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第三話 「静寂が覚める前に」7

 電車から降りて、改札を出ると嗅いだことのない駅舎の匂いが漂い、セミの合唱がすぐ近くから聞こえてくる。一気に目的地が近づいていることを私は実感した。ここからはバスに乗って移動をするため、冷房の効いた涼しい駅から出ると、晴天となった真夏の日差しが襲ってきた。何回か電車を乗り換えて、やっとここまでやって来た。段々と空気が変わっていくのを感じて、それだけの長い旅路を巡ってきたのだと胸が熱くなった。痛いくらいに強い陽射しが差し込んでくるので、私は深々と麦わら帽子を被った。

「ここのバス、一時間に一本しかないんだって」

 そう真美に言われて思わず私は笑ってしまった。長い道のりだったけど、とんでもない田舎までやってきたものだ。それだけ私達は遠いところまで来てしまったのだ。

「それは乗り過ごしちゃったら大変ね」

「本当、ここで暮らす人達は私たちの知らない苦労をずっとしてきたのね」

「でも、ここのバス停に座ってずっと日向ぼっこするのもいいかも」

「暑いし退屈過ぎて死んじゃいそうよ。郁恵はのんびり屋さんね」

「そうかな?」

「でも、それくらいの方がいいのかもね。焦って何かをしようとしても、必ずしも上手くいくとは限らないし」

 ちょっとだけ情緒的なやり取りだなと思った。真美だって器用な人間ではない。過去に色んな苦労をして失敗もしてきたのかもしれない。到着したバスに乗り込んだが、客人は私たちだけみたいだった。

「目的地に着いたらピンポン鳴らさないといけないのかな?」

 バスに乗るのなんて久々だ、なんだか不安になってきたので私は真美に確認を取った。

「降りるところは終点だから、鳴らさなくても平気よ」

 そういえばそうだった。そんなことを打ち合わせの時にも話した気がする。緊張やら焦りですっかり頭から抜けていた。バスが舗装された道路を走っていく。よく揺れる車内で歯を食いしばって耐え、酔わないようにするので必死だった。

「もうすぐだね」

 やがて訪れる旅の終着を告げるように、真美はそう言って私の手を握った。それだけで私には真美が”ここにちゃんといるよ”と伝えてくれているような安心感があった。


 ――つづく。



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