オオカミと七匹の子ヤギver
各シリーズの主人公出演です。
代表として、ここに設置します。
「ワガハイは子ヤギですの!名前はまだないですの!みんなにはチビちゃんとか末っ子ちゃんって呼ばれてるですの。よろしくですの」
「・・・誰に向かって紹介してんの?」
「なんでもないですの。御話の始まりですの~」
ある所に、お母さんヤギと七匹の子ヤギが暮らしていました。
ある日、お母さんヤギは急遽、街へ出掛けなければならない用事が出来てしまいました。
子供達が心配ですが、長男のシオンさんは普段は寝てばかりですが、やる時は決める雄に成長していたので、大丈夫だろうとお任せすることにしました。
長女のリリィは、目を離すと弟達に「オトナのお勉強」を教えようとするので、連れて行く事にしました。
次女の双子達、リノとマチは個々だと少々心配ですが、二人セットならばあまり問題も起こしません。
大抵はリノが起こしてマチが収拾にあたります。
口を挟むと余計ややこしくなるので放置することにしています。
下の双子達、カイ君とファラちゃんは二人ともしっかり者です。
個性が強すぎて自由すぎる上の兄姉を見て育ったとは思えません。
そして、一番下の末っ子ちゃんは、言いつけをしっかり守る子なので、約束さえしておけば大丈夫です。
「いい?お母さんとリリィはちょっと街まで行ってくるからね。しっかりお留守番してるのよ?」
「「「「「はーい(ですの)」」」」
二名ほど返事をしてない子達がいますが、いつものことなので、お母さんは華麗にスルーします。
片方はしっかりしているし、もう片方は片割れが説教してくれます。
「誰が来ても、絶対にドアを開けちゃだめよ?約束よ?」
「わかったですの。約束は守るですの!」
末っ子ちゃんがしっかりと誓いました。
この子の約束は他の子達とは重みが違います。
恐らく、絶対に守ってくれる事でしょう。
嫌がる長女を連れて、お母さんヤギは安心して街へと出掛けました。
子供達は各々、家の中で自由に時間を過ごします。
ファラちゃんとマチはおやつの準備をしているようです。
蒸しパンを作っているようで、いい匂いがお家の中に充満しています。
シオンさんとリノ、チビちゃんはお昼寝タイムです。
この三匹はよく寝ています。
カイ君は狩り用の道具の整備をしたり、撒き割り用の斧のチェックをしたりしています。
有意義ないつもの日常を送っていた所、外から声が聞こえてきました。
「お母さんですよ。あけておくれ」
ガラガラな声で、お母さんとはとても思えません。
まだお父さんですよ。とか名乗ってくれた方が信じる可能性が高かったように思えます。
それもそのはず。実は声の主はお母さんではなく、オオカミさんだったのです。
お母さんヤギが出掛けるのを見かけて、中にいるのは子供達だけと思ったオオカミさんがお腹を満たしにきたのです。
ですが、ガラガラな声で騙されるような子供達ではありません。
「うちの母さん、そんなガラガラな声じゃねーし。一昨日きやがれ!」
カイ君が追い返してしまいました。
これくらいの事なら、上の兄姉に頼るほどの事でもありません。
寝ていた三名がピクリ、と動いたようですが、そのまま起き上がる様子はありません。
警戒心が強い三名が動かないのなら、これ以上の警戒はしなくても大丈夫だろう、とカイは整備に戻りました。
鈍いファラちゃんとマチは楽しくお菓子作りに勤しんでいます。
・・・一番の苦労性はカイ君かもしれません。
声で見破られたオオカミさんはたまったものではありません。
中には食べ応えがある子ヤギが六匹もいるはずなのです。
常日頃から親が外出する隙を遠くから見張っていたオオカミさんは家族構成までバッチリ把握しています。
そこで、オオカミさんはチョークを買い、それを頬張って声を変えて再び子ヤギ達のいる家に戻りました。
「お母さんですよ。あけておくれ」
今度は声で判断出来なかったカイ君です。
大人のメスの声を母親以外、聞いた事がないので、個性が判別出来なかったのです。
そこでカイ君は、声以外の判断材料を求めました。
「母さんなら、隙間から足見せてくんね?真っ白なはずなんだよね~。俺たちヤギだし。まっさか、黒い足とかしてねーよな?」
冷や汗をかいたのはオオカミさんです。
何故なら、オオカミさんの足は先が黒く、根元に向けて茶色だったのです。
真っ白い箇所なんてどこにもありません。
「見せられないような足なら帰ってくださーい」
カイ君にあっさりと追い返されてしまいました。
お昼寝三匹組が何やらお話しています。
「・・・チョークを買うくらいなら、ご飯を買えばいいですの」
「だな」
「馬鹿なんじゃないか?」
容赦がない三匹です。
オオカミさんは次にパン屋で足を怪我した!と言いながら、小麦粉を足に塗りたくって真っ白にし、三度、子ヤギ達の家へと向かいます。
「今度こそ食ってやる!あのクソガキ!!!」
対応したのはカイ君のみです。
恨みはカイ君にのみ向かって蓄積していきます。
「お母さんだよ。あけておくれ」
今度は声も高く、足も真っ白です。
疑う要素がありません。
しかも、運が悪い事に、カイ君は道具を仕舞いに奥の部屋に行ってしまっていました。
対応したのは、マチでした。
マチ相手ならば、声を変えるくらいで済んだ事を知らないオオカミさんは、自分の完璧さに酔いしれていました。
これからご馳走が食べられるのです。
うっかり地声で笑ってしまいそうなのを、堪えるオオカミさんでした。
「はーい。今開けまーす」
素直なマチはお母さんに開けてくれ、と言われたならば、そうするまでです。
ところが!
ドアを開けた所には足を真っ白にしたオオカミさんが!!
マチはパニックを起こして悲鳴を上げて部屋の奥へと必死に逃げます。
悲鳴を聞いて駆けつけたカイ君、台所の影に隠れたファラちゃん。
そして、柱時計の針を取り出してフルスイングするリノです。
片割れの後始末は片割れがするのがルールなのです。
マチがドジをして開けたのですから、リノがフォローするのが暗黙のルールです。
「いっただっきがはぁっ!!!!」
カイ君が丹念に磨いた時計の針はそこそこの殺傷力がありました。
オオカミさんのお腹はパックリと開いてしまい、あまりの痛さにオオカミさんは気絶してしまいました。
「リノ姉、ナイス♪」
カイ君は快勝にご機嫌です。
自分ではここまで出来なかったでしょう。
まだまだ上の姉には勝てないようです。
「フン。このドジ馬鹿アホ。開けるなって言われてただろうが。お前の頭は飾りか?あ?」
功績を挙げたリノは、片割れマチへの嫌味で大忙しです。
普段、無口なリノの口が忙しく話しまくるのは、実は片割れに対して嫌味を言う時だけだったりします。
わかりづらいですが、心配したようです。
素晴らしいツンっぷりだと、他の兄弟姉妹は微笑ましく見守っていて、口を挟みません。
ですが、言われているマチだけは本気で受け取っていて、凹んでいます。
これもいつもの事なので、他の兄弟姉妹は華麗にスルーします。
「コイツ、どーする?」
カイ君の最もな質問が上の兄姉に向かって放たれました。
最も、家の中にいる姉は現在、片割れと取り込み中なので、長男のシオンさんへ向かっています。
ツンツン突いてみると、どうやら生きてはいるようです。
「お腹を縫い合わせて、何事もなかったように放り出しておきます?」
ファラちゃん、何気にエグイです。
何処からか、裁縫道具を持ち出していて、針に糸を通して準備満タンです。
「なんか腹に詰めとく?腹がなんかでいっぱいなら、俺達狙われないっしょ」
「食料がもったいないですの。その辺の石とか詰めとけばいいですの。消化されにくいし、長持ちするですの」
石をお腹に詰めて縫い合わせて放り出す。というので落ち着きかけました。
シオンさんの言葉がなければ。
「・・・オオカミの肉って食えるんじゃないか?」
「「「「「!!!!!!」」」」」」
それからは大忙しです。
シチューやら焼肉用やらと捌いていき、皆それぞれ担当して料理に取り掛かります。
今日はごちそうです。
成長期の子供達は大喜びです。
お昼寝組の内、末っ子ちゃんだけがご飯の支度に参加しましたが、上の二名は寝たままです。
「小麦粉で何か飯出来ただろ。アホか」
「肉食としてのプライドが邪魔でもしたんだろ」
「なるほど」
夕方、いい匂いがする我が家から夕飯の支度までしていてくれている事に喜んだお母さんヤギとリリィさん。
「ただいま~!お母さんよ。開けて~」
面倒な用事を済ませたり、いい男をナンパしようとするリリィを止めたりと大忙しだったので、お腹だってペコペコです。
ところが。
「ダメですの。誰が来ても開けちゃダメって言われてるですの」
「え。チビちゃん?お母さんよ?だから開けてちょうだい?」
「ダメですの。誰が来ても。ですの。お母さんでもダメですの」
お母さん、大失態です。
ドアを開ける条件に自分達を入れ忘れていました。
「チビ、飯の準備出来たぞ。席座れ」
「はいですの」
「お母さん達、遅いね」
「街で飯でも食ってんじゃん?」
「まぁ、そうですよね。こんな時間だし。泊まってくるんじゃないですか?」
「じゃぁ、この飯は俺達で独占だな」
「「「「「「いただきます(ですの)」」」」」」
妹ちゃんも霞む他シリーズのキャラにビックリしました。
妹ちゃんの出番が少なくてすみません。