第13話 闇の勇者と光の魔王
家の中へ入ると奥の方から良い匂いが漂ってくる。家に入り奥に進んだ所にある普段食事をしている部屋に入ると、テーブルの上一杯に料理が置かれていた。
どの料理も普段は滅多に食べられないようなご馳走ばかりだ。
結局朝から何も食べていないままでかなりお腹は減っている。
天礼が終わった後に街で食べ物を買うことになっていたが、流石にあの状況ではヘクトルも食べ物屋に寄ってはいないだろう。
円形状のテーブルの回りには椅子が5脚置かれており、待ちきれない俺が席に着くと遅れてエレンとマリスも席に着いた。
「頂きまーす!」
腹ペコだった俺は料理にかぶりついた。
作ってから少し時間が経ってしまったせいか、料理は温くなってしまっていたが、それでも相当な旨さだった。
がっつく様に食べ進める俺とは対照的にエレンとマリスはゆっくりと食事を進めている。
全ての食事を食べ終わろうかというところでマリスが口を開いた。
「そう言えばロディ様があれだけ傷を負っていたのに何故、エレン様は回復魔法を掛けなかったのですか?」
え...? エレンが魔法を使えるとか初めて聞いたのだが...。
隠蔽によって職業を確認することは出来ないが、てっきりエレンは近接戦闘のみで押し切るタイプだと思っていた。
「いや。別に放っておいても死ぬような怪我じゃないから、回復魔法を使うまでもないだろ?」
いやいや...。俺の中では完全に死ぬほどの怪我だったんだが...。それに回復魔法を使えば怪我だけじゃなく、痛みをなくすことも出来た筈だ。
やはりエレンは何を考えているかわからない...。俺を助ける為に城に乗り込んで来たかと思えば、回復魔法を使えるのに俺の傷を治してはくれない。
ただ1つ言えることはエレンが次元の違う強さを持っているということだ。
剣だけでも最強だと思っていたエレンが、魔法も使えるとなるとそれこそ魔王と戦っても圧倒してしまうんじゃないだろうか...。
「エレン様はロディ様に厳しいですね。もう少し優しくしてあげても宜しいのではないでしょうか?」
「アンタがロディを甘やかすからその分私が厳しくしてるんだよ」
マリスの優しさに対してエレンが俺に厳しくしているのであれば、全然釣り合いが取れてない気がする...。
「そんなことより母さん。俺が勇者と魔王になれる理由を教えてよ!」
お腹も満たされた俺は気になっていた話を切り出した。
「別に驚くことはない話だよ。だってアンタは勇者と魔王の間に産まれた子供なんだから」
勇者と魔王の子供!? そんなことがあり得るのか...? 真実ならばそれは勇者が魔王と大人の関係になったということを意味する。
「だって母さんは魔王じゃないって言ったよね?」
「ロディ様。エレン様は魔王ではなく勇者ですよ。八竜勇者の1人、闇の勇者エレン。八竜勇者最強と言われている勇者です」
「か、母さんが八竜勇者...と言うことは...」
「そうだよ。八鳳魔王の1人、光の魔王クロード。それがアンタの父親だ」
父親が魔王だったということよりもエレンが勇者だったということの方が驚きだ...。
城での態度を見ていても、とても勇者がやる行いとは思えない。
勇者という存在に抱いていた俺のイメージは完全に崩れさってしまった。
「それで俺が勇者と魔王どちらになることも出来たのか...やっと納得がいったよ」
「正直、勇者なんてのはもうウンザリでね。金にはならない仕事はしなくちゃいけないし、国から命令があれば従わなくちゃいけない。私はもっと自由に生きたいんだよ」
いや...貴女...王様の命令とか聞きそうな感じ全くしなかったんですが...。
普段はちゃんと国の命令に従ってるんですか? 全くそんな気がしないんですけど...。
八竜勇者になれば国からの指令が出される。
指令にも色々とあり魔物討伐から要人護衛。他国との交渉など様々だ。
八竜勇者が国からの指令を断ったという話は聞いたことがないが、エレンなら普通に断っていそうな気がする。
「確か八竜勇者がその座から降りる時って、後継者を見付けられた時だけだよね?」
「そうだよ。だからアンタが産まれた時に私はアンタに面倒を押し付けよう...いや、八竜勇者を継がせようと決めたんだ」
今本音がポロッと出たな...。ただの勇者ならまだしも八竜勇者とか流石に面倒過ぎるだろ...。
「だったらそれを今まで言わなかったのは何故なの?」
「アンタの父親のせいだよ。クロードの奴もアンタに自分の跡を継がせるとか言い出してね。そこで私とクロードはある賭けをすることにしたんだ」
「ある賭け?」
「ああ。アンタが天礼を浮けた時に勇者と魔王が選ばれた場合、どちらか適正が高い方を継がせるってことで話が纏まったんだ」
纏まったって...俺の意思は全くなしですか...。
俺が魔王になりたい! とはならないと思うが、勇者になりたい! とは思うかも知れないじゃないか....。
「もちろんロディ様なら魔王の適正の方が高かったですよね?」
何故だかマリスは俺が魔王の適正の方が高いことを望んでいるように見える。
「アンタは明らかに私似だからね。勇者適正の方が高い筈だ。それで結果はどうだったんだい?」
「勇者適正も魔王適正もSだったんだけど...」
俺の発言に2人が驚く。しかし俺が天礼の時に受けた驚きに比べれば大したことはないだろう。
「...それは想定してなかったよ。さてどうしようかね...」
「クロード様とお話なさってはどうですか?」
「あんな奴の顔は見たくないんだけど、それしかなさそうだね。もしこのままシカトを決め込んだらこの村にやって来そうだしね」
闇の勇者と光の魔王で子供の将来を話し合うとか凄いことだな。
そもそも何故、闇の勇者と光の魔王がそんな関係になったのかも謎だ。
「よし! ロディ。今からクロードに会いに行くよ。そんな服でアイツに会ったら私が責められるから着替えてきな」
光の魔王に会いに行く...? 父親とはいえ正直メチャメチャ怖いんですけど...。
純粋な人間だと思っていた俺からすれば魔王なんて恐怖の対象でしかない。
だが、エレンと光の魔王で勝手に俺の将来を決められるのも困る。
光の魔王に会いに行く。
俺は意を決すると、拷問官にボロボロにされた服を着替えるため自分の部屋へと向かった。




