遺跡発見なのです
西の崖、そこには滝を中心に左右に洞穴が点在している。
今日、調べるのは滝の北側となる。
古参パーティーの一組が野営地に石像を持って帰り、代わりに中堅パーティー三組が合流する。
実力、名声が十指に入るトップパーティー四組、古参パーティー二組と併せて、合計九組のパーティーがグラディス老を中心に集まっている。
「ええか、あまり奥まで続くようなら目印を立てて、一度戻る形にする。
それぞれひと組ごとに洞穴を調査する。
魔物の住処ということも考えられるが、その場合は無理せず戻るんじゃぞ!
刻限は空が茜に染まるまでじゃ……今からなら三、四キザミ〈時間〉というところじゃな。
奥まで辿り着いた場合、もしくは人工物を見つけた場合も戻ること。
戻った者はこの場で待機じゃ!」
グラディス老が全員に指示を出す。
「では、ゆくぞっ!」
「「「応っ!」」」
各パーティーが割り振られた洞穴に向かって行く。
洞穴は何も全て崖下という訳ではない。
中には崖の中腹に開いたものもある。
そういう場所は人数の多いパーティーの担当である。
グラディス老はライアスたち『風界の鷲』と同行して、滝から一番近い洞穴へと入っていった。
一番高い場所にある洞穴は、総人数が十人もいるロック率いる『深緑の狼』が向かう。
彼らは身軽さが売りのパーティーなので崖登りもあまり苦ではない。
四人が腰にロープを結び、ヒョイヒョイと崖を登っていく。
「ベル!夕飯はお前に賭けてるんだからな!負けるなよ!」
「はんっ!グインも見る目がねえ!負けるなよロック!」
どうやら誰が一番早く洞穴に到着するかを賭けているようだった。
五十ミョーン〈メートル〉の登攀は彼らにしたらお遊びになってしまうらしい。
『白夜の蒼炎』はさらに北側、人数が七人と多いので三十ミョーン〈メートル〉ほどの高さにある洞穴を目指す。
『深緑の狼』がワイワイやるのを見ながら歩いていく。
と、ミルキルはすかさず『深緑の狼』の一人に声を掛けて、賭けに参加したようだった。
「ミルキル姉さんは誰に賭けたの?」
戻ってきたミルキルにモーリーが聞く。
「そりゃ、ロックさんじゃないんですか?」
アリアが普段からかわれている意趣返しとばかりに人の悪い笑みで言う。
だが、ミルキルは指を軽く振って否定する。
「いんや、今回はベル一択だね!ロックは確かに早いけど、コース取りで失敗してる。
ベルは確か山間の村出身だから、登攀にも慣れてるだろうって、読みさ!」
全員でなんとなく『深緑の狼』を横目に進む。
「うおっ!足場がねえ!」
後ろからロックが叫ぶ声が聞こえる。
「なっ!アイツは後先、あんまり考えるタイプじゃないからね!」
ミルキルが笑う。
そんな話をしていると、自分たちの担当となった洞穴が見えてくる。
「さて、ミルキル、ウイング、頼めるか?」
マルガレーテが言う。
「よし、行こうか、ウイング!」
「了解です!」
二人で登攀していく。やはり腰にロープを結び、ロッククライミングの要領で進んでは、途中で鉄製の杭を打ち込み、そこにロープを引っ掛けて、安全を確保しながらの登攀である。
二人は問題なく上まで登ると、腰のロープを外し、改めて上からロープを垂らす。
そして、他の面々はそのロープを頼りに登ってくる。
中は案外と広い上、少し降りながらも奥に続いている。
ウイングは普段、風呂場で使っている灯り用の魔導具に糧を流して灯りを確保する。
灯りは自分の多機能背負い袋の肩の辺りに引っ掛ければ、両手が使える。
ミルキルも似たような装備を持っている。
全員が登り終えるとマルガレーテがウイングに言う。
「ウイング、私たちはもう自重しないんだ。もし魔物が出た場合は精霊魔法での灯りを頼む。できるか?」
マルガレーテができるか聞くのは、ウイングの魔法力を考慮したからである。
ウイングの魔法力量には全幅の信頼を置いているが、実際、どれくらいの魔法力量があるのかはマルガレーテも知らない。
だから、聞いたのだ。
ウイングも普段から無尽蔵の糧を見せてはいるが、魂の器の容量は教えていない。
全員が魂の器の名前を知っていても、それがウイングの魂の器だという認識はない。
「もちろんできるです!」
それを聞いてマルガレーテが号令する。
「ミルキルが先頭、ウイングは最後尾を頼む。
では、行こう!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!
精霊魔法は一人一種類だよね?
ウイングは大地の精霊魔法を使うんだから、精霊魔法で光を出すのは無理なんじゃないの?」
いくらこの世界の常識に疎いとは言え、アキラにもそれくらいは分かっているようだった。
尤もアキラも精霊魔法使いなので、当たり前と言えば当たり前の話だ。
「詳しくは教えられないが、ウイングが使える精霊はひとつじゃない。
何ごとにも特別というのがあるんだ」
「えー、なんかウイングずるいね……」
アキラはルール無視と見たようだ。
「まあ、特典みたいなものです」
ウイングはアキラにだけ分かるように言う。
転生者は色々とチートな特典がある。そうウイングは匂わせたのだ。
「なるほど……特典ね……」
アキラはそれだけで納得したようだ。
それを見て、問題解決と見たのか、全員が進んで行く。
基本の隊列はミルキル、マルガレーテ、モーリー、アリア、アキラ、ムース、ウイングという順番である。
洞穴は暫く降った先で二股に別れている。
右は登りで、左は穴になっている。
ミルキルは迷うことなく右に進む。刻限が限られているので、楽な道で行けるところまで行こうという意図だった。
少し行けば、だんだんと道幅がなくなってくる。
そこを身体を傾けながら進むと大きめの空間に出た。
その空間の頭上にはシャンデリアのように鍾乳石が突き出ていて、そこから垂れる水がすり鉢状の地面に溜まっている。
「水の流れはあそこに流れ込んでるな……」
ミルキルが指さす位置に排水溝程度の穴が続いていて、溜まった水はそこに流れ込んでいる。
「先には行けそうか?」
マルガレーテが聞く。
ミルキルは荷物をその場に降ろすと、身ひとつで排水溝まで行き、水浸しになりながらそこを調べる。
戻ってきた時にはガタガタと震えながら、手を大きく横に振って否定する。
「むむむむ無理……」
荷物から手拭いを出して水を拭こうとするが、全身びしょ濡れである。
唐突に洞穴内に赤い光が灯る。
アキラが呼び出した火の精霊だ。
「ミルキル、動かないでよ……」
アキラはそう言って、ミルキルの周りを精霊が飛び回る。
暫くそうしていると、ミルキルの震えは収まり、その場にペタンと座り込んで放心していた。
「こんなもんで、どうかな?」
「……アキラ、助かったよ!すっごい気持ち良かった……」
すっかり暖を取って、服も乾いたミルキルは半ば放心したまま、礼を言う。
「まあ、これくらいはね!」
アキラはにっこり笑った。
アリアなどはその絶妙な精霊捌きに、驚いていた。
「イメージ力ですかね……」
驚くアリアにムースがそっと告げる。
アリアは見たものを真似るくらいはできるが、最初から自分で想像するのは苦手である。
そのせいで灰魔法も制御が効かない時がある。だから、魔法ギルドに趣いて上級魔法を色々と見せて貰ったりしているのだ。
その場で瞬間的にイメージを構築して、魔法を使いこなして見せるアキラが少し羨ましいな、とアリアは思うのだった。
暖をとるのに、すっかり時間を使ってしまった『白夜の蒼炎』はそれでも残っている時間を使って、左の穴を調べる。
穴はそれほど深いものではなく、降りて少し行くと、すぐに行き止まりになってしまった。
どうやら、この洞穴は『はずれ』だったようだ。
戻って入り口辺りに白い布を、下から見える辺りに結びつける。
それからロープを伝って、全員が下に降りる。
辺りはすっかり夕暮れに染まっていた。
予定の集合地点に戻る。
そこには既に古参パーティー二組と、『風界の鷲』、『砂塵の爪』、さらに中堅パーティーが二組戻って来ていた。
「どうじゃった、何か見つかったか?」
「いえ、こちらは『はずれ』でした……」
グラディス老の問にマルガレーテが答える。
グラディス老は残念そうに肩を落とす。
「これで残るは二組だな……」
『風界の鷲』のライアスが告げる。
「それで、どうする?この人数ならば暗くなってから野営地に戻るくらいならば容易いが、そろそろ様子を見に行くべきではないか?」
アールタイルがライアスに向けて言う。
「ああ、そうだな……アールタイル、他の者を連れて先に戻ってくれ。私たちは『深緑の狼』のところへ。
それとマルガレーテ、戻ってすぐで申し訳ないが中堅パーティーが一組、まだ戻っていない。様子を見てきてもらえるか?」
アールタイルの言葉を受けて、ライアスがマルガレーテに話を振る。
見ればアールタイル達『砂塵の爪』は手にトカゲのような魔物の死骸を抱えている。
一組の古参パーティーも大きなカマキリの魔物の死骸を手にしている。
二組は魔物の巣穴に突っ込んだということだろう。
マルガレーテはそれを見て、「いいだろう」と返事を返す。
崖下の洞穴、暫く平坦な道が続いている。
右に左に曲がっているが、基本、直進している。
「おーい!無事か!」
「大丈夫ですかー!」
声を上げながら進む。
半キザミ〈時間〉も進むと少し広い空間に出て、そこは行き止りに見える。
ゴツゴツした大岩があるくらいで頭上を眺めてみても道が続いているようなことはない。
「ここで行き止りですかね……」
ムースが首を傾げる。
「途中で分かれ道なんてなかったはずですよね?」
アリアも良く分からないという顔だ。
「おっかしいなあ……洞穴を間違えるってのはありえないし……」
ミルキルが肩に着けた光の魔導具を取り外して、辺りを照らすがそれらしい穴などは見つからない。
「これは隠し扉が存在するはずなのです!」
ウイングが断言する。
「天然の洞穴に隠し扉なんて、ある訳ないでしょう?」
モーリーがウイングを白い目で見る。
「まあ、神殿は隠して作られるものが多いって話だから、ある訳ない、そう思わせるのが狙いかもしれないしね……」
言ってアキラが両手を横に広げる。
その動きに合わせるように、いつのまにか頭上に浮かんだ赤い光から、火の玉がいくつも飛んで空間がいきなり明るくなる。
火の玉は徐々に燃え尽きていくように光を減じていくが、同じ場所に留まって、辺りを照らしていく。
「どうかな?これくらい明るければ隠し扉も見つけられるんじゃない?」
アキラが少し自慢げに皆を見る。
「アキラって器用だよな。
そういう魔法イメージってどこから出てんの!?」
ミルキルが感心したように言う。
「そりゃ、ボクのいたとこは娯楽が充実してたからね!やれ、テレビ……」
「あっ!」
アキラの言葉の途中でウイングが声を上げる。
「あそこの火の玉だけ、揺れ方が変です!」
その言葉に全員が壁ではなく、火の玉を見つめる。
「風だ!そうか、先に入ったパーティーは松明を使ってたんだ!だから……」
ミルキルが火の玉の揺れ方から風の来る方向を逆算すると、ひとつの岩の下から空気が漏れているのを見つける。
「手伝ってくれ!」
言われてウイングがミルキルと一緒に岩を退かすと、そこには階段が現れるのだった。
「これって……」
モーリーが顔を強ばらせて呟く。
「へえ、あるもんだね……期待してなかったんだけど……」
アキラが目を輝かせる。期待していなかったらしい。
「でも、変なのです……」
ウイングが首を傾げる。
「何がだ?」
マルガレーテがウイングに聞く。
「なんでこの岩で隠されてたですかね?」
「いや、隠し扉があると言ったのはウイングだろう?」
「そうですけど、なんで閉まってたです?」
「そっか……この先を調べるだけなら、隠し扉を閉める必要はないよね?」
アキラが理解したという風に頷く。
「ふむ……確かに……よし、ここは二手に別れよう。
一組はここに残って退路の確保だ。
行くのは……」
マルガレーテが指名しようとすると、ウイングとアキラが「はい、はい!」と手を上げる。
二人とも瞳をきらきらと輝かせている。
マルガレーテはそんな二人を眺めて考える。
戦闘力という意味ならば不足は全くない。ウイングは魔剣による回復もできる。問題は連携だが、マルガレーテは思う。
ウイングも最初はギクシャクしたが、あれに比べたらアキラはかなり素直な性格をしている。
問題ないだろうと結論づけた。
「分かった。私とウイング、アキラでこの先を見てくる。
ムース、後のことは頼む……」
「あら……私も行きたかったですけど、仕方ないですね……」
「どちらにせよ、消えた中堅パーティーさえ見つけたら、戻る。探索は明日だろう……」
「まあ、そうですね……」
ムースが微笑みで見送る。
ウイングを先頭に、マルガレーテ、アキラと続く。
階段はかなり下まで続いていた。
ウイングは斥候らしく、辺りに気を配るが、少し天井が高いくらいでひたすらに一本道だ。
暫く降りていくと、ようやく平坦な道になる。
階段からこっちは完全に人工物だ。
「道になってるですー!このまま進んでみるですー!」
ウイングが大声で上から覗き込むメンバーに伝える。
「わかったー!」
ミルキルもそれに答える。
ウイングが辺りを照らす。
壁には様々な壁画が描かれていた。
「お、遺跡っぽくなってきたね!」
アキラが嬉しそうに言う。
壁画には人らしきものが、鳥や獣から光る玉を取り出すシーンが描かれており、さらにベッドに寝かされた人にその光る玉を別の人が与えているシーンになる。それを過ぎると、翼の生えた人が空を飛んだり、爪を生やした人が遠くへと吠えているシーンへと変わっていく。
「こ、これって何を表してるですかね……」
ウイングは過去、レンバート先生に教えられた地下二層に住む者たち、夜魔族や獣魔族のことを思い出していた。
魔族から人間を造る試みの中で生まれた夜魔族、人間を兵器に改造する試みの中で生まれた獣魔族、これらは壁画にあるように何かを抜いたり、入れたりした結果の産物である。
ここが地上であることから、獣魔族の根源のように見えるが、抽象的な壁画でそれを断ずることはできない。
しかも、その辺りの言い伝えが人間たちに残っているかどうかも分からない状況で下手なことは言えない。
ただ、他人の意見は聞いてみたいと思ったのだ。
「トーテムって奴じゃない?族霊だっけ?
私たちは鳥の部族とか狼の部族とか、そういう考え方があるって何かの本で読んだよ」
アキラが言う。
「なんだろうな……私にはさっぱりだが、グラディス老なら何か分かるかもしれないな……」
マルガレーテはそもそも興味がないという雰囲気だった。
「やっぱり何だか分からないですね……あ、扉があるです!」
さらりと流して、ウイングは扉に近付いて行く。
あまり深く考える時間もないし、アキラの前世知識はいらぬ誤解を招きそうなので、続けさせるべきではないような気がした。
アキラはウイング以外に、自分が『勇者』だと名乗っていない。
それには何か理由がある気がして、ウイングもアキラが『勇者』だとは周りに言わないようにしている。
お互いに『転生者』だということも同様で、その辺りはアキラと暗黙の了解が成り立っている気がする。
ウイングは扉に近付く。
すると、扉の向こうから何やら音が聞こえる。
ウイングは扉に耳を当ててみる。
くぐもって聞き取りにくいが、何やら硬い物同士がぶつかる音や、叫び声にも聞こえる。
「これって剣戟の音っぽいです……」
「もしや、遺跡の中に魔物か守護者でもいるということか?」
マルガレーテが少し焦ったような声を出すと、ウイングをどかして扉を開ける。
少し距離があるようだが、はっきりとした剣戟の音が聞こえる。
「急ごう!」
マルガレーテが灯りを持つウイングを急かす。
「分かったです!」
三人で駆け出す。だから、その声は届かなかった。
「……れー!岩が動き出してる!」
ミルキルの力んだような声。
モーリーの、ムースの、アリアの、叫ぶ声はウイングたちに届くことはなかった。
そして、ウイングたちが駆け出して角を曲がった時には、ゆっくりと扉が軋みを上げて閉まるのだった。
登場人物が多いので、ちょっとだけまとめ。
グラディス老……考古学者。依頼人。
ライアス……『風界の鷲』リーダー。今回の依頼のリーダー役。
アールタイル……『砂塵の爪』リーダー。マルガレーテ狂い、カリバーンベアの異名を持つ戦士。
シキシロ……『風精団』リーダー。輜重隊のリーダーでもある。古参冒険者だが、若く見える風貌から新人パーティーに参加している。シューティの町の冒険者、半数くらいは彼に冒険のイロハを教わっている。
ロック……『深緑の狼』リーダー。一応、トップパーティーの一組。『肉屋』と呼ばれる魔物肉を依頼に合わせて狩るという仕事が専門。
ベル……『深緑の狼』冒険者。ゴブリン狩りの時にウイングの魔剣で助けられた経験あり。
グイン……『深緑の狼』冒険者。
レーザ……『大地の牙』リーダー。輜重隊。元見習い少年。
プション……『大地の牙』冒険者。元木こり。
リン……『大地の牙』冒険者。ウイングのファンになった女の子。
ミサル……『大地の牙』冒険者。ウイングの料理に魅了された女の子。
名前、適当にもじってつけてたり……ロックだけ仲間はずれなんやで。でも、一応、シューティの町の人って位置付け。




