をこのような場所に、なんとお詫び申し上げれば・・・」

 俺がそっと声をかけると二人の肩がビクつき、少し間を置いて話し始めた。その間も一切頭を上げようとしない辺り、モミジ大物発言は本当の様である。


 見た目から偉そうな相手にならいざ知らず、この状態は何ともシュールである。なにせモミジの見た目どっからどう見てもようじ・・・モミジさん太ももを抓らないでくださいな、もしかしてこの子心読めるんじゃないだろうか。


「ん? 私はあなたたちに呼ばれて無い、だから問題無い」


「そら俺が呼んだみたいだしな?」

 俺に無言の一捻りをしてくれたモミジは、涼しい顔で今だ平伏する二人のエルフに何時もの抑揚の無い声で応える。


 まぁ、実際俺が来てくれないかなと思ったから来たらしいし、呼び出したのは俺になる・・・のか? むしろ勝手に来た感が否めないですよモミジさん。


「た、確かにそうなのですが・・・」


「しかしユウヒ殿、いえユウヒ様に呼ぶように願い出たのも私達なのです」

 む、まぁ間接的にはそうなのかもしれないが・・・この二人大丈夫かな、俺の【探知】の魔法では彼女達に状態異常の表示が出ているのだ。まぁ毒とかでは無く単純に精神的な【極度緊張】だったり【多量発汗】【血圧低下】なんかなので、死にはしないと思うのだが。あと様はやめてほしいです。


「・・・で? なにかあったのユウヒ?」


「ん? いや俺も良く分からんのだよモミジ君」


「そうなの」

 敬称を外してもらおうと口を開いたのと同じタイミングで、モミジが俺を見上げて要件を聞いてくる。しかしその詳しい要件を知っているのは目の前のエルフさん達であって、俺はとりあえず呼べるか試しただけである。俺の返答に少し残念そうな顔になるモミジ、その変化は微細なものであるが無表情解読検定1級の俺には問題無いレベルだ。


「そうだな、せっかく来たんだしお茶でもしていくか?」


「それは素晴らしい提案」

 知り合いにも似た様な子が居る為、彼女の感情はある程度読み取れる。それに呼び出しておいてこのまま送り返すとか、流石にそんな酷い事俺にはできそうにない。今も俺の提案に乗って来てくれたモミジの表情を見れば、自分の選択が正解であったことは明白である。


「あ、あの! でしたらお詫びにこちらで準備をさせます」


「この度の御呼出しに関する説明もさせていただきますので・・・どうか」

 モミジの嬉しそうな気配を確認し、お茶セットの入っている荷物を取りに向かおうとすると、何故か慌てた様な早口でシリー族長さんとセーナさんが立ち上がりお茶に誘ってくる。


「・・・」


「・・・」


「・・・」


 自分でお茶を淹れる必要が無いのは楽で結構な事なのですが、何故モミジさんは無表情で二人見詰めているのですか? お二人が明らかに怯えてますよモミジさん。


「「「・・・」」」

 そして何故今度はこちらを一斉に見るのですか? ちょっと怖いんだけど、モミジは感情が読み取れないレベルの無表情だし、エルフ勢は何故か目が潤んでいて、それはまるで助けを求めている様ですし。


「まぁ・・・説明していただけるのはありがたいですね」


「・・・ユウヒにまかせる」

 とりあえずそのお誘いは個人的にもありがたいので受ける事にします。やはり自分で淹れたお茶より誰かに淹れてもらった方がおいしいからな、気分の問題なのだろうけど・・・。


 あと、やはり助けを求めていたのですね、モミジの返事を聞いてその満面の笑み、隠そうともしてませんよねこの二人。


「ではすぐ準備させますのでこちらへ! (予想外の展開過ぎます!)」


「・・・(まさかこんな事になるとはねぇ・・・ユウヒ君、何者なのかしら?)」

 その後嬉しそうだが何故か妙に焦っている二人に、俺とモミジはお茶をする部屋まで案内されるのであった。





 ユウヒがモミジ召喚に成功してから十数分後、ここは20人くらいが会議をするには十分な広さのある部屋の中、どうやら貴賓室の一つの様である。


「・・・」


「・・・」

 中には緑髪の女性エルフが一人と、濃い青緑色の髪を背にとどく辺りまで伸ばした女性エルフの二人が無言で、正面に座る存在に対して全神経を集中していた。


「・・・(うーむ、何だこの空気)」

 その貴賓室内で、ユウヒは部屋に渦巻く妙な空気に若干息苦しさを感じていた。


 ユウヒとモミジはシリー達に連れられると、お茶を飲むのに貴賓室までやって来ていた。しかし蓋を開ければこの通り、目の前の妙な緊張感を発する二人と、隣でいつもと変わらずゆったりとした雰囲気でお茶を飲むモミジ、はてお茶を飲む時ってこんな空気だったか? とユウヒは心の中で首を傾げる他なかった。


「ユウヒ」


「ん? どした」

 そんなユウヒに、周りの空気など気にしないモミジは、特別一段高い椅子からユウヒを見上げた。これは普通の椅子だと子供サイズのモミジがテーブルの高さと合わない為に用意された物であるが、それでもユウヒの目線には届かない様であった。


 ユウヒはモミジの声と視線に気が付くと、手に持ったカップを下ろさず顔だけ彼女に向ける。そんなユウヒの態度にエルフ二人は百面相をしているが、彼が気付くことは無かった。


「飴美味しかった。次も期待」


「「(あめ?)」」

 気づかないのはモミジも同様なのか、それとも元から眼中にないのか、口元を少し微笑ませた彼女はユウヒに以前貰った飴の感想を告げると、言葉同様その目に物欲しそうな色合いを見せる。しかし、


「残念だが品切れだ」


「残念」

 原材料ハチミツはまだ残っているものの、他にも何か作りたいユウヒは飴玉を消費しきった現在も新たに合成はしていない。その飴玉の大半は贈答用に使ってしまっていたが、残っていた分である人にはあげられないレベルの飴玉も、忍者達の非常食として渡してしまっていた。


 もしその事をモミジが知れば忍者に再度喜劇・・・もとい悲劇が舞い降りたかもしれないが、偶然にもその危機はモミジの残念そうな表情と引き換えに訪れることは無かった。


「ところで・・・ユウヒはここで何をしているの? ミズナも気にしてた」

 少し残念そうに眉を寄せたモミジであるが、すぐに表情を戻すと聞きたかった事を思い出しユウヒに問いかけた。どうやらユウヒを覗いていたモミジも全てを覗いていたわけではないようで、何故エリエスの森に来たのかは解っていなかったようである。


「ミズナも? てか何で俺がこ「せ、説明させていただきます!」お?」


「ん」

 ユウヒはモミジの言葉に、しばらく会っていないもう一人の精霊の名前が出てきてことで驚くも、その内容に違和感を感じ質問に質問で返そうとした。しかしその質問はシリーの大きな声で遮られてしまう。


 この時モミジは、迂闊にも自分がユウヒを覗いていたことがバレそうな質問をしてしまった事に心の中で焦っていたのだが、素晴らしいタイミングでシリーが声を上げたことに心底ホッとしていた。シリーの言葉に返事をしたモミジの目は、その功績労うような色を伴っていたが、その事に気が付いたものは誰も居ないのであった。


「今回ユウヒ様に精霊術を行使させた理由は、ユウヒ様が精霊術を使えることが解り、その術が禁呪法に係っていないか確かめるものだったのです」


「禁呪法ってなんぞ?」


「精霊魔法を使う者に禁止されている魔法や行為、精霊術士は精霊を不当に束縛してはならない、とか」

 少し心の余裕が戻って来た、と言うよりはモミジの返事で緊張が緩和されたシリーは、今回の事に関して話し始めた。


 元々ユウヒに精霊を呼び出させて何を知りたかったのかと言えば、以上の事柄であった。この禁呪法と言う決まりに大きく違反する魔法士などの事を、一般的に外道魔法士、または外道魔術士などと呼ぶ。


 また禁呪法とは、精霊に係る人間に課せられる法律のようなものである。これを守る事で、精霊は比較的好意的に精霊魔法に協力するが、これを全て守らなくとも元から精霊は他者に好意的な面もあり、その一つの形がユウヒと精霊の関係である。


「そうです。自由な精霊を束縛や封印などで強制的に働かせる術を、私たちは禁術などと呼んでます」


「そう言う禁術を使う人は精霊に悪影響を及ぼすから、森に入れるわけにはいかないのよ。それでユウヒ君が今日見せた力がそれじゃないかって、疑いがかかってたってわけね」


「俺何かしたか? 纏わりついてくるせいれいに声をかけたら止まってくれて、その後も危害を加えないでいてくれただけなんだが・・・」

 シリーとセーナからの説明に、ユウヒは頭を傾げる。ユウヒにとっては偶然精霊が居る事に気が付き、さらに普通に会話できることに気が付き交渉した結果が、あの状態だったのだ。そんな彼からしてみれば悪者扱いされる等考えもしない事である。


「禁術の中には精霊魔法などに係っている精霊を強制的に封印したり、操ったりする魔法もあるの。今回急に精霊が言う事を聞かなくなった事で、操られたか封印されたんじゃないかって」


「え? でもあなたあの時精霊達が見えて俺にお願いしたんじゃ?」

 そんなユウヒの疑問に、シリーはここに来る前に行われていた会議で、議題に上がった各エルフ達からの疑念について解りやすく説明した。確かに今まで問題無く行使出来ていた精霊魔法が急に言う事を気か無くなれば、そう思うのも自然かもしれない。


 しかし、ユウヒはその話しに納得できないでいた。何故ならあの時セーナはユウヒに対して的確なお願いをしていた。それならば、彼女がその疑念を持つ者達に説明をする事で解決する話ではないのかと。


「まぁ少しは見えるけど、ほとんど気配が解る程度よ? 小精霊達をはっきり見て意思疎通するなんて、できないわよ・・・」


「え、そうなの?」


「うん」

 この世界の一般常識に疎い異世界人であるユウヒらしい疑問であったが、その疑問は精霊魔術士長であるセーナの苦笑交じりの説明で解決した。


 ユウヒの想像するエルフは、サブカルチャーなどに良く出て来るエルフの様に、精霊とお話しをして森で暮らすメルヘンチックなものであったが、現実はそうではない様だ。そんなまさかの事態に、きょとんとした表情を浮かべたユウヒは、隣に居るこの場での精霊代表であるモミジに確認を取るも、現実が覆ることは無かった。


「今回の事で一連の疑いは全て晴れましたので、これ以降不快な思いをさせる事は無いと誓います」

 シリーはきょとんとしたままのユウヒに、再度頭を下げるとそう誓う。その言葉にユウヒが了解の意味を込め頷いたことで、それまで張りつめていた空気が少し軽くなる。


 どうやら予想外の事態の連続で、全員が全員少なからず緊張していたようで、それはユウヒへの危害の可能性を考えていたモミジもまた同様であった様だ。


「それにしても、圧倒的上位の大精霊と契約してるなんて・・・そりゃ小精霊の動きも止められるわよね」


「契約ですか? ・・・したかそんなの?」

 そんな空気の緩みに、セーナは肩の力を抜くと思わずそう零す。この言葉から如何にユウヒが非常識なのかと言う事が良く伝わるのだが、ユウヒは首を傾げる。何故ならユウヒにはモミジと契約と言うものを結んだ覚えはないからである。


「・・・してない」

 それは当然だ。何せ実際に契約など結んではいないのだから、やった事と言えば何故か妙な間のある返事をするモミジが行っていた監視? 観察? ぐらいであり、それは他の精霊に対する牽制の意味合いぐらいしかない。


「「え?」」

 しかしその話しはエルフ達、いやこの世界の現代常識的に考えても驚くべきことであった。


「だよな?」


「契約なんてしなくても、私はユウヒと一緒」

 そんな事など知らないユウヒは、確認の為にモミジに目を向けて問い掛ける。するとモミジは僅かにしたり顔で表情をほころばせると力強く肯定した。


「な、ならばユウヒ様はやはり御子様なのですか!?」


「巫女さん? ・・・いやそれは違うだろ」

 目の前の凸凹コンビの同調に、一番驚いたのはシリーであった。なぜなら彼女の心の中では一つの可能性がゆらゆらと顔を出していたからである。しかしその可能性は微妙な勘違いをしているユウヒにより否定され、


「ちがう、ユウヒは・・・友達?」


「まぁそんな所じゃないか?」


「・・・」

「・・・」


 再びの凸凹コンビによる同調で、更に信じられない可能性で上書きされる事となり、彼女達は思考と共にその表情を淑女にあるまじき驚愕の表情で停止させることになるのであった。


「どうしたんだ? そんなポカンとした顔して」


「・・・」

 精霊の友、それは遥か古代に存在したされる伝説の中だけと思われている存在である。何故ならそれらに関する文献は非常に少なく、その存在を示す手掛かりは唯一精霊達の言葉だけであるからだ。今も精霊の友と目されている者はいるが、それはそう見られているだけで証明はされていないのである。


 そんな伝説が目の前に現れれば当然こうなるわけで、また明確に友だとユウヒが認めたことにより、認められた精霊にも様々な影響を与えた。


「ん? モミジもどうした?」


「問題無い」

 それはモミジの顔をユウヒの居る方から背けさせ、仄かにその頬を染めると言う事象であったが、それに気が付く人はこの部屋に誰一人として存在しないのであった。





 そんな色々と衝撃的な日の翌朝、ユウヒは何時もより遅く起きると、昨日から気になっていたラウンジに足を運んでいた。


「あ、ユウヒおはよう」


「ん? アルか、おはようさん」

 朝日が良く入る様に作られたそのラウンジには既に先客が居たようで、ユウヒに気が付くとその表情を嬉しそうに綻ばせ、軽い足取りで歩いてくる。


「ユウヒは今日どうするの?」

 アルディスは、ユウヒの今日の予定次第ではまた色々話せると思い問い掛けるが。


「そうだな、とりあえず情報収集と森を散策する許可を貰うってところかな、もう追われたくないし」

 そんなアルディスの考えなど知らないユウヒは、部屋からラウンジまでの間に考えていた予定をアルディスに告げるのだが、その事で昨日の事を鮮明に思い出してしまい思わず表情を朝に似つかわしくないげんなりとしたものに変えてしまう。


「よく無事だったよね・・・流石ユウヒ!」


「何が流石なのか・・・。で? アルは何するんだ?」

 朝から妙に元気なアルディスはユウヒと正反対の楽しそうな笑顔を浮かべ、ユウヒの表情引きつらせる。


「僕は家の兵士の引取りとか、今回の暴走ラットの被害報告会とそれに関する会議かな」


「会議か、まぁがんばれ」

 表情を元に戻しアルディスの予定を聞いたユウヒは、元の世界の仕事で日々繰り広げられてきた不毛な会議を思い出し、今度は嫌そうに表情を歪めると、アルディスを激励するのだった。


「ありがとう!」





 一方その頃、朝の清々しい空気と柔らかい光が木漏れ日となって地面を照らす森の中では、巨大な樹の根の上で惰眠を貪る黒い三つの何かが、


「我は、サイキョウなのだ・・・・ぐぅ」

「むにゃむにゃ・・・それは拙者のブリ大根・・・」

「うぅ・・・褐色が、褐色がぁ・・・」


 何の夢を見ているのか寝言と寝息を漏らしていた。

 

「・・・!」


 そんな彼らの下に近づく小さな影が一つ、彼らの存在に気が付き驚いた様にその身を撥ねさせた。


「・・・・・・」


 その小さな影は、三人の忍者が眠る大きな樹の根まで軽い身のこなしでやって来ると、忍者達を覗き込みながら何かを確認していく。


「ぬぅ? そんな攻撃・・・きかにゅ・・・」

「あぁ・・・そこつっついちゃらめぇ・・・ぐー」


 ジライダを覗き込むとその頬を抓んで、ヒゾウの前で屈むとその柔らかお腹を突いた。


「・・・・・・??」


 次にゴエンモの顔を覗き込むとその頬を突く、しかし何の反応も見せないゴエンモを見てその小さな影は少し困惑した様に首を傾げ、


「・・・ふひゅ・・・むぐ・・・」


 徐にゴエンモの鼻と口を小さな両手で塞いだ。


「・・・・・ぐぐ」


「・・・・・・」

 呼吸の為にある穴を全て塞げば当然息が出来ず苦しくなるもの、いくら忍者とは言えそれは陸の生物と等しく同じである。結果、何故か必死さすら窺えるその小さな影に全ての穴を塞がれたゴエンモの顔は見る見る蒼く、そして土気色・・・。


「・・・ぐふぉあ!? ゲホゲホゲフォ! はーはーはー何事? ・・・まさか、無呼吸症候群!?」


 になる前に飛び起きたゴエンモは、何故か片膝立ちでファイティングポーズを取り新鮮な空気を吸い込むと、自分を襲った原因を想像してしまったらしく、別の意味で表情を蒼くする。


「んだようるさいなゴエンモ・・・ん?」

「我の眠りを妨げる・・・ぬ?」


「・・・」

 流石にこれだけゴエンモが騒げば目が覚めるらしく、ヒゾウとジライダは眠そうにしながらも起き上がり文句を言い始める。しかしそんな文句も、ゴエンモの側で尻もちを付いたような体勢で両手を顔の辺りで広げたまま、ゴエンモを見上げている小さな影に気が付くと疑問の声に変わった。


「どうしたもこうしたもないでござ・・・おや?」


 その反応はゴエンモも同じようで、文句を垂れ流そうとした同朋に顔を向けた瞬間、自分の側に居る第三者に気が付き首を傾げる。その第三者とは、


「「「かっぱ、もといウパ子?」」」


 かっぱ・・・いや、忍者達命名『ウパ子』事、この森で初めて3モブ忍者達が遭遇したウパ族の少女であった。予想もしなかった状態での予想もしない再会に、夢でも見ているのかと自分達の頬を抓る三忍。


「うん、生きてた」


「さっきの息苦しさはお主が原因でござるか・・・」

 そんな忍者達の様子に満足そうに頷いたウパ子は、顔の横で広げたままの両手を数回握りしめると小さく口だけで微笑み、そう小さく呟く。その様子に、ゴエンモの脳内では何かが繋がったようで、先ほどの謎の無呼吸状態の犯人を特定する。


「ぐ」


「ぐ、じゃないでござる! ちょっとした殺人未遂でござる! 誰よこの子にそんな生死確認方法教えたの!?」

 どうやらその回答は当っていたようで、ゴエンモに向かって以前彼らに教えられたサムズアップ見せるウパ子。そんな少女にしか見えない彼女の事を、恐ろしい娘を見る様な驚愕の表情で見下ろし周囲を警戒するゴエンモ、彼の疑問はすぐに解消する。何故なら、


「あれ」


「わ、我は知ら・・・まてよ確か」


「あれも」


「俺も!? そういえば・・・息をしてるか確認しろと前に教えた様な」


「お前らかでござる!」


 犯人は目の前の忍者二人だったからである。


「うむ、確かそんな話を面白おかしく教えた気がする」


「こいつら・・・」

 完全にツッコミ側に回っているゴエンモの前では、腕を組んで納得した様に頷くジライダとヒゾウ。呆れと疲れと怒りが混ざった視線をゴエンモから向けられた二人は、片目を瞑り楽しそうに親指を立てながら舌を出すと、


「「さーせんwww」」


「謝罪する気がないでござる・・・」


 お互いに肩を組みながらまったく反省の色を感じない明るい謝罪をするのであった。


「ござるは何をしてたの?」

 怒りを通り越して呆れているゴエンモ、そんな彼の服を小さく抓んで引っ張ったウパ子は、彼らのやり取りなどどこ吹く風と言った様子でゴエンモに問い掛ける。


 因みにゴエンモが何度自分の名前を教えても、『ござる』としかウパ子は呼ばず、終いにはウパ族に『ござる』が浸透してしまい、ウパ族にとってゴエンモは永久に『ござる』になっているのであった。


「え? 寝てた・・・じゃないお酒を持ってきたでござる」


「お酒、触媒の代金?」

 そんなことも有り、既に名前の件は諦めてしまったござ・・・ゴエンモは、まだ若干寝ぼけているのかウパ子の質問に妙な答えを返しそうになるも、ウパ子と樽を一緒に見たことで、ここまで樽を担いできた理由を思い出す。


「うむ、我らの友に頼んで4樽ほど用意してきたぞ」

「持って来る途中誰が2樽運ぶか口論になったけどな!」

「威張る事かでござる」


 それなりに大きい樽は4樽、道中三人はジャンケンで二つ担ぐ役を後退しながらここまでやって来たのだが、その姿はまんまランドセルを背負った小学生のそれであった。


「わかった。集落こっち」


「どうするゴエンモ」

「そうでござるな、先に身軽になった方が早いかもでござるな」

「俺、野宿疲れた」


 三人の忍者達の言葉に頷いたウパ子は、すっと立ち上がり歩き出すと少し進んで振り返り三人に手招きを見せる。どうやら集落まで案内をするようだが、元々は先にユウヒを見つけるつもりでいた三人、どうするか悩むも結論は既に決まっていたようなもので、



「こないの?」


「・・・行くでござるよ」

「決まりだな・・・幼女にあんな顔されては断れん」

「あんな顔とかwwwほぼ無表情ですがww・・・有りだな」


 首をかくんと傾げて見詰めてくるウパ子の誘惑もあり、彼らは一路ウパ族の集落へと向かうのであった。





 別れた三人が見た目少女の誘惑に負けた頃、ユウヒはと言うと、


「と、言うわけで森の散策許可をください」

 エルフの氏族長執務室で、森の散策許可を求めていた。これはアルからのアドバイスで、森には進入禁止などの場所も有り問題が起きる可能性がある為、許可を貰いに来たのである。


「何がと、言うわけでだ! 貴様のような怪しい奴に森を歩かせるか!」


 事前に森に入りたい旨は昨夜話していた為、特に説明することなくともシリーには伝わっていた。しかし偶然この場に居合わせたグロアージュには、いきなり現れてから説明なしの要求にしか見えず、語気を荒げるには十分な態度だったようだ。


「許可します。グジュ、貴方にはそれを決める権限は無いでしょ?」


「姉上!?」

 しかし聞えて来たのは姉の許可すると言う言葉、その予想外の言葉に驚愕の表情で振り返るグロアージュ。


「ユウヒさ、ユウヒ殿の素性は精霊様が保障しています」

 振り返えったグロアージュに対し、落ち着いた表情のシリーはユウヒの事を様付けで呼びそうになるも、言い直しながら問題の無い事をグロアージュに説明する。この森に関しての権限は森の精霊達の方がエルフより上で、精霊が問題無いと判断すればエルフが何を言ったとしても森はその人物を受け入れる為、規制すること自体が意味を成さない。


「な、どこの精霊だそんな馬鹿な保障をするのは」


「・・・モミジ様よ、文句は無いでしょ?」


「・・・はぁ!?」

 それでも納得のいかないグロアージュがシリーに食い下がるも、余裕の表情であるシリーの口から飛び出た精霊の名前に、流石のグロアージュもその思考が一瞬停止、すぐに復帰するも口から出たのは驚愕の声だけであった。


 そんな第一印象がどんどん崩れていくグロアージュの姿に、笑うのを我慢するのに必死であったとは、ユウヒの言葉である。


「ですがユウヒ殿、申し訳ないのですが・・・現在エリエス大森林は大変危険な状態の為、散策はあまりお勧めできません」


「危険ですか・・・まぁ確かに色々出てきそうではあるけど」

 平静を装いつつ笑いを我慢していたユウヒは、急に話をふられ首を傾げる。シリーからの言葉を心の中で反芻しつつ窓の外に視線を向けたユウヒは、高い位置から見下ろす深い森を見てそう告げる。


「いつもの森ならばまだ問題無いのですが、今は多数の行方不明者が出ると言う異常事態なのです」


「・・・ちょっとその辺詳しく」


「え? あ、はい。事の起こりは十日余り前なのですが・・・」

 ユウヒは、シリーの言葉に表情を少しだけ神妙なものに変えると、日本人らしい作り笑いを浮かべながら詳しい説明を要求する。どうやら行方不明者の出る異常事態が、探し物である危険物と関係している気がした様である。


 エリエス連邦国エリエス大森林に異常が起き始めたのは、森へ流星が落ちた十数日前の翌朝の事である。


 その日は森に流星が落ちたと言う事で、複数の氏族や部族が調査や興味本位と言った理由で、流星が落ちたと思われる場所に足を延ばしていた。しかし戻って来た者は半数ほどで、さらに戻って来た者達に話を聞くと今まで森で迷っていたと言うのである。


 エリエス大森林は多少の差はあれ、そのほとんどを深い森で締めている。その為子供や森に慣れない者は、代わり映えのしない景色に方向感覚を失い迷う事があった。しかし今回の場合は話が違う、何故なら迷ったと言う者達は皆一様にエリエス大森林を熟知したエルフ達だったのだ。その中には、森での活動を得意とする緑の氏族の捜索者シーカーも居た為、事態の深刻さはすぐに知れ渡った。


「ここ数日は森の民も恐れて森の奥には入りません。まぁ、そのおかげでここ数日での行方不明者は少なくなったのですが・・・」


「喜べない、か・・・」


「ええ・・・」

 一通りの説明を受けたユウヒは、神妙な表情で俯くシリーを見て考え込むように腕を組む。


「ふむ、可能性はあるのかな・・・。えっと、族長さん? その行方不明って今までにもあったりしたのか?」


「・・・ふふ、シリーで構いませんよユウヒ殿。それと過去に似た様な事は無かったと思います。行方不明はありましたが、ここまで集中してと言うのは・・・」

 少し考え込んでいたユウヒは一つ頷くと、シリーに問い掛ける。しかしユウヒは、シリーを何と呼べばいいのか少し悩み、族長さんと疑問符交じりで呼びかけ微妙に締まらない。その様子が可笑しかったのか、それとも最初より声色が優しかったことが可笑しかったのか、キョトンとした表情を微笑ませると幾分やわらかい表情を浮かべた。


 この時無言で耳をぴくぴくと苛立たしげに動かしていたグロアージュは、若干シスコンの気があると言う事実は余談である。


「なるほど、解りました。ちょっと調べてみますので散策許可を貰えますか?」


「おい・・・お前何も解ってないだろ?」

 グロアージュから注がれる妙な視線を気にしつつも、ユウヒは再度散策の許可をシリーに求めた。そのお願いにシリーが再度口を開くよりも早く、若干の嫉妬を含んだ視線を呆れと困惑の籠ったものに変えたグロアージュから、辛辣な言葉がかかる。


「・・・ユウヒ殿、それは危険と解っていての言葉だと思います。故に許可を出す代わりに散策に拘る理由を聞かせてください」


「姉上」

 グロアージュを横目で見たシリーは、ユウヒに視線を戻すと許可する代わりに理由を聞いて来た。その姉の選択には、流石のグロアージュも驚きと不安が混ざった声を漏らす。それほど今のエリエス大森林は危険と見られているのである。


「・・・実はとある依頼で探さないといけない物があるんですが、もしかしたらそれが行方不明の原因かもしれない、と」

 ユウヒもその空気を感じ取ると、真面目な表情で理由を話す。詳しくはやはり話せないものの、ある程度の理由は話した方が良いと判断したようで、その内容も比較的詳しくある程度の確信を持って話されていた。


「何? 貴様まさか、この異常事態の理由、いや原因を知っているのか!」


「グジュ!」


「言え! 貴様何をした! この森に何があると言うのだ!」


「おぅ・・・苦しい、ちょま」

 しかしその説明はグロアージュの心に再度火を灯したようで、ユウヒは胸倉を掴まれるとそのまま興奮したグロアージュに体を持ち上げられてしまう。どうやらグロアージュは興奮のせいか自分が何をしているか気が付いていないらしく、さらに背後の気配にも気が付かなかった。その気配とは・・・。


「やめなさい!」


<シリーの投擲! グジュの後頭部にパーチメントウェイトの痛烈な一撃!>


 このまさかの攻撃により、グロアージュは物理的なダメージと共に、まさかの姉による攻撃により精神的ダメージを負った。グジュはいろんな意味でへこんだ。


「ぐっ・・・言え、何を、知っている」


「いやぁ人間て結構簡単に浮くんだね。・・・つか俺何も知らないよ? 原因物がどんなものか調べるのも依頼の内だしね? 色々な危険物ってことしか」

 ヒスイの様な石に細工が施された緑色の重石により、若干の正気? を取り戻したグロアージュは、崩れ落ちながらも声を絞り出しユウヒに問いかける。そんな筋肉エルフの若干かわいそうな状態に苦笑い浮かべたユウヒは、敢えて明るい調子で質問に答えた。


「危険物、ですか?」


「そそ、世界に散らばるいくつあるか分からない謎の危険物の回収が依頼内容でね、それ以上は秘密です」


「・・・なんだそのフザケタ依頼は、冒険者と言うのは相当な暇人なのか?」


「あ、はは・・・。まぁ色々あるんだよ」

 ユウヒはアミールからのお願いについて話せる部分だけ掻い摘んで説明する。その内容に二人のエルフは困惑の表情を浮かべ、グロアージュに至っては頭を抱えユウヒを睨む。しかしその視線に含まれる色は疑問と困惑、それから少しの心配の籠った複雑なものであった。


 改めて客観的な視点で考えてみればとんでもない依頼である。これが管理神であるアミールからの依頼では無く、冒険者ギルドなどで受けるような依頼であれば受ける側の冒険者が激怒しても可笑しくない様な依頼なのだ。その事は既に理解しているユウヒは、苦笑いを浮かべるしかなかった。


「・・・わかりました。精霊の友であるユウヒ殿の言葉、信じます。もし、もしその道中で我らエリエスの同胞を見つける事がありましたら・・・」


「可能な限り救助するけど、あまり期待はしないでください」


「ありがとうございます」

 ユウヒとモミジの関係を目の前で見せられたシリーは、本能的にも理性的にもユウヒを特別な存在として感じていた。それ故ユウヒの受けているとんでもない内容の依頼も、自分の想像を超えた理由があると考え、許可を出したのである。


 一方ユウヒはそんな事を考えているなど気がついては居ないものの、真剣な表情のシリーに対し協力は惜しまな気持ちを込めて微笑み、その気持ちはシリーにも伝わったようだ。


「おい」


「なんでしょ?」

 そんな二人のやり取りを見ていたグロアージュは、真剣な表情でユウヒに声をかける。どうやら二人の出す空気に何か感じたようであるが、


「お前、一人で行くつもりか」


「そう・・・なるかな、まぁ昔から一人だから大丈夫ですよ」

 彼の言葉が予期せずユウヒの心に刺さる。表面的には解らず、またグロアージュも真面目に問いかけているのだが、何となくボッチを再確認させられたような気持になったユウヒは、引き攣りそうになる表情を気合で堪え、若干強がりともとれる返答を返す。


「・・・強いのだな、グロアージュ・グリュールだ。何か必要な物があれば言え、用意してやる」


「え?」

 ユウヒの半分強がりによる言葉に、少し表情を柔らかくしたグロアージュはそう告げる。そこには今までの刺々しい気迫は感じられず、そのギャップにユウヒは思わず声を漏らしてしまう。


 そんな対照的な表情の二人を見ているシリーの表情は、嬉しそうな微笑みで満たされるのであった。尚、この数秒後シリーの表情を見てしまったグロアージュは、顔を真っ赤にすると足音荒く執務室から出て行くことになるのだが、やはり余談である。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒもユウヒなら3モブも3モブですね。どこまでもマイペースですが、どうなるやら。


 それでは次回もここでお会いしましょう。さようならー

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