手紙
ウイング様へ
まず始めに、ウイング様を騙したことを謝罪致します。
これはサヴァルマーナ様とかねてより決めていたことではありますが、決断し、実行したのは私です。
すべての責任はトノルジンバめにあります。
今、きっと戸惑っておられると思います。
そこは九層ではなく、地上です。
全てを語るには長くなるので、とり急ぎ必要なことをお伝えします。
ウイング様はソーバルディー殿より貰った、人化の指輪をお持ちだったはずです。それをお付けになって、これよりは人間として生きて下さいますよう、お願い申し上げます。
当面の食糧とお金は荷物にございます。ご満足頂ける量ではありませんが、上手くお使い下さい。
さて、色々とお知りになりたいことがあると思いますので、そのことについて、お答えしておこうかと思います。
そもそもはサヴァルマーナ様が九層へと旅立たれる直前のお話だったのです。
彼の者の反乱、インゼムの自供により、魔性族代表ジーガンが『地上恩恵派』であることが確定致しました。
これはウイング様もご承知のことと思います。
これにより、サヴァルマーナ様は幾つかの予想を立てておいででした。
ひとつには、魔王城は長く保たないだろうこと。
事を起こした以上、それは計画の最終段階を迎えての反乱だと思われます。
いかに魔王様と近衛騎士団、城兵が強かろうと、城の結界と城門は内側からならばどうとでも開けられます。
ジーガン子飼いの者が潜入しているだろうことは、充分に予想ができます。
しかし、魔王様のご気性を鑑みるに、徹底抗戦を選ばれたと思います。
さらにひとつ、極北旅団の存在です。
サヴァルマーナ様は現、極北旅団長ブラーガスを疑っておいででした。
レンバート様が剣闘の祭の際にブラーガスに討たれたのは私にも忘れられない傷として残っております。
あの折、サヴァルマーナ様はレンバート様の首に『読心』の呪文を試みたそうです。
そこで見たのは『怒り』だったそうです。
今にして思えば、レンバート様が怒りを持って戦うとなると、やはり『地上恩恵派』の存在をそこに見たからではないかと仰っておいででした。
もし、そうであるならば、すでに魔王城は死地であろうと考えておられたようです。
それでも、サヴァルマーナ様は妹君リオラディッタ様や母君様だけでも助けられるかもしれないと、魔王城行きをお決めになったのです。
それから、不測の事態に備えて、私に策をさずけて下さいました。
他の姉、兄様方は拠り所となる場所をお持ちですが、ウイング様には残念ながら、それがありません。
そこで考えたのが、ウイング様の地上行きなのです。
テセラスタが魔王になったとして、そう簡単には地上に手出しはできません。
『地上恩恵派』に属するからこそ、地上ならば無理ができないだろうという判断なのです。
それ故に、もしもの時は私がウイング様を騙してでも地上へと上げるというお約束をさせて頂いたのです。
この手紙を書く少し前にサヴァルマーナ様の命を受けた、最後の伝令が私のところに来ました。
だいたいはサヴァルマーナ様の予測通りだったそうです。
テセラスタは『皇龍騎士団』の壊滅を装って、その足で九層に向かったそうです。
そうして、反乱は起こり、やはり早々に内部の間者が城門と結界を開き、頼みとしていた極北旅団は、応援に駆け付けたと見せてバルディラント様を暗殺。
サヴァルマーナ様が駆け付けた時は惨憺たる有様だったそうです。
しかし、魔王様が城兵を、リオラディッタ様がバルディラント殿亡き後の近衛騎士団をまとめて、それでも抵抗の目はあったそうなのです。
ですが、卑劣にもテセラスタはウイング様の母君グロリア様を人質に、降伏を迫ったそうです。
それに動揺したリオラディッタ様が間隙を突いて捕縛され、怒りに沸いた魔王様はグロリア様とリオラディッタ様を取り返そうと単身、反乱軍に挑まれて重症。
サヴァルマーナ様は伝令となったカタミミというゴブリンに一部始終を伝えるように言われると、降伏を申し出たそうです。
しかし、テセラスタは、奴は、降伏を申し出たサヴァルマーナ様を、晒し者にした上で、斬首を命じたそうです。
カタミミという伝令は、サヴァルマーナ様と魔王様からの伝言を伝えてくれました。
サヴァルマーナ様はウイング様に「魔界のことは忘れて、自由に生きて欲しい」と仰っていたそうです。
魔王様は「仇討ちしようとか考えんな!もっと楽しいこと考えて、幸せに生きろ!」と仰っていたそうです。
本来ならばカタミミという伝令から、直接受け取りたかった言葉だと思いますが、ウイング様の性質上、これを聞いてそのまま地上に向かって頂けると思えなかったので、このような形でお伝えすることになったことを、お許し頂けると幸いです。
最後になりましたが、私からもお伝えしたいことがございます。
ウイング様は大きくおなりになられました。
悪戯好きなところはお父様そっくりですが、誰にでも好かれる気質とお優しいところはグロリア様にそっくりです。
だんだんとサヴァルマーナ様の影響か、物事を理性的に見つめる面が出てきたのは、喜ばしいことです。
短い間でしたが、お仕えできて幸せでございました。
どうか、我らのことはお忘れ下さい。
生きて、幸せになって下さいますようお願い致します。
この爺にも、孫ができたようで成長をお見届けしとうございましたが、それも叶わぬようで、心残りではあります。
ですが、最後にウイング様の旅立ちを見送る大役を任されたこと、誇りに思います。
どうか、きちんと最後までウイング様を騙し切れるように、見守ってくださいますよう、お願い申し上げます。
-----蒼翼騎士団団長補佐・トノルジンバ-----




