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お飾りではなかった王妃の実力  作者: 鏑木うりこ


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第46話 熊女と凄腕調教師

「貴女は歩くことも出来ないのですか」

「こ、こんなかかとの靴で歩ける訳ないじゃない!」

「歩けます。高位貴族であればもっとかかとの高い靴を履きます。重心をきちんととれば何の問題もありません」

「嘘よ!」


 キャロラインは叫んだが、アイーダ自身がキャロラインが脱ぎ捨てた靴よりかかとの高い物を履いている。目の前で体がぶれる事もなく、美しく歩くアイーダをみて、むうっと口を尖らせる。


「早く立ちなさい。なんてみっともない。その顔はなんです?  魚みたいな顔をして。人間を辞めて海にでも帰るのかしら?  止めませんわよ」

「う……うるさいっうるさいっ!」


 驚くべきことにキャロラインは何一つ出来なかった。マナーから立ち振る舞い、勉強に至るまで酷い物で、粗暴な熊女の名前こそふさわしかった。

 アイーダは執務室にいるレイクリフ公爵に話を聞きに行き更に驚く事実を知る。


「お義父様。キャロラインの学園生活は一体どうなっていたのですか?  キャロラインの年ではまだ学園に在学しているはずですよね?  何故、家にいるのです?」

「そ、それが……もう出席しなくて良いと……」


 学園から来た手紙を恐る恐る出してくる公爵に流石のアイーダも「ま」と一声上げた。


「勉強はD(不可)、ダンスもD、教養もD。学園生活の風紀を著しく乱す者として、登校を不許可とする……?  こんな通知は初めてみましたわ」

「わしも目を疑ったよ……」


 がっくりと肩を落とす公爵。アイーダは深くため息をついてから


「はあ……これではどこにも嫁がせる訳には行きませんね。どこへ出しても公爵家の品位を下げる事になってしまう」

「まさかここまでとは……」




 それでもアイーダは真面目な顔でキャロラインの部屋へ向かった。部屋の前に着くと軟禁して誰とも会ってはならないと言ってある部屋の中から話し声が聞こえ、眉をひそめた。


「お嬢様、大丈夫ですか? 甘いお菓子を持って参りました」

「お嬢様、お疲れでしょう? まったくあの女と来たら!」

「お嬢様は素敵なんですからそのままで十分ですよ? もしかしたらシュマイゼル王に見初められてしまうかもしれませんわ!」


「あはは、やっぱりそうよね! 私ほどの美貌があれば、あんな堅苦しいマナーなんてなくても高貴なお方の寵愛を得ることなど容易いわ! おーっほっほっほ!」


 下品な高笑い。閉ざされた扉の外にも聞こえる大声。


「本当に凄まじい事。熊の調教と言われても不思議ではないわね?」


 そしてアイーダは部屋に踏み込み、以前からこの家にいたメイド3人を即刻解雇し、次への紹介状も出さなかった。


「主人に歯向かうメイドをいつまでも雇う訳がない事くらい承知ですね?」

「ひい!」


 恐れ慄く3人のメイドの前に果敢にもキャロラインはアイーダに立ちはだかった。


「やめなさいよ! この3人は小さな頃から私を慈しんでくれたメイド達よ! 勝手に辞めさせるなんて私が許さないわ!」

「貴女の許しなど必要ありません。慈しむ? 何を惚けているのです、その者達は貴女に甘言を囁き堕落させた者。何故禁止されたいたずらに甘いだけの菓子を食べているのです?」

「そ、それは私の事を可哀想に思って……」

「貴女は公爵令嬢。メイドに可哀想に思われる存在ではありません。考え無しの甘やかしのせいで貴女は令嬢として無価値な人間になっている事を自覚しなさい」

「わ、私は無価値ではないわ!」


 冷静なアイーダはそうね、と付け加える。


「無、以下でした。貴女を外に出すだけでレイクリフ公爵家の価値を下げるとんでもない存在。まさか自分の置かれている立場を知らないとは言わせませんよ?」

「うっ……」

「学園開校以来の問題児。全ての先生に見捨てられ、登校する事を拒否された。これだけでもレイクリフ家の評判を地に落とし、踏み躙った事はお分かりになっているわね?」

「わ、私は悪く……」

「悪いです」

「ううっ」


 流石に学園の事を言われるとキャロラインも黙った。甘やかされ、マナーの一つも覚えず空気も読めないキャロラインは孤立するのも一瞬だったし、それを何とかする機転もなかった。ただ、怒鳴り散らし暴れて……こうなった。


「それに……あなた達、入ってきて」

「はい、奥様」


 アイーダが連れてきたメイド達がトレイの上にアクセサリーや万年筆、高価なハンカチなどを乗せて持ってきた。


「えっ?!」


 驚くキャロラインに


「ひっ?!」


 と、声を上げる3人のメイド。


「その3人の部屋から持って参りました。キャロライン、見覚えは?」

「わ、私……私の物だわ。無くしたと思っていた……お母様に唯一いただいた誕生日プレゼントのネックレス……お祖父様にいただいた万年筆……まさか」


 アイーダは溜息をつく。


「随分の手癖の悪い忠臣だこと。ここのメイド達はメイドなのに持ち物が高価だったし、不相応の宝飾品をかなり持っていた。調べれば買取に頻繁に通っている。すぐに分かったわよ」

「う、嘘……嘘よ……メイドが私の物を盗んでいたなんて……」


 愕然と座り込むキャロラインにアイーダはそれ以上声はかけなかった。そんなメイドしか信じる事が出来なかったのは哀れだと思うが、そんな鎖は断ち切ってしまわねばならない。


「この家のメイドが盗みを働くのは普通になっていたわね。ほぼ全員何かしら悪事を働いていました。諌めよう、告発しようと思った者はすぐに解雇させられていた。嘆かわしい」


 それでもアイーダはキャロラインを突き放しはしなかった。


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