1閑話:シードル
依頼修正の手続きをエフェスが行い、それが裏方に受理されてきちんと処理されるのを待つ間、二人は雑談をしていた。その最中、セデルが思い出したと言いたげに『収納』から小振りの瓶を取り出した。
「エフェスさん、これ、今回のお土産です。リンゴが名産だったんで、シードルを買ってきました」
「ありがとう、セデルくん!」
そう言ってエフェスは、セデルが差し出したシードルの瓶を受け取った。実に幸せそうに満面の笑みを浮かべるエフェスに、セデルも嬉しそうだった。
エフェスは裕福な商家の娘として育った結果、幼少時から美味しいものに触れてきた。そんな彼女の趣味は、食べ歩きである。エフェスは、食事も甘味も酒もどんとこいの、食い道楽であった。
シードルの瓶を手ににこにこ笑顔のエフェスに、セデルは口を開いた。
「エフェスさん、酒は辛口でも大丈夫だって聞いてたんで、そのシードルはキリリと辛口ってやつにしました」
「あら、珍しい。シードルって売りにしてるのは甘口の方が多くないかしら?」
「そっちもあったんですけど、色んな種類が置いてあったので、辛口が珍しいかなと思って」
「素晴らしい判断だわ。ありがとう、セデルくん」
「いえ、喜んでもらえて良かったです」
力一杯褒めるエフェスに、セデルは照れたように笑った。新人の頃から面倒を見ているこの青年の、こういうところがエフェスは気に入っている。何年経っても謙虚で、真面目で、一生懸命だ。
なお、セデルがエフェスに土産を持ってくるのは、彼の『収納』が食べ物を運べるという強みを持っているからだ。もっと言うならば、お仕事完了の報告をする度に、セデルが世間話で何を食べたか、何が美味しかったかを話してきた結果である。
エフェスは食い道楽だ。それは自他共に認めるもので、配達屋ギルド内でも有名である。しかし彼女は受付を担当してるので、休みはあっても遠方にまで出かけるほど時間の余裕はない。
セデルの話を羨ましいと思ったエフェスがぽつりとこぼした、「……セデルくんの『収納』ならその料理、お持ち帰り出来そうよね……」との言葉が発端である。言った方も言われた方も「それだ!」みたいになったのだ。
それ以降、セデルは仕事で赴いた先で美味しいものがあったら、それをエフェスに土産として買ってくるようになった。流石に年下の子にお金を出させるのもアレなので、今ではエフェスが月の終わりにまとめて代金を支払うようになっている。
「セデルくんもシードル飲んだの?」
「僕は甘口にしました。お酒はあんまり得意じゃないので」
「そのうち飲めるようになるんじゃないかしら?」
「だと良いですけど」
楽しそうに笑うエフェスに、セデルも笑った。のどかで平和な、仕事の合間のいつもの配達屋ギルドの光景であった。




