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輪廻転SHOW!魔王の息子  作者: 月のそうま
61/151

バカ貴族なのです

短めです。

空けて翌日。

昼過ぎまでゆっくり休んだウイングとアリアは宿の執事風使用人ウォーレンにお土産を渡す。

雷牙槍地竜ヴァジュランダドレイクの高級肉十グト〈キログラム〉の固まりだ。


「これは良い物を……」


「いつもお世話になっているので、お礼なのです!」


「本日はお帰りになられますかな?」


「はい、今日はギルドで所用を済ませるだけなので、あまり遅くなく帰れますよ!」


「では、早速本日の晩餐に使わせていただきましょう。

腕によりをかけますので、楽しみにお待ちいただければと存じます……」


ウォーレンが折り目正しく一礼する。


「あ、そうです!また厨房を貸して欲しいです!」


「どうぞ、お好きなようになさって下さい……」


ウォーレンはウイングに人好きのする笑みを見せて快諾する。


「卵も色々と取り揃えてあります。ご指示通り、甘味を彩る砂糖も種類を取り揃えてございますよ!」


ウォーレンの言葉にアリアが瞳を輝かせる。


「卵焼き!卵焼きを作るのね!」


「今日は卵焼きと、プリンを作るです!ツルンとしててほろ苦いカラメルと合わせると、最高です!」


「ウイング様、見学をお許しいただいても?」


ウォーレンも瞳を輝かせる。


「もちろんです!」


そうして、ウイングはウォーレンと連れ立って厨房へと行ってしまう。

アリアはすっかり慣れてしまった食堂兼サロンでお茶を嗜む。

ちらほらと身なりの良い客が何人か、同様にお茶を楽しんでいる。

今日は冒険に行く訳ではないので、鎧を着けていない。

この宿に来る前は、荷物を置いて出掛けるなど考えられなかった。

安宿に荷物を置いてくるなど、盗ってくださいと言うようなものだ。

だが、今なら自分の宿代だって自分で払えてしまう。

ほんの五十マワリ〈日〉前には考えられなかったことだ。

こんなに幸せでいいのだろうかと、自分の幸福を疑ってしまうのは、アリアのような小市民には仕方がないことなのかもしれない。


「お嬢さん、よろしければこちらで一緒にお茶しませんかな?」


恰幅の良い商人と貴族の御曹子風な若者のテーブルから声が掛かる。


「すいません、連れを待ってるものですから……」


基本、この宿に長く逗留するような人々は、あまりアリアとウイングに関わってこない。

二人は冒険者で、たまたま大金を掴んだから高級宿に居を移したお上りさんという見方をされているのだ。

だから、アリアに声を掛けて来るというのはそれを知らない最近の客か、お茶だけしに来た一限の客なのだろう。


「おや、ではお連れの方が来るまででもどうです?ここの軽食は目新しい物が多く、評判ですよ!」


今回の依頼前、二十マワリ〈日〉の特訓期間で慣れ親しんだ味だ。知っている。


「ありがとうございます……でも、もうすぐ戻ってくると思いますから……」


やんわりと断りを入れる。

軽食など食べてはウイング自家製の卵焼きとプリンというのが入らなくなってしまう。

逆に少しでもお腹を減らしたいくらいなのにとんでもない、とアリアは内心で毒づく。


すると、貴族の御曹子風な若者が立ち上がって近付いてくる。


「おい、南のシミュレー伯爵の息子アビーバ・シミュレーが、平民のお前にいい夢を見させてやると言ってるんだ。いいから、来い!」


アビーバは言って、アリアの腕を掴むと引きずるように自分たちの席に連れていく。


「ほら、平民のお前には手が届かない高価な菓子だ!

この黄色い物など見たこともないだろう?

さあ、食べてみろ!」


ククク……多少、馴れ初めは強引になったが、財力にモノを言わせていい目を見させてやれば、女など簡単に落ちる……それなりの店で服でも買ってやって、部屋でディナー、そこまで行けば、後は……。


アビーバはそんな暗い愉悦に浸りながら、アリアに優しい顔を見せる。


「どうした?食っていいんだぞ?

なーに、この程度安いもんだ。さあ、食べてみろ……」


「卵焼き……」


どうやら卵焼きはこの高級宿の菓子として並べられているらしい。


「おや?ご存知でしたか?

この卵焼きはこの『涼風亭』の最新作だという話で、ちょっとした物ですよ」


恰幅の良い商人が自慢げに語る。


「おお、そうだ!俺が手ずから茶を入れてやろう!」


アビーバはそう言って席を立つ。

恰幅の良い商人がアリアに耳打ちする。


「アビーバ様は南のシミュレーの街の領主様のご子息です。

どうか暫くお付き合い願えませんか?

この町とシミュレーの街との友好にもなりますから……」


「あの、ほんとに困ります……」


「上手くすれば、玉の輿……などということもあるかもしれませんよ?」


「そんなの!……そんなの望んでませんっ!」


アリアは瞬間的に沸騰しそうになって、それでも貴族に表立って逆らう訳にもいかず、声を抑えて憤激を表す。


「相手は貴族の方です。あなたが無作法を行えば、この町に迷惑が掛かりますよ……」


恰幅の良い商人はそれまでのにこやかな態度を崩し、途端に冷たい態度を見せる。


「そんな……」


「平民が貴族に逆らえばどうなるか、少し考えなさい。

なに、悪いことなど起きませんよ。

アビーバ様も仰っていたでしょう?いい夢を見させてやる、と……今日だけの夢です、少し我慢すれば終わります……」


恰幅の良い商人からは、あからさまにアリアを馬鹿にしたような雰囲気が伝わってくる。かと思えば、懐柔策に出てくるなど、アリアは煙に巻かれているような気持ちになる。

怒られ、罵られ、優しく諭され、商人の感情の切り替わりに付いて行けず混乱する。


アビーバが機嫌良さそうに茶を運んでくると、アリアの前に置く。


「そう緊張するな。菓子は口に合わなかったか?」


「いえ、そういう訳では……」


「そうだろう、ここのはさすがに高い金を取るだけある。

俺も初めて食べた時は驚いたものだ。こんな田舎にこのように洗練された物があるとは、見識が狭かったとな」


「いやいや、アビーバ様、ご謙遜を。

近隣諸国だけでなく、遠くハスタ王国まで出向かれて見聞を広めたアビーバ様の見識が狭いなどと言われては、このジングなど池を海と言い張る小物になってしまいますよ……」


「ふはは……ジングもうまいことを言う……」


ジングという恰幅の良い商人のお追従に気を良くするアビーバだったが、アリアがせっかく入れてやった茶に口すらつけないのを見て、少しの苛立ちを見せる。


「俺が手ずから入れた茶では不満か?」


「あの……ほんとに人を待ってるんです!」


「娘さん……アビーバ様は心の広い方ですが、あまりそれに甘えない方がいいですよ……下手したら不敬罪、さらにはこの町に不利益になります。シミュレー伯爵はこの町のシューティ子爵への使者としてアビーバ様をお遣わしになったのです。

この町に住むあなたがアビーバ様に不敬を働いたとなれば、シューティ子爵とて黙ってはいないでしょう……それを人を待ってるからと、そんなものが理由になるとお思いですか?」


無茶苦茶な理論でアリアを咎めるジング。

だが、貴族などと関わったこともないアリアには、善悪の判断すらつかない。

それが悪いことだと言われればそんな気もしてきてしまう。


「おい、ジング!この娘には俺が頼んで付き合ってもらっている身だ。

あまり、怖がらせるようなことを言うな……」


「は、あまりにも無作法な振る舞いに、つい目くじらを立ててしまいました……申し訳ありません……」


恐縮して謝るジングだが、アビーバは途端に機嫌が良くなる。

ナイスアシストとでも思っているのだろう。


「ジングが色々と済まんな……詫び代わりといってはなんだが、服でも買ってやろう!

それから、その服を着ていく場所も用意してやろう。

平民では手が出ないようなドレスを着たら、きっとお前の機嫌も良くなるだろう?」


それから、そのドレスを脱ぐ場所もな。というのはアビーバの胸の内だ。

ほら!とアビーバは強引にアリアの腕を掴んで立たせようとする。

アリアは抵抗するべきなのかどうか迷う。

ジングの言う不敬罪という言葉が楔となって、アリアの勇気を押しとどめていた。

どうしたらいいのか分からない。

ただ、言われるままに立ち上がったらいけないとだけは思った。


「あの……その……」


「アリア、お待たせしたのです!」


ウイングが明るい声をサロンに響かせる。

アリアは助けを求めるようにウイングを見た。

ウイングはウォーレンを伴って、アリアのところまで来る。

アビーバに腕を取られて、引っ張られている状況を見て、ウイングは聞く。


「あれ?どうしたのです?」


アリアが口を開くより先にジングがいち早く立ち上がって、ウイングに声を掛ける。


「おや、あなたが待ち人ですかな?

ちょっとお話がありますので、こちらへ……」


ジングはウイングを促して、部屋の端に寄る。

それから小声で話し始める。


「実は、あちらのアリアさんをシミュレー伯爵のご子息であらせられるアビーバ様が見初められたようでしてな……最初は楽しくお話させていただいていたのですが……どうもアリアさんは無作法に過ぎる。

このままでは貴族にあらせられるアビーバ様に相応しくないと、私が叱責したところ、アビーバ様はこちらが誘ったのだからと私が叱られてしまいまして……それでアリアさんにお詫びをしたいという話になって、これからアリアさんにドレスを買いに行くところなのです。

待ち合わせたあなたには申し訳ないが、今日のところはこのままお帰り願えませんかな……?」


ジングは懐から十ジン硬貨を取り出して、ウイングに握らせる。


「アリアがそんな不敬を働いたとしたら、きっとあの貴族が何かしたからなのです!」


言ってウイングはアリアのところに行こうとする。

それを押しとどめて、ジングはさらに十ジン硬貨を取り出して、ウイングに見せる。


「まあまあ、お待ちください。このままお帰りいただけるなら、これもお渡しいたします。

あなたの恋人が美しく着飾った姿を見たいと思いませんか?

今日だけでいいのです。

明日からはすぐに元の関係に戻れますよ。

どうか、今日のところはアビーバ様に誠意を見せる機会を与えていただけませんか?」


ウイングはその言葉で察する。


「ああ、そういうことですか……」


「分かっていただけましたか……」


ジングがいかにもな悪巧み顔でニンマリと笑う。

ウイングもニンマリと笑うと、手を差し出す。

ジングはその手に硬貨を握らせる。

それを受け取ってウイングはアリアとアビーバのところへ行く。

それをジングは満足そうな顔で見送った。


「この度はアリアがアビーバ様に大変な不敬を働いたそうで、誠に申し訳ないです……」


ウイングが腰を折る。

それを満足そうに見つめるアビーバ。

対象的に、アリアの顔に絶望が浮かぼうかとした時、ウイングは汚いものを見るような顔でアビーバを見る。


「とか、言うとでも思ったですか?

下手な田舎者のナンパなんて見るに耐えないです。

そういうのは貴族同士の夜会でやればいいですよ。

せっかくの気持ちいい空間を下衆な貴族の戯れで汚すとか、やめて欲しいです……」


「は?」


アビーバは最初、何を言われたのか意味が理解出来ずに、キョトンとした顔をする。

アリアもキョトンとしていた。

ウイングは渡された二十ジンをテーブルに放り投げる。


「今、そこの商人に金を渡されて、お前の火遊びを見逃すように言われたです。

上が馬鹿だと、下も馬鹿になるですかね?

アリアが不敬を働いたとか聞いたですけど、そんなことある訳ないです。

もしあったとしても、それは確実にお前が悪いです!」


アリアの顔がパッと明るくなる。

ウイングはすかさずアリアの手を引いて、自分がアビーバの前に出る。

アビーバの顔は見る見る間に真っ赤になっていく。


「き、ききき、貴様!

俺はシミュレー伯爵の息子だぞ!」


「次男です?三男です?

確かこの町の領主は子爵ですよね?

格上の爵位持ちが格下に子供を遣わすということは、借金でも申し込みにきたですか?

まさか、そんなことの為に跡取りを出す訳がないですから、形式的に誠意を見せるなら子息を出すくらいはしそうですね。

ということは、継承権のない余り物の頭を下げさせるくらいはするですよね?」


ウイングは相手を怒らせるためにわざと当てずっぽうに言ったが、これは的を射ていた。

ただし、アビーバは五男なのでその点は間違っていたが、それがさらにアビーバの怒りに火を点ける。


「貴様のような平民に何が分かるっ!

俺とて、下げたくて頭を下げに来たのではないわっ!」


言ってアビーバはテーブルのナイフを握る。


「おや?図星だったです!」


アビーバが振るうナイフを片手で受け止めて、ウイングは鼻で笑った。


「殺す!殺してやる!」


アビーバが血走った目でウイングを見る。

それを止めたのは、それまで静観していたウォーレンだった。

ウォーレンはアビーバに痛烈な平手打ちを見舞った。


「黙りなさい!それが貴族のすることですかっ!

この『涼風亭』は数々の貴族の皆様に愛されてきた宿。

それがこのように下賎な輩を泊めたとあっては『涼風亭』の名折れです!

即刻、出ていっていただきます!」


「待て!アビーバ様はシミュレー伯爵の子息だぞ!

それをただの宿屋風情が出ていけなどと、許されないだろうが!」


途端にジングが怒りも露わに声を上げる。


「よろしい……法王猊下静養の宿に指定されているウチにケンカを売るというのならば、受けてたちます!」


権威には権威をとウォーレンが持ち出したのは、よりにもよって法王の名前だった。

ここ、グアーメ王国は隣国、ヒメルトヴィラ神聖国の属国という扱いを受けている。

グアーメ国王は代々熱心な宗教家で、ヒメルトヴィラ法王に忠誠を誓っている。

その宗主国のトップを持ち出したのだ。


「ふ、ふんっ!そのような嘘に惑わされると思ったか!?

戯けたことを!」


「お疑いなら、法王猊下から下賜された紋章入りの聖印でもお持ちしましょうか?

それとも直筆の感謝状がよろしいですか?

それともグアーメ国王から下賜された包丁にしましょうか?こちらも紋章入りですよ。

なんなら、今すぐ子爵様の館に使いを出しましょうか?

子爵様からは、我が町の誉れとして厚く遇すると仰っていただいております。

問題があればいつでも直訴するようにとお許しもいただいておりますから、直参の家臣が駆けつけてくださいますよ?

それをされて困るのは、アビーバ様ではございませんか?」


「ぐ……おのれ……そんな小僧と小娘を宿が守って何になる!

ただの平民だろうが!」


「おや?ジング殿も平民ではないですか?それとも、貴族の太鼓持ちは平民以上だとでも?

それにこちらにいるのは、我が宿をご贔屓下さるお得意様です。

ひとメグリの長逗留を決めていただき、即金でお支払いもいただいております。

三マワリのご宿泊で権威を振りかざして、タダにしろと迫った貴方方とどちらを取るかなど、自明のことではないですか?

伯爵領から子爵様への使者だと仰るから、善意でお泊めしたというのに、とんだ疫病神でしたな……」


「くそ!覚えていろよ!絶対に許さんからな!」


言って、ジングはよろけるアビーバを支えるように『涼風亭』を後にした。


「ウォーレンさん、ありがとうなのです」


ウイングは頭を下げる。

それに対して、ウォーレンは苦笑しながら逆に頭を下げてくる。


「いえ、こちらこそお見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございません」


「アリアは大丈夫です?」


「は、はい!ありがとうございました。

ウォーレンさんも、ありがとうございました」


アリアにとっては完全に頭上の出来事といった風で、ウイングとウォーレンにただただ関心するばかりだ。


「いえ、アリア様、申し訳ございませんでした。

今回は宿側の手落ちにございます。

ご不快にさせてしまいました。この通りにございます……」


ウォーレンはアリアに対して、深く深く頭を下げる。

その顔は苦渋に満ちていて、今にも切腹しそうな勢いだった。


「あ、いえ、実害はないですし、私もちゃんと断れなかったのがいけないですし……」


アリアは慌てて手を振る。それから、無理矢理、話題をウイングに振る。


「ほ、ほら、ウイング!準備できたなら早く行きましょう!

ミルキルさんに怒られちゃいますよ!」


言って、アリアはウイングの手を引いて歩き出す。

ウォーレンはすかさず顔を上げると、改めて頭を下げる。


「いってらっしゃいませ……」


「いってきます!」「いってくるです!」


そうして、二人は冒険者ギルドに行き、マルガレーテたちと合流、卵焼きもプリンも大好評で、『白夜の蒼炎』は結成前に結束を固めることに成功し、無事に新パーティーの登録を済ませた。

夜、ウイングとアリアが泊まる高級宿こと『涼風亭』に六人が集まると、雷牙槍地竜ヴァジュランダドレイクの本格シェフ料理に舌鼓を打ち、その日の内に全員が『涼風亭』に泊まることを決めた。

元『白夜の華』の面々はそれぞれ別の宿に個室を取っていたが、全員が毎日入れる温かいお風呂の魅力にやられたのである。

ウォーレンは新しく長逗留を決めた四人が全員、前払いでウイングたちと同じだけの金額を払ったことに驚き、また快く受け入れてくれた。


そうして、数マワリが立ち、とあるニュースがシューティの町を席巻する。

おや?ウイングがかっこよくアリアを救うのを主題に据えたつもりが、ウォーレンのターン……

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