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七十七話 虚と真実

 レイオースからの突然の質問に、ミリアとアレクは顔を見合わせた。なんと返事していいものか逡巡したが、やがて彼の視線を向けられていたアレクが口を開く。


「仮面の魔法使いってヴィーチェルさん達を助けてくれた方ですよね。名前は知りませんが、一度だけその人と思しき人を見かけた事があります」


「何?」


 予想外のアレクの答えにレイオースは困惑を隠せずに声を出してしまった。彼が調べた限り、あの魔法使いは今目の前にいる少年である可能性が限りなく高かったのだ。だからこその先ほどの質問をぶつけ反応を見るつもりだった。


「いえ、『何』と言われても……。ヴィーチェル達の行方が分からなくなったと聞かされた後、ミリア先生は捜索の為他の先生達と合流しました。それで、僕も彼女たちを探すために一人あの森の中を歩いていたんです」


 アレクはその際に、怪しげな仮面をつけた男を見つけ後を追ったが、いつの間にか姿を見失ったのだとレイオースに話した。


「きっと、あのとき既にヴィーチェル達を救い出した後だったんでしょうね。皆の所へと戻る途中、ミリア先生達と合流して、話を聞かされてびっくりしました」


 腕を組んでうんうんと首を縦に振るアレク。


「馬鹿な、そんな話で誤魔化されるないよ。あの時単独で行動していたのは君だけだと聞いている。君が『仮面の魔法使い』なんだろう?」


 語気を強めて言い寄るレイオースに、アレクは怯えた素振りを見せてミリアの背に隠れる。そんな弟子を庇うかのように今度はミリアが口を開いた。


「レイオース様、アレクが仮面の魔法使いなんて事はありえません。ずっとアレクとは行動を見てきた私が断言します。それに……」


 中途半端に言葉を切ったミリアにレイオースが続きを促した。


「それに、なんだい? 明確に違うという証拠でもあるのかい?」


 ミリアはレイオースの言葉に頷くと、驚きの証言を口にした。


「私も気になって調べて見ましたが……仮面の魔法使いの姿はこの一ヶ月で幾度か目撃情報があります。それも、『王都とは離れた村などで』です。その間彼は常に学園に居ました」


 話の内容にレイオースはこれ以上無い程目を見開いた。 


「あ、その話僕も宿に手伝いに行った時に聞きました。結構旅人の間では有名みたいですよ?」


 ミリアの背から顔を出しアレクが付け加えた。事実、アレクが週末に手伝いに行っている『シルフの気まぐれ亭』に訪れる商人からアレク自身が耳にした事だ。 

 レイオースはと言えば、ミリアとアレクからもたらされた情報に言葉を失ったままだった。事件から二ヶ月もの間、学園やアレクの周辺を探って至った推測が、ここに来て覆されてしまったのだ。


「きっと王都の衛兵とか騎士団でも聞いた人が居ると思いますよ? では、私たちはこれで失礼します」


「あ――」


 頭を下げさっさと部屋から出て行くミリアとアレクに、レイオースは声を掛ける事が出来なかった。暫く閉められた扉をぼーっと眺めていたが、慌てて部屋を飛び出すと情報を確認しに騎士団の詰め所へと向かうのだった。




 王城から出たアレクとミリアは学園へと帰るべく馬車へと乗りこむ。他の人の目が無い事を確認すると、二人同時に大きく息を吐いた。


「あーびっくりした。まさかレイオースさんから聞かれるなんて」


 御者に聞かれないよう小さな声でアレクが呟くと、それに続いてミリアも小声で話す。


「この数ヶ月クラスの皆やアレクの周囲を探っていたのは彼だったようね。さっきので上手く誤魔化せていればいいのだけれど」


 どうやら二人はこういった事態になり得る事を予測していたようだ。




 事の発端は合宿を終えて学園へと戻ってきた数日後からだった。クラスメイトの数人が、合宿中に起きた事について二度目の聞き取りをされたとミリアに報告に来たのだ。

 カストゥール事件での『仮面の魔法使い』については同じ一年生に聞けば大概の噂話が手に入ってしまう状態であったし、エルフに襲撃された件も下手に口止めを行えなかった。

 こういった話というのは、口止めをしたり情報統制を行えば行うほど違和感や興味を持たれるものだ。加えて、クラスの者だけならともかく、護衛の騎士や教師などに対し口止めを行う事は不可能であったことも理由としてあった。


 その頃を境に、アレクの周囲で何者かの視線を感じるようになる。こうなってくると、アレクが『仮面の魔法使い』であると疑われているのだと推測された。


(国の機関か、カストゥールをあんな風にした恨みからのどっちかかな)


 どちらにしても面倒事が起きる確率が高く、対処しなければならないだろうとアレクは思い、事情を知るミリアとも相談し、どう行動すべきかを連日話し合うこととなった。

 ここでアレクの取った方法は、偽物を仕立て上げる事だった。長期間アレクから離れていても大丈夫なように、今あるだけの魔力をつぎ込むことになった。


「《眷属召喚》ネクロマンシー」


 今回呼び出す眷属は、俗に『死霊使い』と呼ばれるネクロマンシーである。

 背丈はアレクと同じくらいで、黒いマントをまとっている。仮面はつけておらず、容姿は印象に残らない普通の顔をしている。

 魔力が枯渇した所為で倒れかけたアレクの体をミリアが慌てて支え横にする。なんと今回の召喚は研究のためミリアも同席して行われていたのだ。


「なるほどね。こうやって新たな眷属を生み出していくのね」


「はい、私もこうしてお父様から創造されました」


 興味深げに新たな眷属を見つめるミリアの横にはアンの姿があった。眷属の秘密を共有した以上、隠す必要もなくなり研究室に居る際にはアンやアイン、ツヴァイ達も具現化させて自由にさせるようになっていた。

 もっとも、未だリールフィアには内緒にしているので彼女が来る時は隠している。のけ者にしているようで気がとがめるが、強い絆で結ばれるまではと先延ばしにしていた。


 やがて意識を取り戻したアレクは、新たな眷属であるネクロマンシーに名前をつける。


「お前の名は――四体目だから『クワトロ』で」


「畏まりました」


 相変わらずの名付けセンスに文句も言わず、クワトロと名付けられたネクロマンシーは頭を垂れた。彼にはこれから北部へと移動して貰い『仮面の魔法使い』として活動を行って貰う事となる。


「それにしても……見た目は人間と変わらないようだけど。彼の能力はどういったものなの?」


 ミリアの言うとおり、見た目は全く人間と変わらない容姿である。街を歩いていたとしても誰の記憶にも残らないような、そんな特徴の無い顔は意図して作られたものだ。


「基本的に僕の複製ですね。記憶は僕の物を受け継いでいるので詠唱破棄で魔法も使えます。身体能力的には僕よりも上ですかね……。それと、今回の要となるのは『死霊魔術』が使えます」


「死霊魔術?」


 アレクの説明にミリアが言葉の意味が分からないと聞き返す。ここで言う死霊魔術とは死体を操ったり降霊を行う物では無い。例えアレクの作り出した眷属だとしても、神の領域だけは侵せないのである。


「簡単に言えば、彼の魔力を使ってアンのようなレイスを作り出したりツヴァイのようなスケルトンを一時的に作り出す能力ですね。持続時間も短いし数を生み出すことも出来ませんけど『仮面の魔法使い』として噂になるくらいには十分かと」


 限定された能力に加えて問題が一つある。それは、クワトロの魔力を定期的にアレクが補充しなければならないという事だった。


「どの程度持つか分からないんですけれどね。まあ、噂が立って僕が『仮面の魔法使い』では無いって証明できれば僕への監視が無くなると思うし」


 こうして生み出されたクワトロは、以降王都の北を転々としながら活動することとなる。

 何故か盗賊などの悪党を見つけると嬉々として殲滅させる事から『盗賊殺し』の二つ名でも有名となる。これは主であるアレクの深層心理に盗賊を許せないという気持ちがあったからかどうかは分かっていない。




 こうした経緯で二ヶ月の間、クワトロは旅人や村を盗賊から何度か救うこととなった。人から人へと噂は広がり、旅する商人や冒険者の中でも噂が広がるようになっていった。

 虚もやがて真実となる。アレクが本当の『仮面の魔法使い』だとしても、やがてクワトロがそう呼ばれるまでに時間はかからなかった。 

アレクのキャラ崩壊疑惑

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