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第12話 八鳳魔王

 クレイアを出てテベルへと向かい歩くが、その足取りは重かった。


 来る時は自分がどんな職業になれるのか期待と不安で一杯だったが、今は不安しかない...。


 勇者は面倒くさそうということ以外はメリットも多く、別にやっても良いかと思える職業だが、問題は魔王だ。


 魔王と言えば魔族を束ねる王であり、それぞれの魔王は自分が治める国を持っている。


 国を広げる為に人間の国に戦争を仕掛ける魔王もいれば、自らの国の繁栄のみに力を注ぐ魔王もいる。


 国を治める魔王は八竜勇者(ブレイブエイト)のように八鳳魔王(エイトデモンズ)と呼ばれているが、勇者とは違い本当の意味での魔王は8人しか存在しない。


 新たな者が魔王になる場合は現在の魔王から直接王位を譲られるか、もしくは倒す必要がある。


 仮に俺が魔王に就いたところで、それは何の権限も持たない名ばかりの魔王となる。


 それもそうだ。王と名が付くのに自分の国を持っていない訳なのだから...。


 俺は魔王になるのを全否定している訳ではない。


 自分の国を持つことが出来れば、正直やりたい放題することが出来るし、その気になればハーレムを作ることだって出来る筈だ。


 だが、そこに行き着くまでの試練が過酷すぎる...。八鳳魔王(エイトデモンズ)に会って魔王を譲って下さい! なんて言えば俺の身体は灰すら残らないだろう...。


 魔王を倒すという選択肢も論外だ。仮に俺が20年間鍛えたところで魔王にはかすり傷1つ負わせられない気がする...。


 待てよ? エレンが魔王だとすれば俺はエレンの跡を継げば簡単に魔王になれたりするんじゃ...。


「母さんって魔王なの?」


 俺の発言を聞きエレンが呆れた顔をする。


「アンタ、何言ってるの? 人間の私が魔王になれる訳がないだろ」


「え? だって天礼(レクシール)の時に母さんの名前を出せば、何とかなったって言ったのは母さんが魔王だからじゃないの?」


「ふー、どうせアンタの天礼(レクシール)が終わったら話そうと思っていたことだ。家に帰ったら全部話してやるから待ってな」


 一体どういうことだ? 全く意味がわからない...。


 エレンが魔王じゃないんだったら、王がエレンを見てあれだけ怯えていたのは一体...。


 俺達の前にテベルが見えてきた。


 家に帰ったら全てを話してくれると言っているんだ。今、色々と考えるのは止めておこう。


 村の入り口には朝と同じく警備役の男が立っていた。


「おお。ロディ! 無事だったか! ヘクトルとミラが2人で帰ってきた時は心配したぞ。あの2人はお前のことを聞いても何も言わないし...!? その傷はどうしたんだ?」


 ヘクトルとミラは俺が天礼(レクシール)で魔王が選ばれたことを人には言ってないようだ。


 ヘクトルがそんな気を使えるとは思えないから、おそらくニアが強く言ったのだろう。


 もしかしてエレンが城に来てくれたのは...。


「城の物を盗んだ泥棒だと誤解されてしまって、非道い目に合わされちゃいました...。母さんが来てくれて誤解は解けたので帰ってこれました」


 俺は咄嗟に嘘を吐いた。これならこの傷のことにも納得が出来る筈だ。


「それは大変な目に合ったな...。エレンさんもお疲れ様でした」


「本当だよ。ロディのせいでわざわざ城まで行く羽目になるなんてね。それじゃあ私達はもう帰るから」


 入り口の男と別れて俺達は家へと向かった。


「もしかして母さんが城に来てくれたのって?」


「ああ。ミラがヘクトルを連れて泣きながら家に来たんだよ。ロディを助けて! って。詳しく聞いたらアンタに魔王が選ばれてどこかに連れて行かれたからって。私もそこでアンタに私の名前を言うことを伝えておくのを忘れたことに気付いてさ」


 ミラとヘクトルが...。城であんな風に言ったのに2人は俺のことを友達だと思ってくれていたんだ...。


 2人の優しさに涙が出そうになる。


「俺が魔族の血を引いているって知った筈なのに...」


「魔族だから何だって言うのさ? もしアンタはミラが魔族だって知ったらミラから離れるのかい?」


 ミラが魔族だと知ったら...。俺はミラが魔族だと聞かされたら驚くとは思うが、それによってミラへの態度が変わることはないと思う。魔族だとしてもミラはミラだ。


「いや。もしミラが魔族だと聞かされたとしてもミラは友達だ」


「そういうことだよ」


 家の近くまで帰って来ると家の外にマリスの姿があった。


 俺の姿を確認するとこっちに向かい走ってくる。


「ロディ様ー!」


 マリスは傷だらけの俺を見ると驚き、顔を青くしている。


「ロディ様...そのお身体の傷は一体...待って下さいね。直ぐに治療致します」


 マリスが傷付いた俺の身体に両手をかざす。


完全回復(フルヒール)


 マリスの両手が白く輝きを放つと俺の身体が暖かい光に包まれる。

 

 光が収まると身体の傷は完全に消え去り、あれだけの痛みも嘘のように消えていった。


「ありがとうマリス。助かったよ。でもあれくらいの傷なら完全回復(フルヒール)じゃなくて少回復(ヒール)で良かったんじゃないの?」


「ロディ様! 何を言ってるんですか。大切なロディ様のお身体にかすり傷1つ残す訳にはいきません!」


 心配なそうな顔をしていたマリスの表情が冷静な顔へと変化する。


「エレン様。ロディ様をこんな目に合わせたのはクレイアの人間でしょうか?」


「ああ。そうだよ」


「よくも...よくもロディ様を! 絶対に許さない!」


 マリスが激昂する。これ程怒っているマリスの顔など今までに見たことがない。


 何処かへ行こうとするマリスをエレンが腕を握って止める。


「どこに行くつもりだい?」


「決まっています! ロディ様をこんな目に合わせたクレイアを滅ぼしに行くんです!」


 マリスは本気だ...。何とか止めなければ本当にクレイアを滅ぼしかねない。


「止めな。そんなことをすればロディに迷惑が掛かるだけだよ。アンタはそれでも良いのかい?」


 少し前に王に向かってクレイアを滅ぼすと言っていた人間の言葉とは思えないな...。


「ロディ様にご迷惑が...申し訳ありません...」


 マリスは落ち着いてくれたようだ。自分の怒りよりも俺のことを考えてくれる。


 その怒りも俺を傷付けられたことによるものだ。


 こんなに俺のことを思ってくれる人間がいてくれるだけで、俺はこの世界に転生されて良かったと思う。


「ロディの為にご馳走を作ってくれたんだろ? 一応天礼(レクシール)は終わったんだ。一緒にロディを祝ってやろう」


「はい!」


 マリスの顔には笑顔が戻った。俺達はマリスの作ってくれた料理を食べるため、そしてエレンから全ての話しを聞くため家の中へと入って行った。


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