神力解放なのです
サアラ!教えて欲しいです!
このままじゃ全滅しちゃうです!
ウイングの思念がサアラを急かす。
途中で割って入ったアールタイルの大剣が『水晶の騎士』のランスと拮抗していた。
「さすがアールタイル!そのまま抑えてろよ!」
『砂塵の爪』の斧槍持ちが『水晶の騎士』の頭の光を狙う。
それが無意味な行為だと知らぬままに。
倒れた冒険者たちを集めたアキラが、スッと目線を『水晶の騎士』に向ける。
そのアキラの傍らには赤い光、アキラの火の精霊が浮いていた。
「……なるほどね……こうかな?
神力解放!」
アキラが叫ぶと、その身体に光が溢れる。オーラに包まれたような状態だ。
アキラが剣を抜く。その身に溢れる光は剣へと集約される。
太陽の如く強い光が剣に宿る。
ちょうどその時、『水晶の騎士』が復活を果たしたところだった。
『砂塵の爪』の斧槍持ちが力任せに断ち割った頭が、光をそのままに水晶を貼り付けて、元に戻る。
「くそっ!これもダメか!」
「諦めるな!もう一度だ!」
斧槍持ちが挫けそうになるのを、アールタイルが励ます。
『水晶の騎士』が掻き消すような移動を行おうとした瞬間、『風界の鷲』のライアスが走り込んで、『水晶の騎士』の左腕を斬り落とした。
「再生の隙など……与えん……!」
「その通りですわ!」
ライアスが駆け抜けながら斬りつけて、その残心を取っている時、モーリーも同じく動いていた。
ライアスに先手を譲ったのは、ライアスが既に体力の限界近くで動いているのを感じ取ったためである。
モーリーは首と足を一刀でほぼ同時といってもいい速度で斬りつける。
ウイングとの高速戦闘修練でようやく完成に近づいた、二連斬りの極意はひたすら速さを求めることで、一度の斬撃で二箇所を切り裂く、言わばツバメ返しの変形のような技である。
モーリーの流派にとってカタナは非常に相性の良い武器だった。
元々が勇者、日本からの転生者が作った流派なので、当たり前と言えば当たり前の話だった。
『水晶の騎士』の左腕、頭、足が斬られて飛ぶ。
そのまま倒れるかと思われた『水晶の騎士』だったが、その三対の光背が震える。かと思うとその光背は六本の剣となって飛んだ。
身体はくずおれたにも拘らず、六本の剣はまるで意思があるかのように冒険者たちに襲い掛かる。
その間に、飛ばされた頭を中心として身体が再生していく。
『深緑の狼』ロックは一撃目で小剣を弾かれ、二撃目で太ももを大きく裂かれて倒れた。
『風界の鷲』ライアスは盾と剣で暫くは凌いだが、腹に飛剣が刺さり、それを抱え込むように倒れた。
『砂塵の爪』の斧槍持ちは、なまじ鎧の防御力が高かったために全身に浅くない傷を負って、結果、倒れた。
モーリーは飛剣を一刀両断して、斬り捨てた。
『砂塵の爪』アールタイルも、タイミングを合わせて一撃で飛剣を粉砕した。
マルガレーテは飛剣を騎士盾で弾くと、それを追って、追撃の蹴りを放つことで飛剣を誘導、飛剣は水晶の原石に突き刺さると動かなくなった。
何故だか『水晶の騎士』は倒れた者に追撃を仕掛けない。
これが試練ゆえだろうか。重篤な怪我を負う者はいても誰も死んでいなかった。
『水晶の騎士』の背中に飛剣が戻る。戻ったのは四本で、ライアスが身を呈して動きを止めた一本と、マルガレーテが原石に突き刺さるよう誘導した一本は、背中に戻ることはなかった。
「全員、下がって!
後は……ボクがやる!」
「アキラちゃん!」
負傷者を避難させていたアリアが、そのアキラの鬼気迫る表情に不安を感じて叫ぶ。
またアキラが手にした剣に宿る強烈な光が、何か得体の知れない力を感じさせて、その場にいる全員に原始的な感情を呼び起こした。
それは『畏怖』と呼ばれるモノだ。
唯一、ウイングだけがそれの正体に思い至った。
神力なのです……。
ウイングの父、エリュセイグドが見せた『原初の魔物』を滅した神力攻撃。それと同種のものを感じる。
でも、神力を使うってことは角を折るってことですかね?
我が主様、角を折る必要は御座いません。
ただ、神力を解放することは我が主様の出自に大なる手掛かりを与えることに成りかねません。
それ故に……
どうやら、サアラはウイングの魔王族という出自を隠したいという気持ちを慮ったため、言い淀んでいたらしい。
普通、精霊は気持ちを慮るなどということはしない。
そもそも、魂の器で個人を識別するくらいなので、同じ魂の器を持つ者などは区別すらつかない。
だが、サアラはウイングの気持ち、心を守るべく行動する。
これはかなり特異なことだが、ウイングは他と比べたことがないため気付かなかった。
あ、人間は神力を使えないってことです?
いえ、人間にも神力は使えますが、その使い方が違います。
魔竜族が変身したり、死魂族が魔核を作ったりするのと同じように、人間には人間の神力の使用法があるってことです?
はい、ですが、そもそも人間は神力を能動的に使えるように出来ていないのです。
じゃあ……。
はい。神力を能動的に使えるのは魔族か天族のみです。
そこでウイングが疑問を感じたのがアキラのことだった。
神力を能動的に使い、翼を開いて空を飛ぶ。
これまでの言動から人間ではないと思っていたが、アキラは魔族か天族だということだ。
つまり、勇者が魔王を伐つために召喚される以上、天族の可能性が高い。
だが、ウイングがここで同じように神力を能動的に使用すれば、アキラに同じだけの疑問を与えることになる。
しかし、とウイングはアキラを見る。
アキラと『水晶の騎士』の実力は拮抗していた。
お互いに高速で繰り出す剣とランスが絡み合い、時おり放たれる飛剣を精霊魔法で撃ち落とす。
ここにきて『水晶の騎士』は更なる力を見せる。
それは、これまでにも使っていた再生能力だ。
だが、それまでと大きく違うのは、『水晶の騎士』は動きながらでも再生するということだ。
それまでは再生時に距離を取り、攻撃を止めて再生していたのが、今はそれはない。
まるで、相手の強さに合わせて自分の強さを調節しているようだった。
アキラは執拗に『水晶の騎士』の頭を狙う。
まるで、そこが弱点だと看破しているような攻撃だが、それ故に『水晶の騎士』は頭にだけは攻撃を通さない。
アキラと『水晶の騎士』は目まぐるしく位置を変え、お互いを削りあっている。
周りはそのせいで手を出すこともできない。
しかし、再生する『水晶の騎士』と削りあうというのは、アキラに不利だった。
次第にアキラに傷が増えていく。
ウイングの目にはアキラが劣勢に見える。
自分も神力解放というのをやるべきだろうかと考える。
サアラの気遣いは嬉しいが、ウイングが決断すれば、おそらくそれ以上サアラも反対はしないだろうと思う。
だが、ウイングとしては正体を知られることは避けたい。
かと言ってこのままではアキラも倒れることになりそうだった。
決断の時なのです!
正体がバレたら、もしかすると仲間に追われることになるかもしれない。
だが、ここで戦う仲間を見捨てる訳にはいかない。
『水晶の騎士』は動けなくなったものを今は捨て置いているが、全員動けなくなった時にも逃げ出す間を与えてくれるとは限らない。
ならば、とウイングは思う。
神力解放ってどうやるです?
ウイングが思念でサアラに聞く。
サアラは深いため息をひとつ吐くと、答えた。
はあ……よろしいのですね?
我が主様ならば簡単です。丹田と呼ばれる腹の下、そこに意識を持って行くと熱を感じます。
そこから魂を抜く要領で、その熱だけを抜き出すのです。
え?簡単じゃないですよ?
いいえ、アースの土人形に魂を移すのと要領は変わりません。
あ、それなら分かるです!
ウイングはこれまで、何度となく大地の精霊アースが作った土人形に魂を移し、ジャック・オー・ランタンとして戦ってきた。
最初はサアラのサポートを受けて、魂を移していたが、今ではサポートなしでも自身の魂を抜き出すことはできる。
要領は同じで、その熱量だけを抜き出すというのは、ウイングにとっては簡単なことだった。
それからサアラは大事なことを伝える。
神力解放と仰って下さい。それで神力を感じ取ることができるはずです。
「……神力解放」
ウイングが呟くと、抜き出した熱が身体を覆う。
それは優しい光だった。
眩く輝く太陽の光を反射して、投げかける月明かり。
熱を身体から右の手のひらに移動させ、握った柄から剣へと流す。
黒い刀身が光を集めて、月光の刀身へと変じる。
ウイングはアキラが撃ち落としきれなかった飛剣を叩き斬る。
瞬間、アキラと目が合う。
一瞬のアイコンタクトで、アキラが飛び退る。
追おうとした『水晶の騎士』の前にウイングが立ちはだかる。
『水晶の騎士』がウイングの脅威に気付いたのか、アキラを追わずにウイングとアキラ、二人に対して構える。
その隙にアキラも改めて体勢を整えると、太陽の刀身を持つ剣を構え直す。
ウイングもアキラも話は後とばかりに、同時に攻撃を仕掛ける。
『水晶の騎士』は更にスピードを上げた。
相変わらずアキラの剣は『水晶の騎士』の頭を狙うばかりだが、ウイングがそれをフォローする。
左のランスでウイングの月光剣を受けると、右のランスでアキラに突きを放つ。
かと思えば、飛剣が背後からウイングを狙うのをウイングが月光剣で斬り落とすとアキラが逆襲とばかりに太陽剣で突きを放つ。
『水晶の騎士』はアキラの突きを避けるとランスを振るう。
ウイングはそのランスにピンポイントで火弾をぶつけ、動きを制限すると、月光剣は足を薙ぎにいく。
それを『水晶の騎士』は右のランスで受け流して、空いた足でアキラを蹴りつける。
そうした攻防が一瞬で五つ、六つと重なっていく。
十合、二十合と切り結び、瞬く間に五十合、六十合と積み重なる。
ミルキルは治癒魔法の手を止めて、魅入ってしまう。
「すげ……」
「あんなの……手の出しようがありませんわ……」
モーリーもカタナを手に呆然と見るしかできない。
数を数えるのも馬鹿らしくなる攻防の中、アキラの太陽剣が『水晶の騎士』の頭に掠る。
その傷は治ることなく残った。
『水晶の騎士』が一瞬だけ怯んだ様子を見せる。
ここが好機とウイングの月光剣が右のランスを斬り飛ばした。
「今です!」
ウイングが叫ぶ。
「てりゃあああっ!」
執拗に狙い続けたアキラの太陽剣が面貌の奥にある光に突き込まれる。
瞬間、『水晶の騎士』の動きが止まる。
直後、爆発のような光の奔流が辺りを包む。
『水晶の騎士』を操る大精霊の絶叫のようなエネルギーの奔流だった。
「きゃあああ!」
「くっ!」
アリアが手近にいたライアスを守るように覆い被さる。
マルガレーテが盾を掲げる。
だが、大精霊のエネルギーの奔流は攻撃ではない。
それは魂を剥き出しにする誘いの光だった。
魂への問い掛け、答える資格が無い者は意識を失うしかなかった。
その光の中、意識を保っていられたのは、やはりウイングとアキラだった。
モーリーが夢現という状態で、暫く自我を保っていられたが、それも光の中心に影が浮かんだ辺りまでだった。
影はゆっくりと人の形を成していく。
それは皸の入った玉を中心にホログラムのように浮かぶ。
茶色のローブを纏った年老いた男の姿が見える。
「何者です?」
ウイングの問い掛けに答えることなく、光の奔流の中、ホログラムの老人は立っていた。
「ウイング、キミ、姿が……」
「えっ!?」
アキラの驚きの声に、ウイングは慌てて頭に手をやるが、別に角が生えている訳ではない。
ウイングが戸惑っていると、アキラは続ける。
「髪の毛……黒くなってる……それが前世の姿?」
言われて自身の前髪をひと房、見てみる。
父に似て藍色だった髪は、今、前世の黒髪になっていた。
顔つきなどは前世とあまり変わっていないので、おそらくは髪色と少しだけ大人びた印象になっているのかもしれない。
アキラは見た目は変わっていない。それは前世の姿をしているということだった。
ウイングが自分の姿を確認しようと何か鏡の代わりを探していると、老人が大仰に両手を開いて話し始める。
「今、この映像を見ているということは、魂の位階を上げて、真理に近づいた者が出たということだろう……お前がそうなのだ……」
ウイングとアキラはお互いに顔を見合わせた。
分かりにくかったら申し訳ございません。
でも、ここまで読んで下さった皆さんなら、なんとか脳内補正で理解してくれると思ってます。
え、僕の文章力?はい、精進致します……さーせん。




