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輪廻転SHOW!魔王の息子  作者: 月のそうま
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樹海の中なのです

朝、いち早く起きだしたアリアは、後悔した。

ウイングの記憶喪失話から、なんとも気まずい雰囲気になって、寝てしまう以外なかったのだが、ウイングが無防備に横になったのを見て、ついここが外だということも忘れて自分まで寝てしまった。

自分は駆け出しとはいえ冒険者であるにもかかわらずだ。

確かに、ウイングのことを一人で考えたかったのもある。

ウイングがとっとこ寝たのをいいことに、自分は何をしてあげられるだろうかと、悩みたかったのだ。

火の番をしながら見張りをすれば良かった、という基本的なことを忘れた。

何もなかったから、という言い訳は許されない。


成人して、人減らしの意味もあって家を飛び出した。

一攫千金を夢見て、ようやく冒険者になったのに、当たり前のことすらできない。

そんな自分に愕然とする。


ウイングが魚を振る舞ってくれたのだから、水場が近くにあるだろうと、アタリをつけて、顔でも洗ってしっかりしようと、立ち上がる。


目の前が湖だった。

夜で暗かったから仕方ないのだ。でなければ水場の近くで眠るのは色々危ない。

動物が水を飲みにやってくる、それを求めて危険な動物や魔物も寄ってくる。

なので、水場にあまり近い場所は野営に向かない。

ウイングはそういう常識を知らずに生きてきた人なのだ。

もしくは知る必要のない生き方をしていたのだろう。


そうなると、貴族、王子様説が有力かもしれない。


アリアは、過ぎた失敗は諦めて、とりあえず顔を洗うことにする。

メブキ(春)の半ばとはいえ、水はまだ冷たい。

冴えない頭をしゃっきりさせて、ウイングのところに戻る。


「おはようなのです」


戻ってみれば、ウイングは起き出して朝食の準備を始めていた。


「お、おはようございます……」


「朝ご飯、もう少し待って欲しいです」


「あ、ありがとうございます……」


いそいそと準備しているのは、残った魚をスープに入れた魚介出汁のスープと黒パンだ。


「あの!」


アリアは寝る前に考えていたことを話すことにした。

ウイングは忙しなく働きながらも目を向けてくる。


「良かったら、一緒に町まで行きませんか?」


「僕もちょうどお願いしようと思ってたです」


勇気を振り絞って誘ってみたのだが、あまりに呆気なくて拍子抜けだった。


「たぶん、町に行けばウイングさんのこと知ってる人もいるかもしれないですしね!」


なるべく希望の言葉を掛ける。


「……別にそういうのは望んでないです。

それより、冒険者になるのって難しいですか?」


「いえ、簡単ですけど……記憶のこととか、いいんですか?」


「楽しく生きられれば、それでいいのです」


あまりに楽観的に言われてしまい、昨日、ウイングについて悩んだのが無駄だったと言われたようで、またまた拍子抜けだった。


「本当にウイングさんは、それでいいんですか?」


「え、変です?」


「いや、普通は自分のことが分からないのって不安だったりしません?」


「名前は覚えてるし、魔法も使えるから、そんなに困らないです。

過去のことは、きっと忘れた方がいいことだったのです……でないと……」


ウイングは口をぎゅっと引き結んで、一瞬だけ暗い表情になった。


でないと、命を賭して幸せに生きろと自分に言った者たちに申し訳が立たない。


そんな言葉を呑み込んで、笑顔を作る。


「まあ、とにかく新しい人生だと思ってやり直すのです!」


アリアはウイングの表情に、半ば悟ってしまった。

彼は記憶喪失ではないのかもしれない。もし、そうだとするならば、記憶喪失になりたい彼の、暗い過去を抉る行為をしているのかもしれない、と思った。


「新しい人生!そういう考え方もありかもですね!

実を言えば、私も新しい人生がやりたくて冒険者になりましたから!」


アリアは話を合わせることにした。記憶喪失になりたい程の過去を持っているのなら、一人きりで樹海の奥地にいたのも頷ける。他人と関わりたくなかったのかもしれない。それにも関わらず自分の求めに応じて火に当たらせ、食事を分け与えた。

つまり、助けてくれたという事だ。

ならば、自分の満足感など置いておいて、少しでも恩返しをするべきだろう。


「アリアさんは、新しい人生がやりたかったですか?」


出来上がった朝食を配膳して、食べながら話をする。


「ええ、貧しい農村の出ですからね。口減らしのために家を出なければならなかったんです。丁稚奉公でも良かったんですけど、昔から憧れてた冒険者になったんです。そして、なったからには、夢はでっかく一攫千金ですよ!

そして、お金持ちになって、冒険に飽きたら商売を始めます!」


「おお!何をやるですか?」


「食べ物屋さんです!そして、世界中の珍しい食材を集めて、思う様食べるんです!」


「自分で食べちゃうですか?」


「あ、もちろんお客様にお出しできるか吟味するためですよ。

決して自分のためだけではないんです!」


「自分のためでもあるですね……」


「そこは女将さんの役得です!」


「なるほど!それは楽しそうです!」


「まあ、そのためにも、まずはこの樹海から抜け出さないといけないんですけどね……」


アリアの表情が多少暗くなるのも仕方がないことだ。


地図はあっても、現在地が分からないのでは最短距離を行くという訳にはいかない。ましてや、測量技術がウイングの前世とは比べようもないほどに遅れている。しかも、魔物の出現地点だって分からないのだ。


「難しいです?」


「いえ、難しくはないですよ。ここが樹海の湖ですから、ひたすら南に行けばいいんです。街道が南に走ってますから……街道のどこかには出られるはすです。ただ、何マワリ(日)歩けばいいのかは、検討もつかないです……」


「町はどっちにあるです?」


「東の方ですけど、無理ですよ。崖やら魔物の吹き溜りになってるところやらで、とてもじゃないですけど東には向かえません。無我夢中で逃げ回ってる時は魔物の吹き溜りに当たったりしなくてラッキーでしたけど、こうなると逆に不運な気もしますね……」


「南なら魔物の吹き溜りはないです?」


「いえいえ、遭遇率が半分になるくらいですよ。

まあ、ギルドで教えてくれる座学で聞いたんですけど……」


「じゃあ、東に行くです」


「えっ?いやいや、だから無理ですってば!」


「残念ながら、切り詰めても二人であと三マワリ(日)分くらいしか食料がないです。何マワリ掛かるか分からない道は選べないです。

それに、遭遇率が半分で時間が倍掛かった時点で、南と東の遭遇率は同じになるです。いざとなったら僕も戦いの心得はあるです。多少、危険でも東に向かうべきだと思うです」


「言いたいことは分かりましたけど、戦いの心得があるんですか?」


アリアはウイングの記憶喪失話をここまでの話の過程から半信半疑でいる。だから、ここは流してもいいように思うのだが、今後も記憶喪失を言い張るのであれば、少しはそれらしくして欲しいという意味を込めて、意地悪を言ったのだ。


「あ、いや、そんな気がするです……」


「フフッ……まあ、戦いの心得については、信じてあげてもいいですよ。

確かに東に抜ける方が近道ですから、慎重に行けば上手く魔物の吹き溜りをよけられるかもしれませんし……」


ウイングの荷物の横に立て掛けてある黒い剣はかなりの業物に見える。それにウイングの使う独自の魔法の件もある。

アリアはこの奇妙でちょっと抜けているがお人好しそうな同行者を信用してみようと思ったのだ。


「それで、ウイングさんは……」


「ウイングでいいです」


「じゃあ、私もアリアで。

それで、ウイングは攻撃用の魔法も使えるんでしょうか?」


「使えるです」


「親和性が高い属性はありますか?」


「んー、よく分かんないです。たぶん、どれでも使えるです。

でも、生命のマナはあの剣に頼らないと他人には使えないです」


「えっ?どれでも?火も水も土も風も?」


「必要なら光と闇も使えるです」


「それと、昨日から思ってたんですけど、火のマナとか生命のマナとか、まるでマナに種類があるみたいに言ってますけど、マナ魔法と精霊魔法がごっちゃになってません?」


ウイングが途端に、しまった!という顔になる。

精霊視覚スピリットヴィジョンを持たない者にとっては、マナはマナでしかない。そこには火のマナも水のマナもない。

しかも、どうやら地上では精霊の存在とマナは別種の魔法として区切られているようだと理解した。

しかし、アリアはウイングの表情の変化を見逃したのか、考えながらも言葉を繋げる。


「ウイングの使う魔法って、魔法ギルドのものとも違うみたいだから、もしかして、賢者様のお弟子さんだったのかも、とも思ったんだけど……」


「賢者様?」


「えっと……狭間の灰魔法師……だったかしら?

人が近寄れないような場所に、今の魔法とは全く違う術理を持って暮らしているとされる、この世の叡智を極めるべく生きる賢者。

おとぎ話に出てくる賢者様。

もしかしたら、記憶を失くす前のウイングに関係あるかもと思って……あ、別に思い出すべきだとか思ってる訳じゃないですよ。なんとなく、その魔法自体にヒントがあるような気がして……」


言いながら、焦ったようにウイングを気遣うアリア。


「よく分からないです……」


「そ、そうですよね……」


ウイングは地上の魔法について調べる必要性を感じた。

どうやら、地上と地下では常識にかなり食い違いがあるらしい。


「魔法ギルドってところなら、普通の魔法について教えてくれるですかね?」


「ええ、初級だけなら、魔法の普及のためにタダで教えてくれますよ。

私も初級の一部だけなら使えますし……とは言っても、火と風が少しだけですけど……」


恥じ入るように、声が萎んでいく。


「ま、まあ、それは後でお見せする機会もあると思いますから、とりあえず、出発しましょうか!」


話している間に、食事も終わり、さっそく出発となった。

簡単に野営の片付けをして、荷物を背負ったら、東へと歩き出す。


アリアは太陽の位置や木の切株などから、方向を確かめながら、進んでいく。

魔物が潜んでいないか、入念に観察しながらの移動だ。


木立はいつのまにか、鬱蒼と繁る森になり、そこかしこに何者かの気配を感じるようになる。


「いつ魔物が出るか分かりませんから、注意して進みましょう」


アリアがそう促すと、ウイングは頷く。

とは言っても、ウイングは波動の精霊ラッシュに周囲の警戒を頼んでいるので、ラッシュが何も言ってこない以上、何も出る訳がない。


一応、ウイングも辺りに目をやって警戒している風にしているが、その実、ウイングは食べられそうな物はないかと探していたのだ。


「あ……」


「どうしました!?」


アリアが慌ててメイスを構えながら、やってくる。

ウイングが指差したのは木の上になる黄色い果実だ。


「フォンサンの実なのです!」


フォンサンの実は、酸味と甘みのバランスがとれた最高級品の果物で、瑞々しい梨や林檎の良いとこ取りをしたような果物だ。


「ウイングさん!ちゃんと警戒して下さいっ!」


さん付けに距離感がある。ウイングは多少、恨みがましい目になりつつも、申し訳なさそうになる。


「ご、ごめんなさいなのです……」


「まったくもう……!周囲の警戒しときますから、ぱぱっと取って下さいよ!あ、私はアレ!あの上の方のおっきいので!」



「え?あ?と、取るです?」


てっきり諦めるのだとばかり思っていたウイングは、アリアの豹変に驚いてしまう。


「だって、見つけちゃったなら仕方ないじゃないですか。

フォンサンの実は一個十ルーン以上で売れるお高い果物ですよ!

三個もあれば宿に泊まれるんですよっ!」


「あ、は、はいです!」


その燻るような熱さにウイングは圧されて返事をしてしまう。


「さあ、私が周囲を警戒している間に、ササッと登って取ってきて下さい!」


「魔法で撃ち落とすとか?」


「傷がついたら、値打ちが下がるでしょーがっ!」


「は、はいなのです!」


ウイングは荷物を降ろして、魔剣サブナクを木に立て掛ける。そうして身軽になると木に登る。

しかし、いざフォンサンの実をひとつもいでから、気がついてしまう。

投げ落とせないのならば、懐にしまえるのは多くて二個。

それでは食べる分しか確保できない。

アリアは宿代を稼ぐつもりのようだから、最低五個は必要そうだ。

これは三往復しなければならないのだろうか……と。


「そうなのです!」


ウイングは着ていたローブのフードを脱ぐと、そのフードの中にひとつを入れた。それからふたつを懐に入れる。中に着込んだ鎧があるので、留め具を弛めて仕舞うと、胸を特盛りで女装しているような姿だ。


傍から見たらかなり恥ずかしい。


フォンサンの実を傷つけないように降りようとした、その時、波動の精霊ラッシュがすぐ真下に何かがいるという思念を伝えてきた。


「え?」


視線を地面に落とす。

ウイングが登ってきたフォンサンの木と、そこから少し離れてアリアが辺りを見回している。

しかし、アリアの背後、地面がひび割れたかと思うと、そこが盛り上がり、全身を鱗に覆ったモグラを熊並の大きさに膨らませたような魔物が飛び出した。


「アリアっ!」


ウイングが叫んで、腰に差した小剣『クランクランチ』を抜いて、跳ぶ。

声に振り向いたアリアは、咄嗟のことで竦んでしまって動けない。


鱗モグラの爪は長く鋭い。それがアリアを蹂躙するべく振り上げられる。


ウイングは小剣を鱗モグラの頭に突き立てた。


「ギュルリリリリリッッッ!」


奇声を上げて、鱗モグラが仰け反る。


「離れるですっ!」


鱗モグラの頭上で踏ん張ったまま、アリアに指示を出す。

アリアはよろけるように後ろに下がって距離をとる。


「ギュルラリリルラリリッッ!」


鱗モグラが身体を滅茶苦茶に振り回して、ウイングを振り落とそうとする。


「あっ!滑るです!」


身体を振り回したことで小剣の柄にまで血がこびりついて、手から抜けてしまう。

軽業のように、宙返りで地面に降り立ったものの、ウイングの手には得物がない。鱗モグラの脳天に突き立ったままだ。


狂乱の瞳をした鱗モグラは、振り向きざまに爪を振るった。

それを掻い潜るように、鱗モグラをパスすると、ウイングはアリアを背にするように立った。


「アリア、大丈夫ですっ?」


鱗モグラの爪を、右に左に、ひょいひょいと躱しながら、ウイングが声を掛ける。

それを見るアリアは驚愕を通り越して、愕然としていた。


「ウ……ウイングこそ、大丈夫……なの?」


「こいつは奇襲攻撃が得意な魔物みたいです。だから、正面から戦えば、そんなに攻撃も早くないですし、爪だけの単純な攻撃しかないみたいです」


話しながら、鱗モグラの攻撃を躱していく。

鱗モグラとウイング。体の大きさは、大人と子供ほどの差があるのに、その力量は子供と大人のようだった。


「マナよ集いて……えーと、風弾と成し……彼の敵を穿て!突風弾ウインドブレッド!」


ウイングは使い慣れた適当呪文だと、またアリアに変な疑いを持たれると思い、昔習った魔法の基礎呪文を思い出しながら使った。

生まれた空気の弾丸が鱗モグラの土手っ腹に風穴を開ける。


「キュリッ……キュッ……キュリッ……」


鱗モグラは、どうと倒れて、それきりだった。


ウイングは無言で、それを見ていた。

実際には青ざめた顔色だったかもしれない。

牽制で放った空気の弾丸で鱗モグラを吹き飛ばし、距離を開けてから、フォンサンの木に立て掛けてある魔剣サブリナを取る予定だったのだが、目論見は崩れていた。

地上では飽和状態にある天の恵『マナ』。

マナは人間たちから与えられる魂の残滓『糧』を得て、『精霊』となる。

『精霊』は『大精霊』へ、『大精霊』は『母精霊』へと成長していき、最終的には世界の運行を司る存在へと昇華するのが使命だと言われている。

『マナ』は『糧』を得る代償として、世界に『魔法』を顕現させる。

地上では『糧』の代償となる『魔法』の規模が違うのだ。

そのことを改めて実感するウイングだった。


「ウウウ、ウイングさん、なんですかその魔法……それに、戦いの心得があるどころか、武神ですか!?武神なんですか!?」


「な、なんなんですかね……僕もびっくりです……」


「この魔物って、騎士土竜ナイトモールですよ。大きなチーム組んでる冒険者たちとか、二つ名持ちの冒険者が相手するような危険な魔物なのに、一撃じゃないですか!」


「これ、強い魔物ですか……」


「強いですよ!私、死んだと思いましたよ!ホントに何者ですか!?」


「えっと……き、記憶が……」


アリアは深い、それは深いため息を吐いた。


「あの、アリア……」


不安そうに見つめてくるウイングに、ジト目で返すアリア。


「はぁ……まあ、言いたくないこと、言えないこともあるんでしょうし……記憶がないなら、分からないこともあるんでしょう……でも、でもですよ……規格外すぎです……これじゃあ、ウイングさんが冒険者になったら組んで貰おうと思ってたのに……それで、一緒に強くなっていけたらとか、思ってたのに……無理じゃないですか……」


大きく肩を落として、落ち込み始めるアリア。


「え?そんなふうに思ってくれてたですか!なら、そうするです!」


「ウイングさんの力なら、すぐに強いチームから声が掛かりますよ!私なんてお払い箱です!」


「さん付けで呼ぶのやめて欲しいです……」


「いや、ウイングさんですよ……様付けでもいいくらいです!」


「距離感が……」


「距離感?ありまくりですよ、天と地ほどありますよ!」


「……怒ってるですか?」


「ええ、怒ってますよ!何にも見抜けなかった自分にですけどね!……そう、自分にですよ……ウイングさんに当たってるんです……馬鹿ですよね……すいません……」


いきなり怒ったかと思うと、途端に落ち込み始めるアリアは情緒不安定のようである。


「あの……アリア……僕は嬉しかったです……こんな昨日会ったばかりの得体の知れない奴のために、悩んでくれたですよね……町まで連れて行こうって考えてくれたですよね……一緒に行こうって言ってくれたの、凄い嬉しかったです。……昨日、僕のこと『強い』ですねって言ってくれたですけど、アリアの『強さ』はこんな奴に、こんな奴のために無償で町まで行こうって言ってくれる『強さ』なのです。

それは、誰かに教わったとか、修行したとかで得られる『強さ』よりよっぽど大事な『強さ』だと思うです!」


「……そんなこと、ないですよ。

元々、打算ですよ。私は魔物から逃げ回ったから、あそこに行っただけで、食糧の準備もしてなかったから、ウイングさんが食糧を持ってるのが、ちょうどいいと思ったんです。

それに、普通じゃない魔法を使ってたから、あわよくば教えて貰おうとか、武器だって普通じゃない感じだったから、魔物と出くわしても時間稼ぎくらいしてくれるんじゃないかとか、そんな事ばっかり考えてたんですよ……最低じゃないですか……」


「じゃあ、最初に『火に当たらせて欲しい』って言った時、僕が断ったらどうしてたですか?」


「そりゃ……離れてなんとか野営しますよ……お互いに事情があるんですから、嫌だって言われたら仕方ないじゃないですか……」


「食糧ないですよ?魔物も出るですよ?」


「……」


「打算で動くなら、もっと図々しく居座っても良かったです。

お金で食糧を譲って貰うでも、できたはずです!なのに、何も言わなかったです!」


「わ、私だって女の武器を使ってやろうとか考えもしましたよ!そ、それくらいの武器があればウイングみたいな若者、一撃で食糧を差し出させるくらいできましたよ!」


言ってアリアが指差したのはウイングの胸にたわわに実るフォンサンの実だった。

確かにアリアの胸は貧乳ではないが、フォンサンの実には負ける。


「あ……」と気付いて、慌ててフォンサンの実を取り出すウイング。

真面目な話をしているはずなのに、かなり不真面目な格好だったと気付いたのだ。


「た……食べるですか?」


恥ずかしそうにフォンサンの実を差し出す。


「い、いただきます……」


恥ずかしそうに受け取るアリア。


「まぬけに真面目な話してたです……」


「……本当ですか?」


「何がです?」


「冒険者になったら、組んでくれますか?」


「もちろんです!」


「魔法とか教えてくれます……?」


「いいですよ!それで一緒に強くなって、一攫千金するです!」


「足でまといですよ?」


「冒険者の基礎とか知らないです。きっとアリアに教えて貰うことがいっぱいあるです!」


ああ、こんなにも優しい人なんだ、と胸が熱くなっていく。

なのに自分は打算ばっかりで……と打ちのめされる思いもある。

それから、自分のことをちゃんと見てくれる人に初めて会った気がした。


アリアは複雑な感情の起伏に揺れて、どんな顔をしていいのか分からなくなってしまう。

だから、ジワジワと涙が溢れる顔で、笑った。


「え、えへ……やったぁ……約束ですからね……」


言ったら、ホッとすると同時に感情が一気に溢れてくる。

それから、それを隠すように、服の袖で実を拭うと齧りついた。


「美味しい……美味しいよぅ……うぐっ……グスッ……おいひいね……ウイング……」


「泣きながら食べると味が分からなくなりそうなのです……」


やれやれと言った顔でウイングもフォンサンの実を齧った。

甘酸っぱくて、ちょっと嬉しい味がした。

それから、フードの中の一個はアリアが泣き止んだらあげようと思った。


初めてのヒロイン候補登場!

こんなんで大丈夫なのか?

色々作者的に不安になりつつも、頑張ります!

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