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不死王の嘆き ~死神から呪福を貰い転生しました~  作者: 藤乃叶夢
第二章 ゼファール王立学園 入学
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閑話 週末の光景.

 夏休みが近づく中、アレクはシルフの気まぐれ亭へとバイトに来ていた。何時もの様に、朝は仕込みを手伝い昼が近づくと増えていくお客から注文を取ったり厨房へ入ったりと忙しく働いている。


 入学から三か月が過ぎる頃には、風呂の水張りの依頼はかなり少なくなった。皆魔力量が順調に増え、余程授業で魔力を使わなければ自分で出来るようになってきたからだ。

 多かった時は日に二十人近い依頼があったが、今では多くて五人くらいに減った。それでもこの三か月で銅貨がそれなりに増えた。骨狼の吐き出す魔石もそれなりに溜まってきているので、敢えて宿で働かなくても生活には困らないのだが…。


(苦しいときにお世話になった二人には恩返ししないと)


 可能な限り週末には働きに来て、ついでに記憶にある料理を再現しては食堂のメニューに加えていく。それが世話になった二人への恩返しと思っている。


 アレクがそんな事を考えていると、厨房を覗き込んだアレクへミミルが声を掛けて来た。


「アレク君にお客さんだよー」


「はい?」


 客と告げられ、誰が来たのかと思考を巡らす。真っ先に思いつくのは騎士のレベッカだ。しかし、彼女なら忙しいお昼時をかなり過ぎてから来る筈だ。今は丁度昼時とあって客が途切れず忙しい時間帯なのだ。


「誰だろう……。 どんな方ですか?」


「アレク君と同じくらいの年頃の子だったよ。学園のお友達じゃないかな」


 まさかランバートが来たのだろうかとアレクは驚く。こんな平民が飲み食いする食堂に貴族である彼がやってくるとは想像が出来なかった。


「アレク君。少しなら離れても大丈夫だから顔を出してきなさい」


 悩んでいるとティルゾから声を掛けられた。アレクは礼を言うと厨房から出て食堂の方へと向かう。食堂へと入ると、一角に平民風を装ってはいるものの、明らかに仕立ての良い服を着た三人組が座っていた。


「あ、アレク君。来ちゃった」



 出て来たアレクに気付き、三人組の中の一人が笑顔で声を掛けて来た。アレクを訪ねて来た人とはフィアとエレン。そしてランバートだった。


「やっぱり。どうして皆がここに?」


 まさか貴族の子供がこんな平民が集う食堂に来るとは思っていなかった。アレクは驚きつつ声を掛けた。聞くと、アレクが週末働いているという話をランバートから聞いたフィア達は一度見てみたいという話になったのだとか。確かにこの間ランバートが部屋に来た際、ここで働いている話をした覚えがある。


「というわけだ。仕事の邪魔をするつもりは無かったんだがな。早速だがアレクのお勧め料理を三つ頼む」



 ランバートがそう言ってアレクに気にせず仕事に戻るよう勧める。確かにこれ以上厨房を抜けるのはティルゾに悪いので、アレクは注文を受けると一声ミミルに声を掛けて厨房へと戻った。


「学園の同じ組の生徒でした。お勧めと言われたのでハンバーグとゼリーを出しますね」


「りょうかいー。サービスで果実水も出しておくわね」


 アレクの学友だと知るとミミルはよく冷やした果実水を三つもってフィア達の席へと向かった。アレクはミミルに礼を言って厨房へと戻るとティルゾが一人で忙しそうに調理をしていた。


「ん? もういいのかい?」


「ええ。ちょっと学園の生徒が顔を見に来ただけなので。あと、ハンバーグを三つお願いします」

 

 ティルゾにそう返事を返すと、アレクは仕事に戻った。


 一時間程過ぎた頃、再びミミルが厨房へと顔を出しアレクを呼んだ。


「客足が落ち着いて来たからアレク君は学園の子達と話してきて良いよ」


 ミミルにそう言われ、アレクは二人に頭を下げると厨房を出た。手には新作のゼリーを持って三人が座っている席へと向かう。


「いやー。あのハンバーグって旨いな! ステーキと違って濃厚な味だった」


 アレクが席へ行くと真っ先にランバートが料理を褒めてくれた。ランバートには通常の倍のサイズを出したのだが、綺麗に食べきっていた。フィアとエレンも満足そうな笑みを浮かべつつ料理の感想をくれた。


「お料理もだけど、食後に出て来たゼリーって言うお菓子? あれ何かしら。食べた事の無い食感で美味しかったわ」


「そうね。アレク君が今手に持ってるのも同じゼリー? 色が違うんだけど」


 エレンがアレクの持っているトレーに気付き覗き込んで来た。


「さっきのは普段ここで出しているゼリーなんだ。これはまだ出した事の無い新作だよ。後で感想聞かせてね」


 アレクはそう言って三人の前にそれぞれゼリーの入った器を置いていく。先ほどまでのゼリーはゼラチンや寒天のような物と砂糖を少量。そして季節の果物を入れただけだが、今出した物は牛乳を加えて柔らかめに作った新作だ。


「へー。なんかプルプルしてるわね!」


おいひいおいしい


 早速エレンとフィアはスプーンですくって食べ始めた。ランバートは無言でひたすら口に詰め込んでいた。肉をあれだけ食べたのによく入る胃である。

 食べ終えた三人からは絶賛された。フィアに至っては毎週来て食べたいかもと言い出す程好評だった。


「作り方はティルゾさんに教えておくから。その内定番商品になるかもしれないね」


「え?」



 アレクが言うと、エレンが疑問の声をあげた。


「これって。アレク君が考え出した料理なの?」


「うん。そうだよ? さっきのハンバーグもだし、ゼリーも僕がここで作って売り出したのが最初」


 どうやら皆は店の主が創作した料理だと思っていたのだろう。アレクが考えたと聞かされ、三人は驚きを隠せなかった。正確にはアレクの前世での料理だが、それをいう訳にもいかないので自分で考え出したと言っておくことにした。


「アレク君! 寮でも作って貰えない?」


 そんな事を言い出すフィアに少し困った顔をしたアレクだが、偶に食べるから美味しいんだよと伝えると残念そうな顔をしながら諦めてくれた。寮で作れない事はないが、それをしてしまうと宿の売り上げにつながらない。そんなアレクの気持ちに気づいたのか分からないが、フィアとエレンはまたこようねと言いながら残ったゼリーを美味しそうに頬張るのだった。

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