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意識ミーティング

 散々だった得意先の社員旅行は、「全員生存」という最高の結果に終わった。

 俺たちもだが、お得意先にとっても大きな不幸だった。なにせ、自社の社員が焼死体で発見されるという由々しき事態に見舞われてしまったのだから。


 二錠目のヒュプノスを飲んでまたもや救急車のお世話になった俺。

 ナキを撃退した後、救急車を呼べそうだったのはさやだけだったので、俺は自分の居場所をさやに伝え、保護してもらった。

 

 俺はいつもの如く重体で、今回はなんとか心停止には至らなかったものの、寸前までは行ったようだ。

 しかし、特に疾患も外傷もない俺は、山を乗り切ればいつもの嘔吐くらいでその他の症状は「疲れ」だけだ。よって、次の日の朝には退院した。


 中原は、傷が治った途端に獣人化を解除し、疲労が溜まりすぎてそのまま路地で眠ってしまったらしい。それを警察に見つかって、銃を持っていないか疑われたが当然持っておらず、酒臭いせいで今度は酔っ払い扱いされ一時的に連れて行かれてしまったようだ。



 帰り道の高速道路。今日も明るい日差しの中、硬いサスペンションの影響で、道路にギャップがあるたびパンパン跳ねながら走るポンコツ・バンの助手席で、俺は、さやと中原の二人へ話しかけた。


「なあ。このあと、どうする?」

「えぇ? イイよ、ネムのおうちに泊まってもぉ」

「マジでっ!」


 何を話そうとしていたか一瞬ブッ飛んでしまった俺。頭を振って、さやが振り撒く誘惑の呪術を解こうとする。


「あっ、そうじゃなくて。いや、それはそれで絶対にそうがイイんだけど、そうじゃなくて」

「はいはい。わかってるって、冗談だよ」


 こんな可愛い子のこういう冗談、欲望を振り切って受け流すのがこんなに難しいものだとは……と、俺は高鳴る心拍を抑えるのに四苦八苦した。


「てか、今回のこと、説明してくれる? なんでネムがあんなところで倒れてたのか。なんで中原くんが、オオカミになっちゃったのか。どうして、まゆが、あんなところにいたのか」

「あ……うん、そうだね」


 もう、隠しておくことはできない。

 さやは、中原の獣人化モードも、田中さんが炎を出しているところも見ちゃったし、ミーなんて自分自身がアーティファクトになっちゃったのだから。

 それに、今回のことで……


「敵に、正体がバレちゃいましたね」

「そうなんだよな……。だから、みんなにきちんと話をしておかないとな。それに、田中さんが」

「わたし、まゆに何回も電話かけてみたんだけど……出てくれないんだ。まゆ、すごい炎を出してた。あれ、火炎放射器なの? それを、中原くんに向けてたの? 意味わかんない。もう、どうしていいか……」


 みるみるうちに沈んでいくさやの表情。胸がキュッと締め付けられ、見ていられなくて、俺は正面に映る高速道路に目を向けた。

 

 大人しくて優しい印象だった田中さん。長野で俺たちと対峙した時の表情は、忘れられない。


 今まで、ずっと、仮面をかぶってきたのだろうか。

 本当は、「いつ殺しても構わない」と思いながら、俺や、さやと、接してきたのだろうか。


 でも、さやの顔を見た時の田中さんは、俺たちと対峙した時とは正反対の表情だった。

 動揺して、いっぱいいっぱいで、今にも泣きそうな顔で。どう考えても、あれが嘘なわけがないと思うのだ。


 後部座席へ首だけ向けると、さやは今にも泣きそうな顔をしていた。


 さやのこんな顔、もう見たくない。

 だから、できる限りの笑顔を作って、俺はさやへ、自分の気持ちを素直に伝えた。 


「田中さんがどうしてあんなことをしているのかわからない。でも、きっと何か事情があると思うんだ。田中さんを連れ戻すために、俺も全力でがんばるよ」


 座席越しに俺へ抱きついたさやの手は震えている。静かな嗚咽おえつとともに、俺の首筋には冷たいものが流れ続けた。

 

      ◾️ ◾️ ◾️


 やがてさやが落ち着いた頃、俺は、ある一つのことをみんなに相談しようと決意する。


 中原の言う通り、俺たちの正体は敵にバレた。俺のことはどうかわからないが、他の三人は間違いない。

 いつ敵に襲われてもおかしくない状況に陥ってしまったのだ。このままバラバラになってそれぞれ家に帰るのは、危険な気がした。いや、会社にすら、もう出勤すべきじゃないのかもしれない。


 だからといって、これは俺の独断では決められない。

 よって、俺の意識の中に、中原、ミー、さやを招待して、ミーティングを開催することにした。


「おーっ、なんじゃこりゃあっ」

「すごい、可愛い部屋っ!」


 俺の意識の中に招待された二人の女の子は、俺にとっては見慣れた高貴な子供部屋に目を輝かせて感動する。


 壁に描かれた大きな紋章は、由緒あるどこかの国のものなんじゃないかと思うほど。

 ベッドも子供二人にしてはあまりにも大きいし、絨毯だって、照明灯だって、何もかもが高級そうなのだ。まあ、仮想世界なのだから、高級品にお金がかかるわけでもないだろうが。


「神の力」が発動すると、この部屋はそこらじゅうが真っ赤に光り輝き、異世界感が満載となる。俺は今、目を覚ましているので、白を基調とした清潔感と高級感溢れる王族仕様となっていた。


「あっ、可愛い子供っ!」


 ミーは、ノアとルナを見つけて駆け寄ると、かがみ込んで話しかける。

 ルナは一瞬にして外面の良さそうな顔を作ったが、ノアの様子が何やらおかしい。口を半開きにして目を見開き、ミーの顔をじっと見つめているのだ。


「お名前は?」

「ルナでーすっ!」

「あっ……そのっ、……」

「んー? どないしたん? 人見知りかな」


 ミーは、ノアの鮮やかな青い髪を優しく撫でる。

 ノアは、熱でもあるんじゃないかと思うほどに顔を赤らめて、身体をガチガチに固くし、パチパチとまたたきをしながら床の一点を見つめていた。


「あーっ、そうか、恥ずかしがり屋さんなんやなーっ」


 ギュッと抱きしめられたノア。そのノアと、ミーの肩越しに目が合った。


 は? お前、まさか

 違う! 違う違う違うっ


 俺たちは、目だけで会話できた。 

 


 さて。



 全員が集まったところで、俺は、はじめから話すことにする。

 つまり、この力を手に入れて、ノアやルナと出会って。

 さやの部屋をのぞいたことは割愛し……

 波動の件を話す。


 中原の能力は獣人化、「ウェアウルフ」に変身できること。

 ミーはこのたび「イダテン様」となり、神様の仲間入りを果たしたこと。

 俺は、眠っている間に限り、「エレクトロ・マスター」及び「アストラル・プロジェクション」のダブルアビリティを保有していること。そして、眠るために魔薬「ヒュプノス」を飲んでいること。


 二人の女子は、中原とミーの話は案外スラッと流したくせに、俺の能力のところで顔色を変える。

 まずはミーが、


「え? あたし目線の映像、無断で見れるん?」

「そうだよ」

「ちょっ……えっ、だって昨日、あたしの許可、とってたやん!」

「あれは、俺が眠ってなかったからで。眠ってる時は、俺は全部、勝手にできるんだよ」

「勝手に……」


 ミーのアバターの顔は自らの心と完全にシンクロし、呆然としつつもまるで火で炙られたようにどんどん紅潮していった。 


「一人で家の中にいる時も?」

「そう」

「お風呂に入ってる時も?」

「そう」

「トイレに、入ってる時も……?」

「そうだな」

「いやぁ……」


 両手をほっぺたに当てて、悲鳴をあげるミー。


 ふと、なにやら不吉な視線を感じた俺。

 目を細め、信じられないほどに冷たい目線で俺を見るさやがいた。


「まさか……わたしのこと、のぞいたことある?」


 巨大な拳でおもっくそブン殴られたような衝撃。

 俺は、喘ぎ喘ぎ否定した。


「いやっ! ない! ない! 絶対に、ないよ! 神に誓って!」

「……ふーん」

「信じて! ほんとに、なにもしてない!」

「いいよ、信じてあげる」


 さやは、俺の真正面から俺の首に両手を回す。

 アバターのくせに瞳の模様まで再現されている鮮やかな赤い目が、俺の心を固く縛る。

 俺もまたアバターのくせに滝のような冷汗を流し、微動だにできなかった。


「それに、ネムなら、あたしのこと、のぞいてもいいかなぁ……」

「…………!」

「お風呂がいいの? それとも、トイレ?」

「あっ……あう……」


 俺のアバターは、鼻血を流していた。アバターですらこうなら、本体である肉体のほうは、今、一体どうなっているのだろうか。

 これを聞いたミーは、


「あ……あたしも、いい……」

「え?」

「のぞいても。いいっ」


 神と例えられた全知全能のネットワーク・システム「ゼウス」が人間の心の機微までを忠実に反映させたアバター。汗をダラダラと流し、目ん玉をぐるぐるさせ、ミーの顔は真っ赤に染まっていた。


 こいつ、さやと張り合うためなら、なにやらタガが外れるへきがあるな……。


 アホみたいな顔でその様子を見守る中原。これ以上は中原にバレてしまうから、少し抑え気味にいかないといけないことに気付き、俺は正気に戻った。

 そこへさやは唐突に、


「でも、あたしの部屋、特になんもないし、別に面白くなかったでしょ?」

「そんなことないよ。女の子らしくて可愛い感じの……ハッ」


 言葉を止めて俺は青ざめる。

 

 こんなさやの顔は始めた見た。激しいさげすみの色が混ざったのは言うまでもない。

 俺は、その場に膝から崩れ落ちる。軽蔑の冷気をまとって腕を組むさやのアバターの前で、俺のアバターは土下座して謝った。

 さらにさやは、恐ろしい事実にまで思い至り、目を細めて追撃する。


「まさか、わたしのこと助けておいて、助けたのが自分だって言わなかったのは、のぞきがバレたくなかったからなんじゃ……」


 俺は必死で手を振った。

 もう何を言っているのかわからないほどに錯乱する。


「いやっ! そうじゃなくて! あの、その……こんなこと、いきなり言ったらびっくりするかと思って……」


 さやの言ったことは、まさにズバリ正解だったが、俺は、何がなんでも誤魔化し通す意思だけは固めていた。

 

 さやは、まるで変態をこきおろすかのように、細くなった目でしばらく俺をザクザクと突き刺していたものの、すぐに表情を緩める。呆れた顔をされたが、軽蔑の色は消えたように思った。

 さやは俺から目をそらし、小さな声で、つぶやくように言う。


「落とされちゃったものは仕方ないなぁ……」

「え?」

「なんでもないよ、もう! 許してあげる」


 確かに聞こえたさやの気持ち。俺はなんとかこの最大級の危機をしのぐ。

 さやは、すぐにスネたような可愛い顔になって、俺に顔を近づけた。


「見たいなら、正直に言ってくれたら良かったのにっ。全部、見せてあげるよ」

 

 無理っす。あの時は、ただの憧れのヒトでしたから。ただの犯罪でしたから。

 

 一部始終を黙って聞いていたミーは、顔を赤くしたまま歯をギリギリさせ、拳を握りしめる。

 とうとう俺たちの様子に耐えきれなくなったのか、


「あっ……あたしも! あたしのことっ、全部っ、あげるからっ!」


 シーンとなる場。

 あまりのことに、恥ずかしさで俺まで顔が熱くなってくる。

 逆に、俺の真横で呆気に取られ、青ざめる中原。

 

「あっ、あのね。あんた、なに言ってるか、わかって……」

「あっ」


 ほとんど理性を失っているミーは、へたり込んで、両手で顔を覆った。


      ◾️ ◾️ ◾️


 しばらく寸劇を続けるが、やっとこさ話が本題に近づいてくる。それには、意識ミーティング開始から三〇分以上を要した。


 本題に入る前の最後の難関は中原。完全にスネて、いじけてしまったのだ。

 

「わかってましたよ、ミミさんがそうだってことは。だって、絶対そうだもん。仲、良すぎると思ってたし。どうせ俺なんて、誰も好きになんてなってくれないんだ」 

「ごめん、たっちゃん。騙そうと思ってた訳やなくて。ほんとのこと、言われへんかったんよ……。だって、たっちゃん打たれ弱いし」


 グチグチと文句を垂れる中原。それを慰めようとするが、全く慰めになってないミー。


「とりあえず。今後、どうする?」


 強引に進路変更し、やっと本線車道にピシッと戻った話題。しかし、動揺した中原の運転によって、現実世界を走る車のほうは高速道路をフラフラしながら走っていた。周りの車線を走る車からビーッ! とクラクションを鳴らされてしまう。 


 本題に戻ったところで、ルナが全員へ提案をした。


「一人にならないほうがいい。このメンバーは、同じ家で暮らしたほうがいい」

「「「えっ!!!」」」


 さや以外の全員が、同じように驚いた。

 一人ひょうひょうとするさやは、


「まあ、そうだろうとは思ったけどねー。それ以外、身を守るすべ、ないもんね。だって、わたしだけ、みんなみたいな特殊能力っていうの? 無いし」


 そうなのだ。ミーも能力に目覚めた今、さやだけが普通のか弱い人間。だから俺は、


「さやのことは、俺が絶対に護るよ!」

「うん! ありがと、ネムっ」


 ミーは歯を剥き出して眉間にシワを寄せ、人を殺しそうな目で俺とさやを睨んだ。


「でも、じゃあ誰の家に行くの?」


 全員、うーん、とうなる。


 俺以外の全員が、名前までバレてしまっている。ミーの家に至っては、すでに敵から襲撃を受けてるし。なので必然的に……


 全員が、こっちを向く。


「えっ?」


 あんなゴミ溜めみたいな六畳一間に?

 四人も?


 みんなの視線を見る限り、すでに行き先は決定していた。

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