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七十六話 レイオースとの出会い

「えー! アレク君、ユグドラルへ行くの? いいなぁ」


 学園長から解放されたアレクが教室へと戻ると、事情を聞いたリールフィアが羨ましそうな声を上げた。その声を聞いたエレンやランバートもアレクの所へとやってくる。


「何もいいことないよ。気ままな旅として行くならともかく、国の代表団と一緒とか不自由過ぎるし」


 アレクはユグドラル行きを快諾した。彼としてもエルフの国には興味があり断るという選択肢は無かった。ところが、行くことを決めた後に国の代表団と同行するのだと言われたのだった。


「国から招待された者と一緒だと外交がやりやすいからって……。僕やミリア先生を出汁に使わないでほしいよ」


 そう言って深いため息を吐く。

 国としては今回のことを元にエルフ達と更なる同盟の強化を行いたいと思っているようだ。それ自体は別にアレクとていいと思っている。ただ、堅苦しいお役人と一緒というのが嫌なだけなのである。

 そんなアレクにエレンが腰に手を当てながら話す。


「まあ、いずれにせよ普段は入ることの出来ないエルフの国へと行けるのだもの羨ましいわ。しっかり見てきて後で色々話して聞かせて頂戴」


 エレンとしてもユグドラルに興味があるようだ。


「エルフって学園長みたいに美人・美形揃いなんだろう? 羨ましい限りだな」


 そういったランバートの脇腹に、エレンから肘打ちが入る。リールフィアは一瞬怒ったようにランバートを見た後、不安そうにアレクを見つめるのだった。



 招待を受けてから一月後、国から同行する使節団との面通しがあるというので、アレクとミリアは王城へと出向いてきた。城へと入ることが初めての体験なので、アレクはとても緊張していた。

 そんなアレクに、


「出発式では国王陛下とも顔を会わせる事になるのよ? このくらいで緊張していては身体が持たないわよ」 


 とミリアが追い打ちをかけた。平民であるアレクにとって、王城など生涯関わることが無い筈の場所である。ましてや国王との謁見など理解の外であった。


「やっぱり、行くの辞めます。先生だけでお願いします」

「バカな事言ってるんじゃないの。直ぐに終わらせられれば早く帰れるでしょ」


 回れ右をして帰ろうとするアレクの襟をミリアが掴む。

ミリアとしても面倒だと思っているようだ。さっさと終えて自分の研究室へと戻る為にはアレクにも我慢して貰わなくてはならない。ミリアにそう諭され、アレクは肩を落とし彼女の後ろを着いていくのだった。 


 城の衛士に案内されたのは、王城にある応接室の一つだった。促されて中へと入ると、既に何名かの騎士と文官か魔法使いと思しき格好の男達が座っていた。


「ミリアさんとアレク君をお連れしました」


 案内の者がそう告げると、座っていた男達の一人が立ち上がりアレク達へと頭を下げた。


「ご足労いただきありがとう。私は魔術師団の副団長を務めますレイオース・フリンドルです。今回の使節団の総指揮という立場になります」


 見た目は三十代だろうか、肩まで伸びた金髪を後ろで一纏めにしており、同性から見ても美形だと認めざるを得ない。レイオースはそう挨拶をすると、アレク達を近くの椅子へ案内する。


「ミリアとは会ったことがありましたね。お久しぶり、相変わらずお美しい」


 歯の浮くような台詞に、ミリアは表情を変えず軽く頭を下げただけだった。そんな彼女の態度にレイオースは小さく苦笑を浮かべただけで、顔をアレクの方へと向けた。


「やあ、若き魔法使い君。君がミリアの弟子であるアレク君だね」


 レイオースはそう言ってアレクへと右手を差し出してきた。その手を握り返しながらアレクも挨拶を返す。


「はじめまして、レイオース様。今回はユグドラルまでご一緒させていただきます」


 レイオースはあまり身分に拘っていないのか、気安い感じでアレクの肩を軽く叩いてくる。


「堅苦しい挨拶は要らないよアレク君。なかなか優秀な魔法使いらしいじゃないか。色々と噂は聞いているよ」


 そういってアレクの顔をまじまじと覗きこんでくる。


「噂ですか?」


 レイオースの言葉にアレクは首を傾げる。国に属する魔術師団の幹部である彼の耳に入るような事はした覚えがなかったからだ。


「まあ、優秀そうな学生には今のうちから目をつけているからね。騎士団だって素質のありそうな生徒には目を光らせている筈だし、何もおかしいことじゃないよ」


 そう言ってアレクに微笑む。だが色々と秘密を抱えているアレクにとっては目をつけられる事はうれしい事では無かった。今後、こういった人たちの目も気にしながら行動しないといけないのだと念頭に置くことにした。


「ところで、君は卒業した後の進路は決めているのかい? もしよければ魔術師団に来ないか?」


 アレクは突然始まったレイオースからの勧誘に目を白黒させた。すると、ミリアが見かねたように間に割って入ってくれた。


「レイオース様。今回はユグドラルへの使節団の打ち合わせだった筈です。他の皆さんもおられるのですから話を進めてください」


 少し強い口調でそう言われれば、レイオースもそれ以上勧誘をせずアレクから離れるしか無かった。彼はばつの悪そうに苦笑しながら、手を上げて降参の意を示した。


「悪い悪い。つい優秀な魔法使いを見ると勧誘しておく癖があってね。そうだね、まだ一年生だったね彼は。ま、選択肢の一つにいれといてくれればいいよ」


 そういってレイオースは席に着いた。アレクは視線でミリアに感謝を告げると、ミリアと共に先ほど勧められた席へと腰掛ける。




 その後、一時間に渡って使節団の日程についての説明が行われた。

 使節団はアレクとミリアの他に五名が同行する。護衛の騎士が二名と魔道士が二名。加えて副団長のレイオースが一緒である。移動には馬車が使われ、野営は基本的に行わない予定だ。ただ、何か不測の事態を考慮して野営道具は一式積んでいくそうだ。


「ユグドラルの首都に到着した後は僕らとアレク君とミリアは別行動になるだろう。僕らはあくまで君らに勝手に着いていくおまけだからね。出来れば君たちの方でもこの国と仲良くやっていきましょう的な事を話してくれると助かるね」


 レイオースはそんな風にアレクへ頼むと一連の説明を終えた。

 顔合わせは終わり、騎士達から順に部屋を出て行く。アレク達も退出しようとすると、レイオースから声をかけられる。


「そうだ、ちょっと聞きたい事があったんだ」


 その言葉に二人は足を止め、部屋の中に留まった。他のメンバーが出て行った後、レイオースは扉を閉めると再び席へ座るよう促す。先ほどの勧誘の続きでもするのだろうかとアレクが思っていると、レイオースは先ほどと違い真面目な顔で二人を――正確にはアレクを見ていた。


「君たちは『仮面の魔法使い』が誰だか知っているよね?』

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