第九十八話 探し物は何ですか
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『探し物は何ですか』
ここはエリエス連邦国エリエス大森林、その中にある緑の氏族が住む里に四つある門の一つ北門近く。そこにはエルフの戦士団が管理している支援物資倉庫がある。
「本当にそれだけでいいのか?」
「大丈夫だ、問題無い」
そんな倉庫の前では、何故か無駄にキリッとした表情のユウヒが盛大にフラグを立てようとしていた。
「そ、そうか? しかし食料だけでは・・・」
そんな、無駄に表情筋をフル稼働させているユウヒに首を傾げながらも、軽装なユウヒを心配するのは、最近ツンからデレに移行したと定評のある? グロアージュであった。
「他は自前で何とかなるさ、たぶん」
「・・・」
表情筋が疲れたのか、いつものどこかやる気なさ気にも見える顔に戻ったユウヒは、心配するグロアージュに笑いかけるも、最後の言葉のせいか心配そうなグロアージュの表情は変わらない。
「しかし、なんで急に協力的なんだ? 最初の時みたいな勢いも無いし」
グロアージュが向けてくる視線を気にしないことにしたユウヒは、荷物の点検を終えると鞄をいつもの様に肩にかけ、その上からポンチョを被るとフードの位置調整をしながら何となしに疑問だった事をグロアージュに問い掛ける。
「うぐ・・・モミジ様が保障しているのだ。そんな相手を確証も無く疑えるか」
「ふむ? モミジってそんなに偉いのか」
その問い掛けにグロアージュは気まずげに顔を逸らすと、ユウヒにも聞こえる程度の小さな声でそんな事を漏らす。このモミジに対するエルフ達の対応や反応に、ユウヒは不思議そうな声を漏らし首を傾げた。
「貴様何も知らんのか? 我等緑の氏族は樹の精霊を信仰する氏族、先祖が樹の精霊から加護を与えてもらい繁栄した一族だ。その時加護を与えた大精霊の中の一人が、寝床のモミジ様なのだ」
そのユウヒの言葉に驚いたのはグロアージュだけでは無く、食料を倉庫から出すのを手伝っていた周囲のエルフも同様であった。
エルフ、特に緑の氏族にとっては知らない方が可笑しいほどの常識であるが、何もモミジについて知っているのはエルフだけでは無く、精霊について知っている者にとっては比較的有名な名前であった。
このモミジと呼ばれる精霊は、過去の伝説や英雄譚などで度々その姿を現し、勇者や英雄達を助け導いている。
その中でも有名な話が、ある英雄譚の中の『眠りの森』と言う話だ。内容は、戦乱の世を戦い続けた英雄王が敵国から国を守る為、三人の部下と共に1万の軍勢に倒すと言うもので、敵を打倒し傷つき力尽きた英雄王を樹の精霊が助けるのだが、その時の精霊がモミジである。
英雄王が目を覚ますと、そこは柔らかの木漏れ日の中に浮かぶ若葉と柔らかな枝で編まれた、まるで森の揺り篭の様な場所であった。その後話は急展開を見せるのだが、この時英雄王が感謝の言葉と共に精霊に贈った二つ名が『寝床』であったとされている。
「へぇー・・・どの位、昔の事なのそれ?」
そんな昔話が有る事など知らないユウヒは、グロアージュの話しに興味が湧いたらしく感心した様に頷いていたが、急にピタリと止まるとそう問いかける。
「正確な所は解っていないが、千年や二千年の話ではないのだろうな」
「へ、へぇ・・・(モミジ流石精霊やで、でもこれ以上この事に触れたらまた噛まれるな・・・)」
そう、これらの話は古い物など何千年も前の話なのだ。それは当然その頃からモミジと言う精霊が存在したことを示し、それは自ずとモミジの年齢にも迫る話なのである。予想はしていたとは言え、ユウヒの驚きもまた理解できるものであった。
「どうした?」
「・・・いや、なんでもない。それじゃちょっと、森を散歩してくるわ」
ユウヒ達がそんな話をしていると、ユウヒの後ろで草木が不自然に揺れ動き音を立てた。その事に気が付いたのはユウヒだけで、何故かその草木の揺れが警告の様に感じたユウヒは、どこか固い表情と固い動きでその場を後にする。
「気を付けろよ」
「ん、まぁ善処するよ」
出発前から妙な不安を感じつつ、ユウヒは再度エリエス大森林へと足を踏み入れるのだった。
ユウヒが森の探索をしている頃、こちらは緑の里の迎賓館にある談話室。そこにはアルディスやバルカス、それからシリーや数人のエルフ女性の姿があるのだが、様子が少しおかしい様である。
「ええ! ユウヒもう行っちゃったの!?」
「アルディス様・・・」
どうやらシリーの下にやって来たエルフ女性の話しで、既にユウヒが森に入った事を知ったアルディスであったが、お見送りをするつもりだったらしく驚きと落胆で素が出てしまっていた。
「あ、すみませんシリー氏族長殿」
「ふふふ、アルディス殿はユウヒ殿が心配なのですね」
バルカスに諌められ正気に戻ったアルディスは、顔を赤くすると恥ずかしそうにシリーへ頭を下げる。そんなアルディスの姿にシリーは幼い子供見る様な優しい目で微笑む、事実シリーとアルディスの年齢差はそのくらい離れているのだが、シリーは未だ独身であった。
「う、うーん・・・私がユウヒを心配するのも可笑しい気がするんですけど、数少ない友人ですから」
「友人ですか・・・友人ならば心配する事は普通でしょうに、可笑しいだなんて」
シリーの微笑みに妙な居心地の悪さを感じるアルディスは、苦笑いを浮かべながらユウヒについて語る。アルディスの中でユウヒの評価は天元突破する勢いなのだが、その為心配するのも烏滸がましいと思っているようであった。もしこの話しをユウヒが聞いたら全力で否定しそうである。
「あはは、ユウヒは凄く強いのですよ」
「確かに、昨日の動きを見れば御強いのでしょうね」
「はい! 動きも速いし魔法も強力なんですよ! 僕を助けてくれた時もいつの間にか現れて盗賊を遠くまで蹴り飛ばしたり、魔法で次々に賊を撃ちぬいたりすごいんです!」
小さく首を傾げ不思議そうにしているシリーに、アルディスは何の裏も無い笑みを零すと手放しでユウヒを褒め、シリーの同意を得ると嬉しそうに捲し立てる。しかし、
「アルディス様、僕に戻ってますよ・・・」
「あ、すみませんつい・・・」
つい先ほどと同じようにバルカスから諌められるアルディス。再度赤くなるアルディスにバルカスは困ったような苦笑いを浮かべ、その目はまるで弟でも見る様な優しい目であった。
「ふふふふ、良いのですよ? ここは公の場ではありませんし、捻くれた外交の者もおりませんから」
「・・・」
「うふふふ」
シリーやメイドのエルフ女性達から先ほどと同じ慈しむ様な笑みを向けられるアルディス、これは彼の本質が作りだす特有の空気なのかもしれない。
「うぅ・・・」
そんな空気に何とも居たたまれない気持ちになったアルディスは、ふと今の状況が親戚の年上女性達に囲まれた時の空気に似ていると感じるのであった。
一方、森を探索中のユウヒはと言うと、
「さて、この辺で良いかな・・・行方不明者の位置を示せ【指針】」
緑の氏族の里から離れ森の中、エルフ達の監視範囲から離れた場所で、最近頻繁に使っている【指針】の魔法を使い始める。ユウヒの妄想魔法特有の使い慣れによる効果上昇は、投げられた樹の枝が見せる切れの良い動きから着実に強化されている事が窺えた。
「・・・ふむ」
そんなやる気を感じる枝が示す方向は北北西、その方角に目を向けたユウヒは鬱蒼とした森を見渡すと、もう一本枝を広いもう一度魔法を使うために集中を始める。どこかやる気なさ気に集中するユウヒの【指針】は、シリーから聞いた行方不明者の居場所は一切ぶれる事無く指示していた。
何故ユウヒがそんな表情で集中しているかと言うと、実はこの【指針】の魔法、複数の候補、たとえば美味しい果物など漠然とした対象であると、宙に浮いてクルクル複数個所をさし続けるのだが、今回の複数居る筈の行方不明者の居場所が、何故か一ヶ所に纏まっているのだ。
「それじゃ次は、俺の求める危険物の位置を示せ【指針】」
それは残りの行方不明者が一名のみか、あるいは何らかの影響で一ヶ所に纏まって存在するかである。その原因が何であれ、再度使った指針の示す方向次第でユウヒの想像が現実味を帯びてくる。そんな【指針】が危険物を指示した方向は、
「ビンゴっぽいなぁ・・・」
北北西、対象が違うにも拘らずまったく同じ結果になったのである。その結果を見て自分の想像が良くない方に当った事を理解したユウヒは、探し物が一つ見つかった事に喜びたいけど喜べないこの状況に何とも言えない苦笑を浮かべるのであった。
「それじゃ第一危険物目指して前し「ゆうひぃぃ」ん?」
それから数分後、気分を入れ替え出発しようとしたユウヒの耳に僅かに聞こえる呼び声、地底湖から湧き出る怨霊の様なおどろおどろしい声に何かを感じたユウヒは、進もうと前に出した足はそのまま上半身だけで後ろを振り向く。
「どうしてぇ・・・」
「なんでぇ・・・」
そこには、真っ青な体に所々汚れ解れた包帯を巻いて這い寄る様に近づいてくる者が三体、悲しげで恨めし気な声を漏らしていた。
「季節外れのミイラおと・・・いやミイラ精霊?」
「ミイラじゃないよ! ・・・それで、ミイラっておいしいの?」
その正体は、季節があるのか知らないがミイラ男改め、ミイラの様に包帯をあちこちに捲いた小さな水の精霊達であった。ユウヒを驚かす為なのか、それとも別に意図があったのかおどろおどろしい空気を纏っていた彼女達は、まったく驚かないユウヒを見るといつもの雰囲気に戻る。
「知らないで否定したのかよ、てか怪我が増えてるな?」
そんな小精霊達を見て特に心配の必要は無さそうだと内心安心しつつも、何故か以前より怪我が増えている精霊達にユウヒは首を傾げた。
「ユウヒのせいです! ユウヒが姉さんを呼ばないから!」
「姉さんのストレスがマッハで私たちがヤバイ」
ユウヒの内心を感じとり、と言うよりも単純にストレスをぶつけるように叫ぶ小精霊三人。確かに姉の暴走原因にユウヒも関与はしているのだろうが、その大半は彼女達自身の身から出た錆とも言える、しかし彼女達はここである一つの事実を知る事になる。
「ん? もしかして昨日の事か? それならエルフの人が樹の精霊呼んでくれって言ったからなんだが?」
「そ・・・そんな話、しらない」
「モミジの姐さんぱねぇ」
「真っ黒だぜ・・・」
そう、全てはモミジと言う精霊の掌で転がされていたと言う事実を、そのあまりにも衝撃的な事実に、水の小精霊3人は驚愕と共に、黒いモミジの所業に恐怖するのであった。
「良く分からんが、ミズナも呼べば昨日のモミジみたいに来てくれるのか?」
「来るよ!」
「全力で来るかと!」
「全力全開だね!」
驚愕で固まる三人の小精霊に首を傾げるユウヒは、念の為にとミズナを呼んだ場合も昨晩のモミジと同じような感じで出て来るのか小精霊達に確認する。その言葉に何故か目を輝かせた小精霊達が大きな声で肯定するように、ミズナもユウヒの呼び声に応え現れる事は可能である。
「それは、ちょっと怖いな・・・」
しかし、彼女達の説明にユウヒは色々と妄想した結果、若干怖気づいているようだ。
モミジは性格からして昨日の様に周りに悟られないように現れる事は理解できるユウヒ、しかしそれが普通のミズナならまだしも、ストレス+彼女達の説明通り全力全開で現れるミズナの姿で妄想したユウヒには、濁流と共に現れるミズナに押し流される自分の姿しか思い浮かばないのであった。
「「「(シマッタ逆効果!?)」」」
結果、彼女達の『姉さんをユウヒに呼んでもらってストレス軽減計画』は逆効果により失敗するのであった。
残念ミズナ、きっと君もそのうち呼ばれる時が来るはずだ! ・・・たぶん。
「まぁそれは次の機会として、今はやる事があるから遊んであげられないよ?」
「やる事? まぁ、付いてくだけでも楽しいからいいけど」
「なにするの? 討伐? 捕獲? 運搬? それとも撃退?」
「お前らどこであのゲームやったよ・・・」
「「「?」」」
しかしそこは切替えの早い水の小精霊トリオ、自分達が楽しければ姉さんのストレスは二の次三の次、と言うより喉元過ぎればの精神でユウヒに憑いて行く気まんまんである。
「・・・まぁいいや、実は最近この辺で行方不明が頻繁に出てるらしくてな」
若干不穏な発言をする小精霊達に若干疲れを感じる視線を注いだユウヒは、表情を戻すと状況の簡単な説明を始めた。
「迷子探し?」
「迷子ならいんだけどな、ほれ行くぞ? 付いて来るんだろ?」
「あ、まってよユウヒ!」
どうやら本格的な説明は移動しながらするようで、先を歩き始めるユウヒに小精霊達はいつも通りユウヒの周りをふわふわ舞いながら憑いて行くのであった。
そんな風に、慌ててユウヒに憑いて行く小精霊達がエリエスの森舞っている頃、そこには見苦しい光景が広がっていた。
「ま、待ってくれ・・・」
「おぼぉう、揺らさないで欲しいでござる・・・」
「速報、合法ロリ族長が蟒蛇だった件・・・」
ジライダは先に出た二人を追いかけ、酒盛り部屋とウパ族の文字で書かれた部屋の入口から這い出ており、先に脱出していたゴエンモは蒼い顔で地面に伏している所をウパ子に揺すられている。ヒゾウに至っては蒼く虚ろな顔でエアタイピングをしながら、半分夢の世界に旅立っていた。
「お主らも中々であったぞ?」
そんなヒゾウの口から漏れる呟きに、ウパ族の族長は軽い足取りでやって来ると、キセルを片手に嬉しそうな表情で首を傾げる。
「恐ろしいでござる。何が一番恐ろしいって、高度数な泡盛並みの酒を樽いっぱいに持たせるユウヒ殿が恐ろしいでござる」
この有り様の原因は、どうやらユウヒが彼らに渡したお酒の様である。より正確には酒を発酵させる樽に原因があった。
ユウヒが作った酒樽には発酵や熟成を加速させる魔法が付与されていたのだが、これにはタイマーも、自動調整する為の機能も組み込まれておらず、人の手で魔法の調整をしなければ際限なく発酵や濃縮、熟成を続けるのである。
結果、樽を開封し魔法が解除されるまでの間ユウヒの調整の手を離れたお酒は、際限なく熟成が進み、またそのアルコール度数を限界まで引き上げていたのだ。忍者達やウパ族が飲んだ時のアルコール度数は優に70%を超え、しかしその味は熟成が進んだ素晴らしい出来だったようで・・・。
「うむ、あのような酒とは初めて出会ったな、そのせいで里の者も大半が潰れてしもうたわ」
この世界で酒豪の代名詞として有名なドワーフ族も一目を置く種族であるウパ族、その族長をも唸らせ実に集落の8割にも及ぶウパ族を、幸せな表情でノックアウトしていた。
「や、やめろウパ子・・・てか貴様はなんで平気なんだ!」
「ウパ子、多分、飲んでない、酒」
「う、裏切り者め・・・」
「?」
残りの2割は酒への強さで選ばれる族長並みの酒豪と、今もノックアウト寸前の忍者達を、崖先に追い詰めるかの様にちょっかいを出し続けるウパ子のような、未成年組だけである。
「ふっふ、面白い奴らじゃな・・・しばらくゆっくりしていくと良い」
見た目年齢が解らない種族であるウパ族の族長は、ウパ子と同じくらいの幼い顔から色気すら感じる笑み零すと、来た時と同じ軽い足取りでその場を後にするのであった。
「お世話になるでござる・・・」
「・・・」
「む? どうしたヒゾウ?」
そんな族長の表情を窺う余裕も無い忍者達、ゴエンモが辛うじて返事をしているがヒゾウに至っては身動き一つしていない。
「・・・へんじがない、ただのしかばねのようだ」
その様子にジライダが声をかけ、ウパ子が脇を突くがやはり動かず。終いには残念そうな表情で首を振るウパ子にそう判定されてしまう。
「なんでおまいがそのネタしってんだよ・・・」
「ヒゾウ、寝るならせめて寝袋にINしてから寝るでござる」
「・・・おすとんチャレンジですねわかります」
「・・・変なの」
ウパ子のセリフに思わず反応してしまったヒゾウは、ゴエンモに促され床を滑るように這いながら用意されていた布団を目指す。その様子に、ウパ子は人知れず口角を上げるといつもより僅かに高い声でそう呟くのであった。
そんな変た・・・もとい忍者達がウパ族集落で二日酔いに苦しんでいる頃、
「変だね」
「うん、変だね」
「何が変なんだ?」
ユウヒは、変だ変だと呟き顔を顰めている小精霊達を振り返り首を傾げていた。
「よくわかんないけど、変です」
「世界が少し歪んでる様な?」
どうやら何かの違和感を感じ取った小精霊達は、その違和感の原因を探っているようで、顰めた表情のままユウヒの周りを飛びながらキョロキョロと当りを窺っている。
「・・・変な薬でもやったか?」
「ちがうもん! よくわかんないけどそれじゃないと思うもん!」
そのどこか挙動不審にも見える姿に、ユウヒは思わず失礼な感想を述べてしまうも、その意味は正しく彼女達に伝わらなかったようだった。しかし何となくニュアンスで失礼な事と感じ取ったらしい小さい小精霊は、頬を膨らませ抗議している。
「・・・で? 変な感じはどっちからとかあるのか?」
そんな抗議をしていてもかわいらしさしか残らない小精霊の姿に、少しだけほっこりしたユウヒは、話しを本題に戻すと自分には感じないその気配について問いかける。
「んー・・・こっち?」
「こっちじゃない?」
「あっちかも!」
「また見事に別れたな・・・その変な感じは解らんが、精霊にしか分からないのか?」
しかしその結果は、小精霊達にもはっきりした事が解らないと言う事を如実に表すものであった。それぞれが違う方向を指し示す小精霊達に苦笑いを浮かべるユウヒには、その違和感が解らず首を傾げる。
「そだなー魔力に敏感なのとかー感覚が鋭いのとかなら分かる感じ?」
「ふむ、エルフとか獣人とかかな?」
「それなら分かるかも、でも解っても感覚が狂わされるだけかな」
「ふーん(行方不明の原因はこれだろうけど・・・)」
どうやらその違和感とは魔力に敏感な者には影響するようで、魔法こそ使えているが魔力に鈍感なユウヒには影響しないようである。しかしその結果からユウヒは、これが迷子が多発する原因の一つと考えたようで、胸の前で腕を組むと難しい表情で唸った。
「あ! ノイチゴ発見!」
「何!? そういんかくほー」
「「ラジャー!」」
そんな風に思考するユウヒとは違い、小精霊達はすぐに違和感の事など忘れた様に森を飛び回ると、ノイチゴとやらを見つけ嬉々として飛んで行く。
「ん? のいちご? 人も食えるやつか? ・・・おい、明らかにそれ誰かの荷物だよな」
「んー? でも周り誰も居ないよ?」
「うん、動物も人も居ないし大丈夫だよ」
「ユウヒも食べる? 甘酸っぱくておいしいよ」
聞き覚えのある名前にユウヒも頭を上げると、小精霊達が飛んで行った場所に目を向けた。しかしそのノイチゴと呼ばれる物は、地面に落ちている明らかに人工的に作られた籠の中から飛び出し散らばっており、それが誰かが採取した物だと言う事をユウヒに対して容易に認識させた。
「ふむ、木の皮で編んだ籠か」
籠から零れたと思われる大きな葉に包まれたノイチゴを、美味しそうに食べる小精霊達に、苦笑いを浮かべたユウヒは、右目の力を使いながら落し物と思われる籠を手に取る。
【ノイチゴ】
バラ目
バラ科
キイチゴ属
女神ノエルが大地に撒いた12の恵みの一つで、あらゆる森に根を伸ばすことが出来るキイチゴの一種。
特徴は、木質化した茎を持つ低木に粒の塊に見える果実を多数付け、また非常に分化が激しい為同じノイチゴと言ってもその見た目や色は様々である。
【バークウッドの編腰籠】製作者:ノイ
バークウッドのしなやかな樹皮で編まれた、味のある見た目の腰籠。腰に取り付けるパーツが壊れている為、再使用するには修理が必要だ。
品質 見た目D 耐久度E(ただの籠としてなら使用可)
「製作者の名前か・・・行方不明者の可能性ありかな」
右目の力は籠の中に少量残っていたノイチゴと、手に取った腰籠を問題無く鑑定し、さらにその籠の製作者まで判明させた。その情報に、ユウヒは真剣な表情を浮かべ情報を記憶する。
「たぶんその籠、落して結構時間経ってるかも」
「ん? そんな事も分かるのか」
そんなユウヒに、水の小精霊3人の中で一番落ち着いた雰囲気のある子はユウヒのポンチョの裾を引っ張ると、新しい情報を伝えてくる。右目による簡単な鑑定では出なかった情報も直ぐに割り出した小精霊の能力に感心した声を漏らすユウヒ、しかしそれは犠牲の上に成り立つ情報であった。
「うん、ノイチゴ幾つか腐ってたから・・・」
「・・・・・・」
「大丈夫か! 傷は浅いぞ!」
引き攣った笑みを浮かべるその子の言葉に、ユウヒが大きな葉の落ちていた場所を振り返り見てみると、そこには青い体を益々蒼くした一番小さな小精霊が、時折体を痙攣させながら俯せに倒れているのだった。
「・・・あぁうん、とりあえず吐き出しとけ?」
その状況を正しく理解したユウヒは、腐ったノイチゴを食べたであろう小精霊に優しい声と生ぬるい視線を向けた。
「しばらく川のせせらぎを聴きながらお待ちください!」
「ぺっぺっ! 苦い! 渋い! 気持ち悪い!」
「ひゃ!? こっちにとばさないでよ!」
「・・・」
ユウヒの声が聞えたのか意識を取り戻した小精霊と、その介抱? をする小精霊達の騒がしい声を聴きながら、ユウヒはゆっくりとその場を後にする。
「ってユウヒが行っちゃうよ!」
「体調が戻ったら追っかけてこい」
どうやら彼女達に付き合っていたら捜索が進まないと踏んだユウヒは、体良くその場を後にするつもりでいるようだ。
「あ、ちょ・・・もう! はーやーくー!」
「・・・おまえも同じ苦しみくらえ!」
「むぐ!? マズ!?」
そんなユウヒが過ぎ去る後ろでは、まるでゾンビが新たなゾンビを増やすかの如く腐ったノイチゴによる犠牲者が増えて行く。
「(何やってんだか・・・ん?)」
既に茂みの向こうから声だけしか聞こえない小精霊達のやり取りに、首だけ振り返り思わず苦笑を漏らすユウヒ。そんなユウヒが視線を前に戻すと、そこには古めかしく大きな壺が一つ転がっていた。
「壺?」
その壺にユウヒは首を傾げ、今も右手に持っている腰籠と同じで落し物かと思い右目に力を入れたのだが、その瞬間別の力が反応を見せる。
「あ、これ不味いヤツかも!?」
反応を見せた力とは【探知】の魔法、今までに何度も危険を知らせユウヒの身を守る一助になって来た力だったが、今回は少々遅かった。視界に現れる無数の警報表示、しかしその表示を理解して体を動かすだけの時間を、壺はユウヒに与えずその力を解き放つ。
それから数分後、
「たすけてユウヒエモ~ン! ・・・あれ?」
「まーてぇ・・・どしたの?」
「あれ? ユウヒは?」
ユウヒが居た場所には泣きながら飛んでくる一番小さな小精霊、どうやら逆襲を受けているようだが、何かに気が付き急に止まる。後ろから追いかけてきた二人の小精霊も彼女の背にぶつかる様に止まると、やはり何かに気が付いた様に空中で停止する。
「おかしいな・・・匂いが途切れてる」
「ほんとだ」
どうやら彼女達はユウヒの居場所を匂いで特定していたらしく、急に途切れたその匂いとやらに驚いたようで、しきりに周囲を窺いユウヒを探す。
「・・・これは事件だ! そして犯人はお前だ!」
そんな中、急に黙り込んだチビ小精霊が不敵な笑いと共に声を張り上げると、意味ありげに目の前の木を指さす。
「!?」
「「ほんとに誰かいた!」」
するとどうだろう、樹の後ろから驚いた様に飛びだしてきたのは、ふわふわの綿毛で出来た服を着た緑色の小さな人影。その存在にまさか本当に出てくるとは思っていなかったのか、後ろの二人と同じように若干であるが驚いた表情を浮かべる水のチビ小精霊。
「き、貴様樹の精霊だな! ユウヒをどこに隠した!」
「!?!!??!」
しかしすぐに気を取り直すと、再度表情とポーズを作りながら大きな声を上げる。その事に驚いたのか、15㎝ほどの小さな樹の精霊は声にならない声を上げながら森の奥に逃げて行く。
「逃げた!」
「怪しいぞ! おえー!」
その姿に怪しさを感じた小精霊達は、本格的に追いかけようと体に力を入れた・・・のだが、
「・・・うぷ」
力を込めた拍子に、まだ残っていたノイチゴのダメージが最後の力を振り絞ったようで、再度水のチビ小精霊の体調を急降下させる。
「「!?」」
驚愕の表情を浮かべる二人に墜落してくる水のチビ小精霊、この後何が起きるか予測出来た二人の小精霊は表情を硬くし抱き合うと、
「「にゃぁぁ!?」」
なんとも言えない悲痛な声で叫び声を上げるのだった。
その日、エリエスの森には水の小精霊の悲痛な叫び声が響いた。その悲鳴が何のために上げられたのか知る者は、いな・・・木陰から心配そうに彼女達を見詰める樹の小精霊と、茂みの近くに落ちた編腰籠以外には、いない。
いかがでしたでしょうか?
森に入って早々にトラブルにあったユウヒ、彼はどうなったのか次回をお楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




