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お飾りではなかった王妃の実力  作者: 鏑木うりこ


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第37話 お話でしか聞いた事がなかったもので

「たくさん、人が……」

「そうですね、この辺りがメインの街並みになります。アイリはマルグの街並みは初めて?」

「はい、外交でもこちらの国へ来たことはありませんでした」


 マルグ国は一つ国を挟んだその先の国です。隣接した国へは出かけましたが、そんな時でも魔道トンネルを使わないと駄々を捏ねる方がいらっしゃったので、あまりの長旅はしたことがありませんでした。


「マルグ国は東に山脈が連なっていてね。そこら辺に多くの鉱山がある。石炭が採れるんだが、そこにダイヤモンド鉱床がかなりの確率で現れるんだ。他にも色々な石があって……金属と宝飾が盛んだね。街はそうでもないけれど、東へ行くに従って精錬所や加工所が立ち並ぶよ」

「まあ……素敵……。見学してみたいです」

「宝石をですか?」

「いえ、工場を。ナザールには金属加工の工場はありませんでしたから」


 一体どういう風になっていて、どうやって作られているんでしょう! とても気になります。


「宝石は良いのかい?」

「どういう細工をするのか、細工職人の方々には会ってみたいですね」


 細かい仕事が得意なのでしょうか? 職人気質でよそ者が行ったら怒鳴られてしまうかもしれませんね。本で読んだだけですが、一度怒鳴られてみたいものです。


「加工された宝石は要らないの?」

「宝石一つでは民を養うことは出来ませんから」


 たった一つの価値ある石よりずっと長く一生出来る仕事の方が素晴らしいです。この中にもそんな職人さんがいるのかと行き来する人々を眺めていると、シュマイゼル様があはは、と口を開けて笑っていらっしゃいます。わ、わたくし可笑しなことは言っていないはずですが……?


「今日は……いや、これから少しの間、アイリでいる間は忘れて楽しみましょう! 王妃であること、仕事の事は後からでいいでしょう? 私も一般的なデートはよくわかりませんが、とりあえず宝飾店に入って何か買うらしいですよ、さあ行きましょう」

「え、わたくし、特に欲しい物は……」

「私が買いたいんです。付き合ってください」


 少し強引ですが、引っ張られるように宝飾店に入り、あまり大きくないダイヤのついたネックレスを買っていただきました。


「マナー講師の女性がいうんです。ダイヤなら、どこへつけても問題ないから迷ったらこれにしなさいって。なるほど言われてみれば彼女は正しいです」

「そうですね、特産という事を考えれば……」

「仕事用ならもっともっと大きい物を用意しますけれど?」


 い、一体おいくらになるんですかっ!?


「個人でのプレゼント用ですから、今日はこの辺で」

「……ありがとう、ございます」


 こんな風に個人的に何かを買っていただいたのは家族以外では初めてだったかもしれません。それから勧められたカフェへ行きました。


「ディア・アプリコットという我が国の貴族の女性なら誰もが一度は足を運ぶ人気店です。母上たちも昨日レンブラントを連れてここに来たようですね。季節のケーキがお勧めですが、軽食も美味しいし、お茶の種類も多いので何度来ても飽きないそうですよ」

「わ、わたくし……初めてこういうお店に参りましたので……あの……」


 メニューをみても目移りばかりしてどうしたらいいか分かりません。そういえば学生時代にクラスの女生徒たちが婚約者とカフェに行ったと嬉しそうに話していましたね。皆さん、こういうところでお食事をなさっていたんですね。

 わたくしは、婚約者時代からエルファード様に疎まれておりましたし、勉強が忙しくどこかへ出かけた事などありませんでした。勉強の合間にソリオ料理長が街のカフェの人気スイーツを真似して作ってくれたパフェなどはいただきましたが……こうして出向いて食べるのは初めてです。


「では、私に注文させてください」


 店員を呼び、スラスラと名前をあげていらっしゃいましたが、店員がいなくなった後で


「私もこういうおしゃれなお店は初めてですよ。なんだか緊張しますね」

「そうは見えません……いつも落ち着いていらっしゃいますし」

「まさか! 私はいつも落ち着きがないと皆に叱られる方で……」


 気さくに子供の頃から乳母に叱られる事、側近候補たちと城を抜け出して迷子になった事、学生時代のやんちゃ話、冒険者になりたくて冒険者ギルドに行ってみた事など面白おかしく話してくださいました。

 あまり待たされる事なく、可愛らしいケーキやお茶が運ばれて来ました。いただきましょう、の言葉にこくりと頷いて恐る恐るカトラリーを持ち上げます。


「美味しい……」

「本当ですね。茶葉も海の向こうの物もあるとか。半発酵で甘みを入れずに飲むのだそうですよ」

「まあ……」


 シュマイゼル様は色々な事を知っていらっしゃって、彼との時間はとても楽しいものでした。


「今日は時間がないので、もう帰りましょう。次は一日かけてデートしましょうね」

「……はい」


 とても楽しかったので、つい次の約束に返事をしてしまいました。これで良いのでしょうか……? わたくし、流されていませんか?




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