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公爵令嬢ルイーサは、好きな人を追いかけて冒険者になった〜無自覚で無双して、気付けば有名になっていました〜  作者: ゆらゆうら


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ep1 公爵令嬢、冒険者になる

「なあ、お前……もしかしてだけど」


 公爵令嬢のルイーサ・ベールメントは、絶体絶命のピンチを迎えていた。実際に死に直面している訳ではない。しかし、彼女の中ではそれと同じことだった。


(この人にだけは、気づかれてはいけない……)


 ルイーサが今いるところは、ドラゴン討伐の前線であった。周囲では魔法と剣の衝撃音が鳴り響いている。

 草むらに身を潜めながら、ルイーサは目の前にいる青年に背を向けた。

 

 ここは本来、公爵令嬢であるルイーサがいるべき場所ではない。


 おそらくこの場にいる冒険者の誰一人として考えてはいないだろう。まさか、貴族ともあろうものが、正体を偽ってまで冒険者としてこの場にいるなどと。


 そのまさかである。

 ルイーサは貴族という素性を隠し、冒険者としてそこに立っていた。


 素性を隠すための手段というのは、仮面であった。しかし、それは現在青年の手元にあり、すでに意味を成していない。


 元はといえば、ドラゴンの攻撃を甘く見積もっていたせいだ。まさか、仮面にかけた防御魔法を上回るほどの攻撃が来るだなんて。だが、そんなことを悔やんでももう遅い。


 目の前にいる黒髪の青年は、翡翠色の瞳をルイーサに向けながら、徐々に距離を狭めてきていた。ルイーサは、背中腰にそれを感じながら、反対にじりじりと距離を取る。

 両の手で顔を覆いながら、必死に天に祈っていた。


 この青年が見ず知らずの人であれば、ルイーサもここまで焦ることはない。しかし、目の前にいる青年は、ルイーサが唯一、素性をバレてはいけない人物であった。


 青年の名前は、シューリ。

 元、ルイーサの従者であり、二ヶ月前に屋敷から去った、ルイーサの想い人である。

 

◇◇◇


 ルイーサが冒険者になる一カ月前のこと。


 それは、突如として告げられた。


「シューリ、話って?」


「お嬢様、突然のご報告になるのですが……」


「シューリ、いつも通りに話してよ」


「……あぁ、分かった」


 いつになく深刻そうな表情の従者シューリ。数分の沈黙の後にシューリは決心したように顔を上げた。


「明日から、俺は冒険者の道を進むことにした。だから、従者として会うのは今日で最後になる」


 全く予想もしていなかった言葉にルイーサの頭は混乱していた。普段から公爵令嬢として立ち振る舞っていたこともあり、取り乱す姿を見せたことはほとんどなかった。

 そんなルイーサでさえ、この状況を平然と聞き入れることはできなかった。


「えっ……、ちょ、ちょっと待って。どういう事? 来月には私の披露宴もあるし、その時には正式にリーベル……、王太子と私の婚約も発表されるんだよ……?」


 微かに震えながら、そう言葉を紡いでいく。


「エスコートは誰がするの? 私の従者はシューリ、貴方しかいないのに」


 嘘であってほしいと、願いを込めて縋るように言った。今までどんな我儘も最後には受け入れてきてくれた。けれど、シューリの真剣な眼差しが、今回ばかりは一筋縄ではいかないことを知らせていた。


「ルイーサ。それはもう俺の役目じゃないことは分かっているだろう。俺は……、君の婚約者ではない」


 呆れたように笑うシューリを前に、言葉は出て来なかった。その表情がほんの少し寂しそうに見えたから。もしかすると、願望がそう見せたのかもしれないけれど。


「急な話でごめん。……前々から冒険者として活動はしていたんだ。ほら、ちょくちょく屋敷にいないことがあっただろ?」


「な、なら! 今まで通り従者もしながら」


 そう言いかけた時、シューリは静かに首を振った。


(あぁ……、もう私が何を言っても変わらない)


「ルイーサ、お前に教えられることは全部教えられた。だから、俺が居なくても大丈夫だ」


 従者であり、魔法の師でもあり、気の許せる友でもあり、最愛の人だった。例え夫婦として一緒になることは叶わずとも、そばに居られればそれで良かった。


 冒険者の道を進む。それは、死と隣り合わせということだ。師としてのシューリを知っているからこそ、容易く命を落とす様な人ではないことは分かっていた。


 けれども、絶対に死なないわけではない。どんなに優秀な剣士、魔導士でも、命を落とす可能性がある。それが冒険者という職業なのだ。


「また、会えるよね……?」


「……、身体に気をつけてな」


 その言葉だけを残して、シューリは屋敷から去っていった。



◇◇◇



 それから、数日後。


「お、お嬢様!? 一体どうしたんですか!?」


 モリモリと食事を平らげる公爵令嬢ルイーサ。

 塞ぎ込んでいたはずのお嬢様が、突如やる気に満ち溢れているのを見て使用人たちは驚愕した。


「くよくよしてるなんて私らしくないよね!! 私、こうみえて、諦めが悪いんだから!!」


「お、お嬢様〜!!??」


 食事を終えると、すぐさま立ち上がり門から飛び出して走り出した。後続の使用人たちをも振り切るほどの全速力で。


 公爵令嬢ルイーサ・ベールメントは、諦めが悪かった。そして、決めたことを最後まで成し遂げる気力と能力があった。


(シューリ、貴方のそばにいられるなら、私は地獄にだって付き合う覚悟なの!!)



「公爵令嬢ルイーサ・ベールメントは、冒険者になるわ!!」


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