ヴァジュランダドレイクなのです
初めての依頼がまだ終わらない……
詰め込みすぎかも。
でも、全部書いちゃうw
ウイングは諦めた。
マルガレーテの指示をちゃんと守りたかった。
だが、それを守れば『白夜の華』もアリアも死ぬ。
だから、指示を守り、新人冒険者として、みんなと共にやっていくという道を諦めた。
恐らく、無事に戻っても二度と信用は得られないだろう。
ウイングがやろうとしていることは、そういうことだ。
樹海に入り、みんなから見えなくなってから荷物を降ろし、ローブを脱ぎ捨て、指輪を外す。
人化が解ける。
黒い翼が服を破いて飛び出す。
二本の角が生まれる。
瞳が紅く染まる。
そこにいるのは魔王の息子だ。
精霊たちを呼び出す。
擬人化した巫女服姿の狐、擬人化したアイヌ風民族衣装を纏った狼、鳥の翼を持ったギャル系女子校生、岩肌を持つ金剛羅漢、白い星の上に輪を持つ物体、魔剣サブナクとてんでばらばらなウイングの家族たち。
彼らの姿を眺めて、自分はひとりではないともう一度実感する。
「みんな、助けて欲しいです」
「我が主様の御心のままに……」
代表してサアラが言う。同時に全員がウイングに礼をする。
「頼むです!」
ウイングがその翼を広げて飛ぶ。
風の精霊ジーンはその思念を読み取って、ウイングの飛行を補助する。
それほど離れていないマルガレーテたちに見られてしまう可能性もあったが、槍地竜と戦っている今、呑気に空を眺める者はいないだろう。
蠢く樹海を見つけると同時に、全速力でウイングはそちらへ向かった。
二剣、魔剣サブナクと『原初の魔物』の牙より削りだしたクランクランチを抜く。
雷牙槍地竜は樹海に擬態した姿をしている。鱗が森の木々を模しているのだ。
槍地竜の頃にあった二本の角は枯れた木のように枝を伸ばし、スピアテイルはより長大で雷光を纏っている。
「サアラ、火弾万撃!」
ウイングの正面に焔の精霊サアラが現れ、万の火弾を放つ。
前世で言うファランクス砲のようなものだ。
火弾万撃は派生戦術級魔法であり、サアラに譲渡された糧が近くの火のマナたちにばら撒くように渡されていく。
雷牙槍地竜の背中、その一点に集中砲火が浴びせられる。
「ギァワアアアァァァッ!」
まさしく怪獣という叫びを上げて、起点となるサアラを見上げる雷牙槍地竜だったが、ウイングはすでにそこにはいない。
ウイングは急降下と同時に自身の邪眼『神経加速』を用いて、地を蹴り、雷牙槍地竜の上がった顎先に深々と魔剣サブナクを突き立てる。
「ギャバアアアァァァッ!」
くぐもった音で雷牙槍地竜が痛みに叫ぶ。
ウイングは魔剣サブナクを力任せに引き抜くと、もう一度着地。
巨体を回り込むように横からさらに刺突を食らわせる。
「体が大きすぎて、あんまりダメージがいかないです……」
小山ほどもある雷牙槍地竜には画鋲で刺したほどしか効いていない。
痛みはあっても、動けなくなるほどではない。
火弾万撃も雷牙槍地竜の属性が火と土に対応しているせいか、思うほどのダメージにはなっていない。とはいえ、圧力でその場に釘付けにしながら、次第に樹海に擬態した鱗を砕きつつあるので、時間の問題かもしれない。
だが、それを悠長に待っていられるような時間はないのだ。
槍地竜を『白夜の華』とアリアが倒してしまえば、こちらに来てしまう。
ウイングの正体を見られる訳にもいかないし、みんなを守りながらでは戦えない。
雷牙槍地竜の頭がこちらを向く。
すでにその二本の角には前兆である雷光が走っている。
その顎が開かれる。
槍地竜の何倍にもなる大質量のマグマブレスが放射される。
「アース!大地の城壁!」
父エリュセイグドが得意とした大地の壁よりも厚く高い大地の壁がマグマを受け止める。本来ならば魔族でも数人がかりで放つ戦術級魔法である。
だが、ウイングの目算が甘かった。
壁は確かにマグマを受け止めたが、マグマの熱に溶かされていたのだ。
壁の内側が白熱したかと思うと、壁を貫いたマグマがウイングを襲う。
「まずっ……!」
咄嗟に右腕で顔を庇うようにして、左手を突き出す格好になるウイング。
飛び上がって避けるという方法を失念していた。
だが、いつまで待ってもマグマはウイングを襲わない。
熱気を嫌がるように薄く目を開ければ、左手のクランクランチがブラックホールのようにマグマを吸収していた。
「そうだったです……『原初の魔物』は魔法を喰らうのを忘れてたです……」
確か、ワルトメルガがクランクランチの兄弟剣、父に贈られたバイトナイトを手に魔法を打ち消して戦う姿を思い出す。
「なら、こうしておけば安全です!」
言うやいなや、ウイングはクランクランチを投擲する。
雷牙槍地竜の口内に吸い込まれるように突き立つ。
これも雷牙槍地竜には喉に小骨が刺さった程度のものだろう。だが、これで完全にマグマブレスは封じた。
「アンディ!精霊武装!」
ウイングの目の前に水の精霊アンディが現れたと思うと、青い光になって、一本の巨大な三叉戟が生まれる。
「これならっ!」
ウイングは雷牙槍地竜の横っ腹に渾身の力で投げる。
「ギャグアアアァァァッ……!」
余りの威力に雷牙槍地竜の身体が大地を横滑りする。
「お!これなら効きそうです!」
ウイングは満足そうに頷いた。
一方、『白夜の華』とアリアが戦っている槍地竜はというと、そろそろ決着がつく頃合だった。
先程、空に赤々と燃える火弾が何百、何千と降っていた。
彼女たちが何事かと、一瞬だけ意識を逸らしたものの、今はそれどころではないと、槍地竜に向き直る。
アリアの呪文が完成し、風の刃が放たれる直前、前面にいるモーリーとマルガレーテが防御を投げ出し、地に突っ伏す。
「……風の刃、出ろーっ!」
放たれた風の刃は、槍地竜の横っ腹を切り裂いて、モーリーの頭上を通過し、スピアテイルを半ばから断ち切って、樹海の木々を蹂躙した。
「外れたっ!」
見ていたミルキルが報告をする。
モーリーとマルガレーテは、槍地竜の虚をついて立ち上がる。
槍地竜は痛みに叫びながら、半ばで断たれた尻尾を振るい、頭を振り回す。
ミルキルの爆裂矢が、ムースの水龍波が、立ち上がったばかりのモーリーとマルガレーテをフォローする。
「もう一度だ!いけるか!?」
マルガレーテが叫ぶ。
樹海の中、雷牙槍地竜が居る辺りの地面が赤く光る。
何かが起きている。
だが、確認する余裕はない。
「いけます!」
アリアが応えて、呪文の詠唱を始める。
「ギャグアアアァァァッ……!」
一際大きく悲痛な雷牙槍地竜の叫びがこだまする。
槍地竜も満身創痍で、闇雲に暴れる。
マルガレーテはアリアに届きそうな攻撃だけを全力で庇い、モーリーは尻尾を自分に引きつける。
ミルキルが、ムースが、槍地竜の一挙一動を見逃すまいと集中する。
アリアの詠唱が終わる。
「……風の刃、出ろーっ!」
転がるマルガレーテの大盾の一部を掠めて、風が舞った。
「ギャ……」
槍地竜の叫びが止まる。
ずる……と肉がずれる。
槍地竜の前足から入った風の刃は、尻尾のつけ根まで、斜めに身体を両断していた。
「マルガレーテ!」
ミルキルが飛び込む。
地響きを立てて、槍地竜の頭が落ちてくる。
砂煙が舞って、それが晴れると、ミルキルに引き摺られる格好のマルガレーテのすぐ側に槍地竜の頭が横倒しになっていた。
「すまない……助かったよ、ミルキル……」
「マルガレーテさん!すいません!」
慌てて駆け寄って謝るアリアに、マルガレーテが微笑みかける。
「こちらこそ、上手く避けられずに心配を掛けた。申し訳ない」
アリアはそんなマルガレーテに恐縮しきりといったところだ。
そこへムースとモーリーも集まってくる。
「マルガレーテ……雷牙槍地竜はどうするの?」
「あそこで何かが起こっているのは確実だ。ウイングのためにも時間を稼がなくてはならないしな……行こう……」
言って、アリアの手を借りてマルガレーテは立ち上がる。
全員、顔には悲壮感を張り付けている。
当然だろう、たまたま何かがあって、あの場から動かないのだとしても、雷牙槍地竜にこの樹海の浅部でまともに適うものなどいない。
もし、放置して雷牙槍地竜が町に向かうようなことになれば、町はひとたまりもない。
最低でもその動向だけは確かめねばならない。
命懸けどころか、命を失くす前提の行動だ。
槍地竜は倒せたが、雷牙槍地竜に近付くというのはそういうことだ。
「まあ、冒険者になったらこれぐらいの死地はくぐり抜けてナンボじゃん!」
ミルキルが冗談めかして言う。
笑うみんなの表情は固い。
勇気ではなく、蛮勇を奮い起こして、全員は歩き出した。
その頃のウイングは、縦横に地を駆け、雷牙槍地竜を翻弄していた。
雷光を纏うヴァジュランダテイルがウイングを狙う。
純水であるアンディの三叉戟は電気を通さないため、感電することはないが、巨大に精霊武装しているため、取り回しが難しい。
なので、ヴァジュランダテイルを無理に受けたりせず、翼と『神経加速』で避けつつ、隙を見つけては渾身の力で投げ込むという作戦をとっていた。
ただし、その隙を作るのがひと苦労なのだ。
頭側に寄れば、角が襲う。
腹を狙えば、ヴァジュランダテイルと踏みつけがくる。
なかなか効果的な位置が取れない。
「あまり時間を掛けていられないです……」
ウイングとしては余り大きな魔法を連発するのは世界のマナバランスを崩すことに繋がるので避けたかったが、効果的なダメージを狙うのならば戦術級クラスの魔法を使うしかない。
いつまでも魔王族の姿でいる訳にもいかない。
自分の身の安全と世界のバランス、二つを秤にかければ、自分の身の安全に傾くのは仕方のないことだと無理にでも納得する。
「ラッシュ!超収束光!」
波動の精霊ラッシュが魔法の力で光を集める。
瞬間、辺りから光が失われ、夜が訪れる。
太陽が皆既日食のように輪郭だけ残して、光っている。
ウイングの向けた掌に太陽が生まれる。
と、それは指向性を持って放たれる。
刹那の出来事だった。
下から上へ、強力な収束光が振るわれる。
夜が昼に戻る。
雷牙槍地竜の胴体に黒い一本の線がある。
「急げ!見届けなければ……」
マルガレーテの声だ。
ウイングは慌てて、人化の指輪を嵌める。
精霊たちは姿を隠し、ウイングは人の姿へと変貌する。
だが、そこまでだ。
ウイングが姿を隠そうと、その場から離れるべく走り出すと同時、マルガレーテたちが茂みを割って現れる。
ウイングは無視して行こうとした。
だが、マルガレーテの声がそれを止める。
「ウイングっ!」
ビクリ、と身体が固まる。
ウイングは動けない。
「ウイング……」
アリアの声だ。
「どういうことだよ……」
ミルキルの声は震えている。
「雷牙槍地竜……?」
ムースはすぐ横にある屍骸を見て絶句している。
「これが……」
モーリーは初めて見る雷牙槍地竜と、初めて見たようなウイングの鎧姿を見て困惑していた。
「まさか……一人で倒したのか……?」
マルガレーテの声も震える。
ウイングは何も答えられない。
「そんな……ありえないだろ……勇者かよ……」
ミルキルの言葉にも答えられない。
「ウイング、大丈夫ですか?怪我は?」
アリアが気付いたかのように駆けてくる。
その気配を感じて、ウイングは逃げ出した。
怖かった。
今の自分を見られたくなかった。
人化の指輪で外見を変えたところで、人外の力を振るう自分がどう見られるのか、考えるだけでも恐ろしい。
人並み外れた強さと見られるのはいい。
だが、それが人ではない強さと見られたら……地上へと自分を逃がした兄の、トノルの尽力が無駄になる。
一人では戦えない。
一人では生きていけない。
精霊たちは居る。だが、やはり違うのだ。
魂が別の魂を求めるのだ。
しかし、拒絶されてしまったら……それを考えると、ウイングは恐ろしくてたまらない。
だから、逃げ出した。
逃げるしかなかった。
「待って!ウイング!逃げないで!」
アリアが追ってくる。
尋常ではない早さで。
ウイングが掛けた風の加護は、ウイングが糧の供給を止めない限り続く。
それに気付いたのは、アリアにタックルを食らって倒された後だった。
「なんで、逃げるんですか!」
「はな、離すです!」
そう言って藻掻くウイングに力はない。無意識に怪力を使うことを拒絶していた。
「離しません!死んでも離しません!ウイングが逃げようとする限り、絶対に離しませんっ!」
アリアが叫ぶ。
ウイングは暴れるのをやめた。
それでもアリアは離さなかった。
「もう……何があっても、ウイングのことをちゃんと見るって決めたんです!だから、全部話してください!」
「いやです!話さないです!離すです!」
「何言ってるんですか!離しません!話してください!」
そこへ追いついたミルキルが至極冷静に声をかける。
「なあ、お前ら何の話してるの?」
二人は同時に答える。
「「離(話)しません!」」
ミルキルが噴き出す。
「ブフォッ!なに、なに?恋愛系バカ話?そんなら聞こう……!」
耳に手を当て、耳年増な顔をするミルキル。
「え?な!違っ……」
「あ!や?そうじゃなくてですね……」
二人が同時に慌てふためく。
ミルキルは途端、笑顔を消す。
「バーカ、冗談だよ……」
ミルキルはウイングの襟首を掴んでウイングの横にしゃがみ込む。
腰にはアリアがしがみついているので、ウイングは逃げられない。
と、他の面々も追いついて、ウイングは全員に囲まれる。
「まず最初に、マルガレーテの指示を無視したよな!」
と、ミルキルは空いた片手でウイングにデコピンする。
「それから、雷牙槍地竜を倒せる力があるのに、説明責任の放棄な!」
さらにミルキルからデコピンが飛ぶ。
そこにアリアが畳み掛ける。
「ウイング。話せないのなら、話さなくてもいいですけど、逃げないでください!」
ミルキルのデコピンが追加される。
「それから、全員が助かった。良くやった!」
ミルキルは笑顔になると、ウイングの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。
「相変わらず、怒るのはミルキルに取られてしまうが、ウイングが雷牙槍地竜を倒せるというのなら、違う作戦もあったかもしれない……いや、あの状況ではある程度、容認せざるを得ないか……とにかく、良くやってくれた……」
マルガレーテがウイングの頭を優しく撫でる。
「そうですね……私たちを置いて行ってしまったら、許せなかったところですけど、アリアのお手柄ですね……ウイング、逃げたらダメですよ……」
ムースがアリアの頭を撫で、ウイングにはコツン!と拳を落とす。痛くはない。拗ねているような仕草だった。
「助かったわ……」
モーリーはウイングの頭をポンポンと撫でるように叩く。
「こ、怖くないです、か?」
ウイングは恐る恐る聞く。
「こえーよ!一緒に行動してる仲間が勇者か、勇者以上の力を持ってるくせに、いつまで経っても信頼してくれねーんだぜ!
しかも、そいつが常識知らずで、コミュニケーションの仕方も知らないガキなんだ!怖くないはずないだろ!」
「ご、ごめんなさいです……」
ミルキルが真っ先に吐き捨てるように反応する。
だが、これは期待のあらわれだというのはバカなウイングでも分かる。
「私は!私は……見てみたいわ。ウイングが本当に勇者と呼ばれる力を持っているなら、見て、その高みを確かめたい!」
勇者を祖先に持つモーリーが急に興奮したように言う。
「でも、僕は勇者じゃないです……」
「それでも、よ。ウイングの強さは、今の私では届かないところにあるもの。私の夢のためには、貴方を近くで確かめて実感できることが重要だわ!」
決意を秘めたモーリーの言葉だった。
御家の再興を目指すモーリーには強さが大事なようだ。
「ウイングは怖くないですよ……でも、見てないと心配になってしまうところがありますね……貴方の優しさは貴方を傷つける毒にもなりそうですから……」
ムースが悟ったように言う。
「どうだろう……アリア、ウイング。
私たちとパーティーを組まないか?」
マルガレーテはウイングへの答えの代わりに、そう言った。
「君たち二人の実力を考えると、逆に私たちが足でまといになってしまうかもしれないが……」
ウイングと腰にしがみついているアリアと、二人で顔を見合わせる。
「もちろん、答えはすぐでなくていい。
この依頼が終わって、ゆっくり時間を置いてから二人で話し合ってみて欲しい」
マルガレーテはウイングへの信頼の証として、そう切り出した。
もちろん、アリアを蔑ろにしたつもりはない。
そして、それに答えるのはアリアだった。
アリアはしがみついていたウイングから離れると、『白夜の華』の面々を見る。
そして、それぞれに頷き合う。
どうやら、アリアもウイングには信頼できる仲間が自分以外にも必要だと思うところがあったらしい。
「ウイング。私はこの話を受けるべきだと思います。私たちは冒険者として知らないことがまだまだあります。
それに、ウイングにはもっと仲間が必要です。それも、信頼してくれる仲間が。
私ひとりじゃ、ウイングに逃げられちゃいます!
だから、マルガレーテさん、ムースさん、ミルキルさん、モーリーさん、一緒にウイングを捕まえましょう!」
ウイングを置いてきぼりにして、五人の結束は固まっているようだ。
ウイングは、アリアたちに捕まえられるらしい。
「僕は……捕まるですか?」
「逃がしません!」
アリアが宣言する。
「分かったです……」
ウイングは魔族だが、夢を見た。甘い、甘い夢だ。
人間の振りをして、人間に受け入れられて、面白可笑しく暮らす夢だ。
そんな夢なら覚めないで欲しいと思った。
だから、魔族のウイングは眠りにつく。
魔界のことは忘れて生きる。ようやく決心がついたようだった。
ウイングくんがいつまでもウジウジしてるのは仕様です。
でも、これで多少は晴れたかな?と思ってます。
なかなか、スパッとカタルシスに辿り着けないですね(;^ω^)




