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お飾りではなかった王妃の実力  作者: 鏑木うりこ


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第41話 外せぬ用がありましてな(王妃が去った国

 何のための広間なのか分からないが、建前上ナザール建国祭のパーティ会場はしん、と静まり返った。号泣しながら裸足で走る女性の声がどんどん小さくなって聞こえなくなった頃。


「ハ、ハハ、ハハハ……」


 ナザール王エルファードの乾いた笑いが聞こえる。


「ナザール王よ、《《あの方はどなたですか?》》」


 神妙な顔で尋ねる隣国の王の質問に、ナザール貴族は震えあがった。ここで答えを間違えれば、ナザールは地に落ち、終わる。


「あっ、あのっ!!」


 近くにいた侯爵が慌てて口を挟もうとするが、間に合わなかった。


「あ、あれは正妃になったネリーニなのですが……ハハ、困ったヤツです」

「ほう? 《《あの方が正妃様ですか、よくわかりました》》」

「え、ええ……普段はもっと出来る奴なのですがね。今日は体調が悪いのかなぁ」


 ハハハ、笑うエルファードを見る隣国王の口元は笑みの形を崩さないが、目はとても冷え切っていた。


「お、終わった……っ」


 ナザールの貴族、特に夫人は次々に青褪め、気を失う。


「おまえっ……」

「あなた……もう無理ですわ……」


 彼らの戴く愚王はあの失態の見本市のようなネリーニをこの国で一番高貴な女性だと言い切ったのだ。つまり、この国の女性は全てアレ以下だと宣言したも同然。厳しいマナーや美しい所作に心を砕き、夫や家族のために諸外国とのやり取りに全神経を尖らせて心血を注いできた女性達が全ての努力を破壊された瞬間だ。


 大切な建国祭に大幅に遅れ、自身はものすごく飾り付けているにも関わらず、サイズの合わない衣服を身につけ現れる。更に無様に転び、その際にドレスまでも大きく裂いてしまうなど、中々あり得る事ではない。更にうわ乗せすれば泣きながら裸足で逃げ出す王妃がどこにいるものか。

 まだこれが側妃というのであれば国全体の女性が貶められる事もなかっただろう。だが、エルファード王は正妃だと言ってしまった。正妃と側妃では格と責任が全く違う。

 まだ笑ってごまかそうとしているエルファードを各国の代表は静かに笑みを浮かべた口元だけで対応した。

 次々と会場を後にする夫人や婚約者を連れたナザール貴族達。彼らがいなくなった頃、賓客は動き出す。


「ナザール王よ、少し外せぬ急用が出来まして。本日はこの辺で失礼いたしますね」

「え? ま、まだ建国祭は始まったばかりですぞ。これから料理や飲み物も届きましょう、楽隊もやってきます、しばし、しばしお待ちください」

「はは、すみません、急なものでして」


 エルファードの引き留めににこやかに対応はしたが、意思を変えることはない。それを皮切りに


「私も、外せぬ用が」

「何やら国の方から呼び出しが」

「申し訳ない、急がねばならぬ案件が」


 引き潮より素早く客たちは消えてゆく。


「え? え……? え……、み、皆さん、ど、どこへ……」


 気が付けば会場にはエルファードの他、あと数人だけしか残らなかった。


「け、建国祭……なのに、建国祭だぞ……わ、わが国の、建国祭……建国祭が……」


 かくん、とその場に糸が切れた操り人形のように座り込む。誰も失意のエルファードの声をかけるものは誰もいなかった。


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