第五十四話 ウルの森と夜の実習
どうもHekutoです。
いつも通り時間かかりましたが更新できました。今回はウルの森を訪れた一行の夜の一時です。いったい何が起こるのか? お楽しみください。
『ウルの森と夜の実習』
夜も更けたウルの森の中、野外実習に来た生徒達は晩御飯を食べ終わり思い思いに過ごし始めていた。そんな中比較的早く夕食にありつけた5班は後片付けも終え焚火にあたりながらまったりとした時間をすごしていた。
「で? 夜も更けてきたがみんなはこれから何をするんだ? 実習があると聞いてはいるが」
「はい! 夜番っす!」
そんな暖かな空気の中、ユウヒがこれからの実習予定について質問する。そんなユウヒに何故か懐いたラッセルが元気よく答える、どうやらユウヒがもたらした高級食材によって予期せず餌付けに成功したようである。と言ってもそれはラッセルだけではないようだが。
「魔法士科は深夜に外でのメディテーションを行った後就寝します」
ラッセルが答えた後、この班やユウヒにも慣れてきたルニスが魔法士科の予定を伝える。やはり科が違うためかやることも行動も違うようである。
「冒険者科は交代で夜番なんだけどうちは2人だから・・・配分どうする?」
「ん? 眠くなったら交代でいんじゃね?」
「・・・・・・それでいっか」
「ええ!?」
この班の冒険者科は二人の為キリノがどうするかラッセルと相談し始める。しかしその決定した内容にカステルは驚き声を上げる。通常の冒険者パーティではきっちり時間を決めて交代するのが一般的であり、カステルも冒険者をやり始めた頃からそう言うものだと教えられてきた為、その内容に驚くのも無理はない。
「ふむ、明日もやるのか?」
「はい夜は最終日まで同じ実習です」
「なら今日はそれで行って駄目なら明日変えればいいさ」
そんな驚き慌てるカステルを見ながらキリノに質問をしたユウヒは、行動方針に対して特に口を挟まないことにしたようだ。
「いいんでしょうか?」
「実習なんだし色々試して自分に合ったやり方やみんなに合ったやり方を探すのもいいさ・・・俺らも居るしな」
基本に沿わないやり方に若干の不安を感じるカステルに、ユウヒは試せるうちに色々やってみることは悪い事ではないと、そして護衛の自分達も居るのだからとカステルに少し笑いながら説明した。
「そうですね、なら私たちも交代で」
「いやーカステルは魔法士科に付き合って寝て良いよ?」
「え? でもそれじゃ」
そんな余裕のあるユウヒの姿に、なるほどと一つ頷くと今度は護衛である自分たちの予定について話し始めるがユウヒの反応に疑問顔で戸惑うカステル。
「んー俺この間不寝番中に寝ちゃってね、良い機会だし訓練になるかなと」
『不寝番!?』
そんなカステルについこの間の失敗談を話すユウヒ、しかしそんなユウヒの話に反応したのはカステルでは無く5班の生徒達であった。
一般的に冒険者不寝番をすることは少ない、それはいついかなる状況においても実力を十分に発揮できるように、そしてリスクをなるべく下げる冒険者故の考え方である。それでもやらないといけない時は1日だろうが3日だろうが寝ないのが冒険者である。しかし現実そんなケースは少なく、学生である5班の生徒が驚くのも無理はない。
「プロってそんな事もするんですか!?」
「・・・ロップ冒険者無理かも」
「ユウヒさん、どんな依頼受けたんですか?」
そんなことまでするのかと声を上げるラッセル、自分の垂れ耳を両手で掴み顔を隠して肩を落とすロップ、そんなロップの頭を撫でながら話の続きを聞くカステル、他の者も不寝番を想像したのか嫌そうな顔をしている。
「ん? 近くの遺跡へ採取の護衛だね」
「・・・あ、もしかしてソロで受けたから?」
「うん、護衛対象も一人だったからねぇまさか護衛対象の女の子に夜番させるわけにはいかなかったし」
「女の子・・・」
特に変な事を言った認識の無いユウヒは首を傾げながらついこの間の依頼について話す、するとカステルは何かに気が付いた様にユウヒを見ながら質問する。しかしそんな自分の反応に帰って来たユウヒの話す内容の一部に気になるワードがあったようで微妙な反応をしてしまうカステルであった。
「うん、まぁ寝てしまった理由は眠気とは別にありそうだけど」
「(わ、私だけじゃないよ!?)」「(だからそれじゃバレバレだって!?)」「(たいきゃーく!)」
しかしそんな話をするユウヒも本来なら寝てしまうほど眠気があったわけでは無い、それもそのはずユウヒがあの時アミールから貰った力の一つ【狩人の心得】には眠気や怠さなど緊急時に邪魔になるような精神的又、肉体的疲労をカットする効果がある為やろうと思えば寝ずに1日だろうが1か月だろうが余裕で行動し続けられるのである。
そんな事はユウヒも知らないのだが自分の体調の事は良く分かっているわけであり、又何となく原因にも予想が付いているようでスッと一瞬だけ疑惑の眼差しをある方向に向ける。するとどうでしょう! 普通の人には見ることのできない青い3つの小さな人影が慌てふためきその場を退散したのです。
「(やっぱりか・・・)そんなわけで少し離れたところで番してるから」
「・・・そうですかわかりました。それでは私はメディテーションの方についてますね」
「「「「よろしくお願いしまーす」」」」
「はい」
そんな精霊達の姿にユウヒは心の中で苦笑いを浮かべながら自分の予定をカステルに伝える。ユウヒの説明にカステルは何か考えた後、納得した様に微笑むと自分もアドバイスが出来る魔法士科に付き合うと返事をする。どうやら自分だけ何もしないわけにはいかないと思った様で何が出来るか考えていたようだ。
「ふんふん、でもなんで離れた場所? 一緒で良いのに」
「それじゃ実習にならんだろうに、一人と二人では結構違うからな」
「「なるほど」」
ユウヒとカステルの話し合いを頷きながら聞いていたキリノだったが、ユウヒがなぜ暖かい焚火から離れて一人で番をするのか分からず質問するも、ユウヒの返答にラッセルと同時に納得の声を上げる。
「それじゃ俺はこの辺で」
「あ・・・それじゃ私たちも行こうか、夜番お願いね」
「「はい!」」
ユウヒは冒険者二人の息の合った動きに微笑ましそうに笑うと立ち上がり場所を移動しだす。そんなユウヒに合わせてカステルも夜番をする二人を激励すると魔法士科の子達と移動を開始する。
「じゃどっちが先か!」
「勝負!」
カステルの激励に元気よく返事をした二人は互いににらみ合うとジャンケンを開始する。この二人普段はよく喧嘩しているようだが、こういう時は非常に息が合っておりそれだけでも互いの関係が良好である事が分かる。ついでにこの世界にもジャンケンはある様で若干の特徴はあるもののほとんどユウヒの知っているジャンケンと違いは無いようである。
そんな激戦? を見送ったこちらは魔法士科組、メディテーションを行うには落ち着いた空間と集中力が必要なため焚火から移動してきたようである。
「ラッセルもキリノも元気だね」
「流石冒険者科って感じだよね」
ルニスとレムリィは魔法士科には無い元気な二人の姿に笑いを溢す。その姿からは呆れ半分羨ましさ半分と言った感じの感情が読み取れる。
「ロップはもう眠いよ・・・」
「・・・お前はいつも眠たそうじゃないか」
「そうかな?」
「そうだろ」
笑いを零す二人の先を歩くロップは眠たいのかフラフラと覚束ない足取りで歩いているが、不思議と躓くことなく歩けている。そんなロップに呆れたようにツッコミをいれるサワーリャは、一番厚着をしているものの寒いのか肩を縮めロップの後ろを歩く。カステルはそんな二人の漫才のようなやり取りを面白そうに見つめ一番後ろを付いていきながら、
「はいはい、早く寝たいならしっかりメディテーションして明日に備えようね? 魔力切れなんて冒険中や作戦中だと洒落にならない時あるから」
「あの、野外でのメディテーションの心構えって何かあるのでしょうか?」
眠たそうなロップに頑張るように言うと、ルニスがコツを聞いてくる。ロップも興味があるのかカステルを見上げ、サワーリャも体温の高いロップに抱き着きながら耳を傾けている。
「そうね、基本的にメディ中はテント内とか守ってもらいながらってのが多いけど集中のしすぎは咄嗟に動けないから何割かは周囲の注意に回す感じかな」
「ロップそれ得意かも!」
「お前の場合は注意力散漫なだけだ、がそれが良い事もあるのか・・いやしかし・・」
少し考えたカステルは実体験から来るアドバイスを話すと、それを聞いたロップが急に元気に返事をする。しかしそんなロップにサワーリャが顎をロップの頭にのせながら指摘するも全部が全部だめではないのかと悩みだす。
「ロップさんは兎族のハーフかな?」
「そうだよ、ロップは小兎族と人族とのハーフなんだよ!」
「なるほど、それなら種族的にも注意が外に向くのは仕方ない所があるのかもね」
ロップとサワーリャのやり取りと聞いていたカステルはロップに質問をする。すると眠気はどこに行ったのか嬉しそうに答えるロップ、そんなロップの答えになるほどと納得したように頷きながら笑いかけるカステル。
基本的に獣人族やハーフはその見た目から判断が付くことが多いのだが、この世界の種族は細かく分けるととても多く、同じ兎族と言っても大兎族や少兎族、さらに細かく分けると臆病で大人しい性格であるロップ達白垂れ耳小兎族や非常に好奇心と探究心が強く戦いも好む黒長耳兎族などその数は様々である。カステルが納得したのもその為でロップの血の半分はとても警戒心が強いのである。
「えへへぇってわぷ!?」
「・・カステルさんこいつは甘やかすと甘え続けるので注意してください」
カステルの納得の声と微笑みに何故か照れはじめるロップ、しかしサワーリャはこの兎族の娘の性格をよく知っているようで、小さく溜め息を吐くと少しきつめに頭を抱きながらカステルに経験からくるものであろうロップの取り扱い注意事項を伝えるのであった。
「あはは、それじゃ私はここにいるので何かあったら言ってね?」
「「「「はーい」」」」
そんな仲の良い二人の姿に楽しそうに笑い声を零すと、魔法士科の生徒達に実習の開始を促し、生徒達も楽しそうに返事をすると各々メディテーションの準備に入るのだった。
暗い森の中ちらほらと焚火の灯りが森を照らし、それでもこの辺りは暗く月明かりを感じる事が出来る。と言っても【探知】の魔法のおかげで昼間のように森の中を見通すことが出来るのだが。
「この木が良いかな、よっと!」
「・・・・・・」
「・・・黙って後ろに立たれるのはちょっと怖いのだが」
何か合っても直ぐに駆けつける事が出来る程度に離れた場所に大きな樹があったので、今日はこの樹の上で不寝番の練習をすることに決め【身体強化】の力で飛び上がり手頃な太さの枝に腰を落ち着ける。するとすぐに俺の後方に何者かが現れ【探知】の魔法が反応する。
「・・・気配消してたのに」
「魔法で索敵してるからな」
「・・・・・・ほんとだ、精霊が集中しないと気が付かない探査系魔法なんて・・・んー?」
後方の非常に薄い気配に話しかけると今日出会ったばかりの木の精霊がびっくりした様に疑問を述べるが、俺の言葉に魔法を使ってるのが解ったようで何か呟きながら眉を寄せ目を凝らし俺を見詰めてくる。
「そうなのか? ふむ、まいいか」
「何をしてるの?」
小声で何かぶつぶつ言ってるのを聞いてみると俺の妄想魔法を分析している様である。たぶん俺の妄想や想像が作用して強化された結果分かり難くなっているのでは、と思われるも聞かれたところで説明できないので、俺は考えを放棄してバックから荷物を取出し始める。そんな俺の様子にこちらも分析するのを止めたのか木の精霊が話しかけてくる。
「おうさっき貰った物で何か作ろうと思ってな・・・今から使う魔法を内緒にしてくれるなら見てても構わんぞ?」
「内緒・・・どうして?」
「んーあまり人に知られたくないんだよ騒ぎになりそうだし」
キョトンとした顔で隣に座り俺を見上げてくる木の精霊、俺にも慣れたのだろうかすぐ隣まで近づいて来た彼女を改めてよく見た感想は、お人形のような整った可愛い顔つきに綺麗な緑色の瞳が似合っていて、背格好は小学生高学年と言ったところである。その瞳には俺の行動への興味の色が灯っているようだ。
「・・・私は良いの?」
「精霊には隠し通せない気がするし、知ったところで悪用しないだろ?」
「・・・うん」
周辺監視の片手間に手に入れた素材と精霊の贈り物を使った合成魔法を楽しもうと思っていた俺は、精霊の御嬢さんにそう内緒にしてくれるように頼むと、不思議そうに俺の顔を見上げると自分は良いのかと聞いてくる。実際この森でやる以上彼女にはばれてしまうだろうし、精霊なら悪い事はしないだろうと言う曖昧かつ漠然とした考えしかないのだが、俺の答えに何を考えてるのか読めない透き通った瞳でしばらく俺を見つめた後小さく頷き返事をする。どうやらこの子も良い子のようで一安心である。
「そう言うわけで精霊は信用してるってことさ、偶に無邪気さに振り回されるが」
「あの子達はまだ幼いから」
「確かにそんな感じだな・・・」
そんな彼女の返事を確認すると、俺は先ずは良い子で行軍を頑張っていた魔法士科の娘達にとバックから飴玉の材料になりそうな果物を取り出す。実はウルの森に着いてすぐに注意事項と班分けが行われた為渡す暇が無く、良い素材が手に入ったのでどうせならもっとおいしい飴をと思ったのである。合成の準備をする間も精霊とおしゃべりしているのだが、その口ぶりからは彼女もそれなりに精霊としての年月をすごしている事を感じた。ミズナと同じ落ち着きを感じるのでこの娘もそのくらいなのだろうか・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
合成にはそれなりに集中力が居るので話を止め、俺は手の中で光の粒子になり舞い踊る素材に意識を向ける。自然とお互い無言になるが俺は手の中から視線を外せないので、その間彼女がどういう表情をしているか少し気になるも、見ることは出来ずに短い時間は過ぎ静寂の中魔力の光が消えていくと俺の手の中には数個の綺麗な茜色の飴玉が姿を現す。
「・・・あなた賢者か錬金術師だったのね、珍しい」
「そんなに珍しいのか」
「ええ、ここ千年以上見てないかな」
俺は無事完成したことにホッとして横を見ると、そこには目を大きく見開いて俺と手のひらの飴玉を交互に見詰める可愛い精霊の姿があった。俺はずっとこの合成魔法もこの世界では比較的有り得る方の魔法なのかも知れないと思っていたのだが、精霊もびっくりする魔法だったようである。正直これほど隠し事をしていてよかったと思ったのは、妹にサンタクロースの真実を隠し通せたとき以来であろうか・・まぁ親父が即座にばらして母さんにアイアンクローされてたけどね。
「・・・・・・隠してて正解だったな」
「合成魔法、しかもかなり強力・・・強い力は色々なもの呼び込むから、気を付けてね」
昔の微笑ましい記憶を思い出しつつ、この寒気すら感じる森の中で何故か頬に汗をながしていると、真剣な顔なのだろう眉をきゅっと寄せた精霊が俺の心配をしてくれる。が正直そんな表情も可愛い物で若干和んでしまう俺であった。
「心配してくれてありがとさん」
「くす・・・気に入った人間が困ってる姿なんて見たくないもの」
「・・・」
しかしお礼を言った俺は次の瞬間彼女の表情とその瞳に揺れる怪しい光に何故かデジャビュを感じた。
「良い物見れたお返しに私の名前教えてあげる。」
「え? ちょ!? おおっとっとー!?」
「・・・私の名前はモミジ」
その瞳がすっと近づいて来るような気がした時にはもう遅く、彼女の小さな柔らかい唇が俺の頬、すでに唇と言った方が早いような場所に柔らかく押し当てられていた。俺に寄り掛かるような数秒の接触の後、彼女はゆっくり離れ俺の瞳を覗き込むと名前を残し虚空へと姿を消していった。
「お、おう・・・」
(いつでも呼んでね・・・水の者に独り占めされるのも癪だし)
まさか一度ならず二度までも不意を突かれるとは思っていなかった俺は妙な返事しかできず、どこからともなく耳に入るモミジの声にはそれまでに無かった悪戯っ子の様な笑い声が含まれていたのであった。
「・・・はぁ、いったい何が原因なんだろ・・・でも今のって傍から見たら俺ロリ・・・・・・うぅん」
しばらく放心していた俺は頭を掻きながら溜息を吐くと最近立て続けに起きるこの事態と、先ほどの状況に唸り声を上げるしか無く。
「考えるのやめよう! 合成だ合成! 次はなにつくるかな~」
(これはゆゆしきじたい)(ねえさんに報告だ!)(・・・やめた方が良いと思うけどなぁ)
又、水の小精霊達がそんな会話をしていることなど知るわけも無く、俺は深まる夜の中適度に周囲警戒をしつつ合成で妙な事を考えそうな自分の意識を誤魔化し続けるのであった。
ユウヒにロリコン疑惑? が浮上しそうな頃、遥か遠く次元を超えたとある建物。そこには軽装武装をした数人の男女がハンドサインを交え身を低くしながら扉の前に集まっていた。そして次の瞬間・・・。
「世界間管理違反調査員である! 全員動くな!」
先頭にいる人物のハンドサインに頷き合った者達は次の瞬間バンッ! と言う大きな音をたてながら扉を蹴破ると室内に雪崩れ込み全周囲を警戒しながら大きな声を上げる。
「・・・誰も居ないな」
「まぁた逃げられたかぁ・・・」
しかしその室内には誰も居らず、室内に入った調査員達が周囲警戒を緩めるとその後ろからスレンダーな女性と小柄で全体的に白い少女が頭を掻き疲れたような声を出しながらだらだらと入ってくる。
「逃げてからそう経ってないようです!」
「そうだね、それじゃ君達は逃走経路と逃走先の特定を急いでくれ」
『はっ!』
すでに何度か同じ状況に合ってきたのだろう、女性は頭を掻きながら疲れた様子を隠しもしていない。そんな女性に室内を調べていた男性が部屋の状況を伝えると、女性はすぐに気をとり直し背筋を伸ばすと指示を出しその声に武装した者達はキビキビとした動きで返事をし行動を開始する。そろそろ気が付いている人も居そうだがこの女性は先輩の呼び名で呼ばれることが多い女性ステラである。
「ワシらは証拠調査かの」
「そうですね、何かあればいいのですが」
さらにこちらの室内にある金で出来た彫像の数々眉を寄せ微妙な表情で見詰めている白い少女は、現在ステラの上司にあたるジジイモード封印され中のイリシスタである。どうやら彼女達の仕事はその会話からも伝わるように行き詰っているみたいである。
「ではワシは無い方に賭けようかの」
「何を賭けます?」
「それじゃ今日のディナーを賭けようではないか」
「良いですね」
そんな行き詰った中では仕事の内容でも賭けにして息抜きをしないとやってられないのか、慣れた感じで賭けの内容を決めていく二人。
「当然全員分じゃぞ?」
「え? 全員? いやちょ」
『ご馳走様です!』
賭けに了承しお互いにニヤリと笑みを溢すが、イリシスタの付け加えにキョトンとした顔で聞き返すステラ、慌てて内容変更を試みようとするもしっかりと聞いていたのであろう、部下の武装職員達が部屋の奥から事前御礼の声を上げる。
「ちょっと待ってくれないかな!? この流れだと私が奢る感じだけど賭けだからね!?」
「そうじゃぞ賭けなのじゃ・・・まぁご馳走様ですと言っておこうかの」
「・・・まさか!? ・・・い、いやきっと何かあるはず!」
そんなまるで打ち合わせたかのような場の流れに慌てると、よく言い聞かせようとするステラ。しかしイリシスタは調度品をやはり微妙な表情で眺めながら横目でニヤリとステラに視線を向ける。
「ほっほっほステラ君は真面目じゃのぅ」
「流石イリシスタ様だな」「調査で右に出る者は居ないと言うだけあるね」「隠し事できないな」
慌てて証拠とやらを探し始めるステラを愉快そうに見つめるイリシスタ、そんな自分達の上司の姿に畏敬にも似た感情の篭った声を上げる職員達。
「なんじゃ? ワシに隠し事でもあるのかの?」
「な、ないですよそんなの!?なぁ?」「お、おう全然ないさ・・・なぁ?」「ナイヨデス!?」
「ふむ、そうびくびくするでない。早々他人のプライバシーまで踏み込むことはせん」
「「「ほっ・・・」」」
そんな職員達の雑談が耳に入ったのか悪戯っ子の様な目を向けると笑いながら職員達に問うイリシスタ、そんな姿に何故か吃り慌てる職員達。慌てる職員達の姿に楽しそうに表情を歪めながらも安心しろと声を掛けるイリシスタの姿に心底ほっとする職員達・・・しかし、
「しかし【管理神で一番妹にしたい娘ランキング】はステラ君にばれんようにの」
「「「げっ!?」」」
「それから【あの娘に罵られたいハァハァランキング】からワシの名を抜いておくのをオススメしようかの?」
「「「サー! イエス! サー!」」」
続いて出たイリシスタの言葉にホッとした顔から一変顔を青褪めるさせる職員達。どうやらそのランキングにはステラを怒らせる人物も入っているようである。そして二言目では何故バレたか分からないと言った顔で本能的に敬礼をする職員達・・何とも残念な管理神である。
「ふふふ・・・今の姿だとサーよりマムな気もするが、まぁいいじゃろこっちは任せたぞ?」
「「「はっ! 全力を尽くします!」」」
「さて、ステラをそろそろ止めないと調査物件が破壊されかねんな」
この一場面だけなら素晴らしく統率された軍人のようにも見えるが、くるりと背中を向け奥の部屋に向かうイリシスタの後ろでは数人の男女が膝をついて項垂れ始めるのだった。
ワシが奥にある広い部屋まで来るとそこでは予想通りであり予想以上に荒れたステラの姿があった。確かに給料前で苦しい時期じゃが少々荒れすぎじゃの、やはりストレスじゃろうか。
「証拠はどこだーーー!!」
「ステラ殿おちついて!?」「証拠以前に建物が壊れます!?」「荒れてるなまぶべら!?」「大丈夫か!? 傷は浅いぞ! 衛生兵えいせいへーい」
書類は散乱し家具はどれも退かされ、普段光の当たらない部分に見られる色合いの違いが良く分かる状態になっている。それを成したステラは今も証拠を探しているのであろう大きな金庫を持ち上げてぶん投げ・・・ふむ後で治療してやるかの、とりあえずアレを止めるとするかのぅまったく。
「しょうこーー!」「「「うわぁぁぁ!?」」」
「・・・・・・煽りすぎたか」
ここまで暴れていては手加減が難しいがそこは諦めてもらうとして少し実験、もとい試し打ちに付き合ってもらうとしよう。とある電気街で買ってきた活殺法とか言う本に書いてあった・・えーと相手の急所をねじり込むように突くべしだったかの? それではせーのっえい♪ ・・・。
「最近ストレスたまってたからの・・・えい♪」
「しょうこみょ!?」
うむちゃんと気絶したな当身じゃったか? 素晴らしい技術じゃ
「すげ・・・一撃とか」「今良い角度で入ったな」「可愛い声で当身とかハァハァ」「あれは当身のレベルか?」
「証拠になりそうな物は無いの(・・・しかしAの一族はほんと逃げるのが早いのぉ)」
とりあえずステラは襟をつかんで引き摺って行くとして、周りの惨状から必要な情報を収集する。どうやら本当に証拠になりそうな物は無い様じゃし本当に逃げ足だけは早い一族じゃ、これはさっさと帰るにつきるの。
「逃走経路等が分かったら撤収するぞ」
「了解です」「哀れステラ殿ご馳走様です」「今日の晩飯楽しみだな」「高い店は・・・やめとくか」『だな・・・』
そうじゃったそうじゃった♪ 今日は何を食べるかの、基本的に管理神は食事をする必要は無いのじゃが、遥か昔に人の食文化に染まってからは毎日食べる夕餉が管理神の楽しみの一つとなっておるからの。ワシが建物出る為にステラを引きずって行くと部下達が楽しそうに拝んでいく、急遽編成された部隊じゃが、どうしてうまく馴染んできたようで良い事じゃ。
いかがでしたでしょうか?
いつも通りのユウヒだったのではないでしょうか? そしてちょいちょい管理神サイドも出てきます。あのあと先輩さんがどうなったかは・・・。
それでは、またここでお会いしましょう。さようならー!




