グラディス老なのです
「今回もたくさんのパーティーの参加、非常に嬉しく思う!
前回、前々回と参加してくれた者たちは非常に歯痒い思いをさせたことと思う……。
だが、しかーし!
今回は違う!ワシはとある古文書から世紀の大発見をしたのじゃ!」
「いいぞー!グラディス老ー!」
「今回こそ当たりだろーなー!」
「毎回、同じ演説じゃねーかー!」
野次とも応援とも取れる合いの手が古参パーティーから飛ぶ。
依頼を受けた翌日、冒険者ギルドの練習場の一角で、依頼を受けた者たちが集められる。
だが、依頼を受けていない者も集まっている。
所謂、お祭りなのだろう。
グラディス老の演説が続く中、依頼を受けた顔ぶれはそうそうたるものだった。
ウイングが知るだけでも、『風精団』『風界の鷲』『深緑の狼』『砂塵の爪』の四パーティー。
『風精団』はシキシロ以外は新人冒険者だが、その他のパーティーは猛者揃いだ。
他に古参組と呼ばれるパーティーが三つ、中堅どころとして名を上げて来ているパーティーが三つ、それからマルガレーテが試験した木こりと見習い少年の作った新人パーティーがひとつ参加している。
「……すなわち、古文書に書かれた交差する二つの線を辿って、交わる一点というのが重要な分岐を示しており……」
「難しいぞー!」
「城かー?」「墓地かー?」「神殿かー?」
「講釈はいいから、どこら辺まで行くのか言えー!」
「ええいっ!やっかましいわ!
これだから脳みそまで筋肉でできとるやつらはーっ!
お前らに分かりやすく言うと、神殿じゃ!
ええか、向かうのは『白い沼』のさらに奥、川が流れとるはずじゃ!その源流に向かえば古代、試練の祭壇と呼ばれとった神殿があるっ!その神殿にお宝ザックザクの宝物庫があるんじゃ!分かったなっ!」
「「「うおおおおおおっ!!!!!」」」
依頼を受けたパーティーも、受けていない冒険者も一斉に盛り上がる。
大歓声が上がる。
だが、憤慨したグラディス老は、フンッと鼻を鳴らして、そっぽを向いていた。
「はははっ!いきなり初めての冒険がこんなお祭り騒ぎだなんて、楽しいね!」
興奮した口調でアキラがウイングに話し掛けてくる。
まるで、先日のわだかまりなど無かったかのような口振りだ。
ウイングは、正直対応に困っている。
朝に集まって、挨拶を交わしたが、その時からこんな調子だった。
ミルキルなどがいつもの悪戯心で、ウイングとの会話に探りを入れた時なども、「女ばかりに男一人でパーティーに入っているくらいだから、よほどのプレイボーイなのかと思って、それなら少しの時間、会話を楽しむくらいはさせてくれるかと思ったんだけどね……正直、期待はずれだったよ。色々とこっちからアプローチもしてみたんだけどね……やっぱり男の子って子供だなって感じ?」などと、適当に誤魔化してしまった。
ミルキルからは「ウイングだからねえ……」で済まされてしまい、ムースからは「その内、女の子向けの褒めポイント講座でも開きましょうか……?」などと茶化されてしまう。
ウイングとしてはホッとする反面、何を考えているのか分からなくて、余計にやきもきしてしまう。
壇上には『風精団』のシキシロと新人パーティーリーダーになった見習い少年がグラディス老と入れ替わりに上がってくる。
「『風精団』のシキシロと申します」
「『大地の牙』のレーザで、と、言います……」
シキシロとレーザという名の見習い少年が揃って頭を下げる。
レーザは緊張しているのか、ガチガチなのが良く分かる。
顔を上げてからはシキシロがまとめて話し出す。
「私たちは今回の依頼に輜重隊として参加させてもらいます。
毎度のことではありますが、行きの荷物には若干の余裕があります。
各パーティーにつき、特大背負い袋ひとつ分の荷車スペースを売りたいと思います。
ぜひ買って下さい。
そうして集めたお金で旅が少しでも楽になるものを揃えたいと思います。
主に食料と医薬品などですね。
もちろん、スペースを買わなかったからと食料供給をしないなどということはありませんが、今回は全員でひとつのチームです。
ぜひご協力をお願いします……。
値段は五ジンです。別途寄付も受け付けますので、そちらもよろしくお願いします!」
各パーティーの代表者たちが集まって五ジンと寄付を払っていく。
マルガレーテも全員から集めた五ジンと寄付金としてムースが出した2ジン、ウイングも合せて2ジンの九ジンをシキシロに渡した。
「はあ……少し安心しました……ウイングもようやく常識が身についてきたんですね……」
アリアが感慨深くそう言って微笑む。
「心外なのです……なんか貶められている気がするのです……」
「それってどういう意味なの?」
ウイングの抗議をよそにアキラが聞く。
「ウイングならここで百ジン寄付するです!とか言ってもおかしくないですから……」
アリアがウイングの金銭感覚がおかしいという部分を説明する。
アキラは笑いながら悪戯っぽく。
「ムースさんの真似しただけだったりして?」
ドキリとしてウイングはそっぽを向いた。
この状況でその通りだとは、さすがに言えなかった。
翌日の朝に出発する旨が告げられ、この日は解散となる。
それぞれ翌日のために備品を買ったり、英気を養うと呑みに行ったり、様々だ。
さて、帰ろうかという段になって、見習い少年レーザがやってくる。
「あ、あの!」
気付いたマルガレーテが微笑む。
「無事にパーティーが組めたようだな。おめでとう」
「あ、はい。ありがとうございます!
明日からの冒険、よろしくお願いします!」
レーザが新人らしく頭を下げる。
「ああ、こちらこそよろしく頼む!
だが、君は見習い上がりだろう?せっかく荷物持ちをしなくて良くなったのに、また荷物持ちの仕事で良かったのか?」
普通、見習いから冒険者に上がると、それまで他の冒険者の荷物持ちしかできなかった反動か、狩り系依頼を受けたがる新人は多い。
マルガレーテはそこが気になったようだった。
「はい、トップパーティーがこれだけ一堂に会してやる冒険なんて、滅多にありませんから、少しでも技術を盗めればと思ったんです。それにプション……あ、元木こりで一緒に試験を受けた仲間ですけど、アイツは見習いを経験してませんから、まずはそういうところから始めるべきかと思ったので……」
「なるほど、仲間の経験にもなるし、確かに古参のやり方というのは勉強になるからな。
いいリーダーになれそうだな」
「あ、ありがとうございます!
……それで、シキシロさんに言われたんですけど、『白夜の蒼炎』は女性が多いパーティーだから、荷物も多いんじゃないかって……それで、良かったらなんですけど……荷車のスペースがひとつ余ってるので、買うかどうか聞いてきて欲しいと言われまして……」
各パーティーにスペースはひとつだが、シキシロは女性の比率が高いということで気を使ってくれたようだった。
他のパーティーにも女性冒険者はいるが、最も比率が高いのは確かに『白夜の蒼炎』だった。
「それはありがたいな。どうする、みんな?」
マルガレーテが見回す。
「ぜひ、買って欲しいです!」
今回は遠出ということもあって、調味料を大量に用意するつもりだったウイングには渡りに船だった。
素早く七ジンほど懐から取り出す。
「まあ、あたしらで買った分はウイングの調味料で大半を占めそうだから、他の女性冒険者と共用でもうひとスペース確保したらいいんじゃないかな?」
「そうですね。私たちだけというより、女性冒険者用スペースという形が良さそうです……」
ミルキルとムースが提案する。
「では、シキシロにはそう伝えてもらえるか?」
マルガレーテがまとめる。
「じゃあ、このお金は『白夜の蒼炎』のスペース分なのです」
「もしかして、今朝のアキラの、女心が掴めないって話を気にしてるのかしら?」
モーリーがさらりとウイングの心臓を抉る。
「うっ……は、ははは……別にそういうことじゃないです……ははは……」
ウイングがなんとか誤魔化そうとする。
「まあ、ボクとしては装備にお金使っちゃったから、出してもらえるなら、ありがたく奢られるけど?」
ポンと手を打ってウイングは言う。
「そうそう、新人冒険者には他の冒険者が少し奢るって風習があるのです!アレです、アレ!アキラが新人だから、景気づけに奢るのです!」
「今、あからさまに手を打ってたじゃねーか!」
ミルキルがつっこむ。
「ま、まあ、ウイングがいいなら、いいんじゃないか……」
残念な子を見る感じでマルガレーテがフォローを入れる。
表情がフォローにはなっていなかったが、ウイングがパーティー内で一番お金を余らせているはずなので、マルガレーテも問題なしと見たようだ。
ウイングからお金を受け取ってレーザが戻っていく。
「さて、帰ろうか?」
マルガレーテが全員を促すとミルキルがウイングの肩を抑えて言う。
「アタシらはちょっと他のパーティーから情報収集してから帰るよ!」
「あれ?僕もです?」
「たまには付き合え。
いいだろ?」
ウイングは良く分からないままに頷く。
「分かった、明日は朝早いからな。
無理のない程度にしてくれ……」
マルガレーテがそう声を掛けて、解散となるのだった。
ミルキルはウイングを促して、まだ練習場に残るシキシロのところに向かう。
向かいながら、ミルキルはウイングに言う。
「ウイング、あたしのやり方を見て覚えるんだ。
ウイングが防具屋に入り浸って独自の情報収集網を作ってるのは知ってるけど、それじゃ欲しい情報が得られる可能性は低い。
情報は冒険者の命だ。
欲しい情報は自分から取りに行かないとな!」
「なるほど……でも、何でいきなりレクチャーしてくれるです?」
「理由はいくつかある。
あたしらのパーティーでこういうことに向いているのは、あたしかウイングくらいだろ?
モーリーは人見知りだし、アリアは素直すぎて、向かない。
マルガレーテは直情で柔軟性に欠けるし、ムースは男嫌いの傾向があるからな。
ほら、あたしかウイングしかいない」
少し笑って、「だろ?」という風にミルキルが肩を竦めて見せる。
「ミルキルは理由がいくつかあるって言ったです」
「ああ、そういうところもウイングは向いているんだよ。
言葉の裏側を目敏くチェックするせせこましいとこな!」
言ってミルキルがまた笑う。
ウイングはそれを貶されたのではなく、ミルキルなりの褒め言葉と捉えることにした。
「あとは……あれだ……ウイングの様子がアキラと会ってから、何か考え込むみたいにちょくちょく固まってたからな。
どういう事情があるか知らないが、少し視野を拡げて考えるのもいいかと思ってさ……」
ミルキルは少し照れくさそうに頬を掻いた。
いつもそうだ。ミルキルは単独行動が多い割にちゃんと仲間のことを見ている。
ウイングはよくミルキルに怒られる印象があるが、それも見ているからこそなのだろう。
「いつもありがとうなのです……」
ウイングも照れくさかったのか、ミルキルを見ずに言う。
シキシロの声が聞こえる。
「じゃあ、食料は余裕を持って二十五マワリ〈日〉分用意して、薬草も少し多めに持ちましょう。
水はグラディス老が魔導器を持っていますからそれで賄います。
あとは補充用の矢と武器の手入れ道具、スコップ、ロープ、他には……」
シキシロは新人冒険者を集めて的確に指示を出している。
「おっす!シキシロ先生!」
ミルキルがわざとらしくシキシロを先生呼びする。
「おや?ミルキルさんとウイングくん。
何かありましたか?」
「まあ、少し話でもと思ってさ。
実際のとこ、今回の発掘に目はあるのかとか……ね」
ミルキルが単刀直入に切り込む。
シキシロは少し考えてから語る。
「つまり、それによって動き方を変えようという意味ですか?」
「まあね、あたしらは慈善事業をやるつもりはないし、稼げるやり方をしないとね!」
ミルキルの考えは簡単なことだ。
遺跡を見つけられる公算が高いなら、遺跡発掘に力を入れるし、そうでないなら魔物退治に重きを置く。
奥地まで進めば、それだけ希少素材が手に入る可能性は高い。
しかも、トップクラスのメンバーがこれだけ集まれば、かなりの大物を狙うこともできる。それこそ雷牙槍地竜を狙うこともできるかもしれない。
「それで毎回参加している、私ですか……」
「まあ、そういうこと。
シキシロ先生ならある程度グラディス老の話も分かるだろ?」
「まあ、何メグリ〈年〉もグラディス老の話を実地も含めて聞いてますからね。
グラディス老の見込みがどれくらいかは、何となく分かりますよ」
「ほうほう、さすがに話が早くていいね!」
「そういえば、寄付の集まりが悪いんですよ……」
シキシロはにこにことそんなことを言う。
ミルキルはそう来たかという顔をする。
「おい、ウイング……」
ミルキルが顎で払ってやれというジェスチャーをする。
「僕が払うです?」
「いいから、出しとけって……授業料だよ……」
ミルキルはウイングに耳打ちする。
「まあ、いいですけど……」
先程出した寄付と同額、二ジンをシキシロに渡す。
シキシロはそれを見もせずに素早く寄付金袋にしまう。
「そうですね……八割というところでしょうか?
でも、これはあくまでグラディス老の自信の割合ですよ。
私の見立てでは、今回は良い方だと思いますよ。
逆に十割の自信に満ちた言動をしている時や、御本人が良くて五割と思っている時こそ、危ない。
そういう時に当たりを引いたことはありません。
それと、遺跡発掘の時はそちらに力を注いで頂いて大丈夫ですよ。
もし、何も出なかったとなれば、帰り道は全員で狩りをしながらの道中になりますから……」
言ってシキシロは苦笑する。
「まあ、考えることはみんな一緒か……」
ミルキルが一緒になって苦笑する。
ウイングとしては、これで情報収集になっているのか不安なところだ。
ミルキルが礼を言って、その場を後にする。
「結果、何が分かったです?」
ウイングがミルキルに聞く。
「まあ、遺跡が見つからなくても、実入りはあるって話かな……帰り道に狩りをしながら帰るってことは、グラディス老はそれなりに冒険者の言うことに聞く耳を持っている人物で、そんなに悪い奴ってこともなさそうだってところか」
「まあ、狩りをする猶予をくれるってのは分かったです。
悪い奴じゃないってのはどこから出てきたです?」
「シキシロが八割って話をしてたろ?
つまり、ある程度見てればそういう自信の程が透けて見える素直な性格だってことだよ」
「それは分かりやすいってだけで、悪い奴かどうかは分からないですよね?」
「いんや、あのシキシロが毎度手伝いを申し出るくらいだ。それなりに良い方向で見ていいと思うね!」
「ああ、そういうことです!」
シキシロの人の良さはウイングにも分かる。
納得の話なのだった。
それから、ミルキルはギルド職員や古参パーティーが使う酒場、神殿にまで顔を出してはそれとなくグラディス老の話を聞いていく。
ウイングは初めて神殿に入った。
なんだか高級そうな衣服に身を包んだ神官が寄付を求めてきたので、金を払い、聞けたのは、神殿もグラディス老を応援しているがいい加減にして欲しいと思っているという話だった。
冒険者が三百ジンでこめて貰える神聖魔法の魔導具をタダ同然の値段で借り受けていくらしい。
しかし、冒険者ギルドの肝入りのため、断る訳にもいかずという話だ。
そうして、夜までにアチコチ行って集めた話では、グラディス老は昔こそ皆の尊敬を一身に集めていたが、ここ十メグリ〈年〉ほど成果がなく、疎ましく思う者もそれなりの数居るということと、財産を切り崩して研究に没頭する学者肌の人物像で冒険者たちからは概ね好ましい評価が多く、それ以外からは過去の栄光に縋る者という評価が多いということだった。
ウイング的には学者バカの不器用な人で潜在的な敵はいるが、それによって陰謀が渦巻く程ではないということが分かった。
それからウイングにはもうひとつ分かったことがある。
ミルキルはこれらの情報を得るために金をばら撒く。
今日はウイングが払ったが、二十ジンほどが飛んだ。
だが、これをミルキルは日常的にやっているのだ。
しかも、自分の金でだ。
パーティーのため、もちろん自分のためもあるだろうが、ミルキルに頭の下がる思いだった。
ミルキルに言わせると安全と安心はある程度買える。でも、魔物には金で手加減を望めないから、そっちはマルガレーテたちに頑張ってもらわないとな、ということを言われる。
「まあ、今後はウイングに手伝ってもらうから、そうしたら良い足甲でも買うけどね!」
ウイングは快く引き受けた。
情報の重要性を理解していても実際にどう集めるかなどは暗中模索だったのだ。ありがたいと素直に思えた。
いつしか、ウイングはアキラとの確執を忘れていた。
明日には再燃する可能性はあるが、今日はベッドの脇の暗がりに入って寝られそうだった。




