第55話 お飾りではなかった
その半年後、滞りなく準備が進められマルグ国王シュマイゼルとアイリーン・レイクリフ公爵令嬢の結婚式が華々しく行われた。
真っ白な上質な絹にマルグ国の紋章が金糸で縫い取りがしてあり、薄く透けるヴェールにもドレスにもたくさんのダイヤがちりばめられ、陽の光に照らされて、キラキラと輝いていた。胸にはマルグ国の至宝である巨大なダイヤモンドが飾られ、王の結婚式に相応しい華やかな式であったという。
誰もが喜び、誰もが認めた美しい花嫁と花婿、そして息子の姿は国民に大いなる幸せをもたらした。
「さあ、アイリ。今日は4番街のレストランにお忍びですよ」
「ま、待ってくださいゼル様!」
「お義父様もお母様もあまり遅くならないでくださいよ~」
恋人らしいことをしたことがなかったアイリーンをシュマイゼルは良く城下に連れ出し、お忍びデートを楽しんでいる。城下町はローランドとヴィッツという腕利きの賞金稼ぎのお陰で悪党がいなくなって、大幅に治安があがって貴人のお忍び姿が増えている。
「あらあら。また来てるよ」
「今日は4番街でデートだそうだ」
「全く妬けるくらい仲が良いねえ」
お忍びといいながらも、良く目立つ二人は国民から暖かい目で見守られていたし、時にはレンブラントも一緒に出掛けていたりもした。
「今のうちに出かけないともう出かけるのも億劫になるでしょう?」
「え? あの……」
アイリーンの手を握り、平民にしてはちょっと立派なシャツのシュマイゼルが申し訳なさそうに声をかける。
「すみません、医者が出入りしているのを見てしまいまして……」
「あ……お、お伝えしようと思ってはいたのですが……まだ、3か月ほどで……」
「とても、嬉しいです!」
そっとお腹を撫でながらそんなことを街角でやっているもので、耳ざとい城下町の者に聞かれて
「王妃様ご懐妊だってよ!!」
「お! まじかー! こりゃめでたい!」
「祝杯だ祝杯!」
各所へ報告する前に城下町がお祭り騒ぎになっていたりした。
「弟でしょうか? 妹でしょうか……とても楽しみです!」
「レンにもたくさん婚約のお誘いが届いていますよ?」
自分にはあの愚父の血が流れているから、と断り続けているレンブラントだが、国内の「婿取り」を希望している女子からものすごく熱い手紙を貰っている。
「しかし、母上……」
「大丈夫よ、貴方が道を間違えそうになったら正してくれる女の子と結婚したらいいのよ。一人で何でもやることはないのですからね」
「はいっ!」
その後アイリーンはシュマイゼル王との間に4人の子供を設けたが、子供達は全員仲が良く、マルグ国は当初の予定通り第二王子のライオネルが継いだ。子供達は全員第一王子のレンブラントが王位を継ぐことを望んだが、レンブラント自身が固辞した為だった。
レイクリフ家も紆余曲折あったが、フレジットとキャロラインの息子であるチャールズが才覚をみせている。そして娘のシュリーシアは伝説の熊女の素養を受け継いでしまったらしく、祖母であるアイーダが
「まだ引退できないわ」
と、零しているらしい。
睡蓮の葉の上でケロケロと鳴くカエルには人々の喜びも悲しみも伝わってはいないようだ。
お飾りではなかった王妃は、その力を愛する人の為に良く使い、とても幸せに暮らしました。
本編・終




