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ワールズダスト  作者: Hekuto


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第五十六話 索敵実習一日目

 どうもHekutoです。


 予想通り時間がかかりましたが無事更新できました。今回は冒険者科と魔法士科の実習二日目の様子などをご覧ください。




『索敵実習一日目』


 ガヤガヤとまだ若い少年少女達が集まる森の中、そこにユウヒの姿もあった。


「それでは5班の割り振りは分かったな? 健闘を祈る」


「「「はい!」」」

 どうやらマギーに索敵実習の範囲を指示された5班がこれから実習に挑戦するようである。ちなみに5班が最初で後ろに並んでいる4班はこれから指示を受けるようで、その中にはクラリッサの姿もあるのだが、クラリッサはまだ眠いのか寝惚け眼でフラフラと歩いていた。


「ユウヒ」


「おっと、どうしました?」


「うむ、5班の事は頼む・・・あともし他の班と会ったらそれとなく気にしてもらえるとありがたい」


「あぁはは、解りました行ってきます」

 4班の説明の前にオルゼはユウヒを呼び止めると護衛について念を押すように頼む、その視界に一瞬だけクラリッサとそれを支える楽しそうな生徒達を入れて・・・。ユウヒはその視線の先に気が付くと軽く了承し5班が待っている方へと歩いて行く。


「お土産きあいた!?」


「・・・自重しろ」

 その後ろ姿を自重しないマギーと疲れた顔でマギーの頭にチョップを入れるオルゼが見送り、目の覚めはじめたクラリッサが小さくフリフリと手首だけで手を振って見送るのだった。





 マギー達の居る場所から離れた索敵開始地点でラッセル達が作戦会議をしている。こういう所を見るとしっかり冒険者の卵やってるんだなと感じる。とかまったく冒険者に見られない俺が考えるのもどうなんだろう・・・。


「それじゃお昼ぐらいまで北東に進んでそれから休憩後少し南下して戻ってくる感じで行こうと思うんだ」


「そうですね、あと探査魔法は交代で使いますけど・・・途中休憩を入れてもらえると嬉しいのですが」

 どうやら索敵範囲をぐるっと時計回りに回るルートの様である。しかし通常の魔法にも探索魔法はあるんだな、話からしてあまり燃費の良い魔法ではなさそうだが。


「了解! 休憩必要なら遠慮しないで言ってくれよ?」


「私探査系苦手だけど頑張るよ!」


「大丈夫だよ俺索敵系の授業得意だし補助はできると思う、それじゃユウヒさん出発しまっす!」

 どうやらこのメンバーはみんな索敵は出来るようである。それとも索敵スキルは必須なのだろうか。そんな風に話を聞いていると準備完了のようで、ラッセルが元気よく出発を教えてくれる。


「了解だ足元に気を付けてね」


「「「はぁい」」」

 俺は返事をし軽く足元注意をすると三人は子供らしい元気な声で、少し間延びした返事をするのだった。





 そんなユウヒ達が実習に出発してしばらく経った5班キャンプでは、カステルが難しい顔で何か考え込んでいる様である。


「むぅ・・・」


「やぁカステル君どうしたんだいそんなに唸って」

 そのカステルの後ろから各班の指示を終えたマギーが姿を現し、カステルに声を掛ける。


「あ、マギーさん」


「せんせいだ! おはようございます!」


「ああ、おはよう」

 カステルは自分の名前を呼ばれ後ろを振り向くと来訪者の名前を呼ぶ、その声に焚火の周りで片付けをしていたロップも反応しその元気な挨拶に微笑むマギー。


「いえちょっとユウヒさんについて考えてて」


「ほぅ、こんなところでいきなり惚気話かい?」


「の!? な、なにを!?」

 どうやらカステルはユウヒに付いて考えていたようだが、その言葉にマギーは口元をニヤリと歪めると楽しそうに弄り始める。そんなマギーのからかいの混ざった声に慌てるカステルの手には先ほどユウヒから渡された袋が握られていた。


「はっはっは冗談だよ・・・で? 何かあったのかな?」


「はぁ、ユウヒさんの多才ぶりに少し嫉妬・・・通り越して不思議で」


「飴玉のことかい?」

 マギーは十分楽しめたのだろう、からかうのを止めると本題に入る。そんなマギーに対してカステルは溜息を吐くとまだ若干赤い顔で考えていた事を話し始める。その話とカステルが手に持つ朝方マギー達がユウヒに貰ったのと同じような袋に察しがいったのかマギーは少し眉を上げると飴玉の事かと確認する。


「知ってたんですか?」


「いや私も朝方生徒達にと飴を貰った時にね、美味しい飴だったよ」


「「「飴?」」」


「「あ・・・」」

 マギーの問い掛けにカステルは顔を上げると質問で返す。その言葉にマギーは自分の考えが正解であることを確信し、早朝の出来事話す。しかしその会話は周囲を囲むように現れた三対の瞳と綺麗なユニゾンによって阻まれ、カステルは渡すを忘れていた、マギーは言ってはまずかったかと言う意味合いの違う同音を口から貰す。


「飴って何の話ですか!?」


「あー・・・まだあげてなかったのかな? こっちは全員にあげちゃったけど」

 最初に咆えたのはキリノ、その反応にちょっと気まずそうに頭を掻きながらカステルに聞くマギー。


「ええ!? ロップ貰ってないよ!?」


「あはははは・・・ごめんね? ついさっきユウヒさんからみんなにって貰ったところで」

 マギーの言葉にショックを全身から放出しているかのようなロップに、カステルは引きつった笑顔で謝罪する。


「・・・もらえるんですよね?」

 こちらは言葉数もリアクションも控えめだが、その瞳孔は綺麗に縦に割れているサワーリャ。


「ふぅ・・・まったく物欲の強い奴らめ」


「マギーさんはそのセリフ使えないと思いますよ?」


「む・・・むぅ」

 そんな生徒達の姿に溜息を吐き呆れた声を零すマギーだったが、昨日の食糧接収事件? を目の前で見ていたカステルからの的確なツッコミにより、それ以上の言葉を封殺されるマギーであった。


「今渡すから・・・とりあえず好きなの一個づつね?」

 餓えた子狼のような三人の潤んだ瞳に微笑んだカステルは、袋を広げると改めて中に入っている沢山の宝石飴を視て一瞬表情を硬くするも、瞬時に持ち直し一個づつ選ぶように少女達の目線まで口を広げた袋を下ろす。だいぶ【ユウヒ】にも慣れてきた感じのカステルであった。


「「「おおお! きれい!」」」


「む、私が貰ったのと違うなしかしこれは・・・贔屓か! ユウヒ君!」

 そんな広げられた袋の中身に今度は歓喜の声をユニゾンさせる少女達、しかしそんな少女達の上から袋を覗き込んだマギーは自分の貰った飴玉との違いに納得のいかないと言った表情で叫ぶ、そんなマギーの姿にカステルは言葉無く苦笑いだけ浮かべる。


「どれにしようかなー♪」


「赤いの? 黄色いの? 白いの?」


「どんな味なんだろ・・・個人的にはこの紫色が気になるけど・・・」

 少女三人姦娘かしましむすめは叫ぶマギーの声など耳に入っていないようで、キラキラとした瞳でキラキラと宝石のように光を反射する飴玉を楽しそうに選ぶのであった。





 一方その頃、森を探索するユウヒ達一行・・・。


「む?」


「どうかしましたか?」


「誰かが俺に苦情を言っている気がする・・・」


「はい?」


「いや、気にしないで良い」

 どうやらマギーの放った苦情の電波を受信したのか、ユウヒがピクリと反応を示す。ユウヒの隣に居たレムリィが不思議そうにどうしたのか聞くも、返って来た答えに小首を傾げる。そんなレムリィにユウヒは微笑むと気にしない様に告げるのだった。


「こっちも歩きづらいな・・・外れ引いたかな?」


「ロップさん連れて来ればよかったですね・・・」


「ロップちゃんクジ運良いからねー」

 そんなユウヒの前では地図を広げルートを決めているラッセル、どうやらクジで決めた探索範囲に歩きやすい場所が少ないようで苦い顔をしている。探索範囲はクジ引きだったようで、一緒に地図を覗き込むルニスとレムリィはクジ引きならロップだと言う。


「そうなのか?」


「はい、よく商店街のくじ引きを当ててきますから」


「・・・それは肖りたいものだな」

 そんな二人の話にくじ運のよろしくないユウヒは興味を引かれたようで、ルニスの教えてくれた情報に心底羨ましそうにしている。


「んー・・・歩きやすそうだしこっちかなぁ」


「ん? ・・・ラッセル」


「はい?」

 ロップ=運が良いと脳内メモをしているユウヒの前では、三人で地図とにらめっこしルートについて話していた。そんな中ラッセルが一番歩きやすそうなルートの方向を指さしルニスとレムリィに了承を取ろうとするも、二人の答えの前にラッセルはユウヒに名前を呼ばれキョトンとした顔で返事をする。


「蜂は好きか?」


「はい? 蜂蜜は好きですけど・・・?」

 そんなラッセルにユウヒが良く分からない質問をし、ラッセルがどこかズレた返答をする。ルニスとレムリィも又そんな二人の問答をキョトンとした顔で見ている。


「そうか、たぶんそっちに行くとミツバチに出会うぞ」


「「「え!?」」」

 しかしラッセルの答えを聞いてユウヒが話し始めた内容に三人は同時に声を上げる。


「えぇと、それは具体的に何色だったりするんでしょうか?」


「薄紅色だろうな」


「・・・あーこっちはダメですね」


「おいしい蜂蜜もあるんだろうけどな」


「あはは、キリノだったら行くかもしれないっすね・・・」

 どうやらユウヒの【探知】魔法で映し出されたレーダー上にはこの先に居る、いやこの周辺に居る生物のある程度詳細な情報が出ているようで、ラッセルの質問に詰まることなく返答する。その内容にラッセルは肩を落としながら別のルートを選択する為また地図に目を落とす。


「「危ないの?」」


「今の時期は薄紅蜂の気性が荒いんだよ」


「赤栗の木が巣だともっと危険だな・・・」


「それは・・・最悪のコンボですね」

 二人の少女にはその危険度が分からないらしく質問する。冒険者科では依頼に出たりする野生生物として勉強する内容であるようだが魔法士科ではあまりふれない内容の様である。とある理由からその知識を有するユウヒは地図を覗き込みながら雑談を続け、その会話と地図を指さす動きは遠回しに危険な場所教えていた。


「「赤栗の木が?」」


「うん、クィーンマロンが出来る組み合わせでもあるんだけどさ」

 ユウヒとラッセルの会話にまたも疑問点が合ったようで同時に質問するルニスとレムリィ。


「あ! クィーンマロンって毬栗がすごく固いんだよね?」


「その通りっす」


「・・・ああ、あれは本当に痛かった・・・」

 ラッセルのヒントもあり、レムリィは少しだけ知っていたようで未だ良く分かっていないルニスの隣で思い出したように声を上げる。そんなレムリィの反応にコクコクと頷くラッセル、しかしその横では若干青い顔をしたユウヒがボソボソと呟く、その時の姿はどこか哀愁に染まっていたとはルニス談である。


「え!? そうか、ユウヒさんの収穫物に・・・」


「・・・帰ったら食べるか?」

 ユウヒの零した言葉の内容にびっくりするも、何かに気が付いたラッセルはその表情をユウヒと同じく青くする。そう、あの時木の精霊モミジにより投下された・・・もとい分けて貰った中にクィーンマロンがあり、さらにそれは毬栗のまま落ちて来た為その直下にいたユウヒは当然・・・。戻ってきたモミジの治療と自分で使った妄想魔法の治療がなければ今頃、ユウヒはこの場に居なかったかもしれない。


「ユウヒさんおとこっす!」


「「そんなに固いんだ・・・」」


「毬栗も採ってあるから後で見て触ってみると良い」

 そんな危険物でもある栗を採ってきたであろうユウヒをラッセルはキラキラした目で見詰め、その二人のやり取りから色々と想像したのか自然と寄り添い若干顔を青くし頭上を警戒するルニス、レムリィコンビ。そんな三人にユウヒは毬栗の毬部分もとっているらしく表情を戻しながら話す。


「「「はい!(っす!)」」」


「まぁ・・・少し血で汚れてるかもしれないがな」


「「あわわわ」」

 その話を聞いて少なからず興味があるのか三人は元気に返事をするが、ついっと横を向きながらボソっと零したユウヒの言葉にルニスとレムリィは再度顔を青くするのだった。





 4人が顔を青くしてからしばらく経った昼食時、ここは5班のキャンプ。その焚火の前ではロップが丸太に座って溜息を吐いている。そんな彼女の手には宝石と見紛うような輝きを放つオレンジ色の飴が持たれていた。


「はぁ・・・」


「ん? どうしたロップってまだ食べてなかったのか? もう昼だぞ?」


「だってこんなに綺麗なんだよ? 食べるの勿体無いよぉ」

 溜息を吐き飴を見詰めるウサミミ少女のロップに話しかけたのはサワーリャであった。どうやらロップは飴が綺麗で食べるのが勿体無い様である。


「まぁ確かに綺麗だけどさ、味もすごく美味しかったぞ?」


「サワーリャはもう食べたの? 早いね」


「お前が遅いだけだ、それに早く食べておかないと何があるか分からないからな」


「何か?」

 飴をまだ食べていないロップに対してサワーリャもう食べたらしく、ロップはいつものニコニコ顔で早いねと言うがサワーリャは呆れた顔で返す。ロップは遅いことはあまり気にしていないようだが後半の【何か】の内容は気になったらしく首をこてっと傾げながら聞いている。


「そうだな・・・たとえば突風が吹いて地面に落とすとかこけて焚火に落とすとか?」


「・・・・・・」


「どの道食べるんだリスクは回避するの越したことは・・・。ど、どうした?」

 サワーリャは少し考えると起こりえる良くない例え話しでリスクに関して教えるも、気が付くと目の前のウサギは耳を立て驚愕の表情でガクガクブルブルと震えだす。そんな親友の姿に気になったサワーリャは、いつもより優しい声で恐る恐る声を掛ける。


「すぐ食べる・・・」


「あ、ああ」

 どうやらロップは自らの溢れんばかりの想像力で未来を想像した結果、あまりにその未来が残酷で震えていたようで、睨むように飴玉を見詰め固く言葉を発するロップに思わず言葉が吃るサワーリャであった。


「・・・はぐっ! ・・・・・・う、うう!? おいひー!」


「それには同感だね。こんな美味しい物をくれるユウヒさんはきっとあれだな」


「んー? ありぇ?」

 目を瞑りながらパクッと飴玉を口に入れたロップは何度か口の中で飴玉を転がし唸った後、目を見開き飴が飛び出ない様に気を付けながら叫ぶと言う器用な事をやってのける。そんな感動に震えるロップにサワーリャはうんうんと頷きあれだと言い出し、ロップは飴をコロコロ口の中で転がしながら興味深そうに聞く。


「うん、神だな!」


「!」

 そんなロップの問いにサワーリャ普段のゆったりした動きとは全く違った気合の入った動きで握りこぶしを作りながら叫ぶ、そんな親友の動きにびくんと耳を動かすロップ。


「じゃなければ神の子だな!」


「!!」

 さらに叫ぶサワーリャに二本の耳を立てるロップ。


「いや・・・神の使いかもしれない!」


「ユウヒ凄い!」


「ああ、凄い! これは帰ってきたら拝むしかない!」


「そうだね!」

 さらにさらにユウヒの想像をし叫ぶサワーリャに、立ち上がり自身も両手で握りこぶしを作るロップ。ロップはまだしも今までゆるゆると言うかゆっくりな動きが目立っていたサワーリャも、テンションが上がると普段のロップ並みの動きになる様である。


「二人とも・・・ヒートアップするのも良いし気持ちも分かるけど」


「「え?」」


「お昼の準備手伝わないとご飯抜きだよ?」


「「・・・はい」」

 そんな二人を背後からジト目で見詰める昼食の準備をするキリノ、どうやらお腹が空いてテンションが下がっているのかその言葉には棘があり、振り向いた二人は上がったテンションを元に戻すのであった。


「ふふふ、ユウヒさんが神様ねぇ? 確かにそれくらい不思議な人ではあるわよね」


「あ、カステルさん」

 そんな三人のやり取りを可笑しそうに見ていたカステルは、食材を準備しながら話に混ざる。


「カステルさんは何だとおもう?」


「え? そうね・・・賢者とかどうかしら?」


「ほう? 伝説上の人物か」


「あれ? 先生どうしたんですか?」

 くすくす楽しそうに笑う姿に、ロップはカステルだったらどんな想像をするのか聞いてくる。どうやらカステルの中でユウヒは賢者のようで、どこからともなく現れたマギー的にも悪くない想像なのか顎に手を添えながら頷いている。


「いやぁこっちに来れば美味しい物が手に入る・・・とか思ってないよ?」


「それじゃあ戻っても良いですよねぇ? 向こうで仕事がまってますよぉ?」


「あはは、ネリネ君は偶に怖いなぁぁぁ・・・」

 どうやら美味しい昼食にありつく為かそんな事を言いだすマギーだったが、直後背後に現れたネリネに後ろ襟を摑まれその言葉を軌道修正する。しかしその甲斐空しくにこにこと微笑むネリネにそのまま引っ張られて行くマギー、どうやら結構な量の仕事が溜まってそうである。


「ネリネさん変わってないなぁ」


「ねぇユウヒさんが神様でも賢者でもいいからさぁご飯にしようよぉ・・・」

 そんなネリネの奇行を懐かしそうに微笑むカステル、彼女曰く切羽詰てる時に余計なイライラが溜まると目元以外が常に笑顔になるのだとかないのだとか・・・。そんなあまり触れない方がよさそうな状況などまったく気にしてないキリノは、一向に進まない昼食の準備に苛立ちたくても空腹で力が入らないと言った感じで力なく肩を落とすのだった。





 まったくネリネ君は偶に怖くなるんだよ、あのハイライトの消えた目で見詰められるのは中々に怖い物があるぞ? しかしユウヒ君の正体ねぇ・・・。


「ところでネリネ君はどう思う?」


「はい?」

 大人しく戻っているからか、それとも急な問い掛けのせいか振り返った表情はいつものネリネ君である。


「ユウヒ君の正体だよ、私的には精霊王とか面白そうだけどね」


「詮索しないとか言ってませんでした? ・・・でもそうですね王室菓子職人とかどうでしょう?」

 私の質問に対するネリネ君の回答は、伝説の存在と予想する私とはまったくベクトルが違うが乙女なネリネ君らしい答えであった。かと言ってあれだけの飴を作れるとなると強ち否定も出来ないのが何ともである。


「確かにあれだけの物を作れれば職人としてやれそうではあるな・・・」





 ここは世界の境界にある空間、管理神が世界の管理をする言わば仕事部屋である。


「なるほど、確かにそう言う物ならこちらで回収した方が良いですね。報告ありがとうございます」


「はい! いいえ! ・・・あ、あの」


「はいなんでしょう?」

 そこにはモニター越しに会話をするアミールの姿、会話の相手はウサミミ女神ことラビーナの様である。どうやら例の危険物に関する話の様で一通り話し終わったラビーナだが、まだ何か知りたいことが有りそうである。


「あのあの、ユウヒ君は大丈夫なのでしょうか?」


「え、えっと特に連絡もありませんし。危険があれば分かるので無事だとは思いますよ?」

 アミールの許可に表情を明るくし、しかし何故か吃りながら尋ねるラビーナその内容はユウヒの事についての様だ。アミール自身ユウヒの事が気になってしょうがなく、そんな内心もありユウヒの名前に過剰反応した様で返答がぎこちなくなる。


「あ、はい私も信仰は切れていないので無事だとは思うんですが・・・」


「ふふ、私も連絡を入れるつもりなので状況を聞いておきますね」

 しかし元から緊張しているラビーナにはアミールの動揺になど気が付くわけも無く、安否が分かっていても気になる心は誤魔化せないようで、頭の上の長い耳が感情に合わせて垂れる。そんなラビーナの様子に母性でもくすぐられたのかアミールは慈愛に満ちた微笑みを向けると優しい声を掛ける。


「は! はい、お願いします! それではありがとうございました!」


「はい・・・ふふ」

 アミールの言葉にまるで無垢な少女のように表情を明るくしたラビーナは、元気よく頭を下げアミールの返事で通信を終える。通信のを終えたアミールはモニターに向けていた視線をそのままその後方へと向け、そこにはとある人物が立っていた。


「どうですか? 家の自慢の娘は、かわいいでしょう?」

 その女性は先ほどまで通信していた女性の母親であり、同時にとある蛇の女神の母親でもある豊穣の女神ラフィールである。どうやら通信では無く直接アミールの下を訪れていたようだ。


「ふふふ、そうですねなんだかこう抱きしめたくなってきますね」


「でしょ! もうね抱き心地最高なのよ! もうそれだけで一世紀は眠れるわぁ」


「あはは、それにしてもここまで来れるほどの方が居るとは知りませんでした」

 アミールがラフィールの娘自慢に率直な感想を伝えると急にヒートアップしだす豊穣の女神ラフィール。そんな姿に苦笑いを浮かべると表情を真剣なものに戻したアミールは感心した様に話し出す。


「うふ、これでも無理してますから・・・もってあと数分でしょう」


「やはりそうでしたか・・・それでも助かりました色々興味深い話もできましたし」

 この空間は管理神と各世界の神が会合することが出来る数少ない場所の一つなのである。しかしアミールが感心しラフィールがその穏やかな笑みに一筋の汗を掻く理由にはこの世界独自の理由がある。


 アミールも解析中なのだがこの世界には謎のシステムが多く、その一つに地上の神族に対する異常なまでの拒絶反応である。世界内に居るだけでは問題ないが一度世界外に干渉しようとすると強烈な魔力負荷がかかるのだ、その為この空間に来るには相当な力量や魔力が必要であり、通信だけでも並みの神族では一分ともたないのである。


「紛失した薬はこちらで対応しますので、これらの処置をよろしくお願いしますわ」


「はい、調査の上的確に対処しておきます」

 そんな背景もある為アミールがラフィールに感心するのも当然なのであった。そのラフィールだがどうやら彼女が集めていた危険物の処理を頼むため直接やってきたようである。これらの危険物処理も管理神の仕事であるが、アミールの前任者はそういった仕事をまったく行なってこなかったようでその危険物は相当な量であり、真面目に対応するアミールも内心益々増える仕事に冷や汗を掻いていたりする。


「く・・・そろそろ辛いですわね、しばらくは通信も難しいかもしれませんがこの世界をよろしくお願いします」


「はい、全力を尽くします。もし魔力の回復に不安があればユウヒさんを訪ねてみてください」

 限界が近づいているのであろう先ほどより若干顔色が白いラフィールは、ふらつきながらもアミールに最後まで礼を尽くし微笑みを崩さない。その姿に感銘を受けたアミールはしっかりと返事をした後、真剣な表情をいつものニコニコとした笑みに戻すとユウヒの名前を出す。


「アミール様が遣わしたお方ですわね・・・しかし人の子とお聞きしましたが?」


「はい、しかしユウヒさんならきっと力になってくれるでしょう。私の名前を出して頂いて構いません」

 アミールの言葉に一瞬キョトンとした顔になるラフィール、しかし彼女の瞳に写ったアミールの表情からはユウヒに対する強い信頼が伝わって来る。


「わかりました、何かあれば頼ってみようと思いますわ・・・それでは失礼します」

 その信頼を読み取ったのであろうラフィールは微笑むと、一度礼をすると退出の言葉と共に空間に溶ける様にその姿を消したのであった。


「・・・かなり無理したみたいですね、しかしここまで拒絶されているなんて普通じゃないですよね」

 また一人だけになった仕事部屋で退出時のラフィールの様子に心配そうな顔をするアミール、その視線をモニターに向けると険しい表情で映し出されたデータを見詰め呟く。システムが起こす結果は分かっていたものの、実際に目の前で見ると予想よりも強力でこの謎のシステムに困惑を深めるアミール。


「・・・今日あたりユウヒさんに連絡した方がいいかな」

 ラフィールには言ったが一応ユウヒにも直接お願いした方が良いかなと、通信装置をそっと指でなぞるアミール、その自然と零れる笑みと頬を染める朱は彼女を美しく彩るのであった。


 きっとここに某先輩が居合わせれば再起不能になっているに違いない・・・。




 いかがでしたでしょうか?


 意外と出来る子ラッセルは表現出来ていたでしょうか。しかしこのまま行くとやはり戦闘描写の壁にぶつかりそうで戦々恐々としてしまいますねw


 それでは次回もまたここでお会いしましょう。さようならー

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