第45話 スピード離婚(王妃が去った国
「戻る……? いや、結構。私達もこれから行く所があるので」
「そ、それはアイリーンの……マルグ国ではないでしょうな!?」
「それはお答えいたしかねますな」
ダルク公爵は城からかなり離れた場所で西の隣国の大使を乗せた馬車を止めることに成功したが、城へ戻るとは言ってもらえなかった。何の成果もなく、ダルク公爵がナザール城に戻ると、建国祭の会場ではまたエルファードとネリーニが激しく罵り合っている。
「何がアイリーン以上の事が出来るだ!? 何もできないではないか!!」
「あなたも王なんでしょう!? 何で何もできないのよ!!」
数人いる貴族も青い顔で壁際まで避難し、逃げ帰る寸前だ。
「エルファード王……ネリーニ。一体何を……」
我が目を疑いながら、ダルク公爵が声をかけるが噛みつく勢いでエルファードは叫んだ。
「ダルク公爵! 貴様の娘はどうなっておる!? 何一つまともに出来ぬではないか!! こうなったのも、お前の娘、ネリーニのせいだ! アイリーンならこのような事はなかった、ネリーニがすべて悪い!!」
それに負けない大声でネリーニも応戦する。
「何を言っているの!? 王であるはずの貴方の責任でしょう!? 私は何も悪くない、私は完璧! 私がアイリーンに負けるはずがないの! あなたが何も出来ないのが悪いんじゃないっ! 全部アイリーンにやらせて、あなたは何をしていたの!? 飾りなの? あの王座に座るだけが仕事の飾りなの!!!?」
「は!? お前がアイリーン以下なのが悪いだろう! どうみてもアイリーンがいなくなってお前がいるからこうなったんだろう! アイリーン以下はお前だ、無能なのはネリーニ、お前だ!!!」
「違うって言ってるでしょう! あなたのせいよ。見なさいよ、この建国祭! どこが建国祭なのよ。お客様は全員呆れて帰っちゃったじゃない!」
「お前が無様な格好を晒すからだろう! なんだあれは!会場で派手に転んだ上に、泣きながら裸足て走って逃げるなど! 一体誰にマナーを教わったんだ!」
「大体あなたがエスコートしてくれないのが悪いんじゃないっ! 妃を置いて一人で歩いて行く方がよっぽどマナー違反よ! 私はあなたと違って歩きにくい靴を履いているのよ!」
にらみ合う二人、そしてニヤリとエルファードは笑った。
「ほら見ろ、アイリーン以下ではないか。アイリーンはきちんと一人で歩いていたぞ? 転んだこともなかったし、裸足で走る事もなかった!」
確かにアイリーンが転んだところをネリーニは見た事がなかったし、エルファードがアイリーンをエスコートしている所を見た事もなかった。もっと言えばアイリーンが自分の為に用意した靴を無理やり履いたのはネリーニの判断だ。もっとかかとの低い自分のサイズにあった靴を履いていればあそこまで無様を晒す事はなかっただろう。
だが、ネリーニは認めるわけにはいかなかった。自分が、アイリーン以下の実力しかないことを。自分の非を認められないなら誰かに責任を押し付けなければならない。その相手は目の前にいるエルファードしかいない。
「う、うるさいうるさいうるさいうるさいっ!!! 嫌いッ大っ嫌いッ!! エルファードなんて嫌いッ!! 離婚よ、離婚っ!! 貴方とはやっていけないわっ!!」
「ああいいだろう! 私もお前とはやっていけそうにない! 建国祭をこんな滅茶苦茶にする女なんて要らん! どこへでも行くといい!!!」
頭に血の登った二人はフンッとそっぽを向く。
「お父様っ! 帰りましょう! メイドも全員連れて家に帰るわ!」
「ネリーニ何を言っておるのだ!? 馬鹿な事を言うんじゃない!」
「いいえっ! 帰ると言ったら帰るの!! あんな人、二度と顔も見たくないわ!!」
「ネリーニッ!」
ダルク公爵が諫める間もなく、ネリーニは会場から早足で出て行く。今度は足に合った靴だった為、転ぶこともなく、カツカツと靴音を響かせている。
「ダルク公爵、貴様の娘はなんと傲慢で、無能で、疫病神か? 我が国に泥を塗っておいて。それでも国を支える貴族の一員か? 一体どんな教育をしてきたのか……腹立たしいっ!」
ダルク公爵はすべてを見た訳ではないが、この騒動がネリーニ一人の責任でない事は明らかにわかっていた。それなのにここまで言われて黙っているほどお人好しでもなかった。公爵とて人の子、我が子を愚弄されてはいそうですかといえはしなかった。
「そうですか、王のお気持ちはよくわかりました。それではネリーニ共々失礼させていただきますぞ。私とて娘は可愛いですからな!」
「え?」
くるりと振り向き、ネリーニの後を追ってダルク公爵は出て行ってしまった。エルファードにしてみれば、ここでダルク公爵は頭を下げ、娘の非礼を詫びるはずだったのに、一度も振り返らず姿が見えなくなる。
「あ、あれ?」
会場に数人残っていた貴族もいつの間にか消えており、どうしたらいいか分からず黙って楽器を握り締める楽団と、飲み物を運んできたメイド、料理を持ってきた料理人がぽつんと一人残されたエルファードを見ているだけだった。




