第24話 早目に辞した方が良いのでは
「そうしたらアイリーン様が転がり込んできた訳です。もうこの機会を逃すまいと必死ですみません……。普段は上に立つものとして自制は出来ているつもりだったのですが、取り乱しました」
「そう……だったんですね」
何というか、行き過ぎている部分も多く見られますがわたくしを大切にして下さると言う点では信用しても良いような気がいたします。
「……これはお嬢様がしっかり手綱を握った方が宜しいようですな」
「マーセル、そのような事を言ってはいけません、不敬ですよ」
わたくしもマーセルと同じ事を思いましたが、嗜めなければいけない立場です。
「はは、是非そうして下さい。年甲斐も無く浮かれている自覚もあります」
マーセルの不敬にもシュマイゼル様は怒ることなく自重気味に笑っている。
「それにしてもわたくしがシュマイゼル様のことを嫌いであったらいかがなさるおうもりだったのですか?」
「流石に私はナザール国エルファード王よりましだと思っておりますので、かのカエルの下で不遇に耐えた女性を人並みくらいに幸せにする自信があります!」
流石にそれは謙遜が過ぎると言うものではないでしょうか。外交でたくさんの方をお会いしているわたくしですが、エルファード様以下の方は中々お目見えしないものでございます。外交という国同士の大切な場所に出てくる人物に可笑しな者が混ざっていること自体が少ないとも言えますが。
「なるほど……よくわかりました。この老いぼれのつまらぬ戯言にお答えいただき感謝いたします……マルグ国に幸あらんことを」
「この程度の事なんでもありません。後は私がアイリーン様に好いてもらえるよう、努力するだけですから!」
今度はにこやかに笑う。なんと表情の豊かな人なのだろう。それに比べてわたくしは……ナザールでの事を思い出してしまいます。いつもわたくしに不機嫌な言葉しか投げつけて来ないエルファード様。
「笑うな、気持ち悪い」
そう言われ、黙ったら
「出来の悪い石像のようだな、醜い」
そう言われ続けたわたくしは表情がだいぶ欠落してしまいました。外交の時だけなんとか張り付けた笑顔で対応していましたが、今でもうまく笑えている気がしません。
そんなわたくしはこんなに楽しそうに笑える人のそばにいて良いものでしょうか? 早めに辞して、レイクリフ公爵へもお話をして領地の隅にでも住まわせて頂い方が良い気がしてきます。
黙り込んでしまったわたくしにシュマイゼル様は気を遣って下さいました。
「アイリーン様? ああ、お疲れでしたね。今日一日で色々ありましたから。良ければ部屋へ案内させます。誰か、アイリーン様をお部屋へ案内してくれ。くれぐれも丁寧に!」
「かしこまりました」
静かに女性がお辞儀をして静かに出て来た。
「今日は客間の方へ案内致します。執事さんもどうぞ、こちらです」
沢山の事があり、整理もしたかったので、その言葉に従わせて貰いました。案内されている廊下を歩きながら城の調度品や、絨毯などを思わず見てしまいました。どれも美術的に価値の高い素晴らしい物ばかりだし、掃除や手入れも行き届いていて、マルグ城はとても上手にまとまっているのだと感心してしまいます。
「王妃の間でもと思いましたが、慣例に従って婚礼を上げてからにした方が良いかと」
「……わたくしには過ぎたる部屋でしょう」
そうです、普通に考えれば傷物の捨てられた役立たずのわたくしなど、この国の王妃になれる訳がないのです。
「やだ、坊っちゃま。全然心を掴んでないじゃないの、なにやってんのよ。図体ばっかりでかくなって」
「え?」
「いえ、何でもありませんわ、ほほほほ」
わたくしは思わず後ろから静かについて来てくれているマーセルの顔を見てしまいます。マーセルも苦笑いしていますので、聞いてしまったようですね。
メイド達が4人ほど立って待っていた部屋の前へ止まり
「とりあえずとしてこちらのお部屋へどうぞ」
静かに扉を開けば落ち着いた雰囲気の客間でした。
「夕食まで少し間がありますが、お風呂には時間が足りないと思いますので、食後を予定しております。着替えなどは勝手ながらこちらで用意させていただきました。お気に召す物があれば良いのですが……」
「ありがとう」
シュマイゼル様が用意なさったのか、何着もドレスがワードローブに吊るされておりました。
「わあ……凄い数ですね……」
久しぶりに見る色とりどりの美しいドレスに色々な事を忘れて、しばし見入ってしまいました。




