第32話 ナザールからのお三方
美味しい朝食を談笑しながらゆっくり頂いた後、わたくしはシュマイゼル様に今後についてお伺いをしていました。
「ですから、まずは婚約者に」
「しかし私は傷物ですし」
このやり取りを何度も繰り返しておりますと、侍従がわたくしに客があると教えてくださいました。ここへ来ることを知っている客……きっとあの方達に違いありません。
「ローランド叔父様達ですね」
「おお、宰相ローランド殿か! お通ししてくれ!」
わたくしがナザール王妃を追い出された時点でローランド叔父様とヴィッツさん、そしてソリオ料理長の契約が切れますから、きっとそのお三方だと思います。案の定、ローランド叔父様とヴィッツさん、そしてソリオ料理長がやってこられました。
「お嬢様~~~~! よくぞ、よくぞ耐えられましたなあ!」
「ありがとう、ソリオ料理長。皆のお陰であの国で王妃としてやって来られたわ。感謝いたします」
「良いんだよ、良いんだよ! あいつから解放されたんだからねえ! 祝いの料理を作っても良いだろう?」
ソリオ料理長はおいおいと泣き出す勢いで喜んでくれました。いつも工夫を凝らした野菜料理を無残に捨てられていましたからね……。でも料理長達の努力がなければエルファード様は今頃肥満が原因の病気になっていたのではないでしょうか? あの割とスリムな体型を維持できていたのはソリオ料理長率いる厨房の皆様の努力のおかげでしたのに。
「嬉しいわ。ソリオ料理長のプリン、また食べさせてね?」
勿論です勿論ですとも、塔のように大きなプリンを坊ちゃんと一緒にお召し上がりください! なんて言われましたが、そんなに食べられませんわ。
「アイリーン、お互いにお疲れ様。これからは自由……とはいいがたいが、まああいつよりマシな奴の所に来たし、何とかなるよな?」
「ええ、ローランド叔父様。すいません、長い間自由を奪ってしまって。ヴィッツさんも」
晴れやかな笑顔で笑うローランド叔父様とヴィッツさんにも感謝を述べます。
「まあ良いんだよ、アイリーンちゃん。騎士団長なんてガラじゃないと思ったけど、結構出来るもんだったなあ」
「ふふ、恰好良かったですよ?」
「違うぞ、俺は何を着てもかっこいいんだ!」
そう笑うヴィッツさんとローランド叔父様。
「ロ、ローランド宰相? ヴィッツ騎士団長? そ、その恰好は一体!?」
シュマイゼル様は驚いて目をパチパチさせていらっしゃいます。ああ、そうですね、シュマイゼル様は外交でしかこの二人に会った事がないので当然ですね。
今、ローランド叔父様とヴィッツさんは軽い皮鎧と腰から剣を吊った、市井に多く在籍する冒険者と変わらぬ格好をしておいでです。
「シュマイゼル様。お二人はこちらの方が本業なのです。わたくしが無理を言って城の業務を手伝ってもらっていたのです」
「な、なんですと?」
「堅苦しいのは苦手でねえ。自由気ままな冒険者に憧れて、それで生計を立てていたんだ」
「ローランドとは息があってね。パーティを組んでたわけさ。そしてハイランド領を根城にしてあちこち冒険してたんだ」
カラカラと快活に笑うお二人。やはりこちらの姿の方が楽しそうです。
「まあそう言うわけで、マルグで一儲けさせてもらうよ」
「一儲け、とは……?」
ローランド叔父様がにやりと笑い、分厚い紙の束を取り出します。
「俺達の一番得意な仕事は賞金首狩りなんだ。ナザールでは狩り尽くしてほとんど悪党がいなくなっちまったからね」
「逃げ込んだバカ共がこーんなにのさばってるなんて腕が鳴るなあ! ローランド!」
分厚い紙の束は全部お尋ね者の手配書らしいです……凄い量ですね……この辺りにはそんなに悪い人が多いのでしょうか。
「アイリーンの持参金くらいすぐ稼いできてやるからな、立派な結婚式挙げさせてやる」
あははは! とローランド叔父様は笑いますが、笑い事ではありませんよ。
「あー。あとシュマイゼル王よ、ナザールから俺達を慕ってこの国にかなりの騎士や文官達がやってきたんだ。なんとか拾い上げてくれないか?」
「そうです、そうです。シュマイゼル王、私からもお願い致します。宮廷料理人もかなり来ております、なんとか働く先を見つけてやってくれませんか?」
ソリオ料理長もお願いしますと頭を下げました。そんなにナザールからやってきてしまったのですね。確かにこの三人はとても慕われていましたから、彼らと一緒に働きたいという人は多いのでしょう。
「その辺りはお任せください、想定済みです」
「おお! 助かります」
三人ともくれぐれもよろしくお願いします、と頭を下げてくれました。わたくしが不甲斐ないばかりに皆に迷惑をかけてしまいます。わたくしも何かお手伝いできることを早く見つけなければいけませんね。
「アイリーンの事、頼むぞ。シュマイゼル王」
「お任せください。必ず幸せにしてみせます」
力強く言って下さるシュマイゼル様は……頼もしくて、少女の頃でも抱いた事がなかった「ときめき」と言う物がこんな感じなのかな? と思うほど、どきりとしてしまいました。




