空神楽(からかぐら)
化物草紙 実話怪談短編集用に作っていた話です。
時間が経ったらそちらに加えます。
埼玉県に住むTさんから聞いた話だ。
Tさんが高校生だった頃のこと。
当時は夏休みになると友人たちと夜中まで自転車で走り回っていた。
その日も近くの河川敷で遊んだ帰りだった。
時刻は深夜1時過ぎ。
田んぼばかりの農道を3人で走っていた。
すると遠くから音が聞こえてきた。
ピーヒャラ、ドンドン。ワーワー。
笛と太鼓。祭囃子だった。
最初はどこかの神社で祭りでもやっているのだと思った。
だがすぐにおかしいと気づく。
この辺りに神社はない。
それに、こんな時間に祭りをやるはずもない。
「……なんでこんな時間に祭りなんかやってんだ?」
友人の1人が言った。
自転車を止めて耳を澄ます。
確かに聞こえる。
笛。太鼓。人のざわめき。
音源の付近には明かりがまったく見えなかった。
Tさんたちは自転車を置いて、音のする方へ歩いていった。
ところが進むと音も遠ざかる。
止まるとまた近くに聞こえる。
進むとまた遠ざかる。
そんなことを何度か繰り返した。
遊ばれているかのような感覚を覚え、その日は帰ったという。
翌日、夕方に改めて仲間たちと現場へ行った。
やはり田んぼしかなかった。
とても祭りができるような場所ではない。
その後も同じ時間帯に何度か同じような祭りの音を聞いた。
毎回、同じ場所だったという。
それからかなりの年月が経った。
Tさんは就職で地元を離れており、久しぶりに帰省した時、あの場所の近くを通った。
開発により田んぼは無くなり、大きな公園ができていた。
掲示板には夏祭り開催!と日付と一緒に大きく書いてあった。
親族に聞いたところ、開発が進んで祭りを行政が主催するようになったらしく、大きく派手にやっているとのことだった。
Tさんはその年、祭りに行ってみた。
夜になると笛と太鼓が鳴り始める。
聞いた瞬間、妙な気分になったそうだ。
高校生の時に田んぼの中で聞いた音と、まったく同じに思えたからだった。
曲も、テンポも、太鼓の打ち方も同じだった。
ただ違ったのは、その時はちゃんと人がいて、明かりがあったことだった。
Tさんは笑いながら話していた。
「未来の祭りの音でも聞いたのかね」
あの夜、田んぼの真ん中で聞こえていた祭囃子が何だったのかは、今でも分からないそうだ。




