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第五場面:欲望は巡る ― 時を越えた余韻


劉海と青蛙神の旅は、それから数十年に及んだ。


 ある時は日照りに喘ぐ農村に現れ、カエルが口から清らかな水を呼び込み、ある時は強欲な役人の館を通り過ぎ、その蔵の金を一夜にして枯れ葉に変えた。


 かつて宮廷で帳簿の数字に追われていた男は、今や一匹の三本足のカエルと共に、雲を友とし、風を宿とする真の仙人となっていた。


だが、不老長寿の術を得たはずの仙人にも、この世の理である「別れ」の時は訪れる。


切り立った崖の上の庵で、劉海は静かに横たわっていた。その傍らには、数十年経っても変わらぬ鈍い金色の輝きを放つ青蛙神が、じっと主人を見つめて座している。カエルの三本の足は、長年の旅路で鍛えられたかのように力強く地を掴み、その口の一文銭は、歳月を経ていよいよ重厚な光沢を帯びていた。


「……五通よ。いや、私の愛しき友よ」


劉海の声は、もはや消え入りそうなほど細かった。彼は震える手を伸ばし、カエルの冷たくも温かい頭を、慈しむように撫でた。


「私の旅は、ここで終わる。だが、お前の旅はまだ続くのだな。……かつて、お前を縛った『七星の縄』はもう解いてある。お前はもう、自由だ」


カエルの瞳が、月光を反射して揺れた。一文銭をくわえているため言葉は発せないが、その背中の北斗七星の紋様が、悲しみに耐えるかのように激しく明滅している。


「お前はもう、人を食らう怪物ではない。だが、人の欲は形を変え、時代を越えて膨らみ続ける。……私が去った後、お前を正しく『置く』者が現れるまでは、その力を眠らせておきなさい。もし、お前の背負う富を、ただの私欲のために奪おうとする者が現れたなら、その時は……石にでもなって、逃げてしまうがいい」


劉海は、最後の力を振り絞って、カエルの口の一文銭を指先で弾いた。


 カラン、と清らかな音が響く。


「……いつか、この音の意味を解する者が現れる。その時こそ、お前はまた福を運びなさい。朝は外へ、夜は内へ……心に節度を持つ者の傍らでな」


その言葉を最後に、劉海の呼吸は止まった。


 同時に、庵を包み込むように神々しい光が溢れ、劉海の体は数千の花びらとなって風に舞い上がった。仙人が昇天した後の畳の上には、ただ一匹の、黄金のカエルの置物だけが取り残された。


それから、数百年――。


時代は巡り、都は移り変わり、黄金を巡る戦火も、文明の荒波も、すべてを等しく飲み込んでいった。


 かつて江南を恐怖に陥れた五通神の伝説は、古い書物の隅に追いやられ、劉海仙人の名もまた、一部の好事家が知るのみとなった。


 しかし、青蛙神は生き続けていた。


 ある時は古道具屋の隅で埃を被り、ある時は異国の商人のカバンに詰められ、そしてある時は、海を渡った先の島国で、古美術を愛する一家の飾り棚に収まった。


――そして、現代。


「さて、そろそろこの子も、今日の仕事を終えてゆっくり休ませてあげないとね」


おばあちゃんの穏やかな声が、薄暗い居間に響く。


 航太は、自分の手の中にあるカエルの重みを改めて感じた。


それはただの金属の重さではない。


何千年も前から、人間の欲望を監視し、仙人との約束を守り続けてきた、気の遠くなるような時間の重さだった。


航太がカエルを棚の奥に置き、その向きを丁寧に従内側へと向けた時。


 夕闇の底で、カエルの瞳が一瞬だけ、琥珀色に鋭く光った。


 それは、五通神としての邪悪な輝きではない。自分を正しく扱ってくれる「新しい主人」を見定めた、満足げな光であった。


居間からは、おばあちゃんが鍋を火にかける音が聞こえてくる。


 外では、街灯が一つ、また一つと灯り、人々が家路を急いでいる。


 欲望が渦巻く現代の喧騒の中でも、この小さな三本足の神様は、口に一文銭をくわえたまま、静かに、しかし確実に「福」の形を見守り続けている。


カエルの背中の北斗七星が、窓の外の星空と共鳴するように、密かに瞬いた。


 劉海がかつて弾いた一文銭の音は、今もなお、正しい心を持つ者の耳にだけは、清らかに響き続けているのである。

(完)


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